人生最高
辺りは点々と輝く夜、男は歩いていた。空腹感と闘いながら。水だけで満たされないのは、当たり前だ。そんな水にすべてを委ね、子供みたいにはしゃいでしまった自分に羞恥を感じている。勿論、水は貴重なものだ。しかし、なにかしら食べ物が欲しいのが正直なところだ。
限界だ。いかに二十一歳の体力を過信してしまったかがよく分かる程に。だが、それは体力的なものだけではない。孤独からくるものも少しずつ神経を削っていた。人に会いたい、それが今の男の願いだった。もしこの現状が続くならば、俺は壊れるだろう。たった十時間程度のことなのに。
道が続いていた、孤独の道だ。そこに、人が現れたらどうするか?きっと喜びと光が埋め尽くすであろう。どんなに強がっている人間でも、孤独は耐えられない。そして孤独は永遠には続かない。男の孤独は終わりを告げる。
男の前に影があった。鳥のものではない。男とよく似た形をしていた。それが分かると限界も無視して、歩を進めた。やがて、煙が立ち上っているのが見えた。この臭いは苦い、苦すぎて懐かしさを感じさせる。煙草であった。煙草を吸う生物なんて考えられるものは一種しかない、……人間だ。人間だ!
影が段々と鮮明になってくる。その正体は体格のいい男性だった。煙草を吸っていて、男性の周りからはあの苦い臭いがする。だがこの際そんなものどうでもよかった。男は男性に話しかけてみる。
「すいません、丸一日なにも食べていないんです、食べ物を分けていただけませんか……?」
茶髪の男性は目を細めたが、すぐに戻し、
「いいぜ、俺の家はもうすぐだ。付いてきな。」
素直に男性の後ろを付いていった。
草原生い茂る丘のようなところに丸太で作られた家があった。窓からは穏やかな灯りが見える。
男性が扉を開けると、中には茶髪の女性、中学生くらいの少年がいた。
「帰ったぞ。」男性は椅子に腰かける。
「お帰りなさい。……この方は?」女性の不思議そうな表情が俺に目を向ける。
「迷い人ってとこだろう、飯をやってくれ。」
「わ、わかったわ。今日はカリーライスよ。」
カレーが食卓に並ぶ。いただきます。
「このカレーライス、本当においしいです!」
俺は述べた。けっしてお世辞ではない。スパイスが効いてとても美味しい。間違いなく人生最高の味だ。俺は女性の方を振り向いた。女性はなぜかきょとんとしたような表情を浮かべている。
「お前、やはりか……。」男性はそう確信したように言う。俺はこの言葉の意味が解らなかった。そして、男性は言った。重く、驚愕の言葉を添えて。
「お前、ニホンからとばされた者だな。」男の時間が止まった。
名前はがまだ一切でてこないですが次回からわっと出てきます。