森の奪者
マンゴーって名前は可愛いよね
気づくとマンゴーは俺の血を舐めていた。よく見るとマンゴーの爪が鋭利状に伸びていた。その鋭さは肉ごと持っていかれそうになるほどである。幸い、直撃しなかったので、軽傷で済んだのだが。
(俺があいつと戦うしかないってことか! )俺は冷静に構えを取る。それを見てか、マンゴーはなぜか顔を引きつらせる。
「俺と戦うだけでも万事に値するというのに、なんだその態度は! ムカつくぜ!! 」
マンゴーは手に付いた俺の血を振り払い、俺目掛け突進し、右手を振り下ろした。俺はその右手に当たるように自分の靴を蹴り投げる。マンゴーはとっさに靴をはじきとばすがもう遅い。俺の電撃を喰らわせる。
マンゴーは左手で俺の電撃を受け後方に弾き飛んでいった。倒れているマンゴーを見ると左手の爪が欠けている。これはもう俺の勝ちだ。しかし、勝利宣言はまだ早かったようだ。
マンゴーは重たそうに体を上げる。
「ちっ……。なかなかのものだな。だが俺の爪を壊したところでいい気になるなよ?」
そう言い放ってマンゴーは[爪]を左手に纏わせる。すると爪が伸び始め先程の鋭利状に戻ってしまった。つまり、何度も再生できるということか。
「成程な……。無限大に再生可能ということか。こいつは厄介だな。」
(しかもあいつは爪を欠いたときにまるで痛みを感じていなかった。これが一番のくせ者だ。)
「そうだ。さらにこの爪とこれで最強コンボだぜ!」
マンゴーは[犬]の文字を体に纏わせる。するとみるみる奴の体が変化していく。
その姿はさながら獣である。しかも獣になって硬くなりつつ爪は鋭いままである。これでは俺の電撃をしても大破することはできないだろう。これが奴のWORDコンボ!
マンゴーはさらに速く俺を狙う。そのスピードは人間体の四倍は速いであろう。俺は電撃を飛ばすが、容易く避けられてしまった。スピードに気を付ければ対処は簡単だろうがそうはいかない。
俺はマンゴーの猛攻をもろに受けてしまう。体は次第と赤染みていくがこちらから反撃が出来ない。WORDが出せず、両手でガードするしか防衛策が無い。間合いを取ろうとするが、奴のスピードに追い付くことがまずできない。ならば、
「はっはっは! どうした旅人さんよぉ。肉になりたくて仕方ないかぁ!?」そして奴は一撃を振り下ろす。
グサッ! 鋭い音。その音はマンゴーの爪がセヴンスの……蹴り飛ばしたもう片方の靴を突き刺していた。
「なっ!これじゃあ右手が使い物にならないじゃあないか!」
爪は靴をしっかりと貫いており、なかなか抜けない。そのチャンスをセヴンスは見逃さなかった。
(電気拳!)
セヴンスの正拳がマンゴーの腹に直撃する。対するマンゴーはまともに受けたので動くことすらできず痺れていた。故に次のセヴンスの一撃必殺を躱すこともできないであろう。
(お前の負けだ、マンゴー。)
セヴンスはWORDを振り上げた片足に纏わせ、電気を帯びた足をマンゴー目掛けて、振り下ろした。俗にいう、かかと落としである。マンゴーに直撃!
マンゴーは苦悶の声をあげ、地面に倒れた。…………どうやら気絶している様子である。この様からもう一時間は目を覚まさないだろう。この勝負、セヴンスの勝ちだ。
セヴンスは次に仲間の方を見た。仲間もあと一息で山賊を打ちのめしそうである。あっ、打ちのめした。
「おお! ついにマンゴーが敗れたのか! これで俺たちは!」
仲間たちは声を荒げる。どうやら全員無事なようだ。良かった。
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マンゴーの爪でロープを切られてはまずいので、マンゴーを真ん中に山賊を囲うようにしてロープで縛る。
「いいか。ルトロシティの『魚っ!』という店だ。そこで雇ってもらってくれ。ただし、ほかの店に浮気なんかするんじゃねえぞ。わかったな。」
「はい、セヴンスさん。浮気するのは女だけにします。」
「お前、彼女いないだろう。」仲間からのツッコみ。ナイスだ。
暖かいそよ風が鼻孔をくすぐる。妙に心地いいのだが、同時に風は俺を強く前に押し出すようだ。
「じゃあ行くわ。またどっかで合うかもな。」俺は別れを告げる。
「待ってくれ。俺もその旅についていっていいか?」
そう言ったのはテッカン。いったいどうしたのか。魚屋で働くのが嫌なのだろうか。
「いいぜ。でもちょっと破天荒な旅になるかもな。」
テッカンは二カッと笑い、荷物を持ち、仲間とお別れをしてきた。……仕方ないな。
そして俺たち二人は森の中を歩き始めた。森がささやくようにさやさやと揺れた。
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暗く影もない部屋たちが間隔的に並んでいる。廊下にだけ照明が許されており、部屋の中と廊下はまるで別次元である。
ここはとある刑務所。C級以上の凶悪犯罪者が収監されている。まさに凶界
その廊下には携帯剣を携えた黒髪の青年、ライトが歩を進めている。その目的はとある人物に会うためである。その人物とはライトを苦しめた爆弾鬼。
「バング=ボーン №14541」
「バング=ボーン、聞きたいことがる。俺の声は覚えているだろう。」
特殊な素材で作られた拘束服を着せられた男が反応する。
「アァ…………。忘れたことは無いぜ。毎晩貴様の声がチラつくんだよ。」
そう言って男は顔を上げる。それはかつての爆弾鬼の面影ではない。男の肌はただれ、目は白く濁り、鼻は削れている。これは奴自身の能力でこうなったのだが、やはり痛々しい。
「そうか。ではいくつか聞くぞ。まずお前は反国集団、『誓黒』のメンバーだと聞いた。奴らは何を企む。そしてなぜ、ルトロシティを攻めた?」
「まあ、隠す必要はないか。それはな、文化の中心街であるルトロシティを火の海にするためだ。そして俺は『アルファ』の直属メンバーではない。」
「何だと?それではお前はいったい。」
「まあ正確にいえばそいつらの部下という事だ。俺はそいつらの命令で今回は動いた。話は以上だ。今日は帰れ。」
そう言われライトはバングの顔をもう一度見て去って行った。しかし、バングは暗い部屋の中で二つ目の顔を露わにしていた。
(ストロウムさんが助けに来てくれる!!! あのキザな警官をぶっ殺してやる!!)
凶悪の声が鳴り響く。凶界とはまさにこういうことである。
ボッブス=アンツィーネ 年齢:10歳
WORD:火
ライバル:ザック=ナップ
特技 :剣の指導