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17 移民団

17 移民船団 


1 野営地の安全対策


 緑川たちは西大陸探査の前進基地に帰還した。不破と別れて彼女は指令室に入った。そこでは彼女と不破の事故について、司令部員の反省会が行われていた。

「危うく6人目の犠牲者が出るところだった」

「今年こそは犠牲者を出さないようにしなければ」

「獣道のトンネルは出口を土で塞いだので、大丈夫だと思ったのですが」

「動物だ、穴を掘るだろう」

「トンネルは出口を塞がずに獣道を遮蔽物で覆い、野獣を野営地外へ誘導すべきだった」

「これも貴重な経験だ」

「一つ利口になったな」

「アッ、緑川中尉。ご無事で何よりです」

周囲の隊員たちは起立して緑川に敬礼した。

「野営地の安全確保が不十分で申し訳ありませんでした」

「すみませんでした」

隊員たちは皆、頭を下げて詫びた。

「無事だったので、もう良いです。今後の対策も出来たようですから」

そのとき通信兵が、暗号解読用のタブレットを持って走り寄って来た。

「中尉、総司令部への帰還命令が出ました。士官は全員、総司令部に参集せよとのことです」と、報告するとタブレット画面に表示されているキーを押した。

 すると緑川のブレスレットが鳴り、通信装置が連絡を受信したことを告げた。


2  歓迎と陳謝


「皆さん、ようこそシュメール星へ」

「いらっしゃいませ。歓迎します」

 山本総司令官たちは未確認船団の代表団を出迎えて、彼らに熱烈な歓迎の意を示した。代表団のメンバーも見知らぬ宙域で同胞に出会えたことを大いに喜んだ。


「私たちはヘリオシースμ(ミュー)星域連盟からZ星域のZE星系へ向かう移民船団です」

「ZE星系移民船団ですか。遠路お疲れ様です」

「見知らぬ空域で皆様に会えて、とても心強いです」

「私共も同じくZ星域のZK星系へ向かう輸送船団です」

 両船団の航路は途中まで同じ道中なので、たまたま一緒に航行していたそうだ。


 移民船団からは移民団代表と船団司令官、それに護衛艦の士官など8名がやって来た。移民団代表たちはコールドスリープから起こされて参加した。また、輸送船団からも代表者と護衛艦の艦長など4名が一緒に来訪して来た。


 シュメール星側は、事前の通信でこれらの情報は知っている。

「ヘリオシースμ(ミュー)星域連盟ですか。懐かしい」

「ご承知かとは思いますが、私たち重巡青葉の乗組員はヘリオシースγ(ガンマー)星域連合の出身です」

「お隣さんですね。また、よろしくお願いします」


 実は重巡青葉乗組員と移民団員の故郷は隣り合わせで、ルーツも近かった。ただし、彼らの生い立ちから言って、さほど連帯感があるわけではない。だが、やはり人種・文化などの共通性から、お互いに相手のことを理解し易かった。


 ちなみに太陽風が届く範囲を太陽圏(ヘリオスフィア)と言い、外の宇宙との境界はヘリオポーズという。その直ぐ内側の領域をヘリオシースというのだ。ここは恒星風が届く限界の末端衝撃波面とヘリオポーズの間の空域で、太陽風と恒星風(星間物質)がせめぎ合っている。


 人類がワープ航法を確立して間もない時代に植民した諸星系のうちの一部星域が、後の時代にヘリオシースの名を冠せられた。ヘリオシースα(アルファ)、β(ベータ)…などなど。


 当時の地球からヘリオシースγ(ガンマー)星域への入植は、環太平洋連合が中心となり実施された。また、ヘリオシースμ(ミュー)星域への入植は環太平洋連合と北大西洋連合が共同して行った。両者のルーツは共通部分が多い。

 ちなみにα星域には北大西洋連合、β星域には南ユーラシア連盟などが植民を行った。他にも中央ユーラシア共同体、火星連邦、月世界共同体、コロニー集合機構などが単独或いは共同で植民している。


 このころは移民ブームで多数の自然人が他星系へ入植した。しかし、ブームが去ると自然人の大規模な移民が行われることはなくなった。

 しかしその後、地球連邦が設立されると、後にヘリオシースと呼ばれるようになる諸星域を越えて、外側の星系への移民は続けられた。ただし、移民したのは遺伝子操作により生み出された強化人間と各種高能力者のクローンたちだった。


 その後、異星人との宇宙戦争をテーマにしたフィクション作品群が次々とヒットしたことがある。それらの物語では地球防衛のための絶対防衛圏としてヘリオシース星域が設定されていた。それが定着して名称が流用された。


 両者の会談が始まると、シュメール星側は移民船団が亜空間に飲み込まれた事件について説明した。そして異星人古代遺跡にある空間転移装置の操作ミスを陳謝した。


「そうだったのですか」

「もはや取り返しがつきませんね」

「申し訳ない」

「補償のしようもありません」

シュメール星側の全員が平身低頭、心から謝罪した。

すると

「実は私たちも亜空間開口部の中に、宇宙船程の大きさの人工物を発見して、それをスキャンしていました」

「それで、回避が遅れたことは事実です」

「逃げ遅れた原因は我々船団側にもありますよ」

「人工物?」

 彼らはパネルに画像を表示した。

 卵状の物体が映し出された。見慣れぬ宇宙船のようにも見える。外装には数多くの小さな損傷がある。一見してかなり古いものだと分かった。

「この装置が亜空間開口部を制御していたのですか」

「その様です」


 後日両者は会議を重ねた結果、シュメール星側の空間転移装置操作ミスの件は棚上げして当分の間、問題にしないことで合意した。


 その後数週間にわたり、船団乗組員たちが次々とシュメール星を表敬訪問した。その度に大規模な歓迎会が開かれて、お互いの親睦を深めた。これには亜人たちも招かれた。


3 疑問


「やはり、地球時間で60年も経過していたのか」

驚きを隠せない者もいた。

移民船団の人々は、重巡青葉の乗組員の時代よりも60年後の世界からやって来たのだ。

「私たちも気づいた時には、半年ほど経過していました」

と移民船団の一人が応じた。

「浦島効果ではないようです」 


「しかし既知の銀河ひとつ見当たらない、我々は銀河系から百数十億光年の彼方に飛ばされてしまったのか」

一人が頭を抱えながら言った。


 宇宙の膨張により地球から遠い銀河(星雲)ほど、より速い速度(相対速度)で離れていく。遠ざかる銀河同士の相対速度が光速を超える事象の地平線までは百数十億光年の距離があるのだ。


「しかし、シュメール星の遺跡は100万年前に建設されたのですね」

「私たちが飲み込まれた亜空間の開口部で発見した装置は古くても100万年前にこの星系を出発したのでしょう」

「100万年程度で、この距離を移動したというのか」


「もう一つの疑問は私たちが60年或いは僅か半年で、この星系にたどり着けたということです」

「亜空間とはいえ、この様な膨大な距離を半年で移動できるものなのか」

「どれだけの距離を移動したのか不明です」


 重巡青葉と移民船団が亜空間に取り込まれてから、シュメール星系周辺空間へ出現する経緯について解明するため、両者は共同して古代遺跡を調査することに合意した。


4今後の方針


 シュメール星周回軌道上のZE星系移民船団では、幹部たちが今後の方針を議論していた。

「移民先のZE星系へ行くことは不可能になった」

「この惑星へ移民するか」

「この星系に移民する意味はない。我々は亜空間通路防衛のために移民するのだ」

「しかし帰れない以上、この星系で自給自足していかなくては」

「そのためには、この惑星をもっと開発しなくてはならない」

「重巡青葉の乗員は百十数人、私たちの移民船団と輸送船団併せても乗員は百五十人に満たない」

「ほとんどは船乗りと機械の整備士だ。」

「各方面の専門家が必要だ」

「ちなみに、コールドスリープ中の移民団員が約500人います」

「皆、各方面のエキスパートばかりです」

「起こしますか」

「うむ」

移民団代表者が発言した。

「賛成する。移民団全員の意思を確認する必要がある」

「移民団総会を開きますか」

「うむ」


 今後のことについて、一応の結論が出たので、誰かが愚痴を言い出した。

「私らは第二次移民団だ。ZE星系には第一次移民団が当初の惑星開発を終えて待っているはずだった」

「そうですね。5年前の第一次では5千人が入植しました。惑星開発は順調に進み、人口も増加しているそうです」

「ZE星系のことを、今更言っても仕方がないだろう」

「幸か不幸かシュメール星では、先着した重巡青葉のクルーが惑星開発を進めています」

「いずれにしても、彼らと協力して開発事業を進めるしかない」

「しかし、全て併せても千人に満たないが」

「当分は人手不足だろうな」

「既にロボットの生産ラインが稼働していると、彼らから聞きましたが」

「だが、本国と同等の技術が揃っている訳ではない」

「単純労働にはロボットを充てるとしても、高度な科学技術分野では不足する部分も多いだろう」

「やはり優秀な人間の科学者や技術者など専門家が多数必要だな」

「ヒトの胚を各セット合計で1000万人分持って来ています。皆、優秀な人のクローンになります。長期的には人材不足も解消されるでしょう。もっとも、子供たちが成長するまで時間が掛かりますが」

  

 移民船内には、ヒトの胚などの遺伝子関係の素材が保管されている。移民先の惑星で人間を誕生させるためのシステムが用意されていた。そして、遺伝子関連技術により生み出された子供たちが、人工子宮とも言える装置のカプセル内で成長を始めるのだ。移民先では毎年、数十万人の子供たちが誕生する予定だった。そして、子供たちは3歳児になると、地上の施設へ移されるはずだった。

勿論、必要な家畜やペット、農産物の種などの用意もされている。



4 都市開発


 シュメール星は大変な騒ぎになっていた。当初の惑星開発の目標を達成して一息ついたばかりなのだが、急転直下大規模で新たな惑星開発計画の策定を迫られた。そう、急に700人近い人々がこの惑星に移住してくるのだ。この数は、以前の人数の6倍に当たる。

 そして間もなく、人口はさらに急増することが予想された。



 半年後、山本総司令官は皆を集めて演説し、演台で宣言した。

「第三次開発計画の実施段階では、毎月1万人の新生児を世に送り出します」

「それに伴い、新生児の成長と人口増加に対応する各種施策を実施します」


 既存の都市の施設や設備の拡充が進められていた。新たな都市も建設されていた。住宅建設や食料供給のための田畑や畜産設備の整備、漁船の増産、生活必需品の生産設備の増強、資源増産と資源確保のための新鉱山の開発など、あらゆる分野が拡充された。


 また亜人たちの人口も急激に増加している。特に小人は人口爆発状態だ。元々小人は多産だが夭折する者が多くて人口は余り増えなかった。ヒトがこの惑星に降り立った当時、小人の総数は2~3万人程度だと推定されている。しかしヒトの庇護を受けて生存率が急激に上昇し、既に30万人を超えていた。直ぐに100万人を突破するだろう。この様な状態では、新たな亜人対策が必要になった。


5新体制


「ついに栄えある地球連邦統合宇宙軍から、人知れぬシュメール星系邦国軍人になるのか。格下げされた気分だ」

「まだ、邦国にすらなっていないぞ」

「喜べ、全員名目上の階級は上がるそうだぞ」

「とりあえず、シュメール星系軍の発足だ」

「おめでとう」


 シュメール星では重巡青葉の乗組員と移民船団員たちの話し合いが続いている。そして遂に両者は統合することで合意した。

 そして近い将来、選挙を実施して邦国を建国することを目標に掲げた。それまでの間、移民団自治会は軍の下に置かれ、軍政を継続することになった。

 なお数名の移民団代表たちは植民を実施する移民事業団の職員だった。第二次移民団は追加移民であり、各分野の専門家たちを寄せ集めた集団なのだ。政治家的な人材を欠いていた。


 まず手始めに軍が統合された。シュメール星の軍には、星系邦国軍としての階級表が新たに設定された。

 最高位として宇宙将や海将・陸将・空将が設けられた。大将や中将などの区分はない。ただし現状では、宇宙将以外の将官は空席となっている。

 新階級表では、山本総司令官が将官に任用された。また加藤大尉が2佐(中佐相当)に、緑川や島影は中尉から3佐(少佐相当)に任用された。 


 これらの任用人事は重巡青葉と移民船団の軍人との均衡を図るために行われた。地球防衛軍には地球連邦統合宇宙軍や各星系連合軍、植民星系邦国軍などがあり、それぞれ格付けがされている。

 重巡青葉の乗組員は統合宇宙軍の軍人であり、その階級が適用されている。しかし移民船団側の軍人は星系邦国軍人だ。彼らの階級は戦闘員の場合、統合宇宙軍よりも2階級下位とされている。

 名目的な調整なのだが、今回の新制度では重巡青葉の乗組員が1~2階級上位へ任用される形で調整された。

 なお、重巡青葉の乗組員は全員技能者のため、全て下士官以上なのだが、統合軍でも補給などの支援部隊や地上部隊には兵卒が多数存在する。邦国軍も同様なのだ。


 移民船団はシュメール星周回軌道上に配置された。乗組員は地上と宇宙船を往還しているが、大部分の旅客(移民団員)・搭乗員は地上の都市に移住した。


 ZE星系移民船団とZK星系輸送船団を護衛してきた戦闘用艦船は再編成することになった。移民船団の護衛艦は有人駆逐艦2隻と無人フリゲート艦2隻、無人コルベット艦4隻だ。しかし、それとは別に大型移民船には、見慣れぬ大型艦がドッキングされていた。

「これは何ですか」

「砲艦です」

 寸胴で直径500メートル、全長は700メートル。前部に大口径のエネルギー弾発射口が一つ装備されている。船団には全部で4隻搭載されていた。

「コルベット艦と同様に、ワープ装置は装備していません。無人艦です」

「惑星や衛星の防衛用ですね」

「速力も遅いので防御に課題がありますが、大口径のエネルギー砲の威力は抜群です」

「最近、配備が始まった新兵器です」

 輸送船団の護衛艦船は有人の駆逐艦2隻及び無人フリゲート艦2隻だった。


「ワープ装置がない戦闘艦は本星の防衛用ですね」

「ワープ装置配備艦は他惑星への探査船や輸送船の護衛艦にしますか」

などの意見が出た。

 結局、第一戦隊と第二戦隊が新設された。第一戦隊は本星(シュメール星)から他の惑星へ行く探査船や輸送船の護衛が主な任務となる。この部隊は駆逐艦 長波(ながなみ)早波(はやなみ)の他に、無人フリゲート艦 三日月(みかづき)満月(みちつき)新月(にいづき)照月(てるづき)の4隻が充てられた。

 また、第二戦隊は本星及び二つの月を防衛することが主な任務だ。この部隊は駆逐艦 (いかづち)(いなづま)のほか、砲艦と無人コルベット艦各4隻で編成された。


6 マリーの野望


 マリーが両替商を始めた

『支払準備金が必要だから』と言って、マリーは田中が所持している亜人用の通貨を全て巻き上げた。


「取引量が少ないし、手数料も安いので儲からないでしょ」

と田中が言うと

「今はそうね。でも、そのうち銀行にするから」

とマリーは答えた。

「これから小人の人口はもっと増える」

「移民船が来てヒトも大幅に増えたから土地の開発が進むはず」

「そうなれば亜人たちの人口も更に増えるはず。アッ正しくは亜人口」

「そうか、銀行を経営するのかい」

「そう、ゆくゆくは中央銀行にしたいの」

「え。まさか」

「出来れば、通貨発行権を得たいのよ」

「本当に…」

「兌換券は支払の金準備が必要だけれども、不換券なら支払い準備は実質いらないのよね。私が読んだ資料に『その通貨の信用力が通貨の流通を担保する』とか書いてあったはず」

田中「… …」


「返済しなくてもいい借金。つまり通貨。丸儲けでしょ」

 不換券を返済しなければならない事態、それは国が破綻・消滅したときだ。通貨を回収して何らかの財で返済することが不可能になったときなのだ。

「でも、通貨を発行するには」

「いつの日にか必ず、小人の国を建国するわ」

「凄い」

 田中は驚愕して絶句した。マリーは大物だと改めて思った。

「近々ヒトは建国するんでしょ。私たちも追随するつもりよ」


           了


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