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妹のために魔法少女になりました  作者: 槻白倫
第3章 俺達はヒーロー
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第五話 夢の中と耳から聞こえる音が合致する事ってあるよね

ちなみに僕はよくあります。


なんか、黒奈が可愛いという感想がよく来るので、そういう人は心の中で”くろなー”と呼んでいます。


本人が聞いたら卒倒しそうですね。

 輝夜さんとの通話が終わり、俺はお風呂の掃除を済ませると、リビングに戻った。


 リビングには二人の姿が無かった。花蓮の部屋にでも行ったのだろう。


「ちょっと休憩」


 お風呂掃除の後、試験勉強でもしようかと思ったけど、思ったよりも疲れてるみたいで、まったくやる気がおきない。


 少しゆっくりしてから、勉強の方はやることにしよう。


 ソファに寝っ転がり、目を閉じる。


 そうすれば、段々と意識が遠退いていき、数分もしない内に眠りについてしまった。





 夢を見ていた。


 森の中を白色の熊のような生物の上に乗って、散歩をする夢だ。


 どことなくメポルに似ているけれど、メポルはこんなにリアリティのある体はしていない。メポルは縫いぐるみみたいな体だ。


 この熊はどこに向かっているのだろうと思えば、熊が俺の方を向き口を開いた。


「もうすぐ湖だ。そこでちょっと休もう」


 熊の声から聞こえてきたのは物凄く渋い声。


 洋画の吹き替えをしていそうな声を持つ熊は、更に続ける。


「大丈夫だ、エリック。少し休んだら、良くなる。だから、少し休もう」


 誰だエリック。そしてなにが良くなるんだ?


 そんな俺の疑問を無視して、熊は続ける。


「故郷に帰って、嫁さんと子供達に会うんだろ? ああ、子供部屋の壁紙の貼り変えもする約束だったんだっけか? はは、クレヨンじゃなくて嫁さんの口紅で落書きしたんだっけか? 嫁さんに新しい口紅でも買ってやれよ」


 故郷ってどこだ。俺は日本から出たこと無いぞ? 嫁さんとは誰ぞや? 女性と付き合ったことなんて無いぞ? 


「ああ、そういやあ、お前には借しがあるんだったな。帰ったら、一杯奢れよ。行きつけの酒場で安酒飲んで、くそまずいポテトとザワークラウトつまみにして、いつもみたいに飲んだくれようぜ。そんで、お前は嫁さんに怒られて、俺はそれを見て笑うんだ。はは、毎度飽きないな、ってよ」


 お酒なんて飲めないよ。それに、くそまずいポテトなんて食べたくないよ。あと、ザワークラウトって何? お漬物みたいなもの? 後、嫁さんはいないよ。


「なあ、だからよ。そろそろ返事してくれよ。エリック」


 返事はしてるよ。ていうか、エリックって誰さ。


「おい、起きろよエリック。お前の冗談はいつも笑えないが、今回ばかりは本当に笑えないぜ。なあおい、起きろよ、エリック。……エリック…………エリーーーーーーーーーック!!」





 ぱちりと、目を開ける。


 目を明けて最初に見えたのは、花蓮の顔だ。


 花蓮は俺が起きた事に気付くと、俯いて(・・・)俺に声をかけてきた。


「あ、兄さん起きた?」


「んぁ? ん……」


 寝起きなので頭が回らない。


 しかし、俺は一つ言っておかなくてはいけない事がある。


「俺はエリックじゃない……」


「ん? なにが?」


「別に……」


 花蓮が小首を捻りながらたずねてくるが、たいしたことではないので誤魔化す。


「……今何時?」


「もう十時だよ」


「……寝過ぎた」


 俺が寝たのが七時くらいなので、三時間は寝ていたことになる。


 勉強しようと思ってたのに、こんな時間になってしまえばろくに勉強もできないだろう。


 今日はもう良いか……。


 俺は今日はもう勉強をするのを諦めると、先程から結構な音量で流れているテレビの方を見る。


 テレビには洋画が映っており、軍服を来た男の人がスコップで穴を掘り、そこに戦友と思われる男性を埋めているところであった。


 ……うん。俺の夢に出てきた熊は彼だったのか。


 戦友を埋める男の人の声は、俺の夢に出てきた熊とまったく同じ声をしていたのだ。


 寝ている時に耳から入ってくる音が、夢の映像と重なったのだろう。


 エリック何某は彼の戦友だったようだ。俺のことじゃなかったんだね。


 どうでも良いことがわかり、一人で納得する。


「ねえ、兄さん。起きたなら身体起こしてくれる? 足が痺れてきた」


「あ、うん。ごめんね」


 花蓮に言われて、俺は身体を起こした。


 体勢と花蓮の顔が見える角度的に分かっていたことだが、どうやら俺は花蓮の膝枕で寝ていたらしい。


「ごめんね、膝借りちゃってて」


「いいよ、別に」


 少しだけ頬を赤くして言う花蓮。照れているのだろう。


「映画見てるの?」


「うん。息抜きにね」


 時折CMを挟んでいるので、借りてきたやつではないだろう。


「でも、桜が夢中になっちゃってるから、今日はもう勉強はしないかも」


 花蓮が苦笑いで言う。


 俺は花蓮が見る方に視線を向ける。


 そこには、涙を流しながらテレビに食い入る桜ちゃんの姿が。


 俺が起きた事にも気付いていないのか、夢中になってテレビを見ている。


 確かに、これじゃあ勉強どころじゃないか。


「ふふ、お茶、煎れようか?」


「お願い」


「うん」


 俺は立ち上がり、キッチンに向かう。


 ケトルに水を入れてスイッチを入れる。その間に、戸棚から茶葉を取り出して、ティーポットに入れる。


 冷蔵庫にしまってあるケーキを取り出し、お皿に乗せる。


 今日の帰りに深紅達とケーキ屋さんに行って買ったのだ。花蓮が甘いものが好きなので、お土産として四つ買ったのだ。余分に買っておいて正解だった。


 ケーキをお盆に置き、沸き上がったお湯をティーポットに注いで少し待ってから紅茶をカップに注ぐ。


 お盆を持って、二人の待つリビングに向かう。


「はい、どーぞ」


「ありがとう」


 紅茶とケーキを花蓮と桜ちゃんの前に置く。桜ちゃんは夢中になっているのか、お茶とケーキに気付いていない。


「あれ、兄さんのは?」


「俺は今からお風呂に入るから。自分のは後で用意するよ」


「そう」


 花蓮は納得したようにこくりと頷く。


 俺は、花蓮に言った通り、一度着替えを取りに自室に行ってからお風呂場に向かう。


 着ていた服を脱いで洗濯かごに入れてからお風呂に入る。


 髪の毛と身体をよく洗ってから湯舟に浸かる。


「ふぅ……」


 特に疲れたわけじゃないけれど、湯舟に浸かると吐息がもれた。


 勉強しようと思ってたけど、つい寝ちゃったなぁ……。まあ、赤点取らなきゃなんでもいいんだけどさ。


 それにしても、チームか。


 勉強のことはあっさりと思考から出て行ったのに、今日初めて会った彼女の案件は頭から離れなかった。


 俺も、クリムゾンフレアやチェリーブロッサム、ムーンシャイニングとは共闘したことがある。けれど、それは一時的なチームであり、永続的なチームではない。


 チェリーブロッサムは名前も俺と同じマジカルフラワーなので、妹分的な存在だとは思っているし、頼りになる仲間だとは思っているけれど、チームを組んだとは言い難い。


 常に一緒に戦うのがチームだとは言わないけれど、俺達には目指すべき方向性も無ければ、分かち合う目標も無い。


「チーム、ねぇ……むつかしぃ……」


 顔を半分お湯に沈めて、ぶくぶくと泡を作る。


 やっぱり、チームのことはチームを組んでる人に頼った方が良いように思う。それができないから深紅に頼ったのだろうけれど、深紅では教えられる事に限界がある。そして、その限界は割とすぐに来るように思う。


 何より、チームアップをしていない深紅では、彼女等と一緒に限界を超えることができない。


 多分、深紅も考えてるだろうけれど、程よいタイミングで他のチームを組んでいるヒーローにバトンタッチをした方が良いだろう。まぁ、そのチームが見つからないから問題なわけだけれど。


 ちゃぷちゃぷと足をばたばたさせてお湯をはねる。


 なにか妙案は無いかと、思考を巡らせてみるが、妙案など直ぐには直ぐ思いつくはずもなく、ただただちゃぷちゃぷとお湯のはねる音が響くのみだ。


「うん。わからん」


 分からんことはとりあえず考えないようにしよう。まだ切羽詰まってるわけでもないしね。


 悩んでいても仕方がないので、俺はお風呂から上がる。


 身体や髪の毛をタオルで拭き、寝間着に着替えてから、ドライヤーで髪の毛を乾かす。たまに、顔に風を当てて遊ぶ。


 無意味にふざけつつ、髪の毛を乾かし終わると、俺は二人がいるリビングに向かう。


 リビングに戻れば、二人はまだ映画を見ていた。


 俺はキッチンに向かい、自分の分のお茶を用意する。


 ケトルには余分にお水を入れておいたので、俺の分のお湯も残っている。


 紅茶をカップに注ぎ、自分の分のケーキを取り出すと、リビングに向かう。


 花蓮の隣に座り、紅茶を一口飲む。


 紅茶を飲んで一息着いたところで、俺はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。


「そういえばさ」


「なに?」


「どうして二人とも俺の部屋着着てるの?」


 花蓮にそう聞けば、花蓮はふっと悲しげに笑む。


「私の服じゃ、胸がきついって言われて……」


「あぁ……」


 確かに、花蓮も胸が無いわけではないが、桜ちゃんと比べるとどうしても小さく見える。そのため、胸囲にゆとりがある俺の服を変わりに使ったのだろう。


 俺は基本的に部屋着はだぼっとした服しか着てないのでサイズ的に丁度良いのだろう。


 しかし、桜ちゃんが俺の部屋着を着ている理由は分かったが、なぜ着る必要が無い花蓮も俺の部屋着を着ているのだろうか?


 俺がそんな意味も込めて視線を送れば、花蓮はついっと視線を逸らして恥ずかしそうに顔を朱に染めて言う。


「き、着てみたかったから、着たの……ダメ……?」


「いいよー」


 そんなふうに言われては断れないし、そもそも別に着ちゃダメという事は無い。ただ、なんで着てるのか気になっただけだ。


「あ、ありがとう……」


 ふへっと少しだけだらし無く笑ってお礼を言う花蓮。


 うん。可愛い。


 俺はついつい花蓮の頭に手を伸ばして、優しく頭を撫でてしまう。


「あ………ふふっ」


 驚いたように一瞬声をあげたけれど、少しして嬉しそうに顔を綻ばせる花蓮。そんな花蓮の顔に、懐かしさを覚える。


 懐かしいな。昔はよくこうやって頭撫でてあげてたっけ。


 花蓮もそんな懐かしさを思い出しているのか、俺の顔を見てふふっと笑う。


 俺もつられて笑ってしまう。


 そんなふうに、昔を懐かしむ。


「う、ううっ、感動じだぁーー!」


 と、映画が終わったのか、桜ちゃんが涙を流しながら言う。


「エリックとバーナーの友情は永遠なんだねぇ! とっても感動した!」


 ティッシュで鼻をちーんとかむ桜ちゃん。


 そして鼻をかみ終わった桜ちゃんはごみ箱を探して視線を彷徨わせる。そこで、俺達と目が合う。


 俺達を見た桜ちゃんはこてんと小首を傾げる。


「なんで黒奈さんは花蓮ちゃんを撫で撫でしてるんですか?」


「うーん、なりゆきかな?」


「ならわたしの頭も撫で撫でしてくださーい! 泣き疲れて甘えたい気分なんですー!」


「ふふ、なにそれ」


 えーんと言いながら、桜ちゃんが俺に抱き着いてきて撫で撫でを要求してくる。映画の内容に引っ張られて人が恋しくなったのか、単にタガが外れて甘えん坊になっただけなのか。


 どちらにせよ、撫で撫でしないと落ち着きそうにもない。


 俺は苦笑をしながら、もう片方の手で桜ちゃんの頭を撫でた。


「むふふー! いい撫で加減です!」


 むふふと鼻息荒く言う桜ちゃん。


「兄さん、こっちの手が止まってる」


 少し不満げに催促をしてくる花蓮。


「はいはい。まったく、甘えん坊だなぁ……」


 なんて、仕方がないみたいに言うけれど、その実二人に甘えられて嬉しい。


 俺は二人の気が済むまで、二人の頭を撫で続けた。


 二人は満足すると、そのまま眠ってしまった。紅茶は、すっかり冷めてしまっていた。

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[一言] 「俺は二人の気が済むまで、二人の頭を撫で続けた」 あたりから何故か、頭の中でZ会のCMの微分、積分、二次関数が聞こえてきたw
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