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01待ち伏せ

第1章 敵艦 

01話 待ち伏せ


1. アルファ恒星系

 「進路変更。目標座標まで距離9.5光年、第5ワープ速度で航行します」と島影航路長(中尉)が報告した。艦内には、ワープするまでのカウントダウンを告げる機械音声が響く。そしてAI(人工知能)は告げた「本艦はワープしました。ワープアウトまで、あと1時間15分です」


 これまで本艦は各地を転戦し、単艦にて遊撃戦を実施していた。

 しかし8時間ほど前、アルファ恒星系周辺の宇宙空間に浮かぶ無人観測器が敵の大型艦を補足した。

 現在、アルファ恒星系では味方の第三及び第五艦隊が昆虫異星人ガビラに対して掃討戦を実施している。そして逃走を図る敵を航路上で待ち伏せて撃破すべく、十数隻の艦船が用意されていた。しかし出撃回数は予想を遥かに上回り、味方艦隊のローテーションに穴が開いてしまった。

 そのため急遽(きゅうきょ)、本艦に迎撃命令が下された。臨時の仕事を回されたのだ。本艦は目標座標に向けて最後の、3回目のワープに入った。


 本艦とは、重巡航艦クラスの宇宙戦闘艦CCG707号艦「青葉」で、通称「重巡青葉」と呼ばれている。流線形の船体で、全長800メートル全幅220メートル全高260メートルの大型艦だ。縮退炉を動力源として、ワープエンジンと空間圧縮型電磁推進方式の通常エンジンを搭載している。


 重巡青葉は艦齢が40年を超える廃艦間近の老朽艦だが、2年前に当戦役が勃発すると急遽近代化改修が施されて戦役に参加した。また、3か月前にも小規模の改修を受けている。


 艦内は自動化が進んでおり、現在の乗組員数は陸戦小隊を含めても100人を少し上回る程度だ。乗組員は全て下士官以上の待遇で、兵はアンドロイドや人型汎用ロボットを用いている。

 船には精巧な人型アンドロイドが百数十体と、簡易人型ロボットを2百数十体搭載している。他にも多種多様な非人型ロボット兵器や作業用ロボットを多数積載していた。

 非人型ロボットの総数は不明だ。艦内には、ドローンなどの作業用機械器具を多数積載しているが、これらも全て非人型ロボットなのだ。自律化された各種機械装置自体がロボットとも言える。また、装置の一部には修理用ロボットが組み込まれているものもある。普段は電子制御部品なのだが、整備や故障の時にはこれがロボット化して動きだし、修理や整備をするのだ。



 重巡青葉の指令室正面の壁面上部には、メインパネルと呼ばれている大型画面の3D(スリーディ)映像装置が設置されている。その下には、ホログラムと呼ばれている、直径2m程の立体画像投影装置が置かれていた。装置上の空間には立体映像が映し出されている。


 メインパネルの画面には、アルファ星とベータ星の中間地点の航路図が表示されている。目的地までの距離を示す数値が刻々と変化して、重巡青葉がワープ速度で航行していることを示していた。


 ホログラムには、周辺の星と敵味方の位置関係が表示されている。戦闘中のアルファ恒星系は立体画面の左上奥に表示されている。手前の下部にはガンマ恒星系があり、右端中段にはベータ恒星系がある。目標とする敵はアルファ恒星系から脱出して、ベータ恒星系を目指していた。


2.球状星団

 そこは、太陽系から約7,200光年離れた(1光年は、光が真空中を一年間で通過する長さ)、さそり座のM4球状星団の外縁部だ。これは、太陽系に最も近い球状星団として知られている。この球状星団は直径50~70光年で、約10万個の恒星が集まっている。そのため、恒星間距離は僅かに数十~数光日だ。(1光日は、光が真空中を一日で通過する長さ)


 因みに、我々の太陽系に最も近い恒星までの距離は、4.3光年(365.25光日×4.3)だ。球状星団では、いかに恒星が密集しているか、お分かり頂けるだろう。


 アルファ恒星系からベータ恒星系までの距離は12光日しかない。アルファ星とガンマ星も28光日しか離れていない。

 とはいえ12光日の距離をワープせずに、重巡青葉の通常エンジンを用いて巡航速度で航行すると約900日かかる。敵の巡航速度では、24,000日を要するものと推定される。ワープでジャンプしなければ航行が難しい距離だ。


 これまでに得られた情報から、敵が1回のワープでジャンプ出来る最長距離は約3光日だ。1日に2回のワープが可能だと推定されている。敵はベータ恒星系まで2日で行けるが、どうしても中間地点にワープアウトしてしまうのだ。一度、最大長距離ワープをした後には、次のワープまでほぼ半日は通常空間を航行することになる。そこが狙い目だ。敵航路上のワープアウト予想空域には、多数の探査・観測機器がばら撒かれていた。


 重巡青葉のワープアウト予定座標をホログラムで見れば敵の斜め後方で、その距離は130光秒だ。(1光秒は約30万km、因みに太陽と地球の平均距離は499光秒)その時、敵艦から見れば重巡青葉は恒星であるガンマ星の光の中にいる。

 そして、背後のガンマ星が放出する電磁波に偽装した光などを重巡青葉も出すので、数分間は敵に補足されないはずだ。本艦は背景と同じ光や電波、放射線を放出しながら航行している。星の光を遮っても補足されにくい程度の光学迷彩能力を本艦は持っているが、無数の星を背景にした宇宙の暗闇の中に隠れるよりも、近くの恒星の輝きの中の方が隠れやすいのだ。


 因みに、重巡青葉は電磁波ステルス能力を持つほか、超光速粒子に対するステルス対応がなされた、通称タキオン・ステルス艦である。なお、敵味方の小型艦載機やミサイル等も全て電磁波ステルス化しており、中にはタキオン・ステルスのものも存在する。


 なお、ステルスとは、敵に探知されにくくする技術であって、敵の探知能力が高い場合や相手に接近した場合は補足される。

 また、タキオンとは超光速粒子のことだ。これらが物質を透過するときの変化を、量子もつれ現象に似た作用を利用して同時に遠隔地で観測することができる。その特性を活用したタキオンレーダーとも言うべき探査装置が実戦配備されていた。


3.奇襲攻撃

「敵、大型戦闘艦1隻確認。速力0.5宇宙ノット」「船体の大きさは概算数値で、全長2,500メートル全幅1,600メートル全高1,800メートルです」と緑川探査長が報告した。

 通常空間では、敵の最大速力は1宇宙ノット程度だと推定されている。1宇宙ノットは光速の1/1000の速度だ。(300km/秒)

「ワープアウト後は第一戦速。直ちに敵艦を、粒子砲とエネルギー砲により攻撃する」と山本艦長は命じた。

 第一戦速は18宇宙ノットだ。


 山本艦長は沈着冷静と評判の高い若手の女性艦長だ。また、緑川探査長も任官して間もない新進気鋭の若手女性将校だ。

 緑川紀子(みどりかわのりこ)。任官後半年の新任少尉で、23歳だ。3か月前に本艦に配属された。彼女は可愛いタイプで、一見するとごく普通の乗組員に見えるが、探知、情報収集・分析、通信関係の責任者として探査長を務めている。

 彼女は宇宙防衛軍の教育機関で、高級幹部候補養成コースを修了した有望株だ。通常ならば主計官として配属されることが多いのだが、艦長の意向で特別な配置がなされたようだ。二人とも将来が期待されている幹部候補者なのだ。


 加藤戦闘隊長が大きな声で次々と指示を出していた。

迎撃機(ドローン)1個中隊の発艦準備をしろ」

「艦首粒子砲及び前部エネルギー砲の砲撃パターンをM3に設定」

 AIが目標の未来位置を予測して、予め設定されたパターンでの砲撃が自動的に行われる。メインパネルには敵の進行方向に合わせて、敵艦を頂点とする二等辺三角形が表示された。その中には6つの円が描かれている。また、円の周囲には小さな渦巻きや波形が表示されていた。


「ワープアウトしました。通常空間です」とAIが告げた

「進路修正、軸線に乗りました」と島影航路長(中尉)が報告した。

「操艦もらいました。砲撃開始します」と水谷砲術長(少尉)は言った。

 水谷が操艦するわけではないが、そのように言うしきたりだ。砲撃設定の通りに粒子砲と9門のエネルギー砲が発射された。


 粒子砲は艦首発射口から発射する固定砲で、連射する場合は艦首を目標に向けて、僅かに首振りしながら発砲するのだ。

 粒子砲から放たれた膨大なエネルギーと特殊な粒子は、ほぼ光速で敵艦に迫る。周囲のエネルギーを吸収した粒子は、目標の近くで縮退粒子に変換される。その粒子は、巨大な円形のピザ生地のような形で広範囲に拡散しているため、敵は回避することが困難だった。


 縮退粒子とは、極めて小さなブラックホールに似た性質を持つ粒子で、強い重力により吸収した物質の全質量をエネルギーに変換する。その直後、極めて短時間で粒子は崩壊して全エネルギーを放出する。つまり爆発するのだ。威力は極めて強力だ。

 繰り返すが、吸収した物質の全質量をエネルギーに変換すると、莫大なエネルギーが生じるのだ。因みに、核兵器は放射性物質の質量のうち数%~十数%をエネルギーに変換しているに過ぎない。

 粒子砲の欠点は、エネルギー充填に長時間を要することだ。また、強力過ぎて危険なため、星系の近くでは使用を禁止されている。

 なお、重巡青葉の粒子砲は6連発だ。エネルギーを満タンに充填した状態で6発撃てる。


 主砲は高出力のエネルギービーム砲で、重巡青葉には前部に回転砲塔が9基(9門)装備されている。砲身は無くて少し出っ張った開閉式の砲口があるだけだ。例えばビームを0.5秒間射出すると、拡散して直径数㎞長さ15万㎞の長大な柱となって敵艦に迫る。ただし、砲口内にはビーム射出パターンが幾つか用意されている。実際の砲撃では射出パターンを使用するので、ビームの柱状の航跡は渦巻き型や波形を描いて飛んでいくのだ。


 粒子砲から発射された1発分の縮退粒子は地球の直径程に拡散するが、その円形の間隔を埋めるようにビームが発射されていた。

 ただし、縮退粒子もエネルギービームも肉眼では見えない。


 指令室では、『ピッ、ピッ、ピッ』と電子音が鳴り響いていた。5秒間隔で『ポーン』という電子音が鳴り、エネルギー砲の発射を知らせていた。また、10秒おきには『ズーン』という低音が粒子砲の発射を告げていた。


 「命中まで2分10秒ないし、1分10秒」と水谷砲術長は報告した。「操艦返します」

 機械音声が30秒間隔で秒読みを始める。因みに1分前から15秒間隔に変わり、十秒前からは全ての数字を読み上げるのだ。

 1分間の砲撃で粒子砲を6発、エネルギー砲は9門で108発を撃ち出した。敵の回避範囲を想定して、航路を中心に広範囲にばら撒いたのだ。


4.ワープミサイル

 「砲撃が外れることは無いと思いますが、もしも外した時はどうしますか」と緑川探査長は加藤戦闘隊長に質問した。

「砲撃が外れたときは、新兵器のワープミサイルで一気に片付けるさ。撃ったら直ぐに命中だ。敵さん、驚く暇もないぞ。大型艦でも、一発当てれば止まってくれるさ」と加藤は答えた。


 ワープミサイルを通常空間から発射した場合は、ワープするまでに3秒ほど時間を要する。だが、ワープすれば瞬時に目標直前の空間に出現(ワープアウト)する。そして、直ちに複数の縮退粒子弾頭をばら撒く多弾頭ミサイルだ。そして、タキオン・ステルス仕様になっている。因みに、このミサイルの最大ワープ距離(射程)は300光秒だ。

 ワープ空間では慣性航行が出来ない。最初に設定し投入したワープエネルギーが尽きれば、直ちにワープアウトしてしまうのだ。


「何故、今回は初めからワープミサイルを使わないのですか」と緑川探査長は尋ねた。

「何せ、貴重品だからね。切り札として大切に使わないと。二回使って残り4本だし。今回は有利な戦いなので、温存するよ」と加藤戦闘隊長は答えた。

 水谷砲術長が横から話に加わった。

「デカブツだから、船には沢山載せられません。緑川さんが赴任して来る前に船を改装してやっと8基載せたけど、お陰で通常の長距離対艦ミサイルが32基も減ですよ。いいのかな」「高級品のワープエンジン付きの新兵器だから、やたらに使えないし」

 加藤戦闘隊長は「ミサイル用のワープエンジンなので一回飛んだら壊れる代物だが、それでも一応ワープエンジンだからナ。『私、安くないわよ』」お道化て言うと、緑川が睨んだ。

 石井副長(少佐)も口をはさんだ。

「新兵器というよりは、まだ試供品だな。補給も当てにならないし。司令部の指示で使う局面が限定されている。」「もっとも、やられたら終わりだから、いざとなれば使うさ」 


 宇宙船のワープエンジンが実用化したのは約30年前だが、当初は非常に高価なものであった。また、ワープ航法を実施するには膨大なエネルギーが必要であり、技術の粋を集めたエネルギー炉は巨大で制作コストは莫大なものだった。

 しかし最近は、安価なミサイル用ワープエンジンの開発やエネルギー炉の小型化とコストダウンが進み、漸く実用的なワープミサイルが配備されたのだ。


「敵が気付いて反撃した場合、この距離だと長距離砲は回避できるとして、問題は敵ミサイルですね。約30分で来ますが、今はワープでの回避ができません」「因みに、最短距離ワープに必要なエネルギーの充填まで、あと50分です」と島影航路長が言った


 敵は、エネルギー拡散砲は持っていないと言われている。敵の長距離砲も光速で飛んでくるが、この距離では2分近くかかるので回避できる。だがミサイルは自動追尾で迫ってくるのだ。

 ワープするには、安全のため艦全体で準備をする必要があるが、必要な計測や計算は数分で終わる。しかしワープエネルギーの充填には少々時間が必要なのだ。


「敵ミサイルは、迎撃ミサイルとレーザー機銃で撃ち落とす。艦載機も来るだろうから迎撃機(ドローン)を出す。」加藤戦闘隊長は自信満々に言った



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