電気武術
戦闘描写ってどうすればうまく仕上げられるのか
昨日言われた通り、今日は戦闘訓練をするようである。俺は、この訓練に早くも目標を立てていた。
それはWORDに慣れながら十八番の武術を組むことである。打撃を加え、第二撃に電気を繰り出す。それに慣れたのならば、応用に踏み込んでいこうと考えている。これを自分に見合った能力に昇華させたい。
家の庭先でフレムグとセヴンスが相向いている。一対一の訓練、少し離れたところでボッブスが座って二人を観ている。
「始めるぞ、来いセヴンス!」二人の周りの音が、消えた。
その言葉にセヴンスが、フレムグに向け走り出し、右拳を突き出す。正確な一打だが、寸前でガードされた。フレムグは余裕の表情で、
「案外重いな……。成程、これは油断できないかもな。」
油断? しないでほしいものだ。それはそうとフレムグの防御力もなかなか。俺の六割だが、打撃を難なく防ぐとは。どうやらこちらが、 油断していたようだ。
セヴンスは右ストレートを打つが、弾かれてしまった。が、すぐに左脇腹に蹴りをかまそうとするが、それも読まれていたようで、躱される。そして右打撃を加えるが、これを片腕でガードされてしまった。ここまで一切のヒットがない。しかし、ここでフレムグ、違和感を覚える。
(ガードした片腕が痺れている!)
そうか、セヴンスは、WORDを右手に付着させ、左足を囮に使い、電気を帯びた拳を放った。そしてまんまとやられてしまった。まさに電気拳! あいつ、初めてにしてはかなりの戦闘センスを持ってるな。
「見事、一杯喰わされたぞ。」だから俺も楽しませてやる。
途端、フレムグは鬼神のごとく詰め寄ってきた。セヴンスは間合いを取ろうとするが、間に合わない。両腕で上半身をガードする。……フレムグは? 見えない、後ろか! 後ろを振り向いて探すがいない。
その時、横からの蹴りが直撃し、俺は吹っ飛ばされてしまった。フレムグは全てを読んでいた、強い。
だが、これは体術のみでの勝負で後れをとっただけ。庭は草原で成り立っているので、フレムグはWORDを使うことができない。卑怯なようだがこれを使わせてもらう。
セヴンスはすかさず、電気拳を繰り出す。しかし、二度目はさすがに通用しないか、何発か放ったが全て回避されてしまった。それでも拳で突く突く。
フレムグはそれを回避、回避、回避回避、回避、回避回避。ことごとく避けられる。かなり余裕をもって。フレムグは本当に強い。今の俺では勝つことなんてできない。考えろ。
フレムグからの攻撃が俺に考えろと言っている気がした。ただやみくもに攻撃しても防がれる、だったら。
セヴンスは何を思ったか、棒立ちの状態になりはじめた。フレムグも自然に体が止まる。
そして、すぐにセヴンスは走りだし電気拳をフレムグめがけ繰り出した。
(同じか? あれはただの休憩だったのか)
フレムグは躱す、ガードもせず。するとセヴンス、待ってましたと言わんばかりに、小指からエネルギーを集中させ、飛ばしたのだ。威力は小さいが、それでも人間が気絶するレベルの電撃である。
フレムグはとっさの出来事に反応しきれず、電撃が直撃した。グラリと体を倒し、今も痺れている。フレムグはセヴンスの発想にまた一杯喰わされたのだ。
電気武術、セヴンスの基本スタイルである武術だ。電気自体を纏わせて防御が半ば無視の威力を誇り、相手をマヒさせることも出来る。また、第二撃目に繫げやすくなることもでき、遠距離からや、だまし討ちに電気を飛ばすことで、ダメージをあたえられるので、応用力が高い。
この能力の強さはセヴンスのセンスに委ねられる。故に、この組み合わせは彼にとってぴったりなのだ。
10分後にフレムグはやっと立ち上がれた。その表情は柔らかい。
「いやあ、やられちったよ。んじゃ次は本気で行くから、二人まとめてかかってこい。」
あれが本気じゃなかったのはわかっていた。あ、わかりたくなかった。もし奴が半分以下の力だったのなら本気のフレムグに俺は瞬殺だ。
「お兄ちゃん、二人同時にいこう。」ボッブスは構えを取っている。
「よし、ゴーでいくぞ。」ボッブスはうなずく。辺りはもう夕方であり、夕日が綺麗だ。
「ゴ――――!!」二人は走り出す。フレムグもまた構える。二人は案外いいコンビネーションを発揮すると踏んでいたからだ。
そして、フレムグは、ソフトボール状の炎を勢いよく二人に投げる。熱は弱めだが、威力は申し分なし。
セヴンスは電気をだし、炎に向けとばす。それに合わせてボッブスが火の玉を出し、電気に向かってとばす。電気によって威力の上がった火の玉とフレムグの炎は相殺され、下は焼け跡がついている。これがWORDのコンボというものだ。
次に、セヴンスはフレムグの上半身を、ボッブスは下半身に蹴りをかまそうとするが、片手でセヴンスの蹴りを止めると同時にジャンプでどちらも回避され、セヴンスの顔を蹴り上げた。そして、
「ボッブス、お前の全力の火を撃ってみろよ。」
ボッブスは頷くと、全霊を込めて[火]をだし火の玉に変形させる。それは直径30センチの高温の熱の塊までに化した。この技には高度な技術が必要であり、齢10歳の子供がやってのけてしまった。
そんな火の玉はフレムグ目掛けて投げられ、直撃する――前にフレムグの空蹴りによってかき消されてしまった。
「そんな、蹴りの風圧で!?」
「中々の上達っぷりだな、ボッブス。」
圧倒された……しかし目の前の男を倒したいという意欲も湧き上がっていく。
結果、訓練は四時間も続き、二人は様々なアイデアで対抗し、着実に力をあげていった。まあ、地獄だったが。地獄だったが。
三日後、今日の夕飯は魚の塩焼きだった。俺は風呂は済ませて、ボッブスと一緒にテレビドラマを見ていた。フレムグとの練習は地獄でしかないから、たまには休憩にもすがりたい。
「なあ、この俳優の名前ってなんていうんだ。」
「えっとね、サクルス=アルティーンだよ。カッコいいよね。僕も好きだよ。」
ドラマの題名は、「犠牲の中で」か、主演イケメンだし、純粋に面白いし毎週見よう。
ん、そういえば明日はマラソン大会だっけかな。フレムグにビデオカメラを渡されて撮影任務が下されたんだ。親は仕事で観に行けないらしい。
「なあ、ルトロシティって楽しいのか。」ボッブスに問うてみる。後で思えば無神経な質問だった。
「うん。」
「そっか。」ボッブスは相変わらずドラマを見ている。
そこへサナエさんがやってきて、俺にこんなことを言ってきた。
「あ、私の勤めている衣服屋でね、あなたと同じニホン人がいるのよ。友達なの。」
え、マジすか。衝撃が俺に走る。そういうことは早く行ってくださいよお。そうなると俺はここから抜けてしまうのか。案外早かったな。この三人には恩ばかりで毎日が本当に楽しかった。現実よりも。
あれ、俺は今、どっちなんだろう。
ヒロインがメアちゃんしかいない件について