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第三話「袖振り合うも多生の縁」①

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第三話「袖振り合うも多生の縁」①

---Yuino Eye's---

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 ひとまず、あれから何事もなく……放課後になり、無事に我が家に帰ってきたのだけど。

 

 色々あったけど、一安心……と思ったら……突然の来客!

 

 誰かと思ったら、なんと中菱のヤツだった!

 

 なんか昨日のお詫びとお礼って事で、レアチーズケーキなんて持ってきてくれた。

 しっかも、岡山の駅ビルの中にあるケーキ屋さんのたっかいたっかいヤツ!

 

 まぁ……貰うものもらって、すぐに帰ってもらっちゃうのもなんだったんで、部屋に上がってもらった。

 

 中菱は……昨日、車に撥ねられそうになった所をとっさに助けちゃったんだけど。

 

 元々は、取り巻き連中と一緒に陰険な嫌がらせみたいなのを仕掛けられてて、むしろ仲は良くなかった。

 私としては、積極的に関わり合いを持ちたくなかったのだけど。

 

 クロちゃんの話だと延々30分もうちの周りをウロウロしてたらしく……本人もここに来るまでに相当な葛藤があったらしい。

 

 それに、上がる? って聞いた時、超嬉しそうにしちゃって……そんな様子を見たら、ほっとけなくなった。

 私も大概お人好しだよね……。

 

「えっと……中菱さん、紅茶で良かった? うち、安物しか無いから、お口にあわないかも……だけど」

 

 そう言って、二人分のティーカップをちゃぶ台に並べていく。

 ついでに、頂いたレアチーズケーキを二つ、机の上に用意する。

  

 ベッド脇のぬいぐるみの山に紛れて隠れてたクロちゃんがぬいぐるみの隙間から、すごーく物欲しそうに見てる……。


(……ごめん、あとであげるから、そこでおとなしくしてて!)


 そんな風に念じながら、両手を合わせると通じたらしく、ぬいぐるみの山の中に引っ込んでくれた。

 

「あ、あの……雪宮さん、私の分なんて要らないです! それ……昨日のお礼と今までのお詫び……だと思って……ください」


 やっとまともに口を開いて第一声がこれ……あれー? こんなしおらしい娘だっけ? こいつ。

 けど……いくら貰い物でも本人の前で一人だけ食べるとかないよね……。

 

「なんか4つももらっちゃって……お母ちゃんと私……2人だけじゃ、食べきれないしさ。せっかくだから、一緒に食べようよ?」

 

 そう言って、笑いかけてみる。

 何故か真っ赤な顔になって、俯く中菱……なんか調子狂うなぁ……。

 

「あ、ありがと……と言うか! そ、そうじゃなくて……昨日の事! 私のせいで、雪宮さんが車に撥ねられて……。でも、私……怖くなって、逃げようって言われて、逃げちゃって……。あの後ね……心配になって、一人だけ戻ったの……そしたら、もう全然何もなかったような感じで……。今朝、雪宮さんが何事もなかったみたいに学校来てるの見て……びっくりしたけど、心底良かったぁって思っちゃって……。あの……ホントにごめんなさいっ!」

 

 そこまで言うと、頭を下げて、いきなりポロポロ泣き出す中菱……。

 

(あわわわわっ! ど、どうしよう!)

 

 さすがに、この展開は予想もしてなかっただけど、私もワタワタになる。


 ちなみに、昨日何があったかというと……。

 

 交差点で信号待ちしてたら、いきなり訳の解らない事で中菱さんとその取り巻き連中が絡んできて……。


 口論の挙句、中菱が手を出してきたから、思わず避けたら勝手にコケて車道に転がっていって……。

 そこへ折り悪くスピード出し過ぎな感じの車が来て……とっさに助けあげたら、こっちが車に撥ねられた。

 

 簡単にざっくり言ってしまうと、そんな経緯。

 ざっくり言ってるけど、思い切り大事だよね……。


 しかも、中菱達は揃って逃げちゃったし、車の運転手も逃げるし……要は思い切りひき逃げされた……。

 

 あんまり人通りもない所だったし、あのままほったらかしにされてたら、普通に死んでたよ?

 ……中菱達もだけど、運転手も酷い……世知辛い話だよね……。

 

 けど、クロちゃんのお陰で私はちゃんと生きてるし、むしろ元気なもん。


 中菱も反省してるみたいだし……心配して戻ってきた辺り、他の連中よりマシ。

 そういや、なんかお昼に中菱と取巻き連中が喧嘩してたけど、理由はその辺なのかな……?


 まぁ、ここは綺麗サッパリ水に流しちゃうのが一番だよね!

 

 とりあえず……泣いてる中菱を尻目に、スプーンを取ってレアチーズケーキを一口食べる。

 思わず、言葉を無くすくらい美味しい! なにこれっ!

 

「お、美味しいっ! なんじゃこりゃーっ! あのケーキ屋さん、一番安いので500円とかして、めっちゃ高っ! とか思っとったけど。こんなに美味しかったんだ……ねねっ! 中菱さんも食べようっ!」


 思わず、顔がほころぶ。

 美味しいものを食べながら、怒ったり、仏頂面とか作ってくれた人に悪い。

 

 何と言うか……ケーキひとつで、こんな調子な自分になんとも言えない気分になるんだけど……。

 

 美味しいんだから、しょうが無い! 中菱さん、泣き落としの上に買収とかなかなかやるじゃないの!

 

 それに……クロちゃんじゃないけど。

 あの時、中菱さんを見捨てて目の前で死なれてたら、私は絶対後悔した。

 

 それに、結果的にクロちゃんと出会えた。

 

 クロちゃんもこっちの世界で訳も解らず、ずっと一人ぼっちで彷徨いながら、昼間みたいに敵に襲われまくるのを繰り返してたらしいし……。

 

 私のやった事は間違ってないし、きっとこうなる運命って奴だったんだろう。


 ……そっか。

 クロちゃんも同じ気持ちで、私を助けてくれたのかって、今更ながら思う。

 

 何の事はない……私達って似た者同士だったんだね……。

 

 私の言葉に反応して、中菱さんが顔をあげると、ちょっと迷った挙句に、なんか申し訳なさそうに私と同じようにレアチーズケーキを口に運ぶ。


 食べ慣れてるのかなとか思ってたけど、目に涙を溜めながら、なんかほっこり顔してる。

 

 やっぱ、美味しいものを食べると幸せな気分になるのは皆、一緒だよね。


 あと、クロちゃん……お預け状態ですまぬ……誠にすまぬ。

 だから、ぬいぐるみの隙間から、指咥えてこっち見てるとかやーめーてっ!

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