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妹のために魔法少女になりました  作者: 槻白倫
第5章 お姉様と王子様
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第五話 戦さんにばりばり言うぞ

ようやっと応募用の原稿が終わったので、こっちに専念できそうです。


 授業が終われば、俺は事前に決めていた通りに戦さんの席に向かう。


 朝とは違い、戦さんの前の席の人の椅子を借りて、戦さんの机の上にお弁当を広げる。


 戦さんは鞄の中から総菜パンを一つ取り出して、それをもくもくと食べる。


「それで? 何か考えてきたわけ?」


「うん。昨日ちゃーんと真剣に考えたよ」


 お弁当を食べながら、俺は答える。


 しかし、戦さんは俺の返事に、少しだけ疑わし気な顔をする。


「本当にぃ?」


「本当本当」


「じゃあ、試しになんか言ってみなさいよ」


 なんか、か……何を言うかまではまとめてなかったな。とりあえず、一番最初に思いついた事をいう事にする。


「じゃあ、まず最初ね」


「ええ」


「戦さんは髪を切った方が良い」


「うぐっ……」


 俺がストレートに言えば、戦さんは呻き声を上げる。


「戦さん、前髪で目元隠れてるでしょ? それじゃあ相手は戦さんの目を見る事が出来ないし、暗い印象を与えるよ。それに」


「え、あ、ちょっと!」


 戦さんの前髪をかき上げ、素顔を観察する。うん、やっぱり思った通りだ。


「戦さん、お化粧もしてないでしょ? 別にお化粧をすればいいってものでもないけど、自分を少しでも綺麗に見せるための手段なんだよ? うちの学校はお化粧も禁止されてる訳じゃないから、お化粧はちゃんとしなさい」


「ぐぅ……っ、あんたは私のお母さんかっての……」


「それと」


「まだあるの?!」


「眼鏡からコンタクトにする事。まぁ、これは強制じゃないけど、普段とのギャップを作るために必要な事だとは思うよ。ああ、でも、こういうのはデートに行くときの方がインパクトが大きいのかな? うーん、悩ましいなぁ……」


 どうなんだろう? 普段から眼鏡を外すか、遊びに行くときにだけ眼鏡を外すか、それとも家に招いた時だけ眼鏡をかけるか……これは深紅の好みの問題になりそうだなぁ。


「まぁ、いっか。眼鏡は好きにして。ただ、髪の毛とメイクだけはして」


「め、メイクとか、やりかた分かんないし……」


「じゃあ憶えて。いい? 今の戦さんはゲームで言ったらレベル一なの」


「レベル一……」


「そう、レベル一。レベル一で魔王に勝てると思うの? 思わないでしょ? なら、ちゃんと装備整えてから戦いに挑まなくちゃ」


「あんた、和泉くんをなんだと思ってるのよ……」


 俺の幼馴染でたまに俺の敵になる存在。


「とにかく、おしゃれは女子の武器なんだから、それをちゃんと活かさないと」


「……あんたからそんな言葉が出てくるとは思わなかったわ……」


「戦さんがしっかりメイクとかしてくれていればこんな事を言わなくて済んだんだけどね」


「え、あんた結構辛辣過ぎない? 最初の小鹿ちゃんっぷりどこ行ったの?」


 本気で困惑したような顔をする戦さん。困惑しているのはこっちだ。なんで何の努力もしないで深紅を落とそうだなんて思ったんだ。


「あれは戦さんが悪いでしょ。そんな事よりも! 今日の放課後にメイク講座を開きます。後、理容室に行きます」


「え、待って急すぎない?」


「大丈夫、予約はとってあるから」


「待って待って! 話が早すぎる! そもそもその理容室は腕が良いの? 私、知らないところで髪切るのやなんだけど……」


「星空輝夜さんのお墨付きです。ちなみに、その理容室の予約は輝夜さんがとってくれました」


 先程連絡があり、予約が取れたから行ってきなさいとのお達しがあった。仕事が早すぎて俺もビビってるのは内緒だ。


「え、えぇ……あんたもそうだけど、星空さんもおかしいでしょ……」


「俺も今日予約が取れるとは思ってなかった。けど、これはチャンスだよ! 今一番人気の、なんだっけな……そうそう! ディア・バーバーってお店! 予約殺到してる人気店らしいよ!」


「ばーばーって……なんかおばさんばっかいそう」


「バーバーは英語で床屋って意味だから。スペルはDear(ディア) Barber(バーバー)。親愛なる床屋って意味だね」


「えぇ……でも……」


「安心して。何故か俺の分の予約も取ってあるから。切られるのは戦さんだけじゃないよ」


「それ安心する要素一個も無いんだけど?」


 まぁ、俺ももうそろそろ髪を切ろうと思ってたから良いんだけどね。輝夜さんがせっかく予約を取ってくれたっていうのもあるし、俺は結構乗り気だ。なんか、電子クーポンもくれたし。


「これは言い出しっぺだし、急に言っちゃったからお金は俺が持つよ。幸い、夏のバイト代がえぐいくらい入ってきたからさ……」


 この間、Eternity(エタニティ) Alice(アリス)のモデル代が口座に振り込まれていたのだけど、それが目を向くほどの金額だったのだ。もう驚きの額だ。


 めったにお金を使う予定もないし、言い出しっぺの俺が払うべきだろう。


「え、それは良いわよ。自分で払うから」


「良いよ。髪を切るって結構勇気のいる事だと俺は思うし。俺が髪を切ってって言ったんだから、代金は俺が持つよ」


「いや、あんた私のために言ってくれてるんでしょ? それに、私は……」


「いーから。クーポンも貰ってるから、大した額じゃないよ」


 いや、代金聞いた時は目を向いたけど……まぁ、払えない額でもないし。


「でも……」


「とにかく! 放課後はそのディア・バーバーに行きます! 髪切って、その後メイクの練習をします!」


「……分かった。行くわよ。でも、メイクはどうすんの?」


「ふっふっふっ! 今回はとても頼れる先生を用意いたしております」


「先生?」


「うん。さぁ、出てきてください先生!」


「呼んだ、くーちゃん?」


「いや出てくるの!? それにしたって早すぎない!? っていうか、浅見碧!?」


 滅茶苦茶良い反応をしてくれる戦さん。うん、こういう反応を期待してたんだ、俺は。


 碧が出てくるのが早いのは……うん、考えちゃダメ。俺も適当に言っただけでまさか来るとは思わなかったんだ。


 あ、でも、一応碧には約束を取り付けてるから。碧が先生なのは変わりない事だから。


「なんで浅見がここに……」


「そーいう戦こそ、なんでくーちゃんとご飯食べてんの? くーちゃん、深紅は?」


「解雇しました」


「妥当な判断だね☆」


 妙に嬉しそうに言う碧。


「っていうか、二人とも知り合いなの?」


「へっ!? え、いや、まぁ、うん……知り……合い?」


「だねー。友達ではないかな」


「あ、そうなんだ……」


 どうやら友達ではないらしい。けど、知り合いなら好都合だ。


「ねぇ、碧。お願いしたい事――」


「うん、良いよ」


「――が、ある……まだ最後まで言ってないんだけどなぁ」


 何も考えずにノータイムで答えが返ってきて、嬉しいやら心配やら。


「あんたって、本当に……」


 戦さんも呆れたような表情をしている。


「それで、くーちゃんのお願いって何かな? 式場はもう予約してあるよ?」


「式場にはいかないよ」


「ツッコミに慣れが窺えるのが怖いんだけど」


 まぁ、もう慣れっこだから。


「今日、戦さんと一緒に碧ん()に泊まりに行っても良い? 戦さんにメイクの仕方を教えたいんだけど、(うち)には物が無いからさ」


「良いよ。確か、試供品とか一杯家にあるから、それ使おうか」


「うん、ありがとう、碧」


「いいって事よ~。あ、それじゃあ花蓮ちゃんとか誘う? 花蓮ちゃん達も、おしゃれには興味あるだろうし」


「じゃあ、花蓮とかにも声掛けとくよ。あ、でも、俺達理容室行かないといけないから、皆より後で合流するね」


「分かったよ~。じゃあ、お茶用意して待ってるねぇ~」


 嬉しそうにはにかみながら、碧は教室を後にした。


「って、勝手に話し進めてたけど、戦さんはお泊り大丈夫? 予定とかあった?」


「……はぁ……ないわよ、予定なんて」


 戦さんの答えを聞いて、俺はほっと胸を撫で下ろす。


「良かった。色々急だったもんね。ごめんね、強引に誘っちゃって」


「いーわよ、別に。私なんて大した用事も無いし」


「そお? なら、良かった」


「っていうか、話がトントン拍子過ぎて怖いんだけど……」


「そこは、ほら、俺の人脈だよ」


「……あんた見てると否定できる要素無いのよね、その言葉……」


 普通の高校生よりは確かに人脈が広いしね。


 アイドルにモデル、大企業のお嬢様に、大手チェーン店の店長兼多分かなりの上役さん。うん、だいぶ人脈が広くなってきたと、自分でも思うよ。


「でも、俺は人脈よりも、お友達がほしいよ」


「あぁ」


「なんでそこですぐに納得するのかな?」


「だって、あんた和泉くん以外に友達いないじゃない。いっつも和泉くんと一緒にいるし」


「うぐっ……」


 ぐうの音も出ない事実を言われ、俺は思わず呻き声を上げてしまう。


「ま、分かるけどね。あんたと友達になる事に気が引けるのは」


「気が引ける? なんで?」


 っていうか、俺が友達がいないのは単に俺がコミュ障なだけだ。深紅以外の人に話しかけるのに緊張しちゃうから、あまり自分から話しかけられないのだ。


 そこは根本的に違うぞーと思いながらも、俺は戦さんの言を聞く。


「なんでって、あんた……」


 呆れながら、けれど、ああそうかと納得しながら、戦さんは俺に言う。


「あんた、キラキラ輝いてるから。だから近付き辛いのよ」


「キラキラ、輝いてる……?」


 俺は自分の恰好を見てみる。え、どこかラメでもついてるのかな? 俺って、眩しいの?


「ちっがーう。格好の話じゃない。人としての話よ」


「それこそちっがーうだよ。俺、輝いてないよ? 輝いてるのは深紅だよ」


「和泉くんの輝きと、あんたの輝きは違うのよ。あんたのは……そうね。あんたは、本当に、眩しいのよ。正直、私だってあんたを直視したくない。だって、あんたは澄んでて、純粋で、清らかで、何にも染まってないから」


「んん? どういう事……?」


「私の言語化はこれが限界よ。語彙貧困(ごいひんこん)なめんな」


「それはなめられても仕方ないと思う」


「揚げ足取らなくて良いのよ。とにかく、あんたの眩しさは、私達にとっては後ろめたいのよ。だから、皆近寄り難いの。あんたが和泉くん以外に近寄らないから、余計にね」


「俺、そんな綺麗な人じゃないよ?」


「綺麗よ、あんたわ。腹立つくらい、とっても綺麗」


 私なんて、と、戦さんがぼそりとこぼす。


 本人は、おそらく意図して放った言葉ではないだろう。だから、本人もそれを言った事に気付いていない。


 俺は、少しだけ戦さんの本音を見た気がしたけれど、それに突っ込んでいく勇気は無かった。


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