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唯一無二の冒険者  作者: 鷹の亮
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2話 冒険者までの道のり②

書くのって難しいですね。

  床に落ちたタバコで火事になりかけるちょっとしたハプニングがあったものの、僕は帰路に就いた。


 岡部には明日までに親と相談して決めてくるよう言及された。

 僕の冒険者になりたいという言葉は冗談と捉えられたようだ。


 少なくとも僕は本気だったんだけどな。


 僕は父さんに進路について話すため、書斎に向かって家の通路を歩いていた。


「冒険者」になりたいって言ったらどう反応するだろう。


 怒るだろうか。

 それとも息子の希望を尊重し、応援してくれるのかな。


「僕の将来だ。父さんの言いなりになるものか」


 扉の前に着いた。


「冒険者」と記入された進路希望用紙を握りしめ、深呼吸してからノックする。


 返事を聞かず扉を開けた。


 こんな時は勢いが大切なんだよ。


 部屋に入ると埃っぽい独特の匂いが鼻腔をくすぐる。

 その時、違和感を感じた。


 言葉には言い表せないけど、普段と明らかに違う雰囲気をひしひしと感じる。


 その正体を探ろうと部屋中を眺めるがおかしな所は見当たらず、前を向いたところで遅からず気づいた。


 正面の机に備え付けられた椅子に座っている父さんが異様な威圧を放っていることに。


 オールバックの金髪から覗く眉間にシワを寄せ、身体中から熱を発しているかのようにガウンからチリチリと音がする。

 いや、僕には見えないだけで、父さんが無意識にマナを制御して熱を生み出しているのかもしれない。


 父さんの表情はとてつもなく機嫌が悪いそれだった。


 仕事で何か良くないことでもあったのだろうか。

 そう思ったのも束の間、今日は仕事がない日であることを思い出す。

 仕事があったら今頃は本部の方にいる時間帯だ。


 何があったんだ……


 仕事関係以外でこんなに機嫌が悪い父さんはじめてだ。

 倉庫にある酒が盗まれた?


 でも、あそこのセキュリティは万全というほど万全だしな。


 色々と思考を巡らせてみるが思い当たることがなかった。


 と、父さんが口火を切った。


「お前、冒険者になりたいそうだな」


「え……」


 唐突で僕は反応に困り狼狽した。よろよろと倒れそうになる。


 手の力が抜け、床に進路用紙が落ちた。


「……ッ!」


 拾おうと手を伸ばすと、紙から煙が上がり火がついた。

 あまりの熱さに手を引っ込めるうちに、

 紙は端からみるみる小さくなっていき、遂には燃え尽きた。


「なんで……」

 もう何もかもがわけがわからない。

 父さんが機嫌悪いことも、僕の進路を知っていることも、用紙を燃やしたことも。


 呆然としてると、父さんがドンッと机を叩いた。


「進路に冒険者を希望していると耳にしたが、お前何を考えている!

 あんな職……命を大切にしろ! 天国の母さんが悲しむぞ!」

「か、母さんは、関係ない… 。ぼ、僕がやりたいんだ」

 父さんの威圧に侵され唇が震えたが、なんとか声を出す。


「お前がどう思おうと俺は許さん!

 それに、去年、俺が通っていた大学に進学するって言っていたじゃないか。

 大学の知り合いにもう話はつけてあるから、お前はただ面接を受けるだけで入れるんだ。だから、俺に従っていたらいいんだ」


 去年の進路用紙に記入した志望はその場しのぎの冗談のつもりだった。

 だけど、父さんは真面目に受け止めて、コネを使い僕を魔導大学に進学させる気で準備していたらしい。

 で、どこから聞いたのか、まぁ岡部しかいないが、僕が冒険者をやりたがっていることを知り怒涛の勢いで機嫌が悪くなった、ということだ。


 岡部め、ちゃっかし報告しやがって。

 僕から直接言ってもこうだったと思うけど。


 俺に従え、か。

 その言葉が妙に心に突き刺さる。

 父さんが敷いてくれたレールの上で生きていけばどんなに楽だろう。

 魔導大学に進学し卒業して、また父さんが決めた場所に父さんのお陰で就職して……

 こんな人生で僕は納得するのだろうか。楽しいのだろうか。


「楽」と「楽しい」って漢字は一緒だけど。

 人生は山あり谷ありの紆余曲折した方が楽しいと、僕は思うんだ。


 だから僕は言い放った。 勢いがあれば人間なんでもできるよ。


 ガウンを真っ黒に焦がし、怒気を帯びた父さんを睨みつけ、


「父さんに殴ろうとも蹴られようとも魔法をぶっ放されても、気持ちを変えるつもりはない。


 僕は、


 冒険者になる! 」



 この言葉は大地を揺るがした。

 文字通りの意味であり、紅蓮 聡が部屋中のマナを制御し部屋、いや家ごと吹っ飛ばした。


 轟々と煙が立ち込める中、大散乱に何とか生き残った海人だったが、その後、自分が言ったことを本当に行われるとは思ってもいなかっただろう。


 海人は全治一年の怪我を負い入院生活を送ることになった。


 その時、海人はベッドに横たわりながら不敵に笑った。


「これで評定が足りずに進学できないね」


 聡はハッとなり、海人の三年への進学の話をつけるため直ぐに学校へ向かった。


 しかし校長の許可は下りずそれは徒労に終え、聡の無駄な金は払いたくないという意向で海人は学校を辞める運びになった。


 また、大学への根回しも白紙に戻った。


 海人の冒険者人生が決まった瞬間であった。



 病室で海人は期待に胸を踊らせ、満足そうに目を閉じた。


読んでくださりありがとうございます。


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