プロローグ
『闇を恐れるでない。』
老人は少年に言った。
この暗闇の中で何故彼の姿を知覚出来るのか、少年には不思議だった。この闇の世界でいくら目を凝らしても、今まで何ひとつ彼の目には映らなかったのだ。この世界に来て初めて目に映る老人の姿は眩しくて、美しかった。
『人は闇を恐れ、闇に絶望する。だが、闇こそ真理。闇の中にこそ魂の本当の姿がある。闇を恐れるのは、真実を恐れるからだ。』
老人は続けた。
『アーサーよ、闇を恐れるな。闇を嘆くでない。闇を恐れれば闇に呑まれる。闇に絶望を抱けば、闇に墜ちよう。汝は闇を支配して人の心に安寧と平穏をもたらすのだ。』
どうしたらこの世界を支配出来るというのか。少年はこの闇の世界に絶望しか見えない。
『これは運命だ。汝はこの闇の世界を支配して、やがて光の王となるために此処に来た。此処に来た者こそ選ばれし者。我は汝に会うために此処で待っていた。長い長い悠久の時を待っていたのだ。もう我に残された時間はない』
そう言うと老人は2つの小さな玉を取り出した。
『闇を恐れず、魂の真実を見定めよ。光を求めず、汝自身が光となり輝くのだ。闇が深ければ深いほど、光はその強さを増して輝く。』
老人がアーサーにそう告げた瞬間、アーサーの胸に2つの玉を押し込んだ。
アーサーは思わず声を出して仰け反り、老人の腕を左手で掴むと、右手で自分の胸を押さえた。だが、痛みは無かった。老人の存在感が次第に薄れていく。
『汝に我の持つ光と闇の力を授けた。闇を支配して、光の王となるのだ。』
老人がそう言った瞬間、アーサーのいた世界の闇が反転して、眩しい光に包まれた。