第八話 自己紹介の印象って結構大事
一昨日か昨日あげようかなとも思ったけど、一昨日は友人と通話して、昨日は8時に寝ちゃったから書けなかったよ。
ちなみに、通話は新作についてです。また毛色の変わった話を書こうかなと思います。
こっちの更新もプロットは書いたので順調に行けばさくさく進むかと。8時に寝たりしなかったらね……。
碧と深紅と戯れつつ時間を潰していると、ようやっとランチが届き、タイミングを同じくして喫茶店のドアベルがからんころんと鳴る。
ちらっと時計を見れば二時五分前。五分前行動だ。偉い。
複数人の足が木製の床を打ち付ける音が聞こえて来る。
その足音は俺達の方に近付いてきて、テーブルの横で止まった。
「すみません、遅れました」
図書館前で出会った女の子が申し訳なさそうに深紅に頭を下げる。
「いや、俺達も今来たところだよ。それに、時間前じゃないか。気にする必要ないよ」
謝る少女に深紅は安心させるように微笑みながら言う。
今来たばかりじゃないし、結構待ったけど、それを言っても仕方がないし、彼女達のせいでもないので、俺は黙ってランチを食べる。
ランチはミートスパゲッティとサラダ、オニオンスープだ。うん、美味しい。今度花蓮と桜ちゃんも連れて来よう。
「さあ、それじゃあ座って。話を聞かせてもらおうか」
深紅が対面の席に座るように促す。
このお店に来たときに、マスターに言って十人掛けになるようにテーブルをくっつけてもらっているので、対面に五人ちゃんと座れる。
ちなみに、空席、碧、俺、深紅、空席の順で俺達は座っている。
失礼しますと女の子が一礼してから席に着き、他の皆も席に着く。
女の子もそうだけど、他の皆も緊張してるようで、その顔に余裕は無く、強張っている。
五人ともおそらく同い年くらいなのだろう。その顔にはあどけなさが残っている。
パスタを食べながら五人の様子を見る。
「それで、話っていうのはなにかな?」
「ちょっと深紅、その前に自己紹介くらいしなさいっちゅうの。ごめんね、気が利かない人で」
深紅が話を聞こうとすれば、碧がそれを遮る。まあ、確かに俺達はろくに自己紹介すらしてないわけで、俺と碧に至ってはむこうからすればなんで居るのかも分からない人物だろう。どちらのためにも自己紹介は必要だ。
「……ああ、そうだな。それじゃあ、まずは俺から。知ってる人も多いと思うけど、和泉深紅だ。高校二年だ。今日は君達の話を聞くために来た」
必要最低限の自己紹介と、今日の目的を言う深紅。
その後、深紅は俺の方を見る。自己紹介をしろってことなんだろうけど少し待ってほしい。今、口の中にスパゲッティが入ってるから、口開けない。
そんな意を込めて深紅を見やれば、深紅は溜め息を吐いて俺の変わりに俺の紹介をしてくれる。
「こいつは俺の幼馴染みの如月黒奈。同い年だ。一応、アドバイザーということで来てもらってる」
深紅の紹介の後に、ぺこりと頭を下げる。まだ口の中にはスパゲッティが居座っているので、もごもごと咀嚼を続けている。
そんな俺を、皆が微妙そうな顔で俺を見る。
しょうがないじゃないか、ちょうどランチが来ちゃったんだから。冷めたらマスターに失礼だろ?
「あ、はは……えっと、あたしは浅見碧。まあ、ちょっと居合わせただけだと思ってくれればいいよ」
碧が苦笑しながら自己紹介をする。
自己紹介をした碧はお次はそちらがと手で示す。
意をくんだ少女が微妙そうな顔を引っ込めて、真面目な表情を作って言う。
「私は、青崎真水です。中学二年です。アトリビュート・ファイブのアトリビュート・ブルーです」
アトリビュート・ファイブ。聞いたことが無いな。
ちらっと深紅の反応を見やれば、笑顔を浮かべてはいるけれど、ぴくりとも表情が動いていないのでおそらく聞いたことは無いのだろう。
青崎さんの自己紹介が終われば、そのまま横の子が自己紹介を始める。
「赤城篝。中二。アトリビュート・レッドだ」
気の強そうな少年ーー赤城くんは、素っ気なくそれだけ言う。
赤城くんの態度に、俺は少しむっとしてしまう。別に敬語で話して欲しいわけじゃないけど、お願いをする立場なのにそんなにつんつんしててよろしいのだろうか? 俺のやる気は一下がったよ。まあ、俺特にやること無いわけですが。
けど、そんな態度を取られたら、嫌な気分にもなるし、やる気だって無くなる。
碧も明らさまに不機嫌そうな顔をしているし、深紅は……笑顔だけど、多分やる気は下がってる。深紅も、俺と同じで敬語を使われなくても良いと思ってるけど、それは相手がこちらをしたってくれている場合だ。相手がこちらを侮って敬語を使わないのであれば、ただただ不快なだけだ。
「ちょっと! その態度はなんなの! こっちはお願いする立場なのよ!?」
俺達がーーとくに俺と碧ーー不機嫌になったのを察したのか、青崎さんが慌てて赤城くんを叱り付けた。
「へーへー」
しかし、赤城くんはなおも態度を改める気は無いらしく、不機嫌そうにそっぽを向いた。
「ちょっと!」
場を考えて声を抑えていた青崎さんがいよいよ声を荒げようとしたとき、深紅がようやっと止めに入る。
「ああ、いいよ、別に。俺達、そんなに怒ってるわけじゃないから」
淡々とした、深紅を知らない人が聞けば何とも思わないような平坦な声。しかし、俺と碧は一瞬だけ肩を震わせる。
碧と目を合わせると、碧も俺と同じ考えらしく、こくりと一つ頷いた。
「す、すみません和泉さん!」
「いいよ、気にしないで」
青崎さんに笑顔を向けて言う深紅。
笑っているし、その笑顔は完璧だ。けれど、顔には出てないけど、深紅は物凄く怒ってる。
「さ、続けて」
しかし、笑顔で続きを促すので、最後まで聞く気はあるのだろう。
その事に、俺と碧は密かに胸を撫で下ろす。
安心したところで、俺はスパゲッティを食べはじめる。
赤城くんの隣に座る男の子が自己紹介を始める。
「僕は黄河光と言います。中学二年です。アトリビュート・イエローをやってます」
赤城くんとは違い利発そうな眼鏡の少年ーー黄河くんは、くいっと眼鏡を持ち上げる。
利発そう、それでいて少しプライドの高そうな子だなと思った。俺の周りにはいないタイプの子だ。
花蓮と少しタイプが似ているように思えるが、花蓮はいわゆるクール系女子だ。けれど、彼はクールというより現実的に物事を考えそうな印象がある。クールと現実的なのは似ているようで遠い。なにがと言われれば説明が難しいが、こう、遠いのだ!
先程からちらちらと苛立たしげに俺と碧を見ている。おおかた、話の最中に食事をしている俺達が許せないのだろう。ちなみに、碧も自己紹介が終わった辺りから食べはじめている。
しかし、食事は止めるつもりは無い。なぜなら、スパゲッティが美味しいから! こんなに美味しいのに冷めたらもったいない! 恨むなら、時間を間違えた深紅を恨むんだね!
俺がそんなことを思っている間に、自己紹介は黄河くんの隣の子に移る。
「し、白瀬雪子です。あ、アトリビュート・ホワイトしてます。……あ、ちゅ、中学二年です……!」
おどおどと気の弱そうな女の子ーー白瀬さんは、最後に思い出したように慌てて学年を言った。
なにが怖いのか、先程からびくびくと脅えている。
うーん……これは少し見たことがある気が……あ、分かった。深紅のせいだ。いや、深紅が悪いわけではないけれど、深紅の見た目はかなり目を引く。彼女のように自意識の低い子は、そんな人と一緒にいれば周りからどう思われるのだろうと考えたりもする。だから、現状を誰かに見られないか心配なのだろう。
こういう子は自分の状況を客観的に見ることが多い。自分がこうしたいという思いよりも、誰かがこう望んでるからという思考になってしまうのだ。
そういう子にとって、他人に望まれないであろう今の状況はとても怖いものなのだろう。
因みに、以前この子と同じような感じの子に恋愛相談をもちかけられたので、おそらくまったく知らない人よりかは彼女のような人種のことを良く理解しているだろうと思う。因みに、恋愛相談を持ちかけてきた子の好きな人は深紅だった。密かに深紅に協力を要請したりーー例えば、ふるのであれば彼女が傷付かないように言ってくれだとかーーと、結構大変だった。
最終的に、根っこは変わらないけれど、前向きに考えられるようになり、今は友人と楽しく学生生活を謳歌している。
深紅には告白をせずに終わったけれど、弱気な自分を変えたいと思い深紅に告白しようと思い立ったらしく、前向きになった今はその行いの失礼さに気づき、告白はしないということを俺に丁寧に話してくれた。
告白もされずにふられた深紅ではあったが、深紅も清々しい顔をしていたので、これはこれで良かったと思っている。
閑話休題。
俺が懐かしい思い出に浸っていると、白瀬さんの隣、最後の子に自己紹介は移った。
「俺は黒岩漆です! 中学二年、アトリビュート・ブラックです! よろしくお願いします!!」
びしっと背筋を伸ばし、綺麗なお辞儀をする快活な男の子ーー黒岩くんは、がっしりとした体つきをした男の子。背丈は五人の中で一番高く、正直に言えば俺よりも高い。最近の子の発育、怖い!
イメージとしては運動部の後輩にいそうな感じだ。にこにこと明るく、仲良くなれば普通に慕ってくれそうないい子だ。
ともあれ、これで全員の自己紹介が終わったわけだ。
いやあ、五人ともまったく別々な性格だね。それに、皆同学年か。私服だから分からないけど、皆同じ中学校なのかな?
まあ、それも含めて今から事情を聞くわけだけど。
自己紹介が終わり、青崎さんが話をするために口を開いた。
「あの、それで私達ーー」
「ああ、待って」
しかし、それを深紅が遮る。
「色々話を聞いてから決めようと思ったけど、やめだ。率直に言わせてもらう」
前置きをすると、深紅は今までの笑顔を消して、真剣な表情で言った。
「君達全員が納得していない以上、俺は手を貸さない」
きっぱりと、なにも迷う余地も無く、深紅は言いきった。




