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革命前夜

明日を信じる夜の話。


体に怠さを感じてうっすら眼を開けると、外はだいぶ暗くなっていた。

この時期は夜でも昼みたいに明るいから、暗いという事は20時くらいだろうか。

眠い目をこすってスマホの時計を見ると“20:01”となっていた。


「ビンゴ」


ニヤッと笑う。

ベッドの上で伸びをする。随分と長く眠っていたみたいだから、夜はあまり眠れないかもしれない。まぁいいだろう。明日は学校だけど、別に行かなくても良い気がする。

スマホでしなくても良いゲームをする。退屈しのぎに持ってこいなパズルゲームは、SNSをしている時ぐらいに気が紛れる。

あと少しでゲームが終わりそうになった時、階段を誰かが駆けてきた。


「美琴!いつまで寝てるの!」


ドアを開けるのと同時に姉が叱咤する。


「うるさいなぁ、起きてるよ。ていうかノックしてって毎回言ってるじゃん」


不快感を露わにして起き上がり、姉を見る。

驚いた。

姉は泣いたように眼を赤く腫らしていた。


「どしたの……」

「また後で話す。話さないといけないことが多すぎるから、早くご飯食べちゃって」


返事をする前にドアを閉められた。

なんだあれ。

姉の泣き顔を初めて見た。いつも澄ました顔で過ごし、感動映像を見ても涙一つ流さない冷徹人間だと思っていた。


「話したい事って何だろう」


興味が沸いたのと腹が減っていたから、急いで階段を駆け下りる。

父の声も母の声もした。みんな帰って来たんだ。そのことが何故だかとても嬉しくて、笑みを零しながらドアを開ける。

そこには家族以外に、銀髪の少年と姉の彼氏と思われる人がいた。

顔が強ばり、胸騒ぎがする。


「えぇ……だれ」


一瞬、姉の結婚発表なのではと心躍ったが、そんな空気では全くなかった。

どちらかと言うと、話の主役は銀髪の少年と思われる。


「カミさま!」


少年は私の顔を見ると嬉々として駆けてきた。


「お会いしたかったです」


眼に涙をためている。

カミさまってなに。

何この子。


「美琴。今からあなたの話をするからよく聞きなさい」

「ねえ、先にご飯食べさせた方がいいんじゃない」

「話が先だろう。悠長に飯を食ってる暇はない。父さんは明日の5時には旅立つんだぞ」

「だからそれは行かなくて良いって!」

「まあまあ」


吐き気がした。

私の家族なはずなのに、知らない人が知らない言語を話しながら詰め寄ってきたみたいな感覚。海外に行った時の不安感とよく似ている。


「顔色悪いですが大丈夫ですか?」


少年が可愛い顔をして私をのぞき込む。

彼が一番安心した。

初めて会ったはずなのに、昔の幼馴染に再会したような気持ちになった。

涙が出てきそうなくらい、胸を締め付けられて、私は今感動している。


「美琴、やっぱり先にご飯食べちゃいな」


姉に急かされて焼きそばの前に座る。

さっきまでお腹が減っていたはずなのに、今は何も食べたくない。でも、食べなくてはいけないからお箸を持って麺を一本だけ摘まんで口に入れる。

租借をして呑み込もうとしたが、身体が受け付けず、口を塞いでトイレに駆け込んで吐いた。

美味しくないわけではないのに、身体から「食べるな」の信号を送られている様だった。

リビングに戻ると、みんなの視線が痛かった。


「お昼遅かったから……今ちょっとお腹いっぱいなのよ」


苦し紛れに言い訳をする。


「熱があるのかも」


体温計を取ろうとした私の手を、少年が掴んだ。


「なに!」

「カミはこの星のものを受け付けなくなっている。はやく向こうに渡さないと彼女は死にます。彼女が死ぬと、きっと向こうは制御が効かなくなる。向こうの戦闘力はこの星の比ではありません」

「だから話し合いでどうにかしようって!」

「無理よ。話が通じる相手じゃないもの」

「滅亡まであと数週間なら、戦っている暇ないだろう」


また私の分からない話を始めた。

頭が痛くなってそこからうずくまると、母が優しく私の手を取った。


「美琴、よく聞いて。あなたはとある星のカミさまなの。崇められているの。生きるために、あなたはその星に行って、私の妹だっていう人と会うの。その人に、地球が滅亡するのは分かった。それは甘んじて受け入れる。動植物もみんなあげる。だから、最期だけは静かに過ごさせてって伝えるの。大丈夫。全部上手くいく」


そう言って、私を強く抱きしめた。父も、姉も。


「美琴、お姉ちゃん結婚するの。さっき私がプロポーズした。私が守ってやろうと思ってさ」


彼氏が「どうも」と頭を下げる。


「父さんな、宇宙に行くよ。父さんは最期まで抵抗しようと思う。足掻いて足掻いて、塵になろうと思う。美琴、お前はどうする」


なんとなく、本当になんとなくだけど、話が見えてきた。

地球はあと少しで無くなる。母はそれを受け入れ、姉と父は抵抗している。

そして私は……


「私は、お母さんの言う通りにしようと思う」


そう伝えた。


「お風呂入るね」


家族の手を放して、風呂場へと向かう。

服を脱いで洗面台の鏡で自分を見た。

昨日より金髪が光っている。

沙希に「綺麗だ」と言われたことを思い出した。

そうだ、最後に沙希に会いたい。それだけ後で伝えよう。あとは別にどうでも良い。

湯船につかると「フゥーーー」と、声が漏れた。力を抜いた時、手が震えているのが分かった。

これは、家族みんなが私を除け者にして答えを出したことによる怒りか。

これは、私だけが違う星に行かねばならない不安か。

これは、もうみんなに会えない事への悲しみか。

それとも……

これはきっと、私の願いが叶ったことへの喜びだ。

私の居場所は地球じゃなくて、違う星にあったのだ。

居場所はやはり必ず存在するみたい。

嬉しくて嬉しくて、さっきから顔が綻ぶのを抑えるのに必死だった。

怒りなんて不安なんて悲しみなんてない。

あるのは喜び、ただそれだけだ。


「ばぁーーーーーーか」


小さい声でそう言った。

毎日「世界が終わればいい」と願っていた。

明日、それが叶うらしい。



これにて完結です。

この話を書き始めた時、某国からミサイルが発射されたというニュースを見ました。

そしてその数年後、未知のウイルスが流行して、私の生活も随分と変化しました。

それでも、どこか遠くの国で起きているような、他人事のような気がしてなりません。

本当にこの地球が無くなる時でも、私は普通に生活をして、いつの間にか死んでいるのでしょう。

私はそれが一番幸せなような気がするのです。

危機感なんて捨てて、自分勝手な美琴のように生きてやる。

それが私の希望です。


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