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S-Door  作者: 海月歌
セヴンス=アンツィーネ
4/17

WORD

男と男性は別人です。双方とも今回で名前が出てきます。

 男性の一言には、驚きが、自分を思考停止させるくらいのインパクトがあった。驚きの理由は二つある。


 一つは、この男性が日本を知っていることだ。彼はどう見ても北欧系の顔つきをしている。まさかとは思うが、この人もここに転送されたというのか……ないな。だが奴の一言からは、日本を示唆していた。

 つまり俺のほかにも日本人がいるのだろうか。そうだとしたら少子化の原因はこれではないのか。若者が「ある目的」によって転送されるとすれば、合点がつく。日本のアニメでもこういう話はよくあるらしいが、まさか現実になるとは。

 アニメは嫌いではないが観ない。しかし俺が唯一観ていたアニメがある。それは、「電気戦士ビリリマン」だ。勇敢な戦士の物語である。当時は憧れであった。なりたいとさえ思った。


 おっと、話の腰を折っている場合ではない。二つめは、彼が日本語をペラペラに話していることだ。

 このことから日本語がこの世界の共通語である可能性が浮かび上がってくる。いかにも筋肉隆々な体格からして、知能が乏しいだろうと偏見に近いが、こんな男が日本語を使っているのだから、共通語説はかなり有力のはずだ!そこでこの説を確かめるために直に聞いてみる。

「あの、何で日本語が使えるんですか。」

 それに対し男性は待ってましたという顔で、

「実はお前みたいなやつは初めてじゃないんだ、この世界にはもう数百人ほどいる。」

 成程、これで日本人が他にいることは確定した。もしかしたら日本人のグループがあるかもしれない。だいぶ希望が湧いてきた。


「だから俺は日本語をマスターしてある。いわば、お前らは観光客のようなもの、理解できるか?」

 この一言で共通語説は消えた。これは勉強の必要があるな、勉強……か。

「この国ではエイゴを使っているこの世界に慣れたいのであれば、習得したほうがいい。」

 男性は男にアドバイスする。非常に優しい男性だ。

 それにしても英語か、それならいける気がする。と思いきや文字を実際に見せてもらうと、解読不能である。少なからず日本のいう英語ではない、それだけは確かだ。これは気が遠くなる。だが、この世界から抜けるためには習得して損はないだろう。


「あの、何からなにまでありがとうございます。」心からの感謝を述べた。

「気にすんな、ちなみに俺の名前はフレムグで、息子のボッブス、妻のサナエだ。」 

 サナエさんがぺこりとお辞儀をした。つられて俺もしてしまう。ボッブス君と挨拶を交わす、笑顔がステキなかわいい子供だ。…………忘れていた、

「フレムグさん」「フレムグでいい。」じゃあお言葉に甘えて。

「フレムグ、俺の名前は、」名前を言う前に待てと遮られる。

「街の住民登録に、ニホンネームは好ましくない。他の奴らは偽名を使っている、そうだ、お前さんの誕生日は?」

「7月11日です。」成程、偽名か、やはりこの世界にも警戒というものは必要らしいな。

「では今度からはセヴンスと名乗ってくれ、その名前で登録しておかないと後々面倒になるんでな。」

 セヴンスか、悪くない、俺はシンプルが一番好きなのだ。 



「さて本題に入るぞ。」言い切ったと同時に水がコップに注がれサナエさんが俺に渡してきた。礼をいわねば。そして可愛らしい笑顔だ。

「この世界にはニホンにはないであろうものがある、それはWORDだ。」

「言葉っていう意味のあのWORDですか?」何でこういうときだけ英語なんだ。

「ああ、WORDという言葉はアルファベット式というものを使ってるらしいが、この存在がこの世界を生き抜くうえで最も重要なことだ、いいか?」

 俺はうなずいた、なぜならフレムグの瞳が真剣味を増してきているからだ。

 暖炉の火がより一層強くなる、対する季節は秋らしいのだがこれが時差ボケてやつか、暑くなってきた。

「WORDは、わかりやすくいえば、超能力のようなものだ。人間の限界をはるかに超えるほどの力を持っている。」

 超能力か、ここまでが夢ではないことは知っている。超能力という普通なら面白そうと思うだろうが、俺のコップの中の水が波紋を打っているのだ。俺の心は水なのかと思うほどに当てはまっている。


 WORDという能力、そんなものを俺が習得できるのか。疑念が残る。まずイメージもできない。

 あの日の交流会での男子にそういうアニメが好きなやつがいた。田尻という名前だ。あいつだったらイメージも湧きやすいんだろう。だが俺にはそんなの無理だ。俺がやってきたのは空手ぐらい、一応全国大会にいける程度には身についていた。……だからなんだよ、役に立つのか、それ。まあ今更嘆いても仕方ない。

「WORDってどんな能力なの?」

「その名の通り文字を使う、ただしエイゴではなくニホン語の漢字を使ってな。」

 漢字?どういうことだろうか、そう思っていると、フレムグが人差し指をだし、よく見てろと言われたので凝視していると、フレムグは煙草を口にくわえだす。勿論、煙草は火が無いと機能しない。

「今から[火]を思い浮かべる、いくぞ。」

 フレムグはそう言うと神経を集中させる。すると、人差し指に[火]の漢字が出てきたではないか!そして文字は火になり、それは煙草をふかした。つまり本物の火に変わったという事だ。

 俺は全く声が出せなかった、目の前のありえない光景に。これはマジックではない、WORDなのだ。

「分かったな、WORDにもいろいろ種類がありWORD同士を組み合わせて使うのが一般的だ。だからWORDの可能性はほぼ無限というわけだ。」

「私は裁縫専門の能力を使うのよ、服屋に勤めていてね。」サナエさんが例を見せてくれた。俺はまだ声がでない。

「今も見ただろうが、俺は炎を使うのが得意でな、ボッブスも俺と似ている。」

 フレムグの一言にボッブスが元気よく頷く。

「さらに重要なことだが、WORDは予め決めた文字を三つまでことができる。しかし、これは全員ができることではない。資質と文字が表す形の質量からくる負担を考えて文字を決めた方がいい。」

「僕はまだ1つなんだけど、父さんは3つも使えるんだ!」ボッブスは嬉しそうに話す。

 そう聞いて俺は1つまでかなあ、と思いながら頭を掻く。かゆっ。

「エイゴの火はとてもバランスが悪い。だから芯が強く、複数の意味を持つニホンの漢字を使うんだ。セヴンス、明日からやることがいっぱいだな!」フレムグ高笑いした。

 何で笑ったのか。妙にむかつくが彼の言うとおりだ。俺は今日からこの世界で生きなければならない。いずれ冒険もするようになるだろう。その時のためにやっておくことは完璧に仕上げておきたい。


 セヴンスのコップの水は何も揺れず、シンと静かなままである。


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