第三話「袖振り合うも多生の縁」②
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第三話「袖振り合うも多生の縁」②
---Yuino Eye's---
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「あはは……なんだ中菱さん、そんな顔も出来るんじゃない……。学校じゃいつも眉間に皺寄せてて、不機嫌な感じだったけどさ……普通にしてれば、普通に可愛いじゃないの」
とりあえず、クロちゃんの事は置いといて……。
そう言って、笑いかけると中菱さん、背中を丸めてとっても小さくなる。
俯いて、赤みがかったツインテールの先っちょ同士をくっつけて、クルクルチマチマと指遊び。
何とも可愛らしいと言うか、何と言うか……なに、この可愛らしい生き物はっ!
「か、可愛い? ですか? えへへ……なんかうれしいです……。あと……出来ればなんですけど……中菱って呼ばないで……。く、紅葉って名前の方で呼んで欲しいんですけど…ダメ? ですか?」
そう言って、少しだけ微笑む中菱さん。
なんだよぉ……普通に可愛いじゃない……この娘。
今の笑顔はドキッとしたよ? 私、女の子だけど……今の笑顔はヤバイ。
よく見れば髪の毛とかサラッサラだし、やっぱいいなぁ……こんな女の子女の子してる娘ってさ! なんか羨ましいよっ!
彼女は、町外れの山の上にある中菱家の一番下。
なんか訳ありで、元々東京住まいで向こうの学校に通ってたらしいんだけど。
二学期になってから、こっちに転校してきた……いわばお嬢様。
……私も密かに仲良くしたいなって思ってたんだけど。
なんか変な取り巻き軍団が出来ちゃった上に、最初に交わした言葉が「邪魔! そこどいて!」だったんだよね……。
要は第一印象が良くなくて、こっちも避けてた感じで……。
その上、体育の剣道の練習試合で、自信満々な感じで挑んできた所を軽く負かしちゃったもんで、それ以降目の敵にされたって感じで……。
なんか、取り巻き連中から「空気読め!」とか詰め寄られたり、それ以外にも上履き隠されたり、授業中に後ろから紙くずが飛んできたりだの、なんともショッボーい嫌がらせを色々やられた。
……むしろここは、怒っていいのかもしれないけど。
向こうがわだかまりを捨てて、歩み寄ってくれるなら、それを拒むってのも無いよね?
一応、こっちも命の恩人なんだし、そもそも、この娘……どこか嫌いになれなかったんだよね……。
何ていうか……皆に囲まれながら、作り笑いを浮かべて、必死に愛想振りまいてるって感じでさ……。
ホントは、手を差し伸べてあげたかったんだよね……。
「そっか、そういや……紅葉ちゃんって名前だっけ。皆、中菱さんって呼んでるけど……私も友達は皆、結乃ちゃんって呼んでくれてるし……ホントは、そんなもんだよね。でも、中菱家ってこの辺でも名家って事で有名なんだから、仕方ないんじゃないかな」
私がそう言うと紅葉ちゃんは首を大きく横に振る。
「私……自分の家の事好きじゃないの……もちろん、翠お姉ちゃんは大好きだけど。お父様もお兄様もホントは大嫌い! 古臭いしきたりとか見栄とか……そんなばっかで、人の都合なんて全然考えない。私……東京にだって、友達いたし向こうだと皆、普通に接してくれてた。それがむしろ、嬉しかったんです……本当はずっと向こうが良かった。なのに……無理やりこっちに戻されて……。こっちだと、皆……中菱の娘って色眼鏡で見るから、それが嫌で嫌でしょうがなかったんです。」
なんか良く解かんないけど、複雑なお家事情って奴なのね。
あの作り笑いの意味も何となく解ってきた……皆、平穏そうに見えて大変なんだよね……。
「解った……まぁ、紅葉ちゃんも色々大変だったんだね。確かに紅葉ちゃん達はちょーっと色々やらかしてくれたけど……。別に気にして……ないなぁ……私、いつまでも根に持ったりとか、無理! 嫌なことがあっても、一晩寝ると綺麗サッパリ忘れちゃうし……。じゃあ……この超美味しいレアチーズケーキに免じて許す!」
そう言うと、紅葉ちゃんは物凄く嬉しそうに笑顔を見せると改めて、深々と頭を下げる。
「あ、あの! あの……わ、私も結乃ちゃんって呼んでいいですか?」
「それは構わないよ……友達は皆、そう呼んでる。と言うか……私、紅葉ちゃんとはもうお友達のつもりだったんだけど……違った?」
私がそう言うと、紅葉ちゃんは物凄い勢いで首を振る。
ツインテールも合わせて、ブンブン揺れる。
「ありがとう! 結乃ちゃん! あと……私の取り巻き連中なんだけど……たぶん、明日からもう寄ってこないと思います!」
「そいや、お昼くらいになんか騒いでたね……あれ、どうしちゃったの?」
「アイツら……結乃ちゃんが車に撥ねられる所をスマホで動画撮影してて笑いものにしてたの。アッタマ来たから、スマホ取り上げてバキバキに叩き壊して、あの場に居た全員、昨日のこと全部忘れさせてやりました。他人の記憶操作なんて、ちゃんとやった事無かったから、色々余計な事も忘れちゃったかもしれないけど、どうせ当人達も何を忘れたかすらも覚えてないから、問題ありませんよね!」
立ち上がって、何だか力強く力説する紅葉ちゃんに私も思わずポカーン。
「あ、あのさ……記憶操作って何? ごめん、なんか聞き間違えた……かな?」
紅葉ちゃんの取巻き連中が最低の連中だって事は知ってるけど……記憶操作って……ここで見たことは忘れろ! パチン! とかやるヤツ?
「はい! 間違ってませんよ! えっと、この際だから……結乃ちゃんには特別に教えますけど……。
私……結乃ちゃんと同じ魔法使いなんです!」
紅葉ちゃんのあっさり過ぎる衝撃のカミングアウトに思わず、言葉を失う。
しかも、「同じ」って! 「同じ」って言ったよね!
……要は、私も紅葉ちゃんに魔法使い認定されてたって事……なの……かな?
うそーっ! なんてこった!!
でも、考えてみれば……あんなん普通は死んじゃうよね……?
それで次の日、何事も無く平然と学校来てたら、魔法使いでもないと無理=仲間! ってなっちゃったのか。
あー、これどうしよう? クロちゃんヘルプミー!
……って、ここでクロちゃんまで見つかっちゃったら、ますますややこしい事になるぅ!
そ、そうだ……記憶操作ってのが紅葉ちゃん出来るなら、まずそれを教えてもらおう……そして、紅葉ちゃんの記憶を消しちゃおう! って、意味がわかんないよっ!
「凄いですよね! あんな怪我してたのに、そこまで綺麗に治せるなんて……お姉ちゃんより凄い! それに……この家の近くにも警報や認識阻害の結界がいくつもあったし……おかげで家の場所は解ってたのに、物凄い遠回りさせられちゃいました! 結乃ちゃん……今まで魔術師だったなんて全然気づかなかったし、あの結界式……物凄く高度でした。同い年なのに凄いです! 尊敬しますっ! けど、結乃ちゃんがお仲間だったなんて……むしろ嬉しいです!」
そう言って、両手を合わせてニッコリと微笑む紅葉ちゃん。
けど、私的にはそれどころじゃなかった! 考えれば考えるほど、セルフボケツッコミの思考ループ。
って言うか! クロちゃん、そんなの家の周りに仕掛けてたのかっ!
しかも、見つけられてるとか……それじゃあもう、言い逃れのしようがないじゃないの……。
も、もうこうなったら、紅葉ちゃんに話し合わせるしかないっ!
けど、本物の魔法使いの人達の事なんて、私全然解かんないよっ! クロちゃん! なんとかしてっ!
「安心してください……誰にも言いません! これまでずっと秘密にしてきたんですよね? ……その辺の事情、私も解ります……私だって、自分が魔術師なんて公言するつもりはありません。どうせ普通の人に言っても、理解なんてされませんからね……だから、内緒にするのは当然です……」
私があからさまに動揺してるのを見て取ったのか、そんな事を言う紅葉ちゃん。
「う、うん……紅葉ちゃんも私の事は秘密にしといて……そだね! これは二人だけの秘密って奴だねっ!
私も仲間ができて嬉しい! そんな訳で今後ともよろしくねっ!」
そう言って、紅葉ちゃんの隣に行って、手を差し出すと、紅葉ちゃん何を思ったのか思い切り抱き付いてきた!
(こ、この手の平返しっぷりはなんなのよーっ! もう、この娘、ワケわかんなーいっ!)
抱きつかれて気付いたんだけど……この娘、胸おっきかった。
いや……ホント、どうでもいいね。