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 その後、工程の洗い出しやスケジュールの調整はトントン拍子に完了した。ミーティングを終えた私達は、翌日からそのスケジュール通りに工程を消化していくことになった。




 まず最初の2日間で植山君の好みのタイプを調査する。これは私の友人を伝に簡単に得ることが出来た。植山君の好みは半年前から全く変わっておらず、相変わらず女の子らしい女の子が好きだという事が判明した。無駄足だった気もするが、リスクを考えるとこれは必要な調査だ。


 そして得た情報を元にして、土日を挟んだ4日間で宮村さんをトータルコーディネートする。


 コーディネートの方針としてはガーリー系のファッションと、ヘアスタイルと、メイクだ。ガーリー系というのは<<女の子らしさ>>をコンセプトとしたコーディネート。主にワンピースなどを基準としたファッションだ。


 植山君の好みにピンポイントで合うものだ。




 休みの日の土曜日に都心部で待ち合わせた私たち二人は、私先導の元に一切の無駄が省かれたコースで街を歩いた。


 そして行きつけのファッションショップに彼女を連れて行き、ベースとなる服を薦めて購入させた。


 次に美容院へと彼女を連れていき、美容師に注文をつけた。ガーリー系というコンセプトを基に黒色のただ長かっただけのヘアスタイルは、前髪を綺麗にそろえて毛先にパーマを当てることで、ミディアムなエアリーボブを演出した。


 そしてメイクも女性が好む重く濃いものではなく、春先に合わせて季節を感じるような明るい色をベースとした、男性印象の良いメイク内容を提案していった。


 我ながら中々にイケているという感覚があった。




 日曜日に一度、レビューをしてもらうという約束だったので、早乙女君に依頼することになった。高校の近くの公園で早乙女君と待ち合わせ、彼女を見て感想を貰うのだ。


 二人で公園へ向かうと、先に早乙女君がベンチに座っていた。


 彼を見ると紺色のダッフルコートをメインとした綺麗目なファッションをしており、黒のスキニージーンズでシンプルに纏められ、足元はカジュアルなスニーカーで適度に崩されていた。


(この人はこんなところまで完璧なのか……)と、心の中で感心してしまう。


 さて、私の後ろに隠れていた宮村さんはというと、私が合図すると同時に彼の前へと姿を現した。


 照れた表情を見せる彼女は、少しだけ俯きながらも彼へその姿を見せ付けた。


 緊張の瞬間だ。


「凄いね。見違えたよ」


 人を褒めるのが苦手だと思っていた早乙女君は、案外に女性の褒め方が上手かった。私は目前にいる宮村さんを自分で作り上げた人形のように感じていたから、認められたような気がして嬉しかった。


 そして男子の客観的な意見を聞いた宮村さんも、私の方へと振り向きながら目を輝かせて喜んでいた。


 褒められたのは当たり前だ。宮村さんは見事なまでに美しく、可愛くなっていたからだ。


 宮村さんを構成するファッション、ヘアスタイル、メイク、それら全ての要素が何乗にもなって効果を発揮していた。また、元々綺麗な目鼻立ちをしていたので、それも効果となって表れていた。


 振り向いた彼女の周りにはまるで白い羽が舞っているかのよう見えた。




 レビューを終えた私たちは、遂に最終計画へと乗り出した。喋りかけるタイミング、眼鏡を外すタイミング、笑顔を見せるタイミング、それら全てに早乙女君から徹底した演技指導が入った。


 男子の心を掴む為には男子のアドバイスが一番だ。余計な事は言わないことに決めた私は、それをただ観察していた。


 そして宮村さんは万全の態勢となり、遂に決行となった。




 宮村さんのクラスは1時間目に体育の授業がある曜日が存在する。早乙女君はそこに目を付けた。


 その日の体育に参加すべく更衣室へと向かった生徒達を確認した後、教室の鍵を閉める役割を担ったフリをして最後まで残るように指示していた。


 そして誰も居なくなった教室で、宮村さんは消しゴムを盗んだのだ。




 後はご想像の通り、喋るキッカケを持った二人は自然と歩み寄ることになった。


 しかし誤算だったのは、宮村さんが可愛くなったという噂が校内に広がってしまった事だ。早乙女君の計画では宮村さんの可愛さは植山君だけの秘密としておくことで、男の独占欲を引き立てようとしていたらしい。その誤算を受けて、早乙女君は計画を修正する事態となっていた。


だが、結果は思わぬ良い方向へと向かっていく。


 校内に広まった噂をきっかけに、男子生徒の宮村さんに対する印象は変化することになった。つまりは、彼女を恋愛の対象とする男子が急増したのだ。そして焦った植山君はなんと計画実行から一週間という短さで、宮村さんに告白することとなった。


 <<消しゴム計画>>から引き続いて、宮村さんから植山君に対するアプローチや告白方法を検討していた時期にその出来事は起こり、早乙女君と私は意図せずに案件を大成功としてクローズすることとなった。





 並木道を早乙女君と歩きながら、今回の案件の事を考えていた。私は横に並ぶ彼に向かってこう話した。


「消しゴムを隠すなんて言った時はちょっとビックリしたよ」


「まぁ、普通はそんな事考えないよね。共通の話題なんかを調べて、勇気を出して喋りかけるのが普通だと思う。けど、その喋りかける勇気が無いのなら、機会を作ってしまえばいいって考えたんだ」


 彼は無表情に答えた。


<<無ければ作ればいい>>

 その発想には心底驚かされた。


 早乙女君の発言の通り、普通の人であれば共通の話題を持つように努力してから勇気を出して喋りかけるものだ。それをせずとも考えかた次第で機会を作ってしまうという発想に、なぞなぞを解いているような気分になった。


 私はこの幸せな結果を受けて、大きな満足感に浸っていた。誰かの為に何かを成し遂げるというのは、こんなにも達成感のあるものなのかと感じていた。


 だがその時感じていた感覚は、満足感だけではなかった。満足感に押し潰れされようとしている不思議な感覚。いや、自分自身で潰して消してしまおうと考えていたのだと思う。


 前を歩く植山君と宮村さんを視野に入れ、私はそれを気のせいにしようとしていた。




-疑問-


 私はそれに必死で抗っていたのだ。


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