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S-Door  作者: 海月歌
セヴンス=アンツィーネ
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天然二人

 ここに転送されて早一週間。毎日積み重ねて勉強し、いつの間にかエイゴノートは五冊を超えていた。幸い、ここの言語が日本語の構造(五十音順)に近かったため、非常に覚えやすかった。しかし、今後の為にも、これ以上のことをしなくてはならない。

 自分の一日は、勉強とサナエさんの家事手伝いや日課の精神統一のための瞑想を行っている。今頃、昼ドラマをあちらの世界で放送している時間帯であるが、こちらは朝なのだ。朝方勉強派の俺はせっせと勉強をする。受験生おすすめの勉強法である。

 一時間は経っただろうか、サナエさんが俺の方にやって来た。

「セヴンス君、この世界には慣れた?」

「はい、おかげ様でだいぶ慣れました。サナエさんこそ、せっかくの休日なんですから、家事は任せてくつろいでくださいよ。」

「うふふ、そう言ってくれるのはありがたいけど、家での役割が無くなってしまうわ。……あら、そういえばあなた用の服がもうないわね。自分用の服、欲しくない?遠慮しなくていのよ。」

 全く、この人には恩ばかりだ。彼女は二人分のカップに紅茶を注ぐ、いい香りだ。

 実は、俺の着ている服は、どれもフレムグのものであり、サイズが一回り大きいのだ。贅沢が言える立場ではないが正直なところ、自分用の服が欲しい。お言葉に甘えたいのでついつい、

「とっても嬉しいんですが、いいんですか?」などと言ってしまった、俺の悪いところである。

「いいのよ、私の能力も見せておきたかったしねちょっと待っててね。」俺はうなずく。


 そう言ってサナエさんは奥の部屋から布生地を取り出し、針もいっしょに持ってきた。しかし、肝心の糸が見つからない。俺は勉強道具を机の下に置くと、サナエさんは裁縫用具を机の上に置いた。だがやはり、糸が見つからない。これでは服は作れっこない。

 あ、この世界にはwordがあるんだった。サナエさんの人差し指に[糸]をだし、具現化させる。慣れた手つきで針に糸を通す。そして、つぎは[縫]の文字をだし、自分の左手に持っている針に纏う。

 すると、左手は圧倒的な速さと正確さで布を変形させてゆく。30分経ってもそれらは劣ることはない。やがてみるみるうちに服が出来ていく。まさにKAMIWAZAだ。

 10分後、服は完成した。まるで空手着を薄くした感じだ。

「旦那が、あなたが武術をやっていた、と言ってたのを思い出したのよ。どうかしら。」

「最高です、ありがとうございます!」お礼を述べると、サナエさんは優しく微笑む。

「この技は[縫糸]といってね、自分がイメージした構想を自動で現実にしてくれるの。まあイメージし続けなくてはならないから、集中力が必要なんだけどね。」サナエさんは紅茶に手を付ける。

 wordはそんなこともできるのか。俺の心の中でファンファーレが鳴り響く。俺は今、どきどきしている。

「もう一着作ってあげるからね。」そう言って[縫糸]を使った。布はどんどん変形していき、15分後、出来上がったのは、

 ウサギのアップリケがついた可愛らしいミニスカートだった。

 サナエさんわざとらしく、

「あらー、間違えちゃったわ、でもせっかくだから、うふふふふ。」というと俺に着せようとしてくる。勿論抵抗した、だが俺は今、ウサギと一心同体になった、似合わんぞこれ。

 結論、サナエさんは心優しき奥さんかつ、一種の変人でもある。




 ボッブス君、十歳のチビ助である。彼はここから南の大都市、ルトロシティにある学校、Fireに通っている。また、驚いたのだが、フレムグもその学校の関係者らしい。てっきり釣りで生計を立てているとばかり思っていた。偏見をするのはもう止そう。

 さて、フレムグが言ってたのだが、ボッブスが最近山の中を走っているらしい。なんでも一か月後に都市マラソン大会が開かれるらしく、その練習だという。ちなみに俺は応援役に務めるらしい。

 彼はとても頑張っている。まさしく努力の塊だ。彼は俺に言った、どうしても勝ちたいライバルがいることを。その子はザック君というらしく、つねに何かしらで競い合っていたらしい。

 ライバルがいることは良いことだ。共にその道を進む競争者なのだから、大いに飛躍出来るであろう。垣間見える彼の闘志は火の玉なんかではない、炎そのものだ。俺もそれにつられてしまうのは何故だろうか。まったくもってヘビーである。

 そんなボッブスには幼馴染の女の子がいる。しかもたまに家に遊びに来る。淡い紫のショートヘアの可愛い女の子だ。名前はメアちゃんという。たまに付き合わされて、おままごとや鬼ごっこなどで遊んだこともある。非常に活発で好奇心旺盛な子だ。ボッブスに彼女のこと、好き?と質問したら、ボッブスは赤面しながら「ち、違うよっ!」と答えて俯いた。カワイイやつめ。


 ある日の夜、電話がかかってきた。聞くと所によるとメアちゃんがいまだに帰ってきてないらしいのだ。

 この日も遊んだのだが、陽が暮れないうちに帰って行った。いくらなんでも遅すぎる。

 そう思っていると、ボッブスは飛び出すように家を出た。続けて俺とフレムグもメアちゃんを探しに行ってサナエさんはもしもの時のお留守番。


 結局見つかったのは二時間後。山奥で迷子になっていた。暗くて道がよくわかんなくなってしまったらしい。陽が暮れても彼女は山の中で遊んでいたという。見つかったときはメアちゃんは泣いていた。むしろ泣き声で発見できた。それまでもボッブスはボロボロになりながらも探し続けていた。

 ボッブスが見つけたとき、彼女の所まで走っていき、彼女を抱きしめた。そんな光景に俺とフレムグはガッツポーズをする。フレムグは、俺に似たなと言った。馬鹿か、コイツは。


 雲が出て月が輝きを纏いながら、現れた。夜はもう十時。メアちゃんはぶじに送り届けられ、ボッブスは疲れてすぐに寝てしまった。

 三日後、メアちゃんが遊びに来た。俺も心配はしたが、今日は帰れるだろう。

 夜になり、帰る時間だ。俺の心配はまたあらわれたが、すぐに通り過ぎて行った。

 ボッブスはしっかりとメアちゃんの手を握って歩いていった。かっこいいやつめ。

 ちなみに翌日、俺が起きたときボッブスは玄関にて眠っていたという。寝顔はなぜか幸せだったという。


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