12
らな」
「おいそれってどういう事だ」
こいつらにとって、俺はどんな風に見えてるのだろうか。
「まぁとにかく、これを使えばここから脱出出来る」
歩は俺に似せた人形のお尻にあるスイッチを押した。
「なんでそんな所にスイッチあるの~」
「お前にとことん似せているからな~。こっちのサイズまで正確だ」
歩はその人形のズボンを下した。
「見せんじゃねー!それに気持ち悪いんだよ。ほら、涼太だってあまりの気持悪さに吐いてるぞ」
あれ?でもこれは物凄く複雑な気分だ。俺の体を見て吐いているのは、それはそれでムカつくぜ。
スイッチを押された人形は宙を浮き始め、校門の方へ向かった。見た感じ校門から空気を出して飛んでいるようだ。まったくこいつのセンスはやっぱりおかしい。才能の使い所を間違っている。
ゆらゆら飛んで行く、信二号を見て涼太は心配そうに言った。
「本当に伊藤先輩なんかで止められるんですか?俺には銃弾の雨を防げる人間には見えないんですけど」
「う~ん。理論的には大丈夫だと思うのだが、なんせ信二だからな~」
「っすね」
こいつらは何を言っているんだ?」
「何で俺の写真がネックになってんだよ。写真一枚で何が変わるんだよ。そんなに言うならお前らのモデルで作れよ」
「それは断る」
二人は即答した。なんの迷いもなく、言い切った。
その時だった。何かの機械が動く音がし、信二号が赤いレーザーに包まれた。一切隙間なく、信二号はこれからの惨劇を語るかのように、真っ赤に染まった。
「目標ポイントだ。銃撃が始まるぜ」
サイレンサーを付けた、静かな銃弾が信二号を襲った。その瞬間だった。俺の体に銃で撃たれたような激痛が走ったのだ。
「痛い痛い痛い。どうなってんだこれ。あーーーー痛てーよ!」
俺は立つ事も出来なくなり、床に顔を着けた。
「あぁ~言い忘れた。あの人形を壊されない為に考えたんだが、人形の受けた衝撃をモデルの人間に流す事で、人形を壊されずに守り通す事が出来るんだ」
「さすが佐藤先輩。やっぱり持ってるモノが違いますね」
「あぁーーーーーーー痛い痛い痛てーーー」
「まぁ時間なかったから、この機械にはネックがあってさ」
「それは何ですか?」
「ずばりデザインだ」
「あぁ~なるほど。確かにかっこ悪いですもんね」
ネックは…今お前らの後ろにあんだろうが。舐めてんじゃねーぞ殺すぞ。
涼太は信二号が撃たれ続けている状況を見て歩に話した。
「まだ銃弾あるんですね。てっきりすぐ終わるのかと思ってました」
「奴らもバカじゃないって事だろ。ここは気長に待とうぜ」
「そうですね。今お茶でも持ってきますよ」
涼太はお茶を入れて戻って来た。二人はお茶を飲みながら、マダムの優雅な食事の様に会話を楽しんだ。信二の叫び声は二人にとって空気と何一つ変わらなかった。生まれた時から存在して、あって当たり前のモノでしかなかった。
10分位して銃弾は止み、信二号はゆっくり地に落ちて行った。
「さて雨も止んだ事ですし行きますか。このパラシュートで安全になった空から脱出しましょう」
涼太は歩の作ったパラシュートを背中に背負い言った。
「そうだな。だがその前にやる事があるだろ?」
そう言われた涼太が首を傾げる。
「合唱だろ?」
「あぁ~なるほど。確かにそういうのはしっかりやらないとですね」
「俺らが助かるのは、代わりに誰かが犠牲になってくれたおかげだからな。犠牲になる人数は変えられないもんさ」
二人は手を合わせ、地に落ちて行った信二号に合唱した。
「さて行くか」
「そうですね長居は不要です」
二人は窓枠に足を掛けた。
「ガァーーーーーーー。オマエドコイク?」
そこに居た信二はもう人と呼べるようなモノでは無かった。目の中は光を吸い込んでしまいそうな純黒となり、言葉もカタコトだ。誰かを恨んでいるのか体からは黒いオーラが出ていた。
「おい急ぐぞ」
歩と涼太は慌てて窓から飛び立った。肩の所に付いている紐を引っ張り、パラシュートを展開した。
「ふ~。何とかあの悪夢から逃げられましたね」
「まったくだ。一時はどうなる事かと思ったぞ」
「そうですね。このまま学校の外に出られれば。ところで一つ気になった事があっるんですが…。俺ら、沈んでません?」
そう言われた歩が周りを見る。確かに沈んでいると気付く。
「ま、まぁ~パラシュートっていうのは落ちて行くものですもんね?」
涼太が心配をしながら歩に聞く。
「そ、そうだな。飛んでいるんじゃなくて、カッコ良く落ちてるだけだもんな。このパラシュートが一人の体重しかカバー出来ないのは関係ないもんな…」
二人は恐る恐る足元を見た。何故ならそこに違和感があったからだ。そして違和感は確信に変わった。
二人の足に悪魔が掴まっていたのだ。
「オマエタチ、ドコイク。イッショニ、チノハテマデランデブーシロ」
それを聞いた二人は血の気が立つ。
「蹴り落とせ!」
二人は悪魔の手を蹴り、引き離そうとした。しかし悪魔は一向に離さない。あの痛みを食らった悪魔にとって、人間の蹴りは、何も感じないのだ。
「全く落ちないですね。このままだと俺達諸共地獄行きですよ」
「俺はとんでもないモノを作ってしまったのかも知れないな」
「ここでそのセリフ吐くな!!もっといい所で言ってください!って言ってる暇も、あぁーーーーー!」
三人は学校の外に出る事なく、地に足を着けてしまった。凄まじい爆発音がその夜、山を越えて町まで響き渡ったそうです。
翌日二人はすぐさま花穂に呼ばれた。三人は土下座をし、訳を話した。
「なるほどなるほど。ならしょうがないですね」
「花穂さん」
その天真爛漫かつ色々と分かってくれる花穂に三人は涙した。
「ってそんなんで良い訳ないでしょ!」
夏織は花穂の代わりに説教を始めた。
「あんた達、何でどう脱出するかを楽しんでるのよ。何で宿題を完成させるって発想が無いのよ」
「そんな事言ったって、あれを仕掛けたのはお前らだろ?」
「そうだ!言わば俺らは被害者だ」
「うるさーい1まぁあなた達の意見も分かったわ。で宿題はやったの?」
その質問に三人は同時に答えた。
「やったけど燃えて無くなりました」
「そんな良い訳が通ると思っているのーーー!」
夏織はホウキで三人をボコボコにした。
「全くあのバカは」