優勝者
縦読みの方が読みやすい気がします。
《セヴンス》
バングとの死闘から六時間後。白熱したなか、勝利のファンファーレが鳴っている。
「決まりました! ついに白色のゴールテープが切られました!」
俺には誰がゴールしたか見えなかった。まあ、ボッブスとザック君が群を抜いていたのだから、どちらか勝ったのだろう。無事ボッブスの撮影も済んだことだし、あとはあいつが一位なのを祈るしかない。
「おっと! 一位はルトロシティの名物店、『魚っ!』の愛され人、マジア選手だぁああ!」
…………………いや誰ですか。マジアといっていた人が着けているねじり鉢巻きが汗に濡れているのが見える。
第一印象は暑苦しそうの一言に尽きる。というか店の名前の由来を知りたいよ。
「そして二位は黒髪の少年、三位に茶髪の少年がゴールしました! 驚くほど同時にゴールしたように見えましたが、やはり三位です。」
茶髪というと、ボッブスか。そうか、三位だったか。ザック君には負けてしまったが、よく頑張った。努力が彼を、大人も顔負けの三位に光らせたんだ。
双方は果てた顔をしているが、ボッブスは悔しそうな表情もしているようにみえる。今日は慰めてやるか。
ん? なにやら二人が会話している。ここからじゃ全く聞こえない。何を話しているのだろうか。
《ボッブス》
悔しい、僕は三位という結果に終わった。負けた、敗けたんだ。
ザックがやって来た。勝利の笑みを浮かべていながら歩を進める姿に僕は完全敗北を実感していた。
「ボッブス、俺の勝ちだ。まあ当然の結果だけどな。」
「完敗だよ、ザック。だけど次は敗けない。文化武闘会に、そのときに勝って見せる!」
「いいだろう、そのときも俺が勝つがな!」
俺は悔しくてたまらない。彼が僕よりも努力を重ねてきたことが何より悔しい。期間は同じなのに僕にはサボっていた節があった。だから走る。走ってやるんだ。
僕が悔しいと果てている渦中のこの時に、マジアが入ってくる。
「お前ら、ガキのくせになかなかいいモン持ってんじゃねぇか。気に入った! 俺の家で夕飯を食ってけ。」
謎の招待。それに対しザックが、
「お気持ちは嬉しいですが、お断りします。じゃな、ボッブス。」
そう言って去って行った。彼の足取りは妙に軽くみえる。
「なんだよ感じ悪いな。坊主はどうだ。魚がうめぇぞ!」
僕にきた。おじさんの顔をよく見ると泣き目だ。強がっているのか、我慢している。これは断るといけなさそうだ。でも一人は気まずいな。
「あの、知り合いも誘っていいですか。」おじさんの顔が晴れやかになる。
「おぅよ! お前さんの知り合いなら大歓迎だ。」
魚か、マジアさんはお父さんの友達だから、よくあの店の魚は食べていたから美味しいのは分かっているが、はたしてしょっぱく感じないように済むだろうか。
《セヴンス》
俺は何故か、魚屋のお宅で夕飯を食べている。フレムグには事の顛末を話したらしいのだが、よくここで食べているのだろうか。
ボッブスに誘われたからきたのだが、まさかあの暑苦しそうなおじさんとディナーかよ。
「どぅだ、うめぇか。」
マジアさんの自慢の魚は確かに美味しい。いい感じに脂がのっている。
「おいしいです!」
俺は素直に言う。ボッブスも美味しそうに食べているが、表情は強がっているようようだ。余程、敗けたのが悔しかったのだろう。
「そりゃよかったぜ。にしても坊主がフレムグの息子とはな! びっくりしたぜ。友人の子供に夕飯を食わせることができるなんて俺も幸せなもんだ。」
なんと、フレムグの友人なのか。まずあの人に友人がいたのか。そっちの方がびっくりだ。
マジアさんの一言にボッブスも興味を示す。
「父は外だとどんな感じなんですか。」
あ、それは俺も興味ある。あの気だるそうな男は外ではどんな感じなのだろうか。
「ふん、おそらく家の様子と同じだと思うぜ。だらだらと、いつも力を抜いているような感じだ。でも共にいると和むんだよ。」
「和むんですか。あ、確か学校に務めているんですよね。意外でしたよ。」
俺は相槌をうってみた。さあどんな返答が来るのだろうか。
「まあな。奴はああみえてしっかりした芯の強さを持っている。そんなところにおれはやられてしまうんだ。」
たまげたものだ。フレムグにそんな一面があるなんて。もしかしてフレムグが釣りをしているのってこの人と交友しているからではないのか。そう思うと二人は親友なのだなとほのぼの感じる。
その後、三人は夜遅くまで盛り上がり、仲良くなった。俺とマジアは酒で、ボッブスはオレンジジュースで酔っている。いやボッブスは酔うものがおかしい。
マジアは酒にまかせて口が進む。表情はさっきまでとは裏腹に曇っている。
「バカ野郎…………。この国では案外貧困化が進んでいてな。俺たちももういっぱいいっぱいだ。人を雇っても給料はほとんどあげられないから、そいつらは金を求めて、ほかに行っちまう。俺たちはいつも人手不足で俺と家内の二人で営んでいるけど、もう潮時なんだな、クソォ皇帝の野郎…………。」
そうなのか、この国にも闇はあるのか。俺はマジアになんて言ってやったらいいか、最後まで思いつかなかった。何も知らない俺は実に無力なのだ。
「ま、こんなシケた話はやめて、パーッと飲もう!」
マジアはやはりいっぱいいっぱいの声でそう口にする。皇帝からみれば、これが『庶民の声』なのだろう。これがこの世界の実態であった。
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翌日、俺とボッブスは家に帰ろうとする。マジアは眠そうな顔、声で俺たちを引き留め、
「昨夜は楽しかったぜ、あいつといた気分だった。フレムグによろしくと伝えておいてくれ。」
俺は頷くと、マジアに別れのあいさつをする。マジアも手を振って応えた。
家に帰る道中、俺はある考え事をしていた。マジアの嘆きについてだ。そして、ある願望をもった。日本に帰る前に知りたい。この世界について。




