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02漆黒の闇

第1章 敵艦

02話 漆黒の闇


1.撃破

 指令室では命中までの秒読みが続いていた。機械音声が7秒まで進んだ。

「敵、気付きました。急速加速、進路変更中。敵速1.1宇宙ノット」と緑川探査長は報告した。

「遅い、もう回避出来ないぞ」と島影航路長は呟く。

 敵は、重巡青葉が撃ったエネルギー弾の飛来に気付いた。発射元への精密探査によって、直ぐに重巡青葉を捕捉するだろう。

「敵艦発砲、小型機発艦中。ミサイル射出しています」と緑川は告げた。

「面舵一杯、ダウン30度」と山本艦長は命じた。

「戻せ」「最大戦速」

進行方向右側、銀河水平面に対して30度下方(地球の南極方向)へ進路変更した。速力は33宇宙ノットだ。


「命中、敵大型艦を破壊しました」と緑川は嬉しそうに皆に報告した。僅かに遅れて「目標を破壊しました」とAIが告げた。艦内に「よし」「やったー!」と歓声が上がる。


 敵が放ったミサイルや艦載機の大半が、こちらの弾幕により敵艦と共に消滅したことがメインパネルに表示された。


 加藤戦闘隊長がガッツポーズで山本艦長と視線の交換をする。

 乗組員たちは「流石は隊長」と拍手した。加藤戦闘隊長は席から立ち上がり、諸手を挙げて勝利のポーズを取った。くるりと体を回して四方からの歓声に応える。彼は猛者として知られているが、ひょうきんな一面もある。



2.回避と迎撃

「敵エネルギー弾多数、光速で接近中」「接触まで1分50秒」と緑川が報告した。

「回避コースが設定されました」と島影航路長が告げた。

 立体画像に不規則な形状の敵エネルギー弾の航跡が幾つも表示されて、本艦へ迫って来る。

 AIが幾つかの回避コースを示すと、そのうちの一つが点滅して自動的にコースが選択された。重巡青葉は、蛇行を繰り返して敵弾を回避していく。


「全弾回避しました」と島影航路長が報告した。

 山本艦長は「第四戦速」と命じた。直ぐに重巡青葉は27宇宙ノットに減速した。

  次に、敵ミサイルが追尾してくる。

「敵ミサイル46、接触まで11分20秒。間もなく迎撃識別圏に入ります」と緑川が知らせた。

 メインパネルには敵の速度に応じて、迎撃ミサイルやレーザー機銃を発射して対応すべきエリアが表示されている。

「迎撃します」と水谷砲術長。

 そのときすでに、AIが多弾頭迎撃ミサイルを次々と発射していた。デコイ(囮)も射出された。メインパネルには次々と迎撃の詳細が表示されていく。


 6分後、味方の迎撃ミサイルから逃れた敵ミサイル5基が突入して来た。

「敵ミサイルを近接防衛システムで迎撃します」とAIが告げた。

 直ちに船体を傾けると、48基装備されている多連装レーザー機銃をAIが操作して迎撃を開始した。


 多連装レーザー機銃の銃座は船体側面に12基が一列並び、4列の配置がなされている。各列の位置は船体正面から見るとX字型になる。このため敵の位置とは反対側にある機銃は船体の陰に隠れてしまう。しかし、銃座は一定距離の移動が可能なうえ、数メートルも船体から張り出して発砲出来る。更に、近くの空間を捻じ曲げてビームの針路を変える空間歪曲射撃も出来る。今回の様に一方向からくる敵に対しては、船体を傾けて適切な姿勢制御を行えば全機銃を以て敵を迎撃することが可能だ。具体的には、船の両舷又は直上及び船底に敵が位置するように操艦するのだ。


「敵ミサイルを全弾破壊しました」と水谷砲術長が報告した。

 乗組員達に安堵の表情が浮かんだ。しかし、また改めて気を引き締めるのであった。今度は、敵艦載機が迫って来るのだ。


「敵攻撃機8機接近。迎撃圏内まで、あと10分」と緑川が告げる。

「ドローンを出せ」と加藤戦闘隊長が命じた。

 直ちに、12機の無人迎撃機(ドローン)が出撃した。無人機はAI搭載の全自動兵器で、無誘導でも十分な戦果を望めるものだ。常に最高の成功確率を求め、最適な戦闘を実行している。

 しかし、そのようなロボット兵器は、戦闘パターンを敵に予測されやすい。敵も計算が出来るのだ。この欠点を補うために、状況によっては人が母船から無人機を誘導する場合がある。その時には加藤戦闘隊長直属の誘導班の隊員たちが、無人戦闘機を操縦して戦う。なお、彼らは他の艦載舟艇等の誘導管制も担当している。


 間もなく味方迎撃機が接敵するかと乗組員がメインパネルに注目し始めたとき、敵機のうち先行する3機が早々とミサイルを打ち出して旋回した。そして後続の敵機は攻撃することなく、共にアルファ星方向へ引き返した。


 通常は、もっと接近してから攻撃しないと戦果は望めない。ミサイルの射程外と言うか、勿論宇宙空間なので慣性航行が可能のため、射程とか航続距離などは無いのだが、相手に十分な対応時間を与えてしまい、迎撃または回避されてしまうのだ。自動追尾ミサイルなのだが、その位置から目標を追いかけても結局、燃料切れになることが多いのだ。


 数分後、敵機の放ったミサイルは全て迎撃または回避した。こちらの損害はなかった。

「進路、アルファ星系。第二戦速」と山本艦長が命じた。

 重巡青葉は第二戦速に減速した。

「なんだ、今のは…。何故逃げた」と加藤戦闘隊長は呟いた。「通常速度ではアルファ星系まで辿り着けないのに」

 そう、到着まで100日以上は掛かりそうだ。『途中で他の味方が現れて拾ってもらうつもりなのか』と加藤は敵機の行動に疑問を抱いた。


3.漆黒の闇

 そのとき警報が鳴った。

 『警告します。警告します』とAIが通報した。

 メインパネルに星空が映し出され『未知の未確認が急速接近』と表示された。

「星が消えていきます」と緑川は光学観測機の画面を見ながら叫んだ。

 ホログラムには、ガンマ星系へ向かう重巡青葉の後方下に奇妙な形状のものが表示され、銀河水平面上約40度の角度で急接近して来る。

「星の光の消失範囲は不定形で、急速に変化しています。未知の何かが超光速で接近中です」と緑川は報告した。


石井副長は「相対速度で超光速だよね。接近?、前から接近してくるのでは。て、それもあり得ないか」と戸惑いながら言った。

 そう、重巡青葉の通常速度など、光速と比べれば問題にならないほど小さな値なのだ。現在の速力は第2戦速、つまり21宇宙ノットだから光速の2.1%にすぎない。


「後方から接近中です。間違いなく光速を超えています」

「通常空間で超光速とか。ばかな…」島影航路長も座席の前の個人用パネルの画面を見つめながら、うめくように言った。

「全センサーに反応なし、アクテブセンサーの探査波は全て吸収されていきます。未知のものは物体ではありません」と緑川は言った。

 山本艦長は命令した。「艦載機を呼び戻せ」「第5戦速」

 敵機を追撃していた味方の艦載機は呼び戻された。重巡青葉は30宇宙ノットに加速した。


 立体スクリーンに表示された未知のものは、ゼンマイ状にねじれた細長い形をした、暗黒をもたらす目に見えない何かだ。巨大というよりも、広大というべき大きさだ。その何かは後方の星々の光を遮断して、暗黒と共に我々に迫ってきた。直近の暗黒の幅は600光秒程もあるが、厚さの測定値は0だった。その軌道は直線ではなく楕円軌道を描いている。


 山本艦長は言った「緑川さん、未知のものに名前を付けて」

「漆黒の闇では、どうですか」

「よろしい、漆黒の闇とします」

 立体スクリーンでは未知のものが「漆黒の闇」に表示が変わった。

 メインパネルには、十数個の隕石群が漆黒の闇に近づいていく様子が拡大投影されていた。そして漆黒の闇の見えない境界面で、隕石群は姿を消した。


「嫌な予感がする。念のため、後片付けを急ぐように」と山本艦長は指示した。

 加藤戦闘隊長は「対艦戦闘用具納め」と発声した。

 戦闘終了直後で、危険物の格納が終了しておらず、艦内には機材が散乱して雑然としていた。


「本艦はあと35分で、漆黒の闇に接触します」と緑川は告げた。

「艦載機を収容しました」と加藤戦闘隊長が報告した。

「離脱する。航路設定せよ。最大戦速」と山本艦長は命じた

 離脱航路が設定された。速力は33宇宙ノットに加速された。

「漆黒の闇から離脱するまで、あと16分です」と緑川は報告した。

「戦闘配備解除、第二種緊急配備」と山本艦長は宣言した。

 乗組員たちは宇宙服のヘルメットを取り、深呼吸をして、安堵の表情を浮かべた。

「漆黒の闇は得体が知れません、とにかく逃げなければ」と緑川は心配そうに言った。


4.緊急事態

 数分後に重力センサーが異常を知らせる。

 探査員が「変です。14分経過で離脱航路の87.5%まで行く予定が、82%までしか到達していません」と報告してきた。

 緑川は部下たちと共に、熱心にデータ分析に努めた。

「念のため、急ぎワープ準備をしておくように」と山本艦長は指示を出した。

 石井副長は答えた「15分で準備させます」「達する、1410までにワープ準備せよ」

 通常ならば直ぐにワープできるのだが、今はまだ戦闘のあと片付けが済んでいなかった。


「航路に誤差発生、修正します」と島影航路長が告げた。

先程から、各種センサーが異常値を示しており、島影航路長は部下たちと協議していた。

「航路の距離が伸びています」「空間が歪んでいます」

 緑川探査長が不安な面持ちで艦長と副長へ報告した。

 石井副長は言った「艦長、当初16分の行程でしたが、20分経過しても航路の94%までしか到達していません」


 山本艦長「第一種緊急配備」を下命した。

 これは、戦闘配備と同等の防御体制だ。再び、全員がヘルメットを被り、宇宙服を完全着用して命綱を付けた。すでに艦内では、次々と警報が鳴り出していた。

 探査員「この距離なら、2分で行けるはずなのに」

 山本艦長は尋ねた「本当にそうなの。距離が違うのか、速度が違うのか。」

「漆黒の闇は多分、異次元空間か亜空間かもしれません」と緑川は答えた。

「艦長、25分経過しましたが、離脱航路の達成度は96%です」と石井副長が報告した。


5.全速力

「離脱まで、あと3分です」と探査員。

「更に1分経過しましたが、離脱まであと4分です」と緑川。

 山本艦長は「前進一杯」と下命した。

 艦長はついに全速力での航行を命じた。この速力を長時間にわたり維持することはできない。

「現在の速力36.18宇宙ノットです」と島影航路長が報告した。


「ワープ準備はどうしましたか」と山本艦長が尋ねた。

 既に副長が命じたワープ準備時間をかなり超過していたが、準備よしの報告がなかった。

「ワープ計算が破綻しました。再計算します」「むむ…これは…。もう一度やり直します。」島影航路長の顔が引きつって、口元がけいれんしていた。


 そのときAIが警告した「現在、本艦を含む周辺の空間は大きく歪んでおり、加速度的に空間の歪みが増大しています。」「現在の状況でワープすることは極めて危険です。ワープエンジンは自動ロックされました。」「このロックを解除するには、艦長及び副長が定められた認証手続きを行うことが必要です。」「もし艦長・副長のうち一方または両方を欠く場合は、そのデータを入力後、次に表示される士官のうちから順に1人または2人を追加して認証手続きを…………」AIの声がむなしく艦内に響いた。


「本件を司令部に報告する」「緑川さん至急、全データを送信して」と山本艦長は言った。

 緑川は「データ送信中。完了まで2分です」と答えた。

 ホログラムの表示は航路の90%まで到達したとされていた。そして小数点以下の数値は刻刻と減少を続けていた。



「全速航行による負担で、そろそろ機関部が限界です。あと2~3数分で、通常エンジンもロックされてしまいます」と石井副長が報告した。

「漆黒の闇から離脱するまで、あと10分。接触まではあと1分です」緑川の声は悲痛だった。

「もう既に捕まっています」「私たちには測定不可能な未知の力によって、歪んだ空間に落ちたのかも…」と呟いた。

 機械音声が接触までの秒読みを虚しく続ける。メインパネルには、漆黒の闇の境界面で消えていく隕石群の画像が、繰り返し映し出されていた。そしてカウントダウンが終わる。

 山本艦長は告げた「達する。全員…衝撃に、…緊急事態に備えよ…」


                        了


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