タスケテ
焼肉ならば私はロースが好きです。あと一度消去して別で書こうと思います。
「飢える……。食べ物をー。」
セヴンスの声が空しく響く。彼は今、新しい仲間であるテッカンと森を彷徨っていた。テッカンにとってかつての住居であるこの森はその名の通り迷宮であり、その出口を知っている者は少ない。
さて、二人がどこへ向かっているかというと出口ではなく、自然遺産に登録されている迷宮洞窟の方であった。セヴンスが一目見たいというので向かっているのだが、先程から空腹感が彼らを襲っているのだ。森も二人の腹の鳴る音に嘲笑っているようだ。
「セヴンス、ここは食糧として採れるものは無いに等しい。だから次の街を目指さないと死ぬぞ。」
テッカンはもはや限界らしい。それもそうだ。最後にした食事から二日間は全く何も口にしていないのだから。テッカンは再度セヴンスにガランダは諦めろと、忠告する。
「俺もそれ考えてる。お金はあるのに食べ物が無いなんてただの鉛を持ってるに過ぎないからな。先を急いだ方がいいのかな。」
森は彷徨う者の思考を乱す。その幻術は二人にもかかっている訳でついに些細な会話は口論までに発展されてしまった。
「テッカン、何か食べ物はないのかよー?」
「馬鹿言うな。第一、お前がほとんど食っただろうが。」
その言葉を聞いて落胆するセヴンス。テッカンはその姿を見て少しばかりかイラつきを感じている。
どんよりと湿った雰囲気の森は相も変わらず彼らを嘲笑している。時間と沈黙だけが過ぎていた。
その時である。
「タスケテっ!!!!!」
鳴り響いた人間の悲鳴。当然二人には聞こえていたわけで、二人はお互いに顔を合わせると、声の発信源へと向かう。
飢えに耐えながら、着いた先はある洞窟であった。怪しげな雰囲気が募っているが、どこか神秘的である洞窟であった。
「ここがガランダなのか……。間違いない、ここから助けてと聞こえたぞ。」
「ああ、聞こえたよ。ところでセヴンス、腹減ってるか?」
テッカンの問いに、セヴンスは一瞬考えた後、ニヤリと笑う。
「いや、吹き飛んだ。」
その言葉にテッカンも笑む。そして二人は洞窟の中にへと消えていった。森の笑いはピタッと止まっていく、止まっていく。
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案外にも洞窟は一本道であり、人間が余裕をもって進めるほどの広さであった。セヴンスがこの洞窟はいささか迷宮という名にはふさわしくないと思うほど簡素であった。
300メートルは進んだかというところでどっと暗くなってきた。セヴンスは予め持ってきた懐中電灯をリュックから取り出し、周りを照らす。
「セヴンス、声の主を見つけたらすぐにここを出よう。」
「分かってるよ、それとテッカン。」
「何だ?」
「さっきはごめんな。あまりにも我儘だったな。」
先に謝ったのは俺だった。テッカンが謝りたいような表情をしていたのは分かっていたからである。
「……大人げなかったな。すまなかった。」
「ああ、今度はお前の言う通り、早くここから出よう。ここはなんだか嫌な予感がする。」
「気づいたか。俺たちはとんでもないところに来たんじゃないのか。」
二人から汗が流れ始める。どんどん前に進むと、やがて巨大な影が見え始めた。あれが声の主だろうか。
やがて広いスペースに着いた二人。セヴンスは懐中電灯を影向けて照らすと、影はみるみる正体を現していき、それは現代には考えられないほどの……。
「花……なのか?」
セヴンスはあまりの巨躯に驚嘆する。テッカンもさすがにおどろいたのか口を開けたまま動くことは無い。テッカンの汗は次第に冷や汗となって顔を伝い始める。予感は的中していたのだ。
「避けろ、セヴンス!」
あまりの怒声。セヴンスははっとテッカンの方を見ると、テッカンもまた何かを見ていた。それは……巨大なツルだ。突如ツルは動き出し、二人の方へと勢いよく向かってくる。
テッカンは地面に伏せ、セヴンスは後方にジャンプして攻撃を避ける。しかし、花は二本目のツルがあったようで、これもまた勢いよく振り払われた。
二人はどうにか避けるのが精いっぱいで反撃も逃亡もできない状況に陥ってしまった。
「何なんだ、コイツは!」
「聞いたことがある!ガランダの魔物、『タスケテ花』がいることを!」
テッカン、そういうのは早めに言ってよ。魔物がいるなんて聞いてない。第一、ここは自然遺産なのになぜ平然と魔物がいるんだよ!
「やつらは人間の言葉でタスケテと鳴いて餌をおびき寄せるらしい!つまり俺たちは餌としておびき寄せられたらしいな!っつ!」
解説中のテッカンにツルが直撃する。が直前に[鉄]を纏わせなんとかガードすることができた。しかしテッカンにも多少の痛みを負ってしまった。ツルはテッカンに猛攻を仕掛け、テッカンはギリギリで耐えているようだ。
「大丈夫か! くそぅ。このままじゃ二人ともこの怪物に捕食されてしまう!」
『タスケテっ!』『タスケテっ!』『タケテッ!』
化け物が笑う。まるで新しい玩具を与えられた子供のように。その光景はまさに一方的。
「でも、このままじゃ終われねぇええええ!!」
セヴンスはテッカンに夢中な怪物に危険覚悟で飛び込み、全力の電気拳を放つ。
『ダジュケッ!』花は苦悶の声を上げるが、あまり効いていないのかすぐにツルがセヴンスを捉え、振り下ろされる。セヴンスはなんとか当てられまいと奮闘するが体力がなくなるのは時間の問題になってしまう。テッカンも極度の疲労で出方をうかがうしかないようである。その刹那、
「助けてください!」
それは怪物の鳴き声かと始めは思った。しかしセヴンスは気づく。敬語が使われていることに。
花の後ろからひょこひょこ出てきたのはペレー帽子を被った少年だった。歳は中学生ぐらいか。とにかく、ちっこいのが出てきた。
「あのなぁ、この状況で助けられるわけないだろう!」
今のセヴンスにとってこの一言を発する暇さえ本当はないのである。自分の身を守るのに精いっぱいなのだ。少年にかまっている余裕などないのだ。
「ですよねっ!わかりました、僕がひきつけてみます!その隙に!」
少年はそういうと、背中にある筒から一本の矢を取り出す。そして[弓]の文字を創ると、なんと本物の弓が現れたではないか。少年は矢を弓に装着し花を目掛けて発射する!
矢は見事に命中して花は悲痛の声をあげる。少年はその隙にセヴンスの方へと走っていくが、その姿はなんとも情けない。
「こ、ここから早く出ましょう!ねっ、ねっ!」
セヴンスが少年の顔を見ると少年は涙ぐんでいた。余程怖かったのか。だが、今やるべきことはただ一つだ。
「反撃チャンスだぁ!」
セヴンスはぐったりとしている怪物に全力の電撃を放つ。怪物は声を上げることも出来ずにやがて倒れていった。セヴンスはその結末に満足したのか、ガッツポーズ。
「よし、逃げるぞテッカンは無事か!?」
「ああ、大丈夫だ。」
テッカンは傷こそ深いもののピンピンしていた。元山賊の根性だろうか。
「そっか、じゃあ逃げるぞ。お前も来い、少年。」
三人は出口に向かって走った。全力で走った。タスケテ花のことを考えながら、右へ左へと進んでいた。
「……おいセヴンス。」
ここでテッカンが何かに気づいたようだ。
「どうしたんだ?そんな緊張した顔なんかして。」
そこでセヴンスも違和感に気づく。やがてセヴンスにも冷や汗なるものが溢れ出す。少年だけがキョトンとした表情をしているが、二人の表情はひどく険しい。
「道が違うんだ……。俺たちは閉じ込められたかもしれない。」
魔物は動き出す。
サナエ=アンツィーネ 年齢:32歳
趣味: 裁縫 料理
能力: [糸] [縫]
性格: 少しばかりか天然