焦げついた少女
その少女は、焦げている。
たくさん焦げてるので、
たくさん水を与えた。
与えたつもりだったが、
全く浸透しない。
全て弾かれていく。
それが少女の365日だった。
水も、
光も、
音も、
色も、
夢も、
希望も
全部全部が弾かれた。
やがて彼女は
何をしても無駄なので
全てを与えることをやめた。
それからというものの
彼女はずうっとぼうっとしていた。
何をしても無駄なので、
ずうっとぼうっと ゆらりと生きた。
体だけは生きていた。
ある日の晩に
大雨が降って
人々が濡れていくときも
彼女だけは濡れなかった。
ある日の朝に
大雪が降って
人々が白くなっていくときも
彼女だけは染まらなかった。
ある日の昼に
かんかん照りのときに
人々がぽかぽかしているときも
彼女だけは暖かくならなかった。
彼女だけは
少女だけは
染まらない。
やがてそれから
15年が経って
少女が 少女でなくなっても
彼女はちっとも
変わらなかった。
焦げて
焦げて
煮えくり返っていた。
怒りと絶望と悲しみだけが
煮えくり返って
焦げついていた。
彼女はもう
モノクロの世界で
そのまま 凧のように
飛ぼうとしている。
潤わない世界で
ただひたすらに
もがいた結果がこれだ。
足がふわりと浮いて
地上から離れた瞬間
全てに色がついていた。
ぽつりと雨が降ってきて
ほんのすこし彼女は濡れた。
ゴウッという風の音が
ようやく今になって聞こえてきた。
11階建ての
屋上から見る景色は
やっと光輝いて
美しく見えた。
世界が見えた。
世界を見たからだ。
その瞬間、
ぽろりと こぼれた 涙
地に落ちることは
もうなかった。