第十八話 俺は優しくない
深紅の章の投稿を始めました。
ゆっくり、納得の行くまで書こうと思っています。
呼吸等々整ってきたところで、深紅は彼等を座らせて話を始める。
「軽く模擬戦して分かった事がある。が、それを言ったところで現状把握にしかならないし、技術的な事を俺が教えられる訳でもない」
「んだよそれ。連携について教えてくれるんじゃねぇのかよ」
「簡単な事なら教えられるけどな。今のお前達はそれ以前の問題だ。って事で、我等がマネージャーの提案に乗っかろうと思う」
「誰がマネージャーだ」
深紅の言葉に思わず突っ込んでしまう。
「似たようなもんだろ。んじゃ、マネージャー説明頼んだ」
決してマネージャーでは無いけれどこれ以上ツッコミを入れても負けな気がするので、俺はおほんと咳ばらいをして説明をする。
「まず、聞くけど、五人は学校は同じ?」
「同じです」
「それじゃあ、プライベートで会ったりとかしてる?」
「いえ、まったく」
「そう。じゃあ、赤城くんに聞こうか。赤城くんは青崎さんの好きな食べ物知ってる?」
「はぁ? そんなの知るかよ」
「じゃあ、黄河くん。黄河くんは、白瀬さんの嫌いな物知ってる?」
「いえ、まったく」
「黒岩くんは赤城くんの苦手な物とか知ってる?」
「いいえ」
「なぁ、この質問なんの意味があんだよ」
赤城くんがじれったそうに聞いてきた。
「うん、意味はあるよ。つまり、君達はお互いの事を何も知らないって事だよね? 好きな物も嫌いな物も苦手な物も、なーんにも知らないわけだ?」
「だったら何だよ。そんなの連携に関係あるかよ」
「多いにある。連携嘗めんなひよっこ」
「ひ、ひよっこだぁ!?」
「そう、ひよっこだよひよっこ。君達はまだ連携の”れ”の字も知らないひよっこだ。今日から君達をひよこ組と呼ぶのもやぶさかではない」
なんだか幼稚園の組分けみたいだなぁと思っていると、深紅がぷっと吹き出し、赤城くんが立ち上がって俺の胸倉を掴んできた。
「てめぇ嘗めてーー」
が、掴ませるほど甘くは無い。
伸ばされた手を掴み、彼の身体の勢いを利用して投げ飛ばす。
「うがっ!?」
背中を強かに地面に打ち付ける赤城くんを無理矢理俯せにし、彼の背中を膝で抑えて腕を後ろに引く。
「が、い、いてぇっ! くっそ! おい、離せよ!」
「うるさい。君はその堪え性の無さをどうにかしなさい。それじゃあ、話の続きだけど」
「俺このままかよ!? おい、いてぇから離せって!」
「うるさい。そんなに痛くしてないでしょ? 男の子なら我慢しなさい」
「うるせぇ!! 女みてぇな奴に言われたかーーおい力入れんな! いてぇって! ちょ、ほんとにいてぇ!?」
なんだか小煩い子は放っておいて、俺は説明を続ける。
「ブラックローズと深紅の連携は、少なくともお互いの事をよく知ってるから出来る事なんだ。お互いの好きな物とか嫌いな物。そんなところまで知ってる。互いの好物が連携に直接影響するわけじゃないけど、少なくとも相手の事を何も知らない時よりは、相手の事を考えられる」
「いた、ちょ、マジで痛い! 折れる折れる!」
「例えば、仲間の人となりを知っておけば、この子はこういう場面が苦手かもしれない、この子はこういう場面で燃え上がるタイプだとか分かるようになる。良い? 好き嫌いも趣味も、苦手なことも連携を取るには大切な事なんだよ?」
「わ、分かった! 謝る! 謝るから! 頼むからどいてくれ!」
「君達、チームなんでしょ? チームとはすなわち仲間だ。仲間の事を何も知らないで連携なんてはなからできっこ無いわけ。青崎さんと黄河くんが連携が出来たのは、二人が周りをよく見ることが出来て、かつ、二人の思考が似通ってたから。他の皆とてんでばらばらなのは、二人も皆をよく知らないから」
「ほ、本当にどいてくれ! 腕の感覚が無い! って、ちょ、俺の腕大丈夫か!? 紫色になってるけど大丈夫なのか!?」
「赤城くん、俺今真面目な話してるんだけど?」
「俺も真面目に困ってるけど!?」
「……悪いことしたら?」
「ご、ごめんなさい!! もうしません言いませんだから離して!!」
「よろしい」
ちゃんと反省している様子だったので、俺は赤城くんを拘束から解いた。
赤城くんは俺から慌てて距離を取ると、若干引き気味に俺の説明を受けていた五人の後ろに隠れる。
「な、なんて奴だ……お前ら気をつけろ。あいつが一番やばい。あいつだけは絶対に怒らせちゃダメだ」
「いや、それは見てれば分かるというか……」
「あなたが無礼だからでしょう? ちゃんと接していれば黒奈さんは優しくて可愛い人よ」
「う、うん。わたしも、そう思う……」
「赤城、腕大丈夫か?」
四人は少しだけ同情したような顔をしながらも、赤城くんが悪いことはわかっているので注意をする。
「さて、それじゃあ、今の説明を聞いて皆がやることは分かったかな?」
僕がそう問い掛ければ、五人は考えるような仕種を見せた。
そして、白瀬さんがおずおずと手を上げる。
「はい、白瀬さん」
「あの、えっと……話し合い、ですか……?」
「おしい! 五人には、これから自己紹介をしてもらいます!」
「「「「「じ、自己紹介?」」」」」
「うん、自己紹介」
自己を紹介すると書いて自己紹介。
相手の事を知るには一番手っ取り早い。
「名前、趣味、好きな食べ物嫌いな食べ物などなど、好きに自分を紹介してね? 時間制限とか無いから、各々好きなだけ語らうと良いよ!」
俺がそう言っても、五人は困惑したように互いの顔を見るのみ。
まぁ、急に自己紹介をしろってのも難しいよね。
「それじゃあ、赤城くんから自己紹介していこうか。それじゃあ赤城くん、どうぞ!」
「え、お、俺から!? え、えっと、赤城篝。好きな物はーー」
赤城くんは戸惑いながらも自己紹介を始める。
俺はそんな彼等からゆっくり遠ざかる。
彼等は、俺の説明に思うところがあったのか、真面目に赤城くんの自己紹介を聞いている。
彼等の邪魔をしないように十分距離を取ったところで、深紅が声をかけて来る。
「適当ぶっこきやがって。お前がただ五人に仲良くなって欲しかっただけだろ?」
「うん、悪い?」
悪びれずに頷けば、深紅が呆れたように溜め息を吐いた。
そう。俺が言った事はまったく嘘では無いけれど、俺の本心を隠すための建前だったのだ。
青崎さんも言った通り、せっかく五人集まれたのだ。なら、仲良くなって欲しいと思うのも仕方が無い事だろう。
「でも、全部が全部嘘ってわけでも無いよ? だって、相手の事を知りもしないで連携なんてできっこ無いでしょ? 俺だって、深紅の事を知ってるから動きを合わせられるわけだし」
「別に、悪いだなんて思ってないし、お前を頼ったのは俺だ。いちゃもんなんかつけねえよ。良いんじゃないか? 嘘でもなんでも、あいつらがお互いを知るのは良いことだしな。……俺も、お互いを知ろうとしないで失敗した訳だしな」
「失敗? 深紅が?」
「何でもない。つーか、どうするよ? 俺達暇だぜ?」
なんでもないと手を振って誤魔化す深紅。
深紅が誤魔化すのであれば、あまり聞かれたくない話なのだろうと思い、俺はあえてその事には触れない。
「どうしようか?」
「それならくーちゃん! お茶の準備が出来てるよ!」
碧が手で指し示す先を見れば、そこにはお洒落な白色のテーブルと椅子が設置されており、その上にはケーキや紅茶が用意されていた。
「ティータイムでどうよ?」
「良いね。甘いもの食べたかったんだ~」
「なら良かったよ~」
「碧、せんべいとか無いか?」
「無い。深紅のためだけに別のものなんて用意しないし」
「……了解。大人しくケーキ食べるよ」
話ながら、俺達は席に着く。
テーブルには椅子が五脚あり、うち二つには花蓮と桜ちゃんがすでに座ってお茶を楽しんでいた。
俺は椅子に座り、ウェットティッシュで手を拭いてからケーキを食べる。
う~ん、美味しい! やっぱり、碧の家のケーキは美味しい!
思わず頬を抑えて味を満喫してしまう。
「それで、深紅。あの子達、どうやって育てるの?」
「相手の事を知るってのは、連携する上では結構重要なファクターだ。それはあいつらも理解してるだろ。後は技術面だが……正直俺は初歩の初歩や、彼等の個人的に伸ばせる所しか教えられない」
俺を間に挟んで、碧と深紅が会話をする。
「じゃあ、初歩の初歩を教えたら、その後は?」
「無責任に放り出す訳にもいかないからな。知り合いに頼むよ」
「知り合い?」
「ああ。後輩育成に力を注いでる知り合いがいるんだ。その人になら任せられるし、もう話も付けた」
「ふぇ? いふのふぁに?」
「……あいつらの話を受けた日に電話した。それはそうと、黒奈。食ってからにしろ。行儀悪い」
ぶっきらぼうに言って、深紅はビターチョコが使われたチョコレートケーキを食べる。
なんだかんだ言って、深紅も彼等の事を気にしていたのだろう。
「それなら、その知り合いに最初から頼めば良かったんじゃないの?」
「それじゃああいつらがたらい回しにされたと思うだろ? それはさすがに忍びない」
「へぇ……深紅、優しいじゃん」
「優しい訳じゃない。ただ、そうだな……」
そこで一度言葉を句切り、深紅は真面目な顔で言った。
「誰かが手を貸してやらなきゃいけない場面ってのは必ずやってくる。それは誰であれ同じ事だ。俺だって、黒奈だってそうだ。誰かに手を指し伸べて欲しいときが必ずある」
何かを、誰かを思い出すように深紅は目を閉じる。
目を閉じればその誰かはすぐに思い出せるのか、深紅はなかなか瞼を上げない。
「誰も、誰にも助けてもらえないってのは、辛いもんだ。俺が少しでも手助け出来るなら、その少しの手助けをしたいだけだ」
言って、深紅はようやく瞼を開いた。
「まぁ、結局は俺のためだよ。俺が、誰かに胸を張れる格好良い俺であるためだ。優しさなんかじゃない」
最後にそう締め括って、深紅は紅茶を飲む。
その動作が自分の表情を誤魔化すためのものである事を、俺達は理解していた。
だから、俺達は必要以上に言葉を紡がなかった。深紅は慰められたい訳でも、責められたい訳でも、茶化されたい訳でもないのだ。
ただ、言葉としてそれを伝えたかったのだ。
だから、この話は俺達に伝われば良いのだ。それだけで、深紅は満足なのだ。
けれど、俺は一言だけ言いたいことがあった。
「深紅は、優しいよ。誰が何と言おうと優しい」
「……なんだよ、急に。おだてても何にもでないぞ?」
「事実だもん。誰かのために格好良くあるって、結構難しいんだよ?」
俺の場合は、花蓮のために格好良くあろうとしている。魔法少女になったのも、それが理由の一つだ。
けれど、これが結構難しいのだ。
「それって、深紅が誰かのためにしてることでしょ? 自分本意に格好よくなることが悪いことな訳じゃないけど、それでも誰かのために格好良くあれるのって、簡単な事じゃないよ。それが出来るのは、深紅が優しいからだよ」
「……ただ格好付けてるだけだよ。見栄だ、見栄」
「深紅がそう思ってるならそうでも良いよ。俺は勝手に深紅は優しいって思ってるから」
笑ってそう言えば、深紅は何か言おうとして、けれど諦めたのか溜め息を一つ吐いた。
「勝手にしろ」
「うん、勝手にする」
俺がそう返せば、深紅は黙って紅茶を啜った。
それが照れ隠しだという事は、誰の目にも明白だった。




