16.哀愁の背中
「………」
「………」
水浴びの途中の乱入事件の後私と青年はお互いに無言のまま向き合っていた。
裸を青年にみられた、それはかなり私にとって衝撃的なことだった。
そう、思わず反射的に臑を殴打してしまうほどに。
だが幾ら裸をみられたのがはず歌詞かろうと、悪いのはこんな場所で水浴びをしていた私のほうなのだ。
昨日青年を殴打してしまったことも含めて謝らないと、とは思っているのだが、いざ謝ろうとすると裸を見られた時を思い出してしまい恥ずかしさで口を閉じてしまうのだ。
そして青年の方も何かを言おうと亜売る素振りを見せることはあるものの、途中でなにを思い出したのか顔を真っ赤にして黙り込んでしまい、それをみた私もさらに顔を染めて、青年が焦るなんてことをなんども繰り返す状態に陥っていたのだ……
「クル……」
そんな私達の様子を見て、フェリルが呆れたようにそう鳴いてくる。
私の胸にフェリルに煩い!と叫びたくなる衝動にかられる。
今回のことに関しては私の服が汚れるような大物を連れてきたフェリルの責任もあるはずなのだ!
だが、フェリルに飽きられても仕方がない、そう思ってしまうほどの変な空気になってしまっていることはわかっているので、ぐっとその気持ちを飲み込む。
「その、ごめんなさい!」
そしてそれから意を決してそう口を開いた。
「えっ?」
突然口を開いてしまったからか、青年が驚きの声を上げるのがわかる。
でも今きちんと誤っておかなければならないと、そう思った私はその青年の反応を無視して言葉を重ねる。
「昨日、最後に焦って脛を叩いてしまったこととと、そして今日私が裸になっていたのがそもそもの責任なのに、その時も焦って叩いちゃって……」
正直、我ながら叩いたなんてそんな生易しい事ではなかった気がする。
足が折れなかっなのが奇跡なくらいの一撃のだから……
いや、フェリルがこっそりと青年の足元にいたのではもしかしたら折れたのかもしれない……
今から考えれば私明らかにやりすぎている……ごめんなさい……
そして私は流石に青年も起こっているだろうと怒声を覚悟してぎゅっと目を瞑る。
「い、いや!君は気にしなくていいから!」
「えっ?」
だが、私が想像していた青年の怒鳴り声が響いてくることはなかった。
それどころか、青年は私に謝られるなんて思っていなかったなんていうように戸惑いを浮かべていて、私は予想外すぎる青年の反応に思わず間抜けな声を漏らしてしまう。
「こちらこそすまなかった」
「えっ?何で!あんなに殴られたのに?」
それどころか、逆に頭を下げて私は謝られてしまい思わず大声を出してしまう。
まさか謝られるとは本当に私は思っていなかったのだ。
………だって本当に脛にやられると痛いんだよ。別に私がやられたわけではないけども、魔獣の反応でどれだけ痛いかくらいわかる。
というか、よく考えればあの虎の魔獣を引き下がらせたものを私は青年にぶつけたのだ……
本当にごめんなさい……
「いや、今回に関しては俺が一方的に悪い」
「へっ?」
だが、それでも青年は頭を上げることはなかった。
それどころか、さらに頭を深く下げて言葉を続ける。
「裸を見たのだ。それくらいでがたがたは言わない」
それは酷く男らしい言葉だった。
そう、昨日の青年からは予想ができないくらい。
というか、がたがた言わないって言いつつも殴られた時思いっきり叫んでいたよね。あれはノーカンなのかな?
「ーーーーっ!」
「はっ!」
と、そこで耳まで真っ赤にして身体を震わせている王子の姿に気づいて私は思ったことを全て口にしていたことに気づく。
「あーーー!ごめんなさい!嘘だから!ちょっぴりしか思ってないから!」
「………全く出来ていないフォローが心に痛い」
「あーーー!」
言葉て難しい!
私は生まれて始めて知ったその事実に頭を抱えて騒ぐ。
やばい、想像以上に青年の心はがりがり削られていってる……
ごめんよ……悪気は無いんだよ……
「まぁ、気にしないでくれ。全て事実なのだから」
「あれ?」
しかしあわあわと慌てる私に対し、青年は思いの外直ぐに立ち直った。
その顔には未だ赤みがあるが、その目にはもう動揺は見られなかった。
そして私はその青年の様子に思わず感心してしまう。
「まぁ、それに幾ら痛い目を見たとしてもそれ以上のものを今回は見れたからな……」
「へっ?」
だが、次に青年が告げた言葉の意味がわからなくて私は思わず首を傾げた。
何かあったけ?とそう悩む私に青年はにやりと口角を上げて告げた。
「少し無神経な気もするが、言わせてもらいたい。
ーーー ただの事故だが、目を奪われた。女神が地上に舞い降りたのかと思ったよ」
「ん?ーーーーっ!」
一瞬私は青年が何をいっているのか分からず眉をひそめて、それからようやくその意味が分かって羞恥で顔を赤く染めた。
それはつまり、青年が私の水浴びを見てしまったことを言っていているのだと。
そして青年は焦る私を見て、やり返せたとでも思ったのか、得意げな顔をしていて、
「あぁぁぁぁあ!」
次の瞬間反射的に私は棒を振り下ろしていた……
そのあと、青年がぶつぶつともう調子に乗りませんと言っていた姿は、酷く哀愁に満ちていた……




