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S-Door  作者: 海月歌
セヴンス=アンツィーネ
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決めた一文字

 セヴンスが居候して二週間が経った日の朝、庭で彼と炎使いの親子が円を描くように座っている。今日は無風であるが、少々寒く感じるのはなぜだろうか。

 円の中心にはA4サイズの黒板が置いてあり、フレムグの両手にはチョークと黒板消しがあり授業でもやるのかと思ったが、どうやらほんとうにWORDについて授業を説くらしい。一方サナエさんは、勤務先の服屋に出勤しに、街へと向かっていった。教師気取りのフレムグは煙草は今日は控えているようだ。良かった、俺はあの匂いは好きじゃないからね。

「いいか、WORDについて勉強する。ボッブスは復習用に、セヴンスは新しく入るからよく聞いておけ。」続けて説明するフレムグ。

「WORDとはいわば言霊。言葉自体に力が込められているからどんなに資質がなくてもこの力を借りることができる。これを自分のものにするためには一定の過程を踏まなくてはならないが、逆に言えば、順序よくこなしていければ、短期間で習得が可能だぞ。」

「過程てどうするんだ。」

「まず最初にこの魔法の黒板に決めた一文字を書く。」ジェスチャーを交え伝える。

「次に書いた文字に手を翳す[かざす]ように置く。ただし、これが最も安全な方法なだけで他にも方法はある。まあ、こっちの方がおすすめだがな。」

「それだけでいいの?どうもそうには見えないけど。」

「まだ待てよ。最後に書いた文字を頭の中に思い浮かべ続けるんだ。すると、言霊がお前の皮膚を通してエネルギーとなって体に染み込む、というわけだ。」おでんかよ。心のなかでツッコむ。

「文字を出すにはイメージするだけでいい。慣れるのは大変だが、精神が頑丈なやつはそれだけWORDを使うのも上手い。」

「WORDの専門学校もあるんだよ、僕もそこに通っているのは前に教えたよね。」ボッブスが割って入る。それほどWORDはこの世界に浸透しているのか。現にこの世界の住人で使わない人を見ることがないらしい。ということはもぶAやB,Cも能力が使えるという考えになる。全くもって恐ろしい。

「これで一文字目は終了だ。二文字目以降は体外にエネルギーを集中させ文字をイメージするだけでいい。わかったか。」

 ボッブスは大きく返事をする。俺もしておこう。さて、一文字目は俺の相棒になるわけだが、なににしようか。本当に別世界にきたみたいだが、それでも高揚が抑えられなかった。

 風が吹き始める、だいぶ肌寒くなってきた。


 自室にて、俺はこれほど悩んだことは無かった。いつも適当に選んでいた人生だった。もしかしたら、ここが自身の変われる分岐点なのかもしれない。そう思うとこの世界には感謝をしないとな。

 一文字目は何にしようか。できるだけ応用性の高い能力にしたい。でも火は嫌だな。

 今、俺は漫画の主人公みたいだな、誰だって主人公には憧れるものだ。なんものていったって物語の中心人物なのだからな。まあでも俺はアニメを観てこなかった。この世界でもアニメは人気だ。ボッブスに付き合わされて初めてアニメを観る。

 しかし、唯一観ていたアニメもあった。その主人公は電気戦士。当時は純粋に憧れたものだ。俺もあんな戦士になりたかった、と中学一年生までは夢見ていた、夢見ていた。武術をしていたのも少しでも電気戦士に近づきたかったからである。でも、致命的な欠点を見つけ、夢は破れた。電気が出なくてはどうしようもないのだ。空手は続けたが、このことは今となっては、笑い話である。本当に叶えられない夢はある、身に染めて実感した、今日までは。そうWORDがあるのだ。俺は悩むふりをしていたのかもしれない、無意識的に俺の歩んでいた道は正解だったかもしれない。一つの道に繋がる道だったかもしれない。

 ここから俺の冒険は始まるのだ。俺の相棒は[電]だ。



 結論から言って、俺ことセヴンスは、WORDを習得することができた。フレムグの通り、手を翳しただけだった。翳した後、文字から無色の目に見えるエネルギーが手の中に入る感触がした。頭の中に[電]を浮かべる。ややあってピリッとした電気が発生したのがはっきりとわかった。成功だ。俺は習得したんだ。俺はたどり着いたんだ…………。


 フレムグはセヴンスを見ていた。この男にはとてつもない資質を持っている。実はWORD習得はどんなに早くても三日はかかるのだ。それをこいつは30分でやってのけた。余程あの男の精神は言葉では表せない程に強いのだろう。挫折と一心を収めた心というべきか。素晴らしい奴だ。


 フレムグのセヴンスを見る瞳には妙な情がで包まれていた。そこまでは、彼自身にも感じ取れていたが、それが子に向ける親の愛情であることに気づくのはもう少し先の事であった。

「そろそろ夕飯の時間だから、続きは明日だ。二人とも明日からは、戦闘訓練に入る。」

「お兄ちゃん、明日からはハードだよ。」

 ボッブスは震え声で俺に忠告する。そんなにきついのか。だが、武術を心得ているから、ある程度はついてこれるだろう、と軽く受け止められた、この時までは。



 風もなかなかに木陰が揺れる夜、庭にフレムグが一人煙草を吸っていた。もう片手に手紙も持っている。遠くにいる友人に渡すためだ。彼は一服し終えると、[炎]と[創]を一瞬で出し、炎が鳥のような形になっていく。[創炎]、彼の真の技の一つ。炎鳥に燃えにくい物質で包み込んだ手紙を持たせる。

「レグラ山脈のゼロという男に渡してくれ、できるだけ急いでな。」

 炎鳥は承ったようで、翼を広げて空へと飛んでいった。セヴンスという人物の情報を添えた手紙、あいつは読んでくれるか。あいつは人間嫌いだが、俺とは親友の仲だ。最後に会ったのは七年前だけどな。でもいつものように籠ってるだろうから死んではいないだろう。

 風が強くなってきた。俺の創った炎はこれくらいでは消えはしないが、煙草は別だ。あーあ、ろくに吸うこともできねえや。明日は、憂さ晴らし確定だな。俺は我が家に戻る。

 煙草というものは、受動喫煙のほうが悪影響を及ぼす。無自覚の火は怖いものだ。




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