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妹のために魔法少女になりました  作者: 槻白倫
第2章 アイドルは魔法少女
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第二十五話 ライブの終わり

どうも、槻白です。


思いがけず長くなった二章もこの話を含めて後一、二話程。

まとまりがよければ後一話にまとめます。


さてさて、お次の第三章ですが、外伝にして過去編です。

本当は別のシリーズであげようと思っていたのですが、話の流れ的に三章として組み込むことにしました。


僕の好きな話になっているので、こうご期待あれ。

 結局、下級ファントムを全て倒すことは無かった。


 アクアリウスが倒されたことにより臆したファントムが多く、俺が駄目押しでマジックシェル・ブラックローズを放てば、ファントム達は我先にと逃げて行った。


 相手のボスとの戦いとは違い、呆気ない幕引きを迎えたのであった。


 けれど、やる気のある下級ファントムを何体か相手したりもしたので、さすがに戦闘をしないと言うわけにもいかなかった。


 今日は大技を何回も放ったし、ツィーゲ級の相手との戦闘もこなしたのでとても疲れた。なにより、初めてのフォルムで大技を放つのが疲れた。ガンスリンガー・ローズの時とは違い、持続的に大技を放つので魔力をぐんぐん吸われていって魔力がもうすっからかんだ。


 正直、もう家に帰って寝たい。


「はぁ……終わった……」


「お疲れ様です、ブラックローズ! 突然ですが、写真取って良いですか!?」


 戦闘後だというのにキラキラした目で元気良くそう言ってくるチェリーブロッサム。


「い、いえ~い」


 疲れた顔でピースサインをしてあげれば、携帯を取り出して連続でシャッターを切るチェリーブロッサム。


「おほーーーーーー!! 疲れた顔で笑顔を見せるブラックローズも最高です!!」


「ブロッサム、元気だなぁ……」


 ハイテンションなチェリーブロッサムを見てクリムゾンフレアが苦笑気味に言う。


「疲れましたけど、ブラックローズの新フォルムを見れば元気が出るってものですよ!!」


「ははっ、ブロッサムらしい……」


「そんな元気なブロッサムにお願いだ、会場に戻って星空さんに全部終わったって伝えてきてくれ。内木さんやスタッフさんに途中で会えば、その人達に伝えて」


「わかりました! しかし、その前に! ブラックローズ、腕を広げてください!」


「? こ、こう?」


「はい、ぎゅ~~~~~~っ!!」


 チェリーブロッサムの言う通りに腕を広げれば、彼女は俺に抱き着いてきてぎゅーっと俺を抱きしめた。


「新フォルムの初ハグ!! いただきました!!」


「は、はぁ……」


「では、元気を補充したので行ってきます!!」


 そう言うやいなや、チェリーブロッサムはきびすを返して会場の方へと走って行った。


 まるで嵐のようなチェリーブロッサムに、クリムゾンフレアも呆然としている。


「……ハイになってるだけか、空元気か……」


「ハイになってるだけじゃないか? アリスを見たときと同じテンションだ」


「確かに……」


 アリス・ローズを見たときもあんな感じのテンションだったなぁ……。


 まあ、チェリーブロッサムの大好きなブラックローズ(おれ)が新たなフォルムを見せ、それの初披露と初戦闘を見れたとあれば、ファンである彼女にとっては嬉しいことなのだろう。


 ……なんだろう、自分で言ってて恥ずかしくなってきた。


 自分で言って恥ずかしくなってしまった俺は、おほんと一つ咳ばらいをして、少し真剣な顔でクリムゾンフレアを見る。


「それで、わざわざブロッサムだけ行かせたのって……」


「そう切り出してくるってことは、お前も気付いてたか?」


「ええ。私達の魔砲が直撃する寸前、アクアリウスは他のファントムに連れられてあの場を離脱してた」


「それも、アクアリウスと同格の奴が、だ」


 アクアリウス・ラピッドストリームを押し返しはしたけれど、アクアリウスに直撃した手応えは無かった。


 それに、アクアリウスが負けた直後に、メポルが開くゲートと同質のナニカが開いた気配を感じた。それと同時に、クリムゾンフレアが言った通り、アクアリウスと同格の魔力反応を感知した。


 タイミング良く出て来たところを見ると、ずっとこの戦いを見ていたということになる。


 俺達に気付かれずに戦闘を観察する。明らかにただ者じゃない。


「はぁ……いったい何人いるんだ、ツィーゲの言う刺客とやらは……」


「わからない。でも、アクアリウスは健在。それに、もう一人の存在も認知した。少なくとも、二人はいることになるわ」


「お前、変な奴と縁がありすぎだ……守るこっちの身にもなってくれ……」


「なに、守ってくれるの?」


 おそらく、口に出そうとは思っていなかった言葉だろう。


 俺がからかうように下から深紅の顔を覗き見れば、珍しく、しまったという仕草をした。


 が、すぐに表情を戻すと、いつもの余裕のある笑みを浮かべて言う。


「まぁ、約束だからな」


「約束?」


 俺は思わず小首を傾げる。少なくとも俺はそんな約束をしたことは無いから、クリムゾンフレアの言う約束という言葉の真意を理解できなかったからだ。


 俺じゃないなら、いったい誰だろう?


 クリムゾンフレアに、誰なのかたずねようとしたちょうどその時、会場からチェリーブロッサムが走ってきた。


「お二人とも~~! ムーンが呼んでま~~す!」


 会場入口でぴょんぴょこ跳ねながら俺達に手を振るチェリーブロッサム。


「呼んでるってさ。行こうぜ」


「あ、うん」


 完全に聞くタイミングを逃してしまった。


 まぁ、いっか。


 俺は、先に歩くクリムゾンフレアの後を追った。





 チェリーブロッサムの案内のもと通されたのは観客の視線を一身に浴びる場所。そう、ステージである。


 ステージに上がった俺達の姿を見て、観客達が歓声を上げる。


 ありがとー! や、可愛いー! や、恰好いいー! 等々、俺達に向けて言葉が投げ掛けられる。


「ちょ、ブラックローズ、新しいフォルムじゃない! だ、誰かワタシの携帯取ってきて! しゃ、写真撮らなきゃ!」


 俺の姿を見た途端、ムーンシャイニングが驚き、慌てながら言う。


 そんなムーンシャイニングに、チェリーブロッサムが余裕の笑みを浮かべて言う。


「まあまあ、後で写真送ってあげますから」


「ちょ、あんた! どさくさに紛れて写真撮ったの!? ずるいわよ!?」


「写真だけじゃなくてハグもしました~! ブラックローズ良い匂いしました……」


「は、ハグぅ!?」


「え、匂いも嗅いでたの!?」


 ムーンシャイニングは怒ったように声を荒げ、俺は驚いて思わず自身の身を抱きしめてチェリーブロッサムから半歩距離を取る。


「ずるい! ずるいずるいずるい!! アンタが抜け駆けするなら、ワタシだってハグしてやるわよ!!」


 ムーンシャイニングはそう言うと、俺にずかずかと歩み寄り、思いっきり俺を抱きしめた。


 途端、会場内から黄色い歓声が上がる。


「あ、本当だ! 良い匂いがする!」


「ちょ、に、匂い嗅がないで……!」


 やめて! 衆人環視の中で良い匂いとか言わないで!!


「ムーン、程々にな」


 苦笑気味に言いながら、クリムゾンフレアが変身を解く。


 クリムゾンフレアは俺に自身の魔力の大半を貸してくれたため、変身を維持するのも難しいのだろう。


 そんなクリムゾンフレアーー深紅を見て、二人も思い出したように変身を解いた。


 星空さんはアイドルだから変身を解くのには躊躇いが無いし、桜ちゃんは正体が割れているので衆人環視の中で変身を解いても、いまさらなのである。


 まあ、俺は変身解けないけどね! ばれたらマズイもの!


 しかし、このままでいるのも疲れるので、ノーマルフォルムに戻る。


「……やっぱり、正体は現してくれないのね」


 むすっとした顔で言う星空さん。


 俺はそれに苦笑するばかりだ。


「それで、どうして私達はステージに呼ばれたのかな? 正直、緊張するんだけど……」


 あと、なぜかスタッフさんからマイク渡されるし……これって完全にトークしてくれってことだよね? ライブの特典映像にでも使うつもりなのだろうか?


「ワタシ、そんなに礼儀知らずじゃないわ」


「ん? えっと……」


「だから、助けて貰った相手にお礼を言わないほど、礼儀知らずじゃないわ、ワタシ。それに、皆も三人にお礼言いたいでしょ?」


 星空さんが観客に問い掛ければ、おおー! と歓声が上がる。


 そんな観客の反応に、星空さんは満足げに一つ頷いた。


「ワタシのファンに礼儀知らずがいないようで、ワタシも鼻が高いわ! それじゃあ皆! せーので言うわよ! せーの!!」


「「「「「「「ありがとーーーーーーーーーー!!」」」」」」」


 星空さんの言葉の後に、何千人もの「ありがとう」の言葉が重なる。


 感謝の声が俺達の身体を突き抜けていく。


 大勢の感謝の声を直接聞くのは初めてなので、俺と桜ちゃんは思わず何も言えずに硬直してしまった。


 しかして、深紅は慣れたものなのか、それとも肝が据わっているのか、観客達に手を振って笑顔を振りまく。


「皆、今日は楽しめた?」


 深紅がそう言えば、観客達からおおー! と返ってくる。


「それなら良かった。俺達は皆が笑顔になれるこのライブを守りたかったからね。皆が笑顔になれたのなら、俺達はちゃんと守れたんだね。良かったね、ブラックローズ」


「あ、うん。良かった。本当に、良かった……」


 皆はきっと怖い思いをしたはずだ。それなのに、最後には笑って楽しかったと言えたのだから、本当に良かった。


「あ、そうだ、星空さん」


「ん、なに?」


「星空さんはどうだった? 今日のライブ、楽しかった?」


 今日のライブで一番危機感と恐怖を覚えたのは、星空さんのはずだ。


 ファンの皆のためを考えて即座に動けず、魔法少女であることとアイドルであることに葛藤をしていた星空さんのはずだ。


 だから、俺はなにより星空さんが今日のライブを楽しめたのかが不安だった。


「ーーっ」


 俺の言葉に、星空さんは一瞬息を詰まらせると、その目に涙を浮かべた。


「楽しかったわよ……最高に、楽しかったわよ!! ありがとう!!」


 そう言って、星空さんは俺に抱き着いてきた。


 俺の肩に顔を押し付け涙を流す星空さん。


 そんな星空さんに、観客達から俺もだー! や、わたしもー! と賛同の声と、ありがとー! 最高だったよー! と涙混じりの声援が贈られる。


 星空さんはファンの声援を聞くと、涙を乱暴に拭って大きな声で言った。


「ありがとーーーーーー!! 皆ーーーー大好きーーーーーー!!」


 笑顔で声を張り上げた星空さんに、今日一番の歓声が上がった。



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