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 オープンから日が経っていないという事もあり、園内は子連れの親子や、カップルといった人たちで溢れ返る。早乙女君は人ゴミが苦手だと言っていたので、少し気になるところだ。


 歩き出したはいいものの、早乙女君は常に後方で物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡していた。そんな早乙女君が気になったのか、中川君が肩に手を回して、声をかけた。


「早乙女、何か緊張してる?」


「あぁ、いや。遊園地なんて何年も来てなくて久しぶりだったから、ちょっと戸惑っちゃってね」


「はぁ? 何年もって……たかが数年だろ?」


 その言葉を聞いた早乙女君は、ハッとした表情の後、返事をした。


「あ、そっか。そうだね。それもそうか」


 私達はその言葉に、はて、と思いながらも園内を進んでいく。その後、徐々に人ごみに慣れた早乙女君は、中川君と会話を楽しみながら歩くようになっていった。ちょっとだけ表情が柔らかくなり、笑顔も見せている。お母さんかと思われそうだが、少しだけ安心してしまった自分がいた。


 途中、遊園地のマスコットキャラクターが手を振っていた。園内のジェットコースターが売りという事もあり、ドラゴンがモチーフになっているキャラクターだ。全体が淡い緑色をしていて、鱗を表現しているようだ。それでいて、目は円らで、鼻が豚鼻のように可愛らしい。


 私と藤井さんはその方向へと駆けつけ、写真を一緒に撮ってもらう事にした。キャラクターの横にいた、従業員のお兄さんにカメラを預けて、4人とマスコットの写真を撮ってもらう。


 そのお兄さんからお礼混じりにカメラを受け取った後、藤井さんと私、そして早乙女君の順に風船を頂いた。風船は赤色で、空に飛んでいかない程度の浮力でフワフワと浮いているものだ。ハートの形をしているので、結構可愛い。


 お礼を言った後、歩く私達は疑問に思うことがあった。藤井さんがそれに最初に気付き、私達に話しかけてきた。


「ねぇねぇ、あの従業員の人、どうして りゅうじ には風船渡さなかったんだろ?」


「あ、ほんとだな。まぁ、可愛すぎる風船だし、別にいいけど」


 中川君がそう言い放った後、早乙女君が自分の風船をジッと見つめながら、


「この風船のコンセプトって可愛らしさだよね。渡すターゲットって、もしかして……」


 と、独り言を言った。


 私達はそれを聞き逃さなかった。そして、意味を理解した私達三人は、お腹を抑えて笑い出す。


「あっはっは、俺、ハーレムじゃん」


「あははは、あはは苦しい」


「あははー、可愛いねー、ゆうちゃん」


 最後に茶化すように言い放った藤井さんの言葉を聞き、早乙女君は顔を赤らめてしまった。むぅとなった顔がよく似合っている。こんな顔をしているのだから、女の子と間違われるのも、無理はないなと思った。


 そんな出来事の後、私達は色んな乗り物に乗ったりして、楽しんだ。乗り物に乗って高い場所から滑り落ちる、ウォータースライダーは中々のスリルが味わえた。


 着水の瞬間、大量の水しぶきが宙を舞い、私達に降り注ぐ。塩素の匂いがする少し生臭い水で、私達はビショビショになってしまった。白い服を着てこなくて正解だった。もし着ていたら、下着が透けてしまっただろう。


 ちなみに乗り物から降りた早乙女君が、滑って転んで尻餅を着いてしまい、他のお客さんに笑われるという恥ずかしい目に遭っていた。仕事モードじゃない時は、結構ドジっぽいのかもしれない。


 お化け屋敷は一転、中川君の反応が面白かった。体は大きい割りに、そういうのにはめっぽう弱いらしい。


「うわ、うわ、あいり! 早乙女!」


 と、藤井さんに抱きついたり、早乙女君に抱きついたり。本来は女の子がそういうリアクションをする気がするのだが、おかしな光景だ。


 私はホラー系統があまり得意ではないので、内心ビクビクしていたのだが、それ以上に中川君が驚くのでなんだか面白くなってしまい、怖くなくなってしまった。ちなみに、藤井さんはというと中川君を見て大笑いしていた。


 その後、ジェットコースターに乗ることにした。一番人気の乗り物という事で、かなりの人数が並んではいた。けれど、客の回転率が良かったという事もあり、待ち時間はさほど長くなく、どんどんと前に進んでいく。


 その前に乗った乗り物の話や次に何を乗るかなどと、3人でワイワイと楽しんでいる中、早乙女君は無言で青ざめた表情をしていた。もしかしてと思い、大丈夫かと声をかけると、


「この遊園地って最近オープンしたんだよね。初期稼動のジェットコースターはバスタブ曲線的に不具合が起きやすいから、あまり気がすすまないな、うん。やめない? それか留守番してるよ」


 と、何を言っているか分からないが、言い訳をして逃れようとした。そんな事を言いながら入り口に戻ろうとする早乙女君を、中川君は笑いながら羽交い絞めにしてしまった。そして結局皆でジェットコースターに乗る事になった。


 ガタンガタンとゆっくりとレールを昇り、緊張が最高潮に達する。そして、一気に無重力になるかのように私達は落下していった。


 足が固定されないタイプのジェットコースターだ。ブラリと宙を無造作に舞うように、左右に引っ張られる。横軸方向に360度回転しながら、レールをまた昇りつめる。次は、縦の回転だ。頭をしっかり固定しないと、首がどうにかなりそうだ。


 目まぐるしく視界が変化していくなか、私はこのスリルを楽しんでいた。横に乗っていた早乙女君が、わぁ、ちょっと、と何か言っているように聞こえる。


 楽しみは並ぶ時間と反比例して、直ぐに終了してしまう。コースターから降りた私達は、興奮を言葉で表し、共有していた。


 手を拡げ、面白かったと表現する中川君。胸の前に握りこぶしを可愛く作り、もう一回乗ろうよと提案する藤井さん。

それに対し、うん、もう一回乗ろうと私は返事をした。しかし、もう一人の感想が一切無い。


 3人で後ろを振り返ると、早乙女君が首を押さえながら、フラフラとしている。少し涙目ながら、もう勘弁してくれと私達に懇願した。


 絶叫マシンは苦手なようだ。だが、私達はそれを許すはずが無い。


 面白がる私達に手を引っ張られながらも、3回も連続で乗ることになり、早乙女君はその度にフラフラになっていた。反する私達は、大満足であった。




 お昼になり、私達は園内の食事処で昼食をとることになった。清潔感のある、白色の大きな建物の中に入ると、いくつものファストフードのカウンターが目の前に並ぶ。運よく席を確保できた私達は、一旦座り、どんな食べ物があるかを見渡す。


 無難にハンバーガーなどを頼もうと決めた私達は、席を立とうとした。すると、早乙女君がそれを止め、皆の注文を聞き、一人で頼んでくるよと言い残して席を立った。私達3人は、それに甘えるような形で席に座ってゆっくりとしていた。


 遠くに早乙女君が並んでいる姿が見える。それを横目で確認した藤井さんが、私達に話しかけてきた。


「ねぇ、どう思う?」


「どうって……何が?」


 中川君が返事をする。藤井さんが質問の詳細を話し出す。


「ゆう君だよ。皆何も思わないの?」


 中川君が、笑いながら返事をする。


「絶叫マシンが苦手で、結構ドジっぽいよな」


「そうじゃなくって! 何か、不思議な人だなーって思わない?」


 藤井さんと中川君のやり取りを聞きながら考える。確かに早乙女君は謎の多い人物だ。そして、それに対して、あまり深く考えたことは無かった。


「そういえばそうだよね。凄い色んな知識を持ってるし、落ち着いてるし。男子の中でも、大人びてるよね」


「凄い色んな知識っていうのも、ちょっと偏ってると思わないー?」


 藤井さんが人差し指を立てながら、説明を続ける。


「例えばさ……、さっきジェットコースターで言ってたバスタブ曲線……とかなんとか。あれ、さっき携帯で調べてみたんだけど、普通の高校生じゃまず知らないと思うんだー」


「どういう意味なんだ?」


「何か、機械とかシステムとかで使われる用語みたい。詳しくはよく分からないんだけど、故障率がなんとかとか書いてあったよー」


「へぇ、変わった事知ってるんだなアイツ」


 2人の会話を聞きながら、私は早乙女君の過去の行動を思い出していた。少し視線が上にしつつ、思い出しながらも声を出す。


「そういえば、読んでる本に『ITのなんとか』って本があったっけ。題名は詳しく覚えてないけど」


 私の言葉に、藤井さんが喰い付いてくる。


「やっぱり! この前、ちょっと喋ったんだけど、パソコンの知識が凄かったの! 前の学校で、そういうのを勉強してたのかな?」


 藤井さんの言葉を聞いて、私はハッとした。そう思うと、早乙女君が普段使っている言葉や知識に、システムといった単語などが多く表れていた事に気付く。


「っていう事は、そういったパソコンの知識を使って悩み相談とかしてるのかな?」


「うーん、どうなんだろうね。よく分からないけど、とりあえずは変な知識をいっぱい持ってる人だよね。みゆちゃんって、ゆう君といつも一緒だけど、何か知ってる? 何処から転校してきたとか、何をしてたのかとか」


「んっと……ごめんなさい……何も知らないんだ」


 そうだ、私は早乙女君の事を何も知らない。変わった人だなとか、凄い人だなと私の中で完結してしまっていただけだった。


「そう言われると、確かに変わった奴だよな。いっつも変な事考えてるし、何か見てるところも人と違うし。友達が少ないってのもおかしいよな、前の学校のやつと連絡してるとか聞いたことないし。で、運動神経が良いんだよなー。バスケ部に誘ってるんだけど、入ってくれないんだよ」

 

 運動神経という点で、思い出したことが一点あった。その事を二人に伝えることにする。


「そういえば、テニス上手いんだよね。テニス部の男子に勝ってたの噂になってたよね」


「あぁ、板垣に勝ったんだってな。レギュラーじゃないらしいけど、それでも凄いよなー。前の学校でテニス部だったとか?」


「何か、ますます謎な人物だよねー……」


 藤井さんの最後の言葉を聞いて、私達はウーンと唸ってしまう。変な事を色々知っていて、運動が出来て、大人びている。情報に一貫性が全く無い。


「何の話?」


 そんな話をしていると、早乙女君が全員分のお昼を、お盆の上に乗せて戻ってきてしまった。


 大きく吸い込まれそうな瞳をこちらに向けた。そして、首を傾げる彼を見て、私達は無言になってしまう。


 本当に、謎の多い人物だ。




 昼食を終えた私達は、強い日差しの中を歩き出す。まだ周っていない場所を、探索するという目的だ。


 人の少ない射的場や、ゲームセンター等を見付けては、その場所で楽しんだ。そうやって園内の端を巡っていると、大きな緑の壁が見えてくる。


 気になった私達はそこへ歩んでいくと、壁の一箇所に入り口が設けられている事が分かった。入り口には従業員の人が立っており、入ろうとするお客さんに説明を行っている。


 私達は更に歩み寄り、説明を聞いてみる事にする。従業員の説明によると、それは大きなガーデン迷路である事が分かった。それも、巨大も巨大。ゴールまでの所要時間は平均で30分もかかるという大迷路だ。


 南側の外壁に入り口があり、北側の外壁に出口がある。つまり、私達は南側の外壁に立っている事になる。


 東側と西側の外壁から、監視員がぽつぽつと頭を覗かせた。高い監視台にのり、出口に辿り着けない人を助ける役割を担っているようだ。もし、ゴールに辿りつけなくなった場合は、監視員に声をかければ助けてくれるらしい。


 今も、監視員が誰かを助ける為に声をかけているのが聞こえてきた。同時に多くの人が、この迷路を楽しんでいるようだ。


 そうして、そこまで話を聞いた私達は迷路に挑戦する事に決めた。すると、藤井さんが面白い事を思いついたらしく、人差し指を立て、にこやかに私達に話しかけた。


「ねぇねぇ、誰が一番速く迷路を抜けられるか、競争しないー?」


「お、いいねぇ!」


 藤井さんの提案に、中川君が乗り気になる。そして、私と早乙女君も、その面白そうな案に賛成する事にする。その返事を聞いた藤井さんは、うーんと考えた表情をした後に、もう一つ提案をした。


「一位になった人は、三人に対して、何でも一つお願いを言えるってのはどう?」


 ニヤリとした表情をする藤井さんが、賞品を発表した。


 それに対して、私は、


「いいよ、面白そう!」


 と、返事をする。


 他の男子二人も、それに賛同した。


 競争を始める前に、二つルールを設定した。他のお客さんや、監視員と喋ってはいけない。そして、走ってはいけないというものだ。


 これをしてしまうと、ゴールまでの道筋が分かってしまうし、走った場合は男子と女子に差が出てしまう。また、走ってはいけないというのは、この迷路に入る前に注意された事でもあった。


 そうしてルールを決めた後、私達はガーデン迷路の入り口に入った。


 中に入ると、壁一面が緑で、地面もその色で全て統一されていた。これでは目印を付ける事も出来ないし、他の場所と区別が付かない。とても厄介な迷路である事が分かった。


 そして、入って直ぐに前、左、右にそれぞれ通路が分かれていた。少しの観察後、藤井さんが私達に目を配り、大きく声を出した。


「それじゃいくよー? ヨーイドン!」


 その声の後、中川君と藤井さん、そして私は一斉に迷路を探索し始めた。中川君は直進し、藤井さんは右方向に進む。そして、私は迷わず左の通路に進んだ。


 数歩進んだ後、私は何か忘れているような気がして、後ろを振り返る。すると、早乙女君がその場に立ったまま動こうとしないのが見えた。


 どうかしたのかなと思いつつ、振り返ったまま前を歩いていると、正面から歩いてきた人とぶつかってしまった。


 私はとっさに、


「すみません!」


 と声を出した。


 他のお客さんと喋ってはいけないルールを直ぐに思い出したが、これくらいであれば流石に許してもらえるだろう。


 その後頭を下げて、もう一度丁寧に謝った後、早乙女君の方向をもう一度振り向いた。しかし、藤井さんが歩いていった右側の方向から、他のお客さんである男性がこちらに歩いてくるのが見えたたけで、早乙女君の姿はそこには無かった。


 中川君と同じ方向に歩き始めたようだ。これは急がなければならない。そう思った私は、誰にも見られてない事を確認して、左手を壁に添えながら歩み始めた。


 焦りは一切無い。それどころか、私はフフフと、笑みを浮かべていたと思う。


 そう、私には自信があったのだ。


 その理由は、外壁に沿えた左手。私のとっておきである、左手手法だ。


 左手手法は、別名で右手手法とも言われている、迷路の探索手法だ。左側の外壁に手を付いて、ひたすら壁沿いに進むという方法で、壁の切れ目が迷路の入口と出口にしかない場合に、使うことができる。


 この迷路は、迷路の中にゴールがある訳ではなく、外壁に沿ってゴールが設置されている。つまりこれを使えば、迷うことなく必ず入口か出口に辿りつける。


 同様に右手でも同じ事を行えば、ゴールに辿りつける。


 この迷路は、何処を通ったのかを記録できないので、この手法が大きな力を発揮する事は間違いない。


 この勝負、もらったも同然だ。他の三人にどんなお願いをしてやろうかと考えつつ、私は歩みを強めた。


 たくさんのお客さんとすれ違ったり、追い抜きながらも、私は着実にゴールへと向かっていく。最初に探索した左通路が行き止まりだったのが、悔やまれる所だったが、それは仕方のない事だ。


 他のお客さんを見ていると、頭をポリポリと掻いていたり、首を傾げていたりする人が多い。対する私は不安が一切無かった。この手法は必ずゴール出来るからだ。


 ゴールに近づいているという実感がある中、探索して20分程経った頃。遠くから、中川君の声がするのが聞こえた。


「すみませーん、諦めます! 出口教えてください!」


 監視員に助けを求める声だ。どうやら中川君が脱落したようだ。


 勝てるかもしれないという希望が沸きあがり、私を焦らせてくる。このタイミングでゴールできれば、一位の可能性は高い。


 そして、遂に壁に切れ目が見えた。ゴールだ。迷路から外へと出た瞬間、達成感に私は満たされた。


 開始から20分。平均より10分も早いゴールだ。私が一人で笑顔になっている最中、先ほど通ったゴールから藤井さんが現れた。


 藤井さんと目が合った瞬間、彼女が残念そうな表情をする。


「えー、自信あったんだけどなー」


 私は得意気な表情で、


「秘策があったからね」


 フフンと、彼女に言い放つ。


 敗北感が表情に表れている藤井さんは、やや下に向けていた視線を、私の方に向けると、急に驚いた表情をしながら声を出した。


「あれ!?」


 その視線が、私の後ろの方向に向けられていると分かった私は、その視線の先に目を向けた。そして、私も同じように驚く事になってしまった。


 早乙女君がベンチに座っていたのだ。


「え、えぇ!? そんな!」


 驚く私達は、早乙女君の元に駆け寄る。


「ゆう君が一番!?」


「あぁ、うん。一番だったみたい。運が良かったみたいだよ」


 運が良い。その言葉を聞いて、私は残念な気持ちになった。ちゃんとした手法を使ったのにも関わらず、運によって負けてしまったと感じたからだ。ちょっと拗ねた気分になった私は、口を膨らまして、早乙女君に話しかけた。


「ちゃんとした方法使ったのに、運に負けちゃったんだね」


 それを聞いた藤井さんが、えっ、という表情をする。私はそれに気付いて視線を彼女に向けると、


「もしかして、みゆちゃんも何か方法使ってたの?」


 それを聞いた私は、藤井さんがスタートした瞬間に右通路に歩き出したのを思い出した。


「え、っていう事は藤井さんって右手手法使ってたの?」


「そっか、みゆちゃんは左手手法使ってたのかー。うーん、誰も知らないと思って自信があったんだけどな」


 笑いながら言う彼女を見つめて、私は思い出していた。この提案をしたのは藤井さんだ。つまりは自信があったのだ。そして、その理由は右手手法を知っていたからだったらしい。


 私達二人が同じ手法を使って、そして運によって負けた事でガックリとしていると、早乙女君が声を出した。


「へぇ、二人とも、探索アルゴリズムを使ってたんだね。それで迷わず出られたんだ」


「でも、使ってない人に負けちゃったけどね」


 藤井さんが前で手を組み、片目だけを開けてそう返事をした。すると、早乙女君が渇いた笑いをしながら、驚く事を口にした。


「実は、僕も使ってたんだけどね」


『えっ、そうなの!?』


 私と藤井さんが声を揃えて反応する。するとその直後、後ろから中川君の声がした。


「やっと出れたぁぁぁ」


 ゴールから現れた中川君は、疲労感に満ち溢れていた。それを見た私達は、笑いながら、呆れながらも声を揃えて声をかけた。


『遅~い!』


 中川君が、そりゃないよという表情をしていた。

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