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19 復活

19 復活


1 新兵


「お疲れ様~」

「ありがとう」

マリーは自動車の窓越しに、彼に声を掛けた。

彼女はAIが操縦する車に乗って、勤務を終えたばかりの田中を迎えに来たのだ。

「今度の新兵さんは移民団のヒトとは別なの?」

「そう、別だよ。輸送船団と移民船団の傭兵だね。新兵ではないな」

「コールドスリープしていたのよね」

「うん。航行中に船団に何か事件が起きたときに、スリープから起こして武力制圧させるための戦闘員だね」

「具体的な事例は?」

「宇宙船内に危険な生物が侵入したとか、大きな事故が起きたとか、反乱が起きたとかだね」

「生物の侵入とかあり得るの?」

「普通はないけれど、何らかの理由で途中の星系に立ち寄った時に、どう猛な生物が船に紛れ込むとか」

「彼らは事件や事故がなければ、コールドスリープのまま往復して報酬をもらう」

「何人いるの」

「60人だ。士官2人と下士官数人で残りは兵士だよ」

「年長の数人は憲兵団へ廻されたけどね」

「兵隊さんが増えてよかったわね」

「まあね」


帰路の途中、マリーが話しかけてきた。

「さっき基地で、凄く若い人たちを見かけたけど、あの人たちは何?」

「おー。今度、俺も奴らの教官をやるんだ」

「いよいよ移民団を迎えてからの新計画が始動したのだよ」

「あいつらが本当の移民なのだ。大人でコールドスリープしていた連中は世話役なのさ」

「本当の移民はヒトの胚のかたちで輸送されている」

「でもごく少数は、彼らの様に少し成長させてからコールドスリープさせて移送しているのだ」

「何故」

「理由は色々だね。例えば里子とか。植民惑星の各カテゴリーの世代が断絶している場合に、人口ピラミッドを穴埋するためとか」

「胚に成長促進剤を使う方法もあるけど、人権問題で最近は余り行われなくなった」

「彼らは未成年ながら一応、本人の意思を確認済みだ。人権は保障されている」

「そうなんだ」

「で、あの若い奴らはZE星系軍に入隊予定の者たちなのさ」

「その新兵300人は全て我がシュメール星系軍がもらった」

「なるほど。教官のお仕事も忙しくなりそうね、頑張ってね」

「ああ」

「他にも各種技師専門学生とか、中高校生とか色々といる」

「何人いるの?」

「コールドスリープしているのは年齢ごとに数千人いるけど、一度に全部は起こさない」

「取り敢えず年二回に分けて起こす予定だとか聞いた」

「今回の学生・生徒は各年齢500人程度だったかな」

「数週間以内に住宅地で見掛ける様になるはずだ」

「ますます賑やかになるのね」

「そうだよ。今までとは打って変わって、騒々しくなる」

「その人たちも兵隊さんになるの」

「いや、大多数は民間人になるはずだ。一部の者だけは軍に入るけど」

「マァ当分の間、俺には関係ないな」



2 誤り


田中は帰宅して一休みしていると、マリーが田中に質問をしてきた。

「タキオンは超光速粒子ではなかった。という資料を読んだけれど、どういうこと」

田中は説明を始めた。

「俺たちがタキオンと呼んでいる素粒子の様なものは、実は当初想定されたものとは別物だったのさ」

「その昔、超光速粒子の存在が予想され、タキオンと名付けられた」

「後に不思議な極小素粒子の様なものの存在が確認され、これがタキオンだとされた」

「でもそれは超光速粒子のタキオンではなかった」

「超光速粒子ならば過去に通信を送れるはずだが、その様なことは出来なかった」

「因果律に反するような、とんでもないものではなかった」


「タキオンではなかったのに、なぜ別の名前に変更しなかったの」

「その粒子の名前がタキオンとして定着してしまったからね」

「そういうことも、あるのさ」

「他にも同じようなことがあったの」

「幾らもあるさ。電流の話みたいに」

「どんな話なの」

「プラス極からマイナス極へ流れる電流というものは、存在しなかった。」

「正しくは、マイナス極からプラス極へ向かう電子の流れだった」

「でも、法則の式が訂正されるまで長期間を要したよ」

「そうなんだ」



3ダイヤモンドの惑星


「ね、この資料は」

「うん。この惑星のマントルは大部分が水晶や宝石の結晶で出来ているよ」

「採掘できるの?」

「今、これを掘り出すのは大変なことだ。そこは高温・高圧だからね」

「でも、既に冷え方切った天体ならば、比較的に宝石を採取しやすいかも」

「宝石が沢山あるの」

「ああ、これは星の大半が宝石で出来ているよ」

「すごい」

「それに中には何と、ダイヤモンドで出来た惑星もあるよ」

「えっ、本当」

「巨大な宝石が大量に採れるが、生易しい環境じゃないかも」

「超大な重力・超高速の風・強力な圧力・超高温又は極低温・岩石や鉱石の硬度・その他、想像を絶する世界かも知れない」

「いつの日か宝石の惑星に行って、採掘してみたいわ」

「あまり、欲をかくなよ」

「採掘技術や必要な物品はヒトが用意して支援するとしても、見返りに莫大な金額か物資を支払わなくてはならない」

「採算が取れないぞ」

「そうかしら」


「金貨が発行されたときのことを思い出せ」

「当時、この金貨と同じ量の金で何をどれだけ交換できたか」

当時、亜人たちは原始的な暮らしをしているので、大したものとは交換できない。僅かな量の肉や木の実と交換するのが普通だった。ヒトと比べて亜人たちの金の価値は低かった。

「この金貨が発行されたとき、その金の量は亜人たちの相場で言うと表示価格の1/3しかなかった」

「でも初めて見たコインは立派で、ヒトの信用力から金貨は流通した。要するにその時、金価格が一気に数倍に高騰した」

「そして人間との交易で、亜人たちの所有物が増えたので、今の金価格は更に十数倍になった」

「そうね。新しく発行された金貨は随分と小さくなったわ」

「古い金貨類は換算表で金額を読み替えて使用されているわ」

「基本は回収されて新硬貨と交換だが」


「莫大な費用を掛けて、惑星から巨大ダイヤモンドを採掘したとして、幾らで売れるのか」

「ヒトは別ルートで入手できるから、亜人用は基本的に買わないぞ」

「誰が買えるのか。亜人で一番の金持ちは誰だ」

「巨人の長たちかな。あの人たち何もかも、けた違いだから」

「あと、オークや小人の各部族の長老たち」

「一般民衆では私たちも、金持ちの最上位に入るわ」

「マリーたちが一番の金持ちの部類に入るのか。すごいね」


「とにかく巨大宝石だろうが何だろうが、その時の亜人たちの経済力に見合った値段でしか取引されないのだ」

「とても採算が取れない」

「巨大なダイヤモンドと交換するだけ量の(ゴールド)や他の宝石が無いのね」

「ルビー・サファイアなどの宝石や金の保有量を増やす必要があるな」

「そのためには、一般財の所有量を増やす必要がある。つまり、経済発展が必要だ」

「そうね、分かったわ。でも欲しい」

「いつの日か、もっと豊かになって採算が取れるようになったら、採掘したいわ」



4 仮説 <もつれたエネルギー>


それから、半年ほどが経過した。

その日、遺跡調査事業団の研究部門の責任者たちが総司令部の一室で、軍幹部に報告と解説をしていた。

「…以上の様な訳です」

「ということですが、小川2佐のおかげで装置の修理と分析がとても捗りました」

「機械に強い方がいると助かります」

小川2佐は少しはにかんだ。山本総司令官は微笑んだ。

科学者たちは話を続けた。

「遺跡の空間転移装置のこれまでの解析から、一つの結論を得ました」

「これは仮説ですが、重巡青葉の元のエネルギー塊が異空間内を移動しているものと想定できます」

「移民船団も同様です」

「どういうことですか」

「初めから話しましょう。球状星団外縁部で重巡青葉が異空間に飲み込まれたとき、船体も乗員も全て物質からエネルギーに変換されたものと思われます」

「正しく言えば、物質もエネルギーの一形態に過ぎませんので、別の形のエネルギーに変換された訳です」

「私たちは皆死んだのですか」

「そうとも言えますが、その答えは一時保留にしておきましょう」

「確かに言えることは、貴方たちは元通り物質化してシュメール星系近辺の宇宙空間に出現したのです。それは例の遺跡の空間転移装置によって行われました」

「でも地球時間で60年経過していたのですよね」

「そうです。タイマーの役割を果たす装置があって、物質化の時期が最長の60年に設定されていました」

「詳しく説明してください」

「遺跡の空間転移装置はタイムカプセルの様な役割を果たすことが出来るのでしょう」

「異空間内に取り込んだ物質はエネルギー形態で保存され、任意の時期に再物質化して入手出来るのです」

「ただし、その場合は物質を取り込んだ場所と再物質化する場所は途方もなく離れている必要があります」

「異空間に取り込まれた青葉のエネルギー塊は、超光速でこちらの出口に向かって移動しています。その速度は異空間での最高速度に近いものと推定されます。」

「青葉のエネルギー塊は、いつこちら側へ出てきますか」

「数万年後です。多分7~8万年後」

「… …」

「距離はどの位離れていますか」

「距離も時間も相対的なものです。多分、通常空間に換算するならば数百億光年は離れているのでしょう」


「異空間とは言え、そんなに離れているのにどうして再物質化出来たのだろう」

「シュメール星にある重巡青葉の船体と乗組員は、そのエネルギー塊と所謂”もつれ”状態にあります」

「一つの仮説に過ぎませんが」

「例えば異空間の中には特殊なエネルギーの流れがあり、青葉のエネルギー塊もその中で押し流されていると推定されます。青葉のエネルギー塊は異空間の入り口付近にいますが、出口付近のエネルギーを青葉のエネルギー塊と”もつれ”関係にして物質化します。すると、重巡青葉と全く同じ宇宙船がこちら側の空間に出現します」

「電子ワープと同じ理屈か」

例えば装置に電子を一粒入れると押されて何処からか電子が一粒出て来る。電子は全て同じに見えるので、電子ワープと呼ばれている。ただし、出て来る場所を予測できない。観測したときに全てが決まるのだ。


「この特殊なエネルギーは出てくる場所を制御できます」

「というより、空間転移装置により制御可能になるのです」

「さて、話を異空間のエネルギーの流れに戻します」

「異空間に物質が入って来るとエネルギーに変換されますが、それと等価なエネルギーが押し出されるのです」


「なるほど。分からない」

「私たちは何時まで青葉のエネルギー塊と”もつれた”状態のままなのですか」

「あと数年でそれは解消します」

「何故ですか」

「私たちは、トイレに行っているから」

「え」

「新陳代謝ですよ」

「生き物は体を構成する物質を入れ替えますので」


「青葉の人たちは宇宙船内に保管してあった食料はもう食べ尽くしているでしょう」

「シュメール星で採れた食べ物を体に取り入れて、代わりに身体を構成する”もつれた”古い物質を排泄しています」

「約7年で体の全物質が入れ替わるので”もつれ”は解消されます」

「なお、機械や物は新陳代謝しないので、もつれ”は解消されません」



会議が終わり、喫茶室で緑川と不破は静かに話をしていた。

「考えてみれば生き物は、水の流れにできる渦巻と同じだね。鳴門の渦潮のような」

「水は絶え間なく流れて入れ替わるけれども、渦はなかなか消えないわね」

「生物も体を構成する物質を入れ替えるけれども、生き続ける渦のようなものか」

「その渦の様なものを魂と呼ぶのかも」


緑川は呟いた。

「私たちは異空間に落ちて一度死んだのかもしれないけれど、元通りに復活したのね」

「ゾンビじゃないし、俺は気にしないよ」

不破はそう答えた。

「元々俺たちはクローンだ。必要とされる限り、何度でも再生する」

「クローンとして再生する度に別の新しい人間として記憶は白紙に戻るが、今回は記憶が継続している」

「俺たちは復活したのだ」

緑川は静かにうなずいた。



                  了


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