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S-Door  作者: 海月歌
セヴンス=アンツィーネ
8/17

ユキノ ハル

 ここは東の国一番の大都市ルトロシティ。人口は三千万人、周辺にはヨーロッパ式民家の家や店が立ち並び住人も賑わいを見せる活気あふれる街である。西側付近には皇帝の城があり、闘技場なども揃っている。ルトロシティは別名「人間の街」とも云われ、要するに何かと「温かい」のだ。


 そんな都市にセヴンス、ボッブス、サナエさんが歩いている。途中、長髪がトレードマークのサナエさんは勤務先へ向かうため、一度別れた。ボッブスはマラソン大会の受付を済ませようと会場に向かう。俺もそれについていく。今日は大会当日、撮影兼応援役として参上している。


 今日はまことに快晴であり、雲一つない青空の上で太陽が上機嫌のようだ。その下でボッブスは会場で無事参加登録を済ませる。受付の人からボッブスに励ましのエールを送られた。また、

「今回は炎天下のため、給水所を多く設けています。また、体調が悪くなったら、この呼び出しボタンを押してください。」そう言われボッブスはボタンを受け取る。

「押忍! ありがとうございます。」

「頑張ってね!」係員はにっこりとほほ笑む。



 〈ボッブス〉

 僕は今日のために毎日走ってきたんだ。ザックに勝つ、それが僕の目標。

 ザックとは幾度と勝負を重ねてきた。今回はマラソン。絶対に勝ってみせる。

 僕のライバルは僕が日陰の中で準備運動しているときに現れた。

「ボッブス、ついにこの日がきたな。」

 彼こそが、僕の友人であるザック君だ。勉強も運動も上位に入っている、いわゆる天才というやつだ。だが、彼は天才といわれるのはあまり良く思ってないらしい。だから、

「今日は負けないよ。ザックも相当練習したように見えるけど、今回は僕が獲る。」と言った。

「ふん、やはり俺の好敵はお前だけのようだな。まあ今日は俺が勝つぜ。」

 両者はお互いの顔を見つめ、時間まで互いにするべきことをしていた。マラソンは十時に始まる。開始まであと一時間。


 〈セヴンス〉

 そんなやり取りを見ていた俺は、一番の目的を果たすために衣服屋に行こうとボッブスと別れた。

 俺が今いる道では魚屋、八百屋、レストランなどいろいろ店が軒連なっている。その店などを見ながら歩いていると、突然前の人にぶつかってしまった。とりあえず謝っておこう。

「ああすいません、大丈夫ですか。」

「こちらこそ。今日はマラソン大会で賑わっていますからね、こういうのは仕方がないですよ。」

 と、爽やかな口調で言ってきた。二十代前半くらいの男性だ。

 彼は、何やら白の軍服を着ており、物腰には剣を携えている。この人、警察の方なのかな。

 ややおいて彼とは、会釈して別れ、サナエさんのもとに向かった。


 やっとサナエさんの勤めている服屋に着いた。ドアを開けると、店内にいらっしゃいませと響く。若い店員が近づいて、

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「あ、サナエさんにお会いしたいのですが」

 店員はかしこまりましたとサナエさんを呼んでくれた。どうでもいいけどこの人の三つ編み似合うな。

 やがて、仕事着のサナエさんがやってきて、奥に通された。進んでいくと、何やら個室のドアが見えた。

「正式には働いている訳ではないんだけどね。あの子はこの中にいるわ。」

 ついに、日本人に会える。前はいつものことなのに今は手から汗がどっと滲むほどだ。

 サナエさんはついに、ドアをノックして、

「もしもし、サナエだけど、あなたに会いたい人がいるの。ハルちゃんと同じニホン人の人よ。」

 ハルさんというのか、30秒後、ようやくドアがそろりと開く。随分と用心深いんだな。俺は部屋に入る。


 ハルさんは、ベッドの中にいた。顔は少しばかり青白く痩せ気味だが、気品のある顔立ちをしていた。まるで箱入りお姫様のようだ。首にはタマゴの上欠片のような首飾りがついている。

「本当に日本人のようね。私は雪乃春ユキノ ハル、ここで暮らしているわ。貴方の名前は?」

「俺の名前は――――――――――― っていいます。この世界ではセヴンスと名乗ってます。」

「そう、その日本の名前も仮の名前も大事にしなさい。いつ帰れるかなんて、誰にも分らないんだから。」

「ちょっと待ってください。戻り方を知らないんですか!?」緊張が一気に吹き飛ぶ。

「当り前よ。第一、知っていたら、とっくに帰り方を記しておさらばしているわ。」

 そうだ、俺はかなり馬鹿だ。なぜそれに気づかなかったんだ。なぜこの世界にいるのか、それは帰り方がわからないからなんだ。そして帰り方は誰も知らない。だが、まだ聞きたいことがある。

「何故ここで暮らしているんですか。」

「ふふ、秘密よ。ただここの服のデザインが好きだから、とでも言っておくわ。」

「そんな理由でですか……もっと他にないですか。追われているからとか。」

「本当の事よ。私はね、服が好きなの。でも、君たちに合う服は趣向と違うの。だからここにとばされたことに対してあながち不満じゃないの。」

 そんな、帰ることを諦めている人がいるなんて…………仕方ない、今日は帰るか。

「分かりました、今日はありがとうございました。」

「こちらも久しぶりに話せてよかったわ。あなた以外の日本人はここへ来ないから、なかなか話せないの。よかったらまた私と話をしにきてくれるかしら。」まあいいか、かなり打ち解けられたし。

「もちろんです。何かわかったら連絡を取り合いませんか。」

 俺はそう言って連絡先を交換した。実は四日ほどまえから携帯電話を持たせられた。まあ純粋にないと不便だしな。ハルさんからは自前の携帯電話を持っていないらしく店の電話番号が送られた。これでいつでも服を新調できる……って馬鹿かおれは。

 俺は時計に目をやる。おっと、マラソン大会まで15分を切っている。やばい、長居しすぎた。

「じゃあそろそろ帰ります。付き合っていただいてありがとうございました。」

「待って、一言だけ言わせて。あなたにはこれから過酷な運命が待っているわ。それでも前に踏み出す勇気の鍵をみつけなさい。この助言はきっと役に立つと思うわ。」

 鍵……鍵か。次へと進むためのドアを開けということなのだろうか。

「鍵ですか、わかりました。探してみます。」

 そこで彼女は微笑んだ。それが女神のような微笑みに思えた。率直にこの一言に尽きると思う。


 俺は店を出て走って会場に向かう。どこまでも走って行った。





 一方、街の外れの陰道に黒フードをかぶった四人の男たちが時計を見ている。

「もうすぐだ。もうすぐで本当の地獄の始まる時間は……。」


 

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