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「ごめんなさい、私……植山君とは付き合えない」
世の中は上手くいかないよう出来ている。
もし上手くいくように出来ているのであれば、俺の顔面の造形はもう少し整っていたに違いないからだ。
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小・中学生の時にはゲームやスポーツが好きで、それらで男友達と遊ぶ事にしか興味が無かったが、俺は高校生になって初めての感情を知ることになる。
好きな女子ができたのだ。相手は隣のクラスの女子である、長谷川さん……<<長谷川みゆ>>さんだ。
あの衝撃は忘れもしない。
入学式から一週間ぐらい経った日の事だ。トイレへ行こうとして一人で廊下を歩いていると、誰かが一人で向かいから歩いてくるのが分かり目を向けた。そう、長谷川さんだった。
馬鹿な表現だと思うかもしれないが、彼女は凄く可愛かった。
サラサラな茶色がかった髪の毛。
好みのミディアムな長さの髪型。(髪型のことはよく知らないが、ミディアムボブってやつだ)
二重で大きい瞳。
スッとした鼻筋。
プルッと潤った唇。
美しく、白い肌。
素敵な笑顔。
高くもなく、低すぎもしない身長。
程よく膨らんだ胸。
最後の部分はスマンとしか言い様がないが、男子とはそういうものなんだ。分かってくれ。目に入った瞬間に、羽でも生えてんじゃないかって感じる程に彼女は眩しく輝いていて、まるで天使の様に見えた。
その時はまだ他人だったので当然だが、何の言葉を交わすこともなくそのまますれ違うことになった。すれ違った後に彼女の甘くて良い匂いが漂ってきた。あぁ、これもスマン、男子はそういうもんなんだ。
その甘い香りに釣られてドキドキと胸が高鳴り、思考は止まってしまった。彼女に時を止められてしまったかのように、その場で動けなくなった。
俺は初めての感情に戸惑ったが、直ぐに恋だと感じることができた。俺が一目惚れをした瞬間だった。
そして同時に男特有の感情が噴出してくるのを感じた。
<<彼女にしたい、独占したい>> ってヤツだ。
思い立った俺は直ぐに行動にうつった。
小・中学正の時からやっていた野球を高校生になっても野球部に入部する事で続けることを考えていた。だが俺は、キッパリと入部しないことに決めた。何でってそりゃ野球部はモテないと思ったからだ。
だって今の時代に、強制的に坊主頭にさせられるって……何だよそりゃあ。初めての恋に目覚めた俺にとっちゃ、拷問に近い仕打ちだ。
なら、自由な髪型に出来るクラブ活動を選んだ方がずっと良い。そして同時に女子からモテそうなのを選べば、一石二鳥で完璧だと思ったからだ。
俺はなんというか、偏見と印象でサッカー部への入部を決意する。そして、その考えが運命の導きだと感じる出来事があった。
長谷川さんがサッカー部の女子マネージャーとして入部していたのだ。
何てラッキーなんだ。簡単に知り合いになれて、喋るタイミングも出来て最高じゃないか。これを運命と思わずして何と思えば良いのだろうかと、俺はそんなアホな事を考えていた。
サッカー部に入部してからは、最高の日々だった。
中学で入部していた時の野球部よりはるかに練習は楽で仕方がないし、何より長谷川さんと喋る事が出来るからだ。
昨夜の新作ドラマの感想を聞けば、
「あー、面白かったね。でも、主人公はもうちょっと違う俳優さんの方がいいかなって思った。植山君はどう思った?」
なんて答えてくれるわけだ。
俺がただ話しかけるだけではなく、ちゃんと受け答えしてくれて質問までしてくれる。そんな小さなことが俺の最大の幸福になって、毎日が満たされていた。
だが、それが一時のものだとすぐに知ることになる。
小さな幸福を感じ続けながら一ヶ月間が経ったある日のことだ。部内で、サッカー部の小林先輩が長谷川さんに告白してフラれたと噂がたった。
俺はそれを知って良かった!という感情と同時に、とある感情が沸き上がってくるのを感じた。焦りの感情が俺に襲い掛かってきていたのだ。俺は自分が置かれている状況を、やっと理解することが出来た。
長谷川さんは誰から見ても可愛いという事実だ。長谷川さんはモテる。
俺は、気付くと全く勉強もせずに試験一日前になった学生のように焦り始めた。小林先輩の告白の事実を知った後、クラブ活動が終わった俺は家に帰って部屋に閉じこもる。
色々と落ち着いて考えなければならない時だと思うが、焦りからかまともに考えることなんて出来なかった。
今思い返せば俺はなんてバカなやつだろうと思う。
次の日に告白することを決意したのだ。
そして、結果はお察しの通りとなった訳だ。