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「おーい、長谷川! こっちこっち!」
休日のとある駅前。照りつけるような日差しの日。
五分丈の白色のTシャツを着て、七分丈のベージュ色のカーゴパンツを穿いた高身長の人物が、私に手を振りながら声を出す。赤のスニーカーが強調されており、全体のバランスを上手く調整しているように見える。そして黒のベースボールキャップが彼の雰囲気に合っており、これぞまさしくスポーティカジュアルだなと感じた。
手を振っている人物は、中川りゅうじ 君。そして、横には 藤井あいり さんも見える。
ニコリと表情を笑顔に変える藤井さんは、相変わらずお洒落な人だと思った。中川君のコーディネートに合わせるように、赤いボーダーが鮮やかなポロワンピースの上に、更に赤のカーディガンを羽織っていた。足元は茶色のウェッジソールのサンダルを履いていて、綺麗に纏められている。スポーティだが、それでいて綺麗なファッションだ。
サイドで束ねられたツインテールが、今日は活発な女の子を演出している。目は猫のようにクリクリとしていた。そんな彼女に対し、私は気になる事を質問をする。
「早乙女君はまだ?」
「まだ着いてないみたい。同じ電車に乗ってたんじゃない? あ、後ろ見て、来た来た」
私は後ろを振り向く。駅の改札から出てきた早乙女君が、日の光を手のひらで遮りながら現れた。
白色のVネックのインナーの上から、紺色のカーディガン。そして、光沢のある黒色をした細身のズボンをロールアップして穿き、少しヒールのある皮製の黒のスニーカーを履いていた。そのタイトなシルエットに、相変わらず男性らしさは感じられない。
動く口元を読み取ってみると、「あっつ」と言っているように見えた。
早乙女君が、そのままヨロヨロとこちらの方へ歩いてくる。私達の目の前に到着した後、中川君が心配そうに言葉を出した。
「早乙女……細すぎだろ……もうちょっと食べろよ」
「ほんと、そこらへんの女の人より細いし、女っぽいよね」
腰に手を当てながら言う藤井さんの追い討ちに対し、早乙女君が困った顔になった。よく様子を見ると、到着した時点で既にヘロヘロになっている。
「いや、だめだ。ほんと暑いのは苦手なんだ……。電車も人が多くて、困ったよ。人ごみも苦手で……」
いかにも早乙女君らしい言葉だ。こういう場所より、図書館で本を読んでいる姿の方がお似合いである。
「ま、そう言うなよ! 今日は楽しもうぜ!」
中川君が早乙女君の背中をバンッと音を立てながら押し出す。ケホケホと咳き込みながら早乙女君が足を進めだした。
ゴーッという風の切り裂く音と、金属音が遠くから聴こえてくる。その音の中に、女性の悲鳴も混じっている。
私達の向かう先は、最近オープンしたアトラクションパーク……すなわち遊園地だ。
多くの人が、私達と同じ方向に歩いていく。そんな中、目の前の中川君と早乙女君が並んで歩いていた。その後ろを、藤井さんと私の二人が見守るような形で後を追う。
暑さに慣れたのか、落ち着きを取り戻した早乙女君は、中川君の話をうんうんと聞いている。大きく笑う中川君を見るに、どうやら楽しそうな話をしているらしい。この二人は、以前より更に仲が良くなったようだ。コミュニケーションにぎこちなさは全くなく、自然に会話をしている様に見える。
二人を見ていると、右隣を歩く藤井さんが声をかけてきた。
「この前はごめんね」
「え?」
「ゆう君を借りた事だよ。ちょっと事情があったんだー」
「あ、いや、気にしてないよ。それに借りただんて……」
そう言って恥ずかしくなってしまう私に対して、フフと笑顔になる藤井さん。これはいけないと感じ、違う話を振ることにした。
「そういえば、お礼言うの忘れてた。誘ってくれてありがとう。しかも入場料まで出してもらえるなんて」
「ううん、気にしないで。たまたまチケットを貰えたから、誰か誘おうって りゅうじ と話してたの。で、りゅうじ が ゆう君と みゆちゃん を誘いたいって言い出したから。私も二人にお詫びしたいなって思ってたし」
「そうなんだ」
「ま、そんな事は気にしないで、りゅうじ の言うとおり楽しんで貰えると嬉しいなー」
「うん、わかった」
私自身、藤井さんとはもっと喋ってみたいとは思っていた。仲良くなるいいきっかけになるような気がして、少し胸が躍った。それにこのシチュエーションは……、
「ダブルデートっぽいよね、これ」
ニヤリと微笑みながら、私に対して耳打ちをしてくる藤井さん。私はビクリと体が動いてしまった。動揺を隠し切れなくなってしまう。
「も、もうからかわないでよ!」
「あははー」
やはり敵に回したくない人物だ。そんな藤井さんの笑い声につられて、中川君がこちらに視線を向ける。
そのまま私に、
「なになに?」
そう言った中川君に合わせて、早乙女君もこちらに視線を向けた。
私はたまらず、
「なんでもないよ! 進んで、進んで!」
と、二人の背中を押し放った。ポケーっとした早乙女君の顔がとても印象的だった。
中川君は、ちぇっという表情をしながら早乙女君と話を続けた。男の子は気楽だなぁなんて上目線になりつつも、自分を落ち着かせる事に精一杯だった。
そうこうしている間に、入場門へと到着した。
「わ、綺麗!」
入場門に入り、整備された美しい通路の上に4人で立つと、多くの花壇に植えられた花や木々が私達を迎えてくれる。
空を見ると、ジェットコースターのレールが無造作に畝って竜のように姿を現している。一番奥には、大きな観覧車が見えた。
川のように見える場所には、ボートが流れていて、子連れの家族が乗っている。そして、アトラクションが設置されている無数の建物が、いくつも連なって聳えていた。
「すごーい、広いね!」
「メチャクチャ遊べそうだな!」
藤井さんと中川君も、私同様、素直な感想を述べていた。そんな中、早乙女君はパンフレットをジッと見つめている。それが気になったのか、藤井さんが声をかけた。
「ゆう君、どうしたの?」
「いや、とても広そうな場所だから、内部の情報を整理しなきゃいけないと思ってね。全部周ろうと思ったら、効率的に動かなくちゃいけないから……」
「あー、もう! 早乙女はいっつも考えすぎなんだよ! こういうのは適当! 適当!」
中川君がそう言いながら、そして笑いながらも強引に早乙女君のパンフレットを奪い取った。早乙女君がキョトンとして動かなくなってしまう。
けど、その意見には私も同意だ。早乙女君はちょっと考えすぎな所があるから、それくらいが丁度いいのだ。
「さ、いきましょ!」
藤井さんの言葉に合わせて、私達は歩みを強めた。