体育祭 1
間が空いちゃったので更新を。
あーんど、ちょっと宣伝を。新しい魔法少女もの(もちろん男の娘とTS)になります。よろしければ、どうぞ。
『魔法少女異譚』
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雲一つない晴天。本格的に秋になり、もうすぐ冬になろうとしているこの時期。高校生活で楽しみにしていると思われるイベントの内の一つである皆が頑張るあのイベント。
「ただいまより、体育祭の開催を宣言します。皆さん、怪我の無いように全力で楽しんでください」
生徒会長の宣誓の後、わーっと歓声が上がる。
そう、今日は体育祭! 俺はあんまり乗り気じゃないけど、皆と楽しめれば良いなぁと思う体育祭だ!
準備体操などを終え、観戦席に座る。
女子はチアガールの恰好をしたり、男子は詰襟を着て応援団の恰好をしたりでやる気満々だ。
因みに俺は何もしない。今日はゆっくり体育祭を楽しむ。
「黒奈」
「なに?」
「はい、チーズ」
「いえい」
咄嗟の事だったけれど、ピースサインをする。
乙女は手に持った一眼レフカメラで俺を撮影し、モニターに映し出されている写真を見て満足げに頷いている。
「それ、持ってきたの?」
「ええ」
「カメラ、そんなごっついの持ってるんだ。意外」
「私のじゃないわよ。フィシェの借りたのよ」
言って、乙女は保護者席を見る。
そこには三脚を使って撮影準備ばっちりのフィシェの姿があった。そのカメラのレンズの先はカレンに向けられていた。
「あいつ、カレンの世話役だったからね。我が子みたいに可愛がってんのよ」
「へぇ……俺もカメラ借りてこよっかなぁ」
「素人はスマホで充分よ。それに、全員撮るから安心なさいな」
言って、俺の隣に座る深紅の横顔をぱしゃりと撮る。
「今の写真売ってお金にしようよ」
「なーに馬鹿な事言ってんだ」
「いたたた!? し、深紅! 頭割れちゃう!!」
深紅に頭を鷲掴みにされる。
痛い! 本当に痛い!?
何とか深紅の魔の手から逃げ、乙女の方に寄って深紅を警戒する。
「暴力反対」
「盗撮反対」
「それ俺じゃないし。乙女だし」
「ちょっ、私盗撮じゃないわよ!? クライメイト分全員撮ろうと思ってたし! 先生にも許可貰ってるし!」
言って、乙女は撮影係と書かれたネームタグを首から下げていた。
「盗撮係に書き換えない?」
「なんでそんな事公言して回らなくちゃいけないのよ! 嫌よ! まったく事実無根だし!!」
ネームタグを隠すように自身を抱く乙女。
「そろそろ始まるぞ。ふざけてないで応援するぞ」
「ほーい」
深紅の言った通り、そろそろ競技が始まる。
最初の競技は五十メートル走。
スタート位置に着くクラスメイトを見て、女子達は頑張れーと声援を送る。
「がんばれー」
俺もちょっと声を張って応援する。あんまり声を張ると後半までもたないしね。
「ねぇ、一つ聞いて良いかしら?」
「なに?」
「黒奈って、フォルムチェンジいっぱい持ってるわよね?」
「うん、まぁ」
「チアガールってある?」
「ある訳無いじゃん……チアガールでどうやって戦えってのさ」
「戦うんじゃなくて応援すんのよ。ほら、ブラックローズが応援すれば男子は気合入れるでしょ?」
「それレギュレーション違反じゃない?」
魔法少女が応援するのはちょっとずるいと思う。最近、ブラックローズに人気があると知ってしまったので特に思う。
「応援にレギュレーションもくそも無いでしょーよ」
「でも、俺はクラスメイトとして応援したいな。魔法少女としてじゃなくてさ」
「ぐっ……黒奈のくせにまともな事を……」
「くせにってなにさ、くせにって!」
俺はいつだってまともだよ! まったくもう!
「黒奈、次障害物競争だろ? 並んで来いよ」
「あ、そっか」
俺は障害物競走に参加をしている。理由はあんパンが食べられるからだ。途中でパン食い競争が入ってるのだ。
この障害物競争の内容は、跳び箱、平均台、縄跳び、パン食い競争、借り物競争となっている。
基本的に運動があまり得意ではない子がゆっくりやる競技だ。俺もゆっくりまったりやろう。
前の競技が終わり、ついに俺達の番になる。
「お姉様!! お姉様も参加するのですね!!」
気色ばんだ声で美針ちゃんがとことこ歩いてくる。
「うん。あんパンが食べたくて」
「はうっ。理由が可愛らしい……もう、好き!!」
「あはは、ありがと」
障害物競走に順位は無い。なので、特に順番の指定も無い。
美針ちゃんと一緒に並んで順番を待つ。
先程の競技とは違い、ゆるーい雰囲気で進行していく。
ゆっくりまったり楽しみたい俺には丁度良い雰囲気だ。
「ところで、お姉様はリレーなどは出られないのですか? 体育の成績は悪くないですわよね? 具体的には五段階評価の五ですわよね?」
「なんで美針ちゃんが俺の体育の成績知ってるのさ……まぁ、こういうのは結果より皆と楽しんだっていう思い出の方が大事だから、かな? まったり楽しみたいんだ。リレーとか出ちゃうと、どうしても結果を気にしちゃうからさ」
「そうなのですね。では、美針もお姉様と一緒にまったり楽しみますわ!」
「美針ちゃんは運動好き?」
「いえ! そんなに好きじゃないですし、ばりばりに苦手ですわ!」
「そうなんだね」
暗黒十二星座に入ってたもんだから、てっきり運動が得意なのだと思っていた。まぁ、よくよく考えてみれば乙女だってそんなに運動得意じゃないし、当然と言えば当然か。
「くーちゃーん!!」
もうそろ俺達の番になるという頃、観戦席から碧が手を振る。
振り返そうとしたけど、碧が手に持っている物を見て思わず笑顔が引き攣る。
なぜか碧は両手に団扇を持っており、そこには『くーちゃん』と『ロンダートして』と書かれていた。いや、なんでロンダート限定? てか、椅子の下に山のように積んであるって事は、その分別の言葉書いてあるってこと? よくそんなに準備したね……。
ちなみに、ロンダートとは跳び箱の技名である。跳び箱に手をついて前方宙返りをするという技である。マットも無しにやるのは危険である。
ロンダートは危ないので首を振ると、碧は次の団扇を掲げる。右の団扇には『変身して!』と書いてあり、左の団扇には『愛してる♡』と書かれている。うん、カンペかな? その内巻きでお願いしますとか出て来そう。
「お兄ちゃ~ん!」
一年生の観戦席からカレンの声が聞こえてくる。
カレンの方を見やればかれんと一緒に団扇を掲げており、カレンは『I ♡ お兄ちゃん』と書かれた団扇と『ブラックローズ』と書かれた団扇を持っており、かれんは『愛してる♡』と書かれた団扇と『I ♡ 兄さん』と書かれた団扇を持っている。
カレンは満面の笑みで、かれんは照れ臭そうにしている。うん、二人共可愛い。
『ブラックローズ』『愛してる♡』を並べて持ってる事から、メッセージとして繋がっているのだろう。
俺は溜息を吐いて、近くに立つ先生に声をかける。
「すみません、先生」
「ん、どうした?」
俺は碧の方を指差してながら先生に言う。
「変身しても良いですか?」
「え? あ~、どうだろう? 君が良いなら問題無いと思うけど……ちょっと、確認してくるね」
先生は足早に学年主任の元へと向かう。
障害物競争に順位はつかない。なので、変身をしたところで問題は無い。
碧の団扇に気付いた生徒が期待したような目を向けてくるので、変身をしたところで煙たがられはしないだろう。
それに、皆の笑顔のために、だ。ちょっとくらいサービスしたところで、罰は当たらないだろう。
「如月君、許可下りたから大丈夫だよ。その代わり、危険な事はしない事。良いね?」
「はい。ありがとうございます、先生」
足早に戻って来た先生から許可を貰う。
まだ早いけれど、余興には丁度良いだろう。
俺はあらかじめ付けておいたブレスレットに魔力を通して、魔法の呪文を唱える。
「マジカルフラワー・ブルーミング」