ロミオとシズカ
気が付くと少年は森の中に倒れていた。
あれっ、僕は夢を見ていたのかな。そういえばアーサーなんて呼ばれてたけど、何でだろう。
『ああ、良かった。やっと気が付いたのね。ロミオが急に倒れるからびっくりしたわ。私の回復魔法が効かないのかと…』
『あれっ、シズカちゃんはずっと此処にいたの?あの老人を見た?』
さっきまで自分が見ていた夢が、あまりにも現実のように思えて、隣にいる幼馴染みの少女の話を遮って尋ねてみる。
『何寝惚けてるのよ、魔法の練習したいから付き合ってと言ったのあなたでしょう。練習中に突然倒れるから魔力切れだと思って心配していたのに…。』
まったく、どうしようもないわねとシズカ・ロングフィールドは腰に手を当ててぷんすか怒っている。魔法の特訓をしようと言い出したのは、ロミオではなくシズカの方であるのだが。
ロミオの父、クライス・ストーンパインは下級貴族であるが、家柄はそれほど悪くない。ストーンパイン家は『水』と『光』の魔法特性を持っている家柄だが、クライスは特に『光』魔法を極めており、魔法省の重鎮である。
ロミオは4人兄弟の末っ子で、母親はロミオが生まれてすぐに亡くなったと父から聞かされている。現在の継母には冷たく扱われているが、父には甘やかされて育った。それが原因なのか、優秀な兄たちに比べ学力はそこそこ頑張っているが、残念なことに魔法が下の下。
ファミリーネームがストーンパインというのもあって、周囲からは『ストーンを蔑む意味の石ころ』と『ロミオ』をかけて『石ころみお』と揶揄されていた。
シズカ・ロングフィールドはストーンパイン家と同じく『水』と『光』の魔法特性を持つ上級貴族で、現在の魔法省の長官ヨゼフ・ロングフィールドのひとり娘だ。
その清楚な容姿に加え正義感も強く、誰に対しても優しく素直な性格のため、皆から愛されて育った。
ただひとつ、幼馴染みというだけでシズカが劣等生のロミオに対して特別な好意を寄せるところが、彼女の取り巻きに取っては不満の種であった。
実は、シズカ本人もロミオのことが気になる理由が良く解っていない。理由なんて、別にどうでもいいのよとシズカは思う。
『シズカちゃん、僕には才能がないことが良く分かったよ。中等学年に上がれないと、僕はもうこの学園にいられなくなるみたいだし、一緒にいると色々まずいんじゃないの』
『わたしに途中で投げ出せって言うの?まだ2年も先のことなのよ。貴方を中等学年に上がらせるという約束は守ってみせるわ。わたしに全部任せなさいな』
何を言ってるのよと、眼光鋭く睨んでくる。
『でも…』
『デモは道路でやりなさい』
『えっ、どうろ?』
『ふふっ、何でもないわ』
シズカちゃんは、時折訳が解らない事を言う。
『今日のところは勘弁してあげるから、明日からまた特訓よ』
嬉しそうに特訓、特訓と繰り返しながら、さあ帰るわよと目で合図してくる。ロミオは口ではああ言ったが、本当はシズカちゃんが周囲の反対を押して付き合ってくれるのが嬉しかった。