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13環境の変化

第4章 開発

13環境の変化


 重巡青葉乗組員たちの惑星開発と街づくりは順調に進んでいた。その環境の変化から、彼らの暮らしぶりは次第に変化していた。そして彼らと同居する亜人たちへの影響は、より大きな変化となって表れていた。


1.小人学園

 小人を対象にした学校が開校されることになった。既に小人の看護学校はあるが、今回開設されるのは一般教養を学ぶための学校だ。

 しかし、小人にそのような教育をすることは初めてだ。生徒の学力も格差が大きいことが予想された。そのため入学準備過程を設けて、受講生を募集していた。


「小人の学校が開校されるの。知っている?」とマリー(小人)が田中に話し掛けてきた。

「知っているよ。青葉台小人学園だろ。9月開校だね」

「私、ヒトの魔法を覚えたいから、この学校に行きたい」

「行っても良いでしょ」

「行っても構わないけど、その学校で習うのは魔法じゃないよ」

「良いのね、ありがとう。しっかり勉強して私、魔法使いになるわ」


「でも、そこに入るためには、入学準備過程を修了しないといけないな」

「9月から高等部に通いたいから、入学準備過程の通信教育を受けるの」

「3か月の入学準備過程を修了後、試験の成績と年齢によって、中等部や高等部へ振り分けられるのか」

空中に表示されたパンフレットの画像を見ながら言った。

「あと、妹のジュンも一緒に高等部に入りたがっているの。行かせてくれる」

「構わないよ。一緒に勉強すると良いよ」

「ありがとう。ジュンも喜ぶわ」

マリーとジュンは同じ時に出産したが、マリーの方が姉なのだそうだ。小人は一度に多数の子を出産するが、一卵性双生児という訳ではない。


「あと、笙たちも中等部に入れて欲しいの」

「学校は同じ場所だし、皆で行くと良いよ」

「ありがとう」

マリーは田中に抱き付いた。


「入学資格は高等部が7歳以上、中等部が6歳以上か。或いはそれと同等の学力のある者」「期間は1年だね」田中は画面の説明を見ながら言った。


 小人は人間よりも短命のため、小人の年齢を2.1倍すると、ほぼ人間の年齢に対応すると言われている。マリーは7歳なので、人間でいえば大体15歳位に相当する。


「ふむ、初等部は4歳以上で期間が2年だね」

「茜とマヤをここに入れよう。初等部の2年次生だね。家事用アンドロイドがいるとは言っても、この2人だけで家の留守番だと返って心配だからね」

「高・中・初等部にそれぞれ2人ずつ入学か」

「良いの」

「うん良いよ。入学準備過程の通信教育は、年長の2人だけで良いのか」

「9月から毎週1回、6人全員で登校だね。通学用の服と鞄を新しく用意しよう」

「ありがとう」


 マリー姉妹の名前は田中が付けたものだ。

「来年には大学も開設されるのか」



 数日後、田中にメールが届いた。週1日、青葉台小人学園で教員をするように依頼された。

 仮想現実(バーチャルリアリティー)空間の青葉台小人学園校長室で田中は秋元校長(技能中尉)と会見した。

「私が教員ですか。他に適任者がいませんか」

「人手が足らないのよ。小人と同居している人には、積極的に協力してもらわないと」

「それに、通信(オンライン)授業やアンドロイドの教員ばかりでは味気ないでしょ」

「あなたには週1回、体育教師をお願いするわ。スポーツ指導員の資格を持っているでしょ」「あなたの小人たちの登校日でよいから」

「分かりました」

「本校の教育方法は基本的に通信(オンライン)教育です。なので機器を接続すれば生徒は何時でもオンラインで学習できます。ただし、本校は開校日を週5日設定して授業を進行させていきます。また、登校日が毎週一回あります」

「知識の殆どはAIに接続していれば得られるので、リアルの授業は効率が悪いと言われます。でも皆が顔を合わせることは教育上重要なことです。生身の教師の存在が大切なのです」

「同意します。小人たちは初めて学校教育を受けるので、サポートが必要です。本校はアバターでの登校も認めているし、良いと思います」

「普段の通信教育の授業は主要科目中心だけれど、登校日には特別科目の授業が目白押しです」

「芸術、生活技術、料理、保健衛生、体育など。担当教員の方々には張り切ってやってもらいたいですね」

「分かりました。私も頑張ります」

「それでは、あなたも教員研修を受講しておいてね。資格が取れるわよ」


 登校日については、月曜日と金曜日が登校日として設定されている。生徒は週1日だけ、そのいずれかの日に登校すれば良いのだ。なお、登校日以外の日も登校可能で、学校の教室で通信教育の授業を受けられる。また、当番の教師と交流できるのだ。なお、幼児部も併設されている。利用者の必要に応じて幼児の小人を預けることが出来た。



2. パーティー

 緑川と秋元は催し物会場のエレベーターに乗り合わせた。

「この前、不破さんとデートしているところを見かけたわ。その後どうなのよ」

「はい。順調というか、あまり進展していないというか」

「早くしなさいよ。彼は結構人気があるのよ」

「緑川さんが早く決めないと他の人の迷惑になるわ」

「そうなのですか」

「まあ、私も人の事を言えないけどね」


 二人はエレベーターを降りると。並んで歩きながら話した。

「加藤隊長とはどうですか」

「そうね。艦長か私かに早く決めさせないと」

「艦長と加藤隊長の関係はどうなのです。私、こういうことに疎くて」

「加藤は艦長のものと決まったわけではないけれど」

「脳筋だから、艦長から死んでこいと言われれば喜んで突撃するやつだからね」

 脳筋とは『脳みそまで筋肉になっている』の短縮形で、体力があるが知恵が足らないという意味だ。

「確かに中2病の気がありますよね」


「年上の人たちはどうですか」

 加藤隊長は秋元よりも年下なのだ。

「うん。年齢はどうでも良いけど。青葉の乗組員の男たちを見渡すと」

「頭脳なら碇さんと小川さん、体力ならば加藤と不破さんだね」

「マア、私たちには相手の頭脳よりも、体格と体力の方が重要かな」

「勿論、気が合うことが前提だけどね」

「バランスが良いのが島影さん。可愛いのが水谷かな」

「下士官クラスでも可愛いのは何人かいるけどね」


「俺はランク外か」

 後ろから声が掛かった。

「あ、司令官」

 二人は振り向くと敬礼した。彼は青葉の元副長で、現在は基地司令官の任にある。

「冗談だ、気にしないでくれ。元々私はもてない。自覚しているさ」

「アッ、いや。パートナーの居る方は除外しているだけですよ」

「ハハ、お先に」と言って司令官は二人の前を通り過ぎた。


「気を付けなくては」

「皆さん、ここに集まってきますから」

「品評会は、また今度にしましょう」


 これから開かれるパーティーに招待された人たちが会場に集まってくるのだ。今日は、あるカップルが同居を決めたので披露宴が予定されていた。重巡青葉の乗組員で同居するカップルはこれで7組目となった。

 既に婚姻制度は廃れていたが、その名残は一部残っていた。



3.緑川と小人


 先日、緑川は秋元に『日曜日の昼休みに中央公園に行ってみなさいよ』と言われた。『行けば分かるから』

 それで今日の昼休みは、そこに散歩に行くことにした。彼女は普段、中央公園に行くことはない。休日恒例のジョギングコースからも、その場所は外れていた。


 日曜日には、乗組員の過半数が休日を取っている。緑川も隔週で日曜日が休暇日になる。

 公園では大勢の人と小人がのんびりと昼休みを過ごしていた。東屋で椅子に腰掛けて弁当を使っている者。広場でゲームをしている一団もいた。特に、噴水の周りのベンチには沢山の人と小人がいる。緑川も噴水の近くのベンチに腰を下ろした。


 すると間もなく、長身の女性が2連の自走式乳母車とともに近づいてきた。背中に一人負ぶっている。右手に携帯端末を持ち、左手は小人の手を引いていた。後ろから他の小人二人が彼女の上着の裾を掴んで付いてくる。乳母車の中にいるのは勿論小人だ。ただし、乳幼児ではない。ヒトに飼われる小人は原則的に4歳(ヒトの9歳相当)以上と条約により規定されている。

 この乳母車にはAIが仕込んであり、自律的に人の周囲に付き添う。目的地を教えると人の前面に出てくるのだ。


『艦長さん』と緑川は心の中で呟いた。

 それは山本艦長だった。今は総司令官だが、重巡青葉の艦長も兼任している。皆未だに彼女のことを艦長と呼んでいた。

 『艦長さんが小人を飼っている』

 緑川が今まで見たことのない幸せそうな笑顔を、山本は小人たちに振り撒きながら歩いていた。緑川は驚いた。


 緑川の心に強烈に焼き付いた山本艦長のイメージは、重巡青葉の司令室で戦闘を指揮するその姿だ。沈着冷静にして大胆不敵な指揮官。快刀で乱麻を断つが如き采配。


 彼女が青葉に赴任して間もないころ、敵大型艦4隻との遭遇戦があった。極めて不利な形勢だ。パネルの画面いっぱいに敵のエネルギー弾が表示され、重巡青葉に降り注ごうとしていた。

 普通ならば命からがら逃げるところだ。しかし、山本は突入を命じて敵艦隊の隊列を横断した。結果的に、これが功を奏した。敵に多大な損害を与えて、味方の損害は軽微だった。

 

 戦いの後、山本艦長は「敵の弾幕に隙間が見えたから、そこに突入した」と語った。

 後で皆がAIにシュミレーションさせてみると山本の言う通りの結果が出た。そのコースを無傷で通り抜けられたのだ。しかし、戦闘時にはシュミレーションしている暇はなかった。山本の直感による判断なのだろうか。

 この時、緑川は心の中で山本の軍門に下り、この人に付いていこうと思った。


「あら、緑川さん。ついに見つかってしまったわね」

 山本は緑川に気付いて言った。

「小人を飼われていたのですか。知りませんでした」

「3か月前から飼っているのよ」「私のイメージダウンになると思って、緑川さんには内緒にしていたの」と言って笑った。

「艦長さんが小人を飼われるとは思いませんでした」

「ハハ、これが私の実態です」

「緑川さんもよく、小人を欲しそうに見ているわよね。飼えばいいのに」

「私は小人種に対する交渉担当ですから、小人を飼うことは控えています」

「気にすることはないわよ。何なら仕事を他の人に譲ればいいのよ」「緑川さんに担当してほしい仕事は他にも沢山あります。いつでも代わりの仕事をあげるわよ」

「は、はい」

「緑川さんは仕事を優先しすぎですね。肩の力を抜いて、もっと気楽にやってください」

「そうですね」

「もう私たちは一息つける状況になりました。この際、やりたいことをやってみましょう」

「はい。分かりました」


 山本は手を振りながら小人たちと共に緑川の前を通り過ぎて行った。

『もうこの人は終わったのだ』という思いが緑川の脳裏に浮かんだ。『戦士としては』

『これからは、政治的に皆を導いていくのだろう』と思った。彼女に付いていこうという気持ちに変わりはなかった。

『終わったのではなくて、次の段階に進まれたのでしょう』と思い直した。

『私も、イメージチェンジしよう』と思った。


 緑川が手を振り終わると、誰かが話し掛けてきた。翻訳機の音声で「賢者様」と。

 振り向くと、笑顔の小人がいた。

「こんにちは賢者様、マリーです」


 緑川は、マリーの妹たちを紹介してもらうことにした。


 その日、田中が帰宅するとマリーは上機嫌だった。緑川に妹たちを紹介することになったという。

「そんなにうれしい事なの」

「だって契約できれば、私たちの家系は安泰だもの」

「大賢者様は他の部族に取られたけど、賢者様を取れれば私の部族の長老たちも大喜びするはず」

 小人たちが言う大賢者は山本総司令官(艦長)、賢者は緑川のことだ。

「何、小人たちは幹部の人の取り合いをしていたのかい」

「そうよ、当然でしょ」

 キョトンとしている田中の顔を見ながらマリーは続けた。

「部族間の勢力関係に影響することなのよ」

「それに将来、私が部族の(おさ)になるためにも、これは必要な事なの」

「そんな長期ビジョンを持っていたのか」

「部族への貢献度を稼ぐ絶好の機会だもの」

「絶対に、この契約を取るわ」


 数日後、緑川はマリーの妹たちと同居する契約を交わすことに同意した。マリーが狂喜乱舞して喜んだことは言うまでもない。



                    了


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