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絶望と解放
十一月の末、19時。
日は落ちて辺りは暗くなり、肌寒い風が頬に刺さるように吹きつける。
鼻をすするとその季節特有の空気の乾いた匂いがして、冬の訪れを感じた。ビルの最上階から冷え切った手摺越しに景色を眺めていると、遠くから電車の音が聞こえてくる。社会に貢献しているサラリーマン様が、多少の残業を終えて帰宅の途についている頃だろう。
「ここなら誰かに見つけてもらえるよな」
誰かと喋っている訳でもなかったが、自然と口から言葉を発していた。きっと永遠に続いてしまいそうなこの空間と時間に、トリガーを引きたかったのだろう。
発した言葉と連動するかのように、体は効率化されたシステムのような動きで手摺を乗り越えた。少しも戸惑うことなどなく、体の震えも一切なかった。
あるのはただ解放感と安堵感だけだった。
その日、僕は苦しみから解き放たれた。