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 教室に戻った私達三人は向かい合うように椅子に座る。


「結局何も分からず仕舞いかぁ。ゆう君もいれば何か分かると思ったんだけど」


「流石に僕の事を過大評価しすぎだよ。現場を直接見られなかったしね。ただ、ちょっと気になる事があるというか……」


「え、何々?」


 藤井さんの顔が早乙女君に近くなる。日の光を浴びて、その大きな瞳はさらに輝きを増す。


「解決に必要となる素材が少なすぎるような気がするんだ。もっと水泳部の事を根本的に理解する必要があるんじゃないかな」


「それってどういう事?」


「つまり、解決の糸口になるのは動機になるんじゃないかなと考えているんだ。その為にはもっと水泳部の事を知らなきゃいけない。その為に必要になるのは……」


「聞き込みね!」


 藤井さんが閃いたように声を出す。そして続けて、


「明日にでもしてみよっか? 真相も気になる事だし」


 次の日、私たちは水泳部に対して聞き込みを実施する事になった。




「昨日あった事を最初から教えてくれると嬉しいんだけど。何か気になる事とかなかった?」


 まだ少し人がまばらに残っている教室で、藤井さんと私の二人が女子生徒一人に対し、向かい合って座る。少々の雑音が私たちの聞き込みの内容を紛らわしてくれるようだ。

 目の前にいる女子生徒の名前は天野ともかさん。昨日の事件の時に小鳥先生と対話していた人だ。そのキリッとした瞳と威圧感は昨日のままとなっている。

 早乙女君は用事があって聞き込みには参加していない。


「最初もなにも……特に何もないけど……」


 天野さんに聞き込みをしたところ、特に普段から変わったような事はなく、いつも通りの部活風景だったということだ。天野さんと井上さん、金谷さんは早く着替えを済ませ、女子更衣室から出た。プールサイドで話をしていたらしい。その後、続々と着替え終わった部員たちが出てきて、部活動開始のミーティングが始まる事になり、全員の部員がプールサイドに集まった。


 部活動が始まってからはマネージャーを除いた一人以外は全員プールで泳ぎ、その日のメニューをこなした後はシャワーで体を洗い流し、女子更衣室に戻った。事件が発覚したのはその時だったようだ。


「全員プールで泳いでるなら、不審者がいた事に気づかなくてもおかしくないよね?」


「女子水泳部にはマネージャーがいるの。昨日も更衣室付近を見渡せるような場所で、私たちのフォローをしていたから、誰かいれば気づくと思う」


 藤井さんがうーんそうかと頷く。入口がプールサイドから分かりやすい場所にある為、マネージャーが見なかったという事は外部犯の可能性はぐんと低くなる。しかし、それならば何故全員の荷物が散乱していたのだろうか。全員に恨みをもった人物の犯行であればどうだろうかと考えてみたが、やはり辻褄が合わない。

 

 その後、天野さんからは大きな情報を得ることができず、私たちはその場を後にする事になった。そして、井上さん金谷さんに同じように聞き込みを行ったが、気になる情報はひとつもなかった。


「うーん、どうしよっか」


「後何人か聞き込みをしてみない? もしかしたら何か分かるかもしれないし」


 半分飽き気味な藤井さんを引っ張るように、聞き込みを続行する事になった。

 

 4人目は増野ゆかさん。私と前のクラスが一緒だった事もあり、面識があったので、聞き込みの要望に対してすんなりと承諾してくれた。同じように気になる事はなかったかという問いをする。が、やはり前3人と同じように事件に対する情報は何も得られなかった。しかし……。

 

「ほんとにどんな事でも構わないんだけど……何かないかな?」

 

「何でも……? うーん、だったらちょっと水泳部の話をしてもいい?」


 増野さんは、天野さん率いる3人組が更衣室を出ていった後、更衣室にいたらしい。体操着へと着替えをおこなっていたようなのだが、そこである話し声が聞こえてきたという事だ。

 

「実はうちの水泳部、皆の仲がそんなに良くなくてね。特に天野さんと手塚さんはかなり仲が悪いの」


 手塚さんとは手塚まみさんの事だ。校内でも有名な美人で、長い黒髪とヒヤリとした大きな目はまるで黒豹を思わせる。スタイルは抜群。校内の男子が噂しているのを聞いたことがあるくらい、異性に人気のある人物だ。

 

「更衣室って換気扇がプールサイドに向かって着いているんだけど、そこで天野さん達の話し声が聞こえてきたの。それが、手塚さんに対する悪口だったの。更衣室の雰囲気は凄く悪くなって、居た堪れなくなった他の部員がすぐに着替えをすまして更衣室を出て行ってね。最後に私が手塚さんを中に残すような形で外に出て行ったの。手塚さんの横顔がその時見えたんだけど、歯を食いしばるような表情をしてて……ほんとに可哀そうだったな」


「そうなんだ……何か可哀そうだね。でも何で嫌われたりしてるんだろう?」


「一番はやっぱり手塚さんが男子に人気があるのを妬んでるのかな。水泳部でもエースだし、ほんとに非の打ちどころがないというか……けど、意思表示をはっきりしなくて、少し暗い雰囲気があるから、同性からしたら取っつきにくい所もあるし、文句の言われやすそうな人だからじゃないかな。私も喋りかけづらくて、あまり仲良くなくて」


「そうなんだ……、手塚さんはその後はどうしてたの?」


「少しした後、更衣室から出てきたかな。多分だけど。はっきり言って、今回の事件が天野さん達3人の荷物だけがやられてたなら、手塚さんが犯人で間違いなかったと思う。最後に更衣室から出てきた人だし。けど、全員の荷物が荒らされてたって事は、やっぱりそうじゃないよね。部外の人がやったのかなって思う」


「そっか、ありがとう。参考になった。他に気になる事ってある?」


「ううん、もうないかな」


 私たちはそうやり取りすると聞き込みを終え、自分たちのクラスに戻った。そして状況を整理する事にする。

まず、事件のあった日に不審者はおらず、外部の犯行である可能性はない。更衣室に最後まで残っていた人物は手塚さん。部員達の仲は悪かった。これらを考えて、導き出される答えを藤井さんと私は求めた。


「外部の犯行ではないってことは、やっぱり最後に部室から出てきた手塚さんが犯人ってことになるよね」


「でもなんでそんな事したんだろう? 何か理由があるのかな? 例えば天野さん達3人の荷物だけが荒らされてるなら分かるけど……全員となると辻褄が合わないよね」


「見て見ぬ振りをする他の部員にも腹がたってやったとか?」


「それだったら自分の荷物はバラまかないとは思うんだけど……」


「そっか、そうだよね……全員の荷物を荒さなきゃいけなかった理由があるのかな?」


 私たちは考え込んで無言になる。答えのない問題を解いているような気分に陥り、すっかり意気消沈していた。私たちの間には次第に会話がなくなり、無言になる時間が増えてしまう。

 

 すると、早乙女君がやってきた。

 

「どう? 聞き込みは成果があったかな?」


「ゆう君!」


「早乙女君!」


 私たちは早乙女君に事情を説明する事になった。

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