02話 だけど私は使ってみた
手に入れたリングの謎に迫ります。
平たく言えば、導入その2です。
不思議なリングを拾った。
ずっと手で握ったまま、家に帰り自室へと直行する。
「姉ちゃん、ご飯食べないの?」
弟の夕希の声がリビングから聞こえたが、無視をする。
自室のドアをサッと開き、通勤バッグをハンガーラックに引っ掛け、ベッドに倒れこんだ。
手の中で輝いている、2つのリングを私は恍惚の表情で見つめた。
「きれい…。どの指につけようかな。」
拾い物だろうがブランド物でなかろうが、全く気にならない魅力がそのリングにはあった。
私の職場は指輪OKのため、問題なく普段からつけることができる。
色々試した結果、左手の人差し指と中指につけるとしっくりすることがわかった。
薬指には未来の結婚指輪のために、今は空席にしておきたいし。
左手をかざし、輝くリングを見ていた時だった。
『………。ひのめ。姫城ひのめ。』
ビクッと脳が反応し、顔を上げてしまった。
どこからか、私を呼ぶ声が聞こえたのだ。
弟の夕希の声でも、妹のよみちの声でもない。
「気のせい…?」
『…ひのめ!!』
私の独り言に応えるように、脳内に声が響いた。
聞いたことのない女の子の声だ。
「誰…?いったい、どういうこと…?」
『私は神よ。今、ひのめの心に直接語り掛けているの。』
…あれ、私は疲れているのだろうか。
リングを拾った高揚感か、それとも日々のストレスか。
幻の声を聞いているのだろうか。
『ひのめ、今ひのめが指につけているドリームリングは、私が誤ってその世界に落としてしまった物なの。本来は神のアイテムで、特別な力が宿っているわ。』
「ドリームリング…特別な力…。」
驚いた。
本当にこれは不思議な指輪だったのか。
神様と名乗る女の子がドリームリングと呼んだそれを、私は眺めた。
『ドリームリングの使い方はシンプル。人差し指と中指にはめて、決めポーズをしながら願いを言うと何でも叶う力があるわ。』
「決めポーズ…?」
『あー、それは何でもいいよ。Vサインでもピストルポーズでもいいから、リングを目立たせるようなポーズだと成功判定になるから。』
なかなかにふざけたアイテムね…。
でも、もしその力が本当なら、とんでもないリングなのでは…?
「……もしかして、神様はリングを回収しに来たのですか?」
そうだろう。
こんな、本当に神のような力を宿すリングが実在するのだとしたら…。
………イヤだ。
これは私が、手にしたものだ。
私は悪くない、落とした神が悪いのだ。
拾った私が、リングをどうしようとそんなの勝手だ…!
『いや、特に。使い方がわからないだろうと思って、アドバイスしに呼び掛けただけだよ?』
え……と、神様は意外にもリングの所有権の放棄を早々に私に伝えた。
「いいんですか…?」
思わず聞き返してしまった。
さっきまでの威勢が嘘のように消えてしまった。
『リングを落としたのは私のうっかり。でも、リングを拾ったのはひのめ自身の選択。私にひのめの自由を奪う権利はないわ。』
なんだか丸め込まれてしまったような気がしたが、どうやらリングは私が使ってもいいようだ。
「ど、どうなってもしりませんからね!?」
『どうなってもいいよ?ひのめの行く末を、高笑いしながら見物させてもらうわ~。』
本当にどうでもよさそうな口調を最後に、神の声が頭から消えていった。
「……。なんだったの…?」
指に残されたリングを見ながら、私はしばらく動けなかった。
本当に神が言っていたことは真実なのだろうか?
このリングに、そんな力が…。
そんな魔法みたいなことがあるわけない、夜勤明けできっと疲れて幻聴でも聞いたのだ。
「姉ちゃん、昼飯食べないなら片づけるからねー!」
夕希の声が部屋まで聞こえる。
うるさいなぁ…。
……そうだ、試しに唱えてみるか。
「ドリームリングよ、昼食を私の机までワープさせなさい。」
ベッドに寝ころんだ姿勢のまま、左手を天井に向けて高く上げた。
ふふ、我ながらアホみたいなポーズだ。
その瞬間。
一瞬だが、リングの宝石がキラッと光った。
慌てて私は跳ね起き、机の上を見た。
さっきまで何も置かれていなかった机の上には、見慣れた食器と昼食であろうパスタが置かれていた。
「……あれ?昼飯が消えてる……。姉ちゃんが部屋まで運んだのか?」
夕希の声が聞こえてきた気がしたが、今はそれどころではなかった。
本当に。
本当に、これは夢のような、願いか叶うドリームリングだったのだ。
この力さえあれば、私は…!
湯水の様に妄想が沸き、私は喜びを堪えきれなかった。
読んでいただき、ありがとうございます!
女性向け小説というのは難しいですね、ただ女性主人公でイケメンを出せばいいだけではない…。
奥が深いですが、やりがいがあります。