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妹のために魔法少女になりました  作者: 槻白倫
第3章 俺達はヒーロー
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第十話 碧の考察

黒奈がいても女子会になるはずだって信じてる。

 数十分後。


 死屍累々もかくやと言わんばかりに、四人は地面に突っ伏していた。


 呼吸も荒く汗もいっぱいかいている。


 かくいう俺も呼吸は乱れてきているが、さすがにまだまだ余裕はある。


「ほい、くーちゃん」


「ん、ありがとう」


 いつの間にか側に来ていた碧が、よく冷えているスポーツドリンクをくれた。


 碧は、手にかごを持っており、そこには人数分のタオルやスポーツドリンクが入っている。


「白瀬ちゃん、これ、皆に渡してあげてー」


「あ、は、はい!」


 気軽に声をかける碧に驚きつつも、白瀬さんは碧からかごを受け取り、地面に倒れる四人に渡しに行った。


「お疲れー」


「あー、うん。ちょっと疲れたかな」


 さすがに、四人相手は骨が折れる。しかも、ある程度手加減しないといけないとなると余計だ。


「ねえ、碧。碧から見て、五人はどう?」


「うーん、そだねー」


 主語の無い問い。しかし、碧には伝わるので問題は無い。


 少しだけ考え込む仕草を見せた後、碧は言う。


「赤城くんは、直情型かな。整合性も無く深紅に噛み付いたところを見るに、嘗められたら終わりーって思ってるかも。それと、青崎さんに言われて渋々ついて来ただけだから、深紅がやるって言ってもやらないって言っても気に食わなかったのかもね」


「なるほど」


 だから、深紅が手伝わないって言った時に怒って、納得して無いだろって言った時に賛同したのか。


「黄河くんは、逆に理知的だよね。融通が利かないところもあると思うけど、冷静に周りを見てる。深紅の手を借りることに納得してなかったのは、自分達でどうにかできると本当に思ってたからかな。多分、ここら辺の思いは赤城くんと同じかも」


 自信の表れによる傲慢か、それとも本当にそう考えていて、どうにかできる策があったのか。どちらにせよ、自分を過信し過ぎるきらいがあるのか、もしくは自分達でどうにかしなくてはと思っているのか……。


「黒岩くんはふつーにいい子だね。いつでも皆のカバーに入れるように立ち回ってた。仲間思いのいい子だよ。ただ、少し優柔不断かも。何度か二の足を踏んでたし、乱取りに入る前の言い争いの時も、止めに入るタイミングを見逃してた」


 白瀬さんは仕方がないとして、黒岩くんが話に割って入って来なかったのはそういう理由があったのか。優しくていい子だからこそ、どっちも傷付けない言葉を選んで二の足を踏んでいたのかもしれない。


「白瀬ちゃんは、典型的な引っ込み思案タイプ。やることなすことに自信が無いんだろうね。自分に自信が無いから他人に受け入れられてもらえるか分からない。だから、深紅の手伝いに否定的だったんだろうね」


 受け入れられてもらえるかどうかも考えてしまったんだろうけれど、多分、単に他人が怖いっていうのも理由の一つだろうとは思う。けれど、それでもヒーローになったということは、何か怖いという感情を超えた感情が何かあるはずだ。


「最後に青崎ちゃんだけど、彼女は責任感が強いタイプだね。求められた事を完璧に、もしくはそれ以上にやりこなそうとしてる感じがする。自分に厳しい分他人にも厳しいから、自分にも他人にも求めるものが高いんだと思う。仲間に嘘を付いてまで連れてきたのも、深紅が話でも聞いてくれるって言ったから、深紅を裏切らないためでもあると思う」


 まあ、確かに、深紅が了承してくれたのに、向こうが欠員だなんてことになれば深紅に合わせる顔が無いだろう。深紅がわざわざ時間を割いてまで場を設けてくれたのに、こっちは欠員がいますでは申し訳が無いだろうし。


「以上! 碧ちゃんの推測! どう? 役に立ちそう?」


「うん、ありがとう碧。俺、他人のこと見極めるの苦手だから、助かったよ」


「えへへ、お安い御用だよー」


 友達が少ない分、誰がどういう感じの人となりなのか、俺は分析するのが苦手だ。だからこそ、碧に頼んだのだ。やっぱり友達が多いだけあって碧の分析は的確だ。


「くっそ! なんで一発も当たらねぇんだよ……! 後ろに目でも付いてんのか……!?」


 碧の分析を聞き終わった頃、背後からそんな悔しそうな声が聞こえてきた。


 見やれば、赤城くんが心底悔しそうに地面に拳を叩き付けていた。


「経験と観察力だよ。別に特別なことじゃない」


「経験だ!? ヒーローでもない奴が、どんな経験すればそんなことできんだよ!!」


 至極、ごもっともだ。


 しかし、俺の素性を彼らにばらしてしまうわけにはいかない。絶対に引かれる。特に赤城くんと黄河くんはめっちゃ引くはずだ。


「ちょっとの経験だよ。言い換えれば、そのちょっとの経験もしてこなかったのは君達の方ってことだけど」


「──ッ!」


 少し辛辣に言えば、赤城くんが鋭い眼光で睨みつけて来る。


 しかし、まったく怖くない。ただ怒りに任せた眼光なんてちっとも、これっぽっちも怖くない。


「ちょっとの経験もしてないから、君達は素人の俺に負けるはめになるんだよ」


 嘘です。本当は素人じゃありません。


 しかし、やっぱりそれは言えないので、ここでは素人ということにしておく。


「素人目に点数を付けるなら、赤城くん三点。黄河くん五点。青崎さん四点。黒岩くん四点。白瀬さん〇点ってところかな。ちなみに十点満点でーす」


 一番周りを見れた黄河くんが辛うじて半分の点数を与えられるだろう。白瀬さんにいたっては戦闘に参加していない時点で当然点数は無しだ。


 俺の酷評に怒りをあらわにする赤城くんだが、勝てていない事実があるので何も言えずにいる。


 他の皆も、何か言いたげだが、口には出さない。


「経験も無い。俺にすら勝てない。師事できる相手もいない。そんな君達はついさっき千載一遇のチャンスを棒に振ったわけだけど……」


 俺は精一杯怒ったような顔を見せる。いや、実際怒ってはいるけれど、怒った顔って意識すると表情に出しづらい。しかし、精一杯頑張る。


「……本当に自分達だけでどうにかできると思ってるの?」


 できるだけ冷たく言い放つ。


 俺は今けっこう怒ってる。深紅の優しさを踏みにじられた事も、深紅を軽く見る彼らの発言にも。


「もう一度、皆でよく考えてみなよ。チームに何が必要なのか。チームを組んだ事の無い深紅が、どんな思いで君達に協力しようと思ったのか。自分だけのことを考えるだけでいいなら、チームなんて必要無いよ?」


 それだけ言って、俺はきびすを返す。


 俺に何も言い返さないようなら、彼らもきっと少しは分かってくれたはずだ。この後、少しでも話し合うのであればそれで良いし、話し合わないなら手を貸す必要は無い。


 碧の家に向かって歩く俺の隣に碧が並ぶ。


「ごめん碧、あの子達が暗くなる前に帰らないようだったら、帰るように促してあげてくれる?」


「お安い御用さー。んふふ。それにしても、珍しいね」


「何が?」


「珍しく、くーちゃんが怒ってるなーって思って」


「そりゃあ、彼らの勝手な言い分に怒りもするよ。それに、深紅が我慢したぶん、俺が怒ってやらないと」


「んふふ、くーちゃんやーさしー」


「優しくない。普通」


 友達のために怒ることは普通の事だ。普通のことに優しいもなにも無い。


「ふふ、優しいよ、くーちゃんは」


「普通だよ」


「ふふ、そーだね」


「むぅ……」


 笑って流す碧に、俺は思わず唸ってしまう。


 そう何度も優しいと言われると恥ずかしい。


「あ、そうだ。くーちゃん、今日は泊まってけば?」


 泊まるという単語に一瞬びくりと身体が震えるも、すぐにいつも通りに戻る。


「なんで?」


「明日休日だし、久し振りにくーちゃんとお泊り会したいなーと思って」


 碧の言葉に含むところは無いのだろう。ただ単純に俺と一緒にいたいと思ってるだけだ。


「うーん、泊まること自体は別に良いんだけど、それだと花蓮が家で一人になっちゃうし……」


 もう高校生ではあるけれど、女の子である花蓮を家で一人にさせてしまうのも問題がある。


「大丈夫! 花蓮ちゃんも一緒にお泊り会をしよう!」


「それなら、良いけど」


「じゃあ花蓮ちゃんに迎え寄越(よこ)すね!」


「待って。花蓮の予定を聞いてからだよ」


 言いながら、花蓮に電話をかける。


 二コール程待ってから、花蓮は電話に出た。


『兄さん? どうしたの?』


「あ、花蓮。今平気?」


『平気だけど……なに? なにかあったの?』


「ううん、なんにも無いよ」


 本当は一悶着(ひともんちゃく)どころか二悶着程あったけれど、それを言ったら本題を言い出せないので割愛する。


「今日、碧がお泊り会したいって言ってるんだけど、花蓮はこの後予定とかある?」


『出かける予定とかは無いけど、桜が家に泊まりに来たいとは言ってたよ』


「え、桜ちゃんが?」


『うん。なんか、兄さんと私と三人で女子会兼パジャマパーティーがしたいんだって』


「うん、俺が入ってる時点で女子会じゃ無いと思う」


『そこは、ほら、桜だから……』


 なぜか若干諦めたような声音の花蓮。


 おそらく、再三言っても女子会と言い張ったのだろう。桜ちゃんは俺のことを花蓮の兄と認識していると同時に、憧れのブラックローズだと認識しているはずだ。俺とブラックローズでは性別が違うのだけれど、桜ちゃんの中では同一視されているのだろう。


 まあ、そこら辺はもう俺も若干諦めているのでどうこう言うつもりは無い。


「そっか。じゃあ、花蓮は参加できないね……」


「待ってくーちゃん。一回電話代わってもらってもいい?」


「え、うん、良いけど。ごめん花蓮、一回碧に代わるね」


 花蓮に一言言ってから、碧に携帯を渡す。


「ありがと」


 碧は俺から携帯を受けとると、花蓮と話始める。


「あ、花蓮ちゃん? うん、お泊り会するよー。うん。うん。あ、じゃあ、そのお友達も連れて来ても良いよ? うん、大丈夫。アタシも久し振りに花蓮ちゃんといっぱいお話したいしさ。うん、じゃあ、そのお友達が良いって言ったら連絡して? うん。はーい、分かったよー」


 通話が終わったのか、碧は携帯を俺に返してくる。


「ありがと、くーちゃん」


「別に良いけど、それよりも、良いの? 桜ちゃんも呼んじゃって」


「うん、へーき。くーちゃんの新しい妹を見てみたかったしね」


「新しい妹って……俺は花蓮以外に妹を作ったつもりは無いよ?」


「ふふ、じゃあ、妹分かな? なんにせよ、くーちゃんと花蓮ちゃんが仲良くしてる子なら、悪い子じゃないでしょ?」


「うん。桜ちゃんはいい子だよ」


「ふふ、じゃあ大丈夫だ」


 そう言って、嬉しそうに笑う碧。


 俺の前評判だけを聞いて大丈夫だと言う碧に、なんだか嬉しくなる。


「まあ、まだ決まった分けじゃないけどねーーっと、言ってる側から通知が来た!」


 ピロンと軽快な電子音が鳴り、メッセージが届いたことを知らせてくれる。


 碧は携帯を取り出してメッセージの内容を確認すると、嬉しそうに笑みを深める。


「大丈夫だって! やったね! これで四人で女子会だ!」


「いや、だから俺が入ってる時点で女子会じゃないって」


「細かいことは良いの! 女子が開いた会だから女子会!」


「女子だけの会だから女子会なんじゃないの?」


 碧の理論だと女子主催の会だ。


「もー! 女子会ったら女子会なの! 実態はともかく、女子会って銘打つの!」


「はいはい、女子会女子会」


 ぷんすこと怒る碧に、思わず苦笑を浮かべる。


 俺達は、死屍累々を背に、楽しそうに会話を繰り広げる。背中に刺さる恨めしげな視線はあえて気付かぬふりをした。


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[気になる点] さてはこいつ主人公の正体知ってるな……? ストーカーとか情報収集とか普通にやってそうだし
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