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05遊撃戦

第2章 惑星


05遊撃戦


 話は少し前に戻る。


1.強襲揚陸艇


 凍る大地から漆黒の夜空を見上げると、満天の星が冷たく輝いていた。天の川の星々は、ただ光りを放つだけで瞬くことはなかった。そう、この惑星には大気がほとんど無いのだ。だから星は瞬かない。

 そんな夜空を、大型の飛行物体が低空飛行のまま北進していく。そしてパラパラと物体をまき散らすと、北東に進路を変えて飛び去った。


 飛行物体から滑り落ちた物は若干の逆噴射を行い、地上に舞い降りた。戦車形態のものが6~7両。これらは歩兵戦闘車と対空自走砲だ。この一団は直ぐに北西へ向けて進軍を開始した。


 飛行物体は、そのまま北東に百数十㎞進んだ。それは強襲揚陸艇と呼ばれている大型飛行艇だった。着陸すると自走砲2両と対空自走砲1両を降ろした。そして岩陰に身を潜めて動かなくなった。


 強襲揚陸艇は、惑星や衛星などの天体に敵前上陸するための戦闘用舟艇だ。全長65㍍の箱型大型艇で、船体内部は3階建てだ。1階は格納庫で、戦闘車や偵察用車両、補給車などを搭載している。格納庫の高さは6メートル程ある。2階には資材倉庫があり、2・3階ぶち抜きで車両等の整備用スペースがあった。資材倉庫の上の3階には戦闘指揮所や兵員の居室などが設置されている。箱型の船体の上には各種探査装置や砲門などの構造物が乗っていた。


 武装は電磁砲(レールガン)とミサイル、それにレーザー機銃を装備している。宇宙戦闘服に身を固めた隊員たちが搭乗しているが、攻撃時間まで待機するようだ。


 ここはKS21恒星系の第5番惑星で、半径は地球の70%程度で重力は地球の3分の2だ。敵は、この惑星に補給基地を建設中であった。これを撃破するのが、今回の我々の任務なのだ。




2.重巡青葉


 今から40分ほど前、我軍の宇宙戦闘艦が奇襲攻撃を敢行した。奇襲は成功して、この惑星上にある数か所の敵基地を一方的にたたき、敵戦力を殲滅した。敵の探査施設や対空兵器、空港、宇宙船格納庫、小型機格納庫、動力設備などを破壊したのだ。



(30分程前の宇宙戦闘艦の指令室)


「全攻撃目標の破壊を確認しました」と緑川探査長が報告した。

 山本艦長は「惑星周回軌道に入る」と指示した。

 島影航路長(中尉)は「周回軌道を設定しました」と答えた。

「残敵の探査を続行せよ」

 宇宙戦闘艦は惑星の周回軌道上で敵の残存施設を探索していた。



 現在、本艦は単艦にて遊撃戦を実行中であった。艦隊司令部の命令を受けて、長距離ワープを繰り返して各地を転戦しているのだ。


 敵の補給基地や通信・観測基地など、敵の後方施設を奇襲攻撃している。そのため陸戦隊1個小隊を搭載しており、時には陸戦隊を降ろして敵施設の殲滅と情報収集を行っていた。



3.指揮官


「エネルギー反応あり、敵の司令施設を発見しました」「他にも、敵の残存施設が判明しました。パネルに出します」と緑川は報告した。


 敵の司令本部は、破壊された通信設備の地下にあった。他に予備の動力設備など、数か所の設備が新たに稼働し始めた。

 観測結果から、これらの施設には僅少ながら戦力残されているようだ。

「攻撃目標として設定する」「陸戦隊、出撃せよ」と山本艦長は命じた。



 本艦の艦長は、山本香月(やまもとかずき)中佐だ。30歳、身長180㎝、体重不明で長身大柄な女だ。沈着冷静で文武両道の優秀な指揮官だ。その冷静な指揮ぶりは、周囲の者に実年齢以上に年長者的な印象を与えていた。決して老けて見えるわけではない。だが、一部にカッコつけすぎとの声もある。


 開戦時に軽巡川内せんだいの副長だった彼女は、幸運にも初戦で見事な戦功をあげた。艦長が非番の時に敵の奇襲攻撃を受けたのだが、彼女は副長として沈着冷静に戦闘を指揮し、破滅的な危機を回避したうえで敵艦を撃破したのだ。その指揮ぶりが評価されて間もなく少佐に昇格した。そして軽巡天龍の艦長に就任する。それから約1年、数々の戦果をあげて活躍してきた。そして半年前には中佐に昇進して、重巡青葉の艦長に就任した。エリートとは言え、平時ならば昇格速度が速すぎるが、戦時なので話は別だ。それだけの武勲を立てている。実績が認められて、若くして重巡航艦を任されたのだ。


 因みに、戦艦の艦長は大佐、重巡航艦の艦長は中佐以上が相場になっている。軽巡航艦艦長は少佐以上、駆逐艦艦長は中尉以上の士官というのが以前の通例だった。

 しかし近年の勝ち戦で、ベテラン艦長は次々と昇進している。また、新鋭の戦闘艦が次々と就役しているので、少尉の駆逐艦艦長も出ており、艦長候補者の養成が追い付いていないという事情もある。 


 この艦の乗組員で高級幹部候補養成コース出身者は山本艦長と緑川探査長だけだ。彼女たちは将来の将官候補者だ。将来、戦隊司令官や艦隊司令官に任用されるコースなのだ。

 因みに他の戦闘員達は、複数ある士官大学校や軍技術専門校、兵学校の出身者あるいは一般の大学や専門学校などの出身だ。


 戦闘指揮官は加藤勇隼(かとういさはや)大尉で、男28歳。砲術班と保安班及び誘導戦闘班を指揮下に置く。通称、戦闘隊長と呼称されている。現在は一時的に陸戦小隊も指揮下に入れている。なお、誘導戦闘班は各種舟艇の発着艦を管制し、無人艦載機(ドローン)を遠隔操縦して戦闘を行う。


 彼は半年前に軽巡天龍から、山本艦長と共に本艦に転任してきた。開戦以来約2年、山本艦長の下で数々の武勲を立てた。そのため、普通の士官大学校出としては異例の速さで、大尉昇進を果たしている。


 士官大学校卒業者は将校に任官する有望なコースなのだが、高級幹部候補養成コースというエリートコースとの比較から、艦長止まりと揶揄されることがある。



 なお、副長は少佐で40歳代の男、艦隊勤務19年のベテランだ。彼は重巡青葉の戦闘隊長だったが、現艦長の就任時に副長を拝命した。なお、一般の宇宙艦隊士官は任官から概ね20年で地上勤務になる。彼はあと1年足らずで船を降りる見込みだ。




4.強襲揚陸艦

 格納庫内の強襲揚陸艦内部では最終点検が行われていた。

「重力調整よし」「大気濃度調整よし」「気象補正よし」

「全兵器の調整を確認しました」

 不破小隊長(少尉)は「よし」と答えた。


 不破勝(ふわまさる) 少尉、男26歳子持ち。身長195㎝体重95㎏の偉丈夫だ。陸戦隊小隊長で質実剛との定評がある。

 陸戦小隊は不破少尉ほか11人の下士官及びAIアンドロイド兵12体と汎用人型ロボット兵12体で構成されている。他に地上戦用の有人戦闘車2両と無人自走兵器8両などを保有する。今回の遊撃戦で、敵拠点等の掃討要員として強襲揚陸艇ごと重巡青葉に乗り組んでいるのだ。



 格納庫の隔壁が開くと、カーテンのようにシート状の遮蔽物が残されていた。それはキャタピラ状に編まれた空気遮断幕だ。その、延び出るシートを押し出しながら、強襲揚陸艇は台車ごと隣の射出室へ送られた。同時に格納庫側から別のシートが追ってきて、空気を遮断した。格納庫には空気があるが、射出室は真空なのだ。射出室の装置が作動してシートで船体が包まれると、再び揚陸艇は動き出して定位置まで進んだ。そして格納庫の隔壁が閉められると、シートは巻き戻されて船体が再び姿を現した。


「陸戦隊、出撃します」不破は指令室に報告した。


 重巡青葉の外壁扉が開いて、強襲揚陸艇は電磁カタパルトで射出された。



(十数分後)


「強襲揚陸艇、予定の座標に着陸しました」「敵の予備衛星4基、新たに活動を開始しました」緑川は報告した。


 加藤戦闘隊長は命じた「敵衛星を、二次攻撃目標に追加する」




5.陸戦隊


 戦闘車5両が、敵基地司令部まで約5㎞の距離に迫っていた。その戦闘車の車列の1㎞後方からは、もう1両の戦闘車と対空自走砲が進撃していた。


 因みに、戦闘車6両のうち2両は有人仕様だ。だが今は無人で運用しており、人の代わりにアンドロイド兵や簡易人型ロボット兵が搭乗している。また、無人仕様の車両には、自立型レーザー機関砲ロボット2体が積載されていた。




「時間だ」不破は戦闘開始時間に達したことを告げた。


 敵基地から百数十㎞後方で待機していた強襲揚陸艇と自走砲の備砲が火花を散らした。同時に、前衛の戦闘車両も砲撃を開始する。そして彼らは移動しながら砲撃を続けた。


 強襲揚陸艇からはミサイルも射出された。それは、格納セルに設置された電磁発射装置によって空中へ打ち上げられた。そしてミサイルは空中でエンジンを起動すると、目標へ向かって飛翔した。これらのミサイルはロケット推進方式ではない。機体の先端に光が灯ると高速で飛翔していくのだ。


 星空に閃光が走り、何かが爆発したようだ。

「巡航艦の艦砲射撃で敵衛星4基破壊、地上攻撃目標B~Fまで艦砲射撃中」「攻撃目標G及びHを艦載機が攻撃中です」と強襲揚陸艇の隊員が報告した。


 宇宙巡航艦の攻撃により、敵の残存衛星が破壊された。地上攻撃目標B~Gは、予備の動力設備と通信施設、気象観測施設、倉庫、整備工場などだ。


「目標Aに砲弾命中」「ドリルミサイル着弾」と前衛の戦闘車隊員。

 目標Aは敵の地下司令部で、これの攻撃は陸戦隊の担当だ。後方の強襲揚陸艇と自走砲から発射された電磁砲弾とミサイルが次々と目標に命中した。


 電磁砲(レールガン)の砲弾には噴射式の姿勢制御装置が付いており、中長距離では榴弾又は迫撃砲弾として使用できるのだ。レーザーなどは直進するが、榴弾などは砲弾が放物線を描いて飛んでいくので曲射を行える。


 ドリルミサイルとは通称だが、これは地中貫通爆弾だ。いわゆるバンカーバスターと呼ばれる地中貫通爆弾とドリル爆弾が合成されたものだ。ミサイルの前部がバンカーバスターで後部がドリル爆弾になっている。


 バンカーバスターとは弾頭部分が貫通力を発揮できる作りになっており、弾道弾がロケットの推進力と重力によって地中を貫通する。この惑星は地球よりも重力が小さいので、威力はその分減少するが、それでも地下200メートル以上の距離を貫通して爆発するのだ。


 ドリルミサイルは着弾寸前に先端部分が分離飛翔して、バンカーバスターとして地中を貫通して爆発する。その開いた穴をミサイルの後部であるドリルが追随して飛翔していく。ドリルは地中に刺さると回転して、先端部分からレーザーを照射しながら地中を掘削して進むのだ。一定距離を進むと、ドリルが爆発して敵の地下施設を破壊する。掘削距離が足らない場合は、2次、3次攻撃が実施されることになる。



 数台の敵戦闘車両と自動防衛システムの生き残りが抵抗したが、次々と撃破されていく。味方の戦闘車が敵基地の敷地内に突入した。4両の無人戦闘車には8体の非人型戦闘ロボットが随伴している。それは自立型機関砲ロボットで、円筒形の頭部と4本の足が付いた機関砲だ。足の下には数個の車輪が付いている。戦闘車に搭載されているときには4人分のスペースを占めていた。


 次に人型汎用ロボット兵8体も前進してきた。人型汎用ロボット兵には固有の武装はないが、バックパックに自動装填される電磁擲弾筒(でんじ てきだんとう)を背負っていた。手には電磁ライフル銃と電磁自動小銃を持っている。


 前衛の戦闘隊の南、後方500㍍の位置には、別の戦闘車が対空自走砲を伴って接近してきた。

その時、近隣の破壊された敵施設の残骸から、敵の小型機(ドローン)が2機飛び出した。しかし、味方の対空自走砲が直ちにこれを撃墜した。


「敵、沈黙しました」陸戦隊員が報告してきた。

 前衛の戦闘車から探査報告が入った。戦闘は十数分間で終了した。

「再度、偵察する。観測球とドローンを出せ」不破は命じた。


 直径10㎝程の球体が数個、戦闘車から飛び出して四方へ散った。イオン推進式電磁ロケットで飛翔する偵察用機器だ。その後、破壊された敵司令部へ向けて、無人小型ロケット機のドローンが飛んで行った。ドローンには機銃とロケット弾が装備されている。


「A20を出せ」と不破小隊長。

 最後尾の戦闘車から、4体のアンドロイド兵が降り立った。その手には、レーザーライフル銃が握られていた。




6転戦


 4時間後、宇宙巡航艦内。

「本作戦は、全て完了しました。陸戦隊を回収します」と加藤戦闘隊長。

「惑星周回軌道に探知装置を設置しました」と緑川。

二人は艦長と副長に報告した。

 「よし。本艦は陸戦隊回収後、速やかに当恒星系から離脱する」山本艦長は命じた。



 重巡青葉はKS21恒星系の第5番惑星の敵を殲滅した。敵はガビラと呼ばれる、昆虫型の異星人だ。人類とは2年前の初接触以来、相互の意思疎通は実現していない。彼らの基本的な言語は特殊な器官から出される紫外線の発光信号と分泌物の匂いだと言われている。


 電磁波に関して、人類と彼らとでは可視光線の波長が全く異なっていた。彼らの母星系の主星である恒星は、白色矮星だと言う説がある。燃え尽きて萎んでしまった温度の低い恒星。我々の太陽とは全く異なる恒星だ。彼らの故郷の惑星も地球とは余りにも異なった環境なのだろう。


 聴取可能な音域も異なる。遠隔地間での通信手段も、その媒体は人類が使うものとは異なるうえ暗号化されているので、いまだ完全には解読されていない。両者は余りにも違いすぎて、意思疎通が図れないのだ。


 初接触後、ひと月も経たないうちに人類は彼らの攻撃を受けて戦争状態に突入した。人類が彼らのテリトリーに入ったことが原因だが人類は退かなかった。戦いは、広大な宇宙空間に渡り繰り広げられている。そして、戦況は人類にとって有利に進んでいた。



 山本艦長は命じた「L502恒星系へ航路設定せよ」

 次の作戦は4日後の予定だ。L502恒星系の外縁部にある準惑星の一つに、敵の宇宙船修理施設があるのだ。3週間ほど前に、付近を通過した味方の施設艦が観測機器を射出しており、それが目標の準惑星に接近して、そろそろ詳しい情報を得られる頃なのだ。目的地の恒星系には、1日で到着できる。重巡青葉は同星系外縁部の他の準惑星などの適当な天体に隠れて、敵の情報を取得しながら作戦を立てる予定だ。


 その時、


「艦長、司令部より入電です」と緑川は艦長に報告した。


 司令部から緊急の命令が下された。重巡青葉は目的地の予定を変更して、アルファ星域へ向かうことになった。そこで、敵艦を待ち伏せするのだ。




… …




「艦長、司令部より入電です」艦長が応答しない。「艦長…」


 その時、緑川は気付いた。夢を見ていた。否、思い出していたのか。既にアルファ星域での任務は達成している。


 意識が次第にはっきりとしてきた。そうだ、思い出した。重巡青葉は漆黒の闇に捉われたのだ。そしてシュメール星に着陸したのだ。






                     了



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