第一話「魔砲少女 結乃すくらんぶる!」④
鳳凰のくちばしが開いて、声のない鳴き声を上げると、見えない何かが飛んで来て、ぶつかる!
何かの体当たりでも受けたような衝撃と共に大きくふっとばされる!
……と思ったんだけど、これも軽く突き飛ばされたくらいの衝撃で、ちょっと後ろによろめいただけで全然平気!
「い、今のなにっ!?」
『良く解らないけど、衝撃波か何かみたい……さすがに物理的な衝撃まではシールドでも受けきれないから、何発も立て続けに撃たれたらちょっちキツいかも! できるだけ、アイツの正面に立つのは避けて! あ、次来るよっ!』
今度は光る鳥の羽みたいなのがいくつも飛んでくる。
後ろ向きに飛んで、避ける……羽が落ちると、ドカドカと爆発する!
「あわわ……なんじゃこりゃっ!」
そんな風に騒ぎ立てながら、反撃に銃を撃つけど、相手は空飛んでるからか全然当たらない……。
隣に住んでる元自衛隊のオッサンが、猟とかやってるんだけど、鳥は地面に降りた時を狙わないとまともに当たらないって言ってた。
おまけに、一発二発当たっても、針金みたいなのの塊だからか、あんまり効いてない感じ!
えーっ! 人の事言えないけど、ずっこい!!
また正面から衝撃波……今度は口を開けた瞬間ダッシュして、ちゃんと避けきれたんだけど、背後の校舎の壁が車か何かがぶつかったみたいな感じで大穴が空く!
ええっ! あれ……そんな強烈だったんだ!
「うぇああっ! ちょっと、あれ……洒落にならんっ! それに何……あいつ、弾が当たってもケロッとしとるっ!」
『結乃ちゃん……落ち着いて……とりあえず、あの衝撃波もわたしの守りを破れるほどじゃない。それに、あの衝撃波を撃つ瞬間なら、動きも止まる……確かにあんなハリガネの塊、点の攻撃の銃弾じゃ効果薄いだろうけどね。だから、お口を開けた瞬間にコイツでドーンと一撃必殺! これでどうよ?』
クロちゃんの言葉と共に、巨大な綿棒みたいな鉄の棒がドーンと出てくる。
「……もう何度目か解かんないんだけど……これなんじゃ?」
『ふふーん、パンツァーファウスト30 Klein! 対戦車無反動砲って奴! 140mmの装甲板をぶち抜くHEAT弾はドラゴンだろうが戦車だって、ワンパンッ! RPG7とかの対戦車ロケランの始祖って感じなのよ』
クロちゃんもう何言ってるか良く解らないよ?
なんか……軍事用語みたいなのがズラッと並べられた。
クロちゃんって魔法の世界で、魔法使いとかと戦ってたんじゃないのかなー。
なんで、こんな硝煙香るミニタリーなのしか出てこないんだろ?
なんか、向こうの方がよっぽど魔法っぽくね?
……クロちゃん……私、密かに魔法少女になれたーって、喜んでたんだけどさ。
何か違うよね? これ。
服装だって、これはこれでカッコ可愛いけど、もうちょっとピンクとかフリフリとか可愛いのが良くない?
そんな事を思いつつ、私はパンツァーファウストを片手に走り回って、ハリガネ鳳凰の羽攻撃を避けまくる。
と言うか、羽のスピード超遅いから、避けるのは余裕なんだけど。
もう数がめちゃくちゃ! 羽毛布団を爆発させたくらいの勢いで、ヒラヒラ、バッサァと落ちてくる羽を全部避けるなんて、無理ゲーッ!
案の定、もう当たりまくり! ドッカンドッカン爆発しまくる!
「ひょ、ひょええええっ!」
『結乃ちゃん! 怯んじゃダメッ! この程度じゃ全然平気だからっ! わたしなんか、戦艦の砲撃みたいなのの集中砲火だって耐えたんだから、こんなん、そよ風程度よっ! どうせ、避けられる数じゃないんだから、もうガン無視でちゃっちゃと構えるっ!!』
クロちゃんの言葉に立ち止まると、パンツァーファウストを小脇に抱える感じで照準に捉える!
「こ、こうかな?」
『うん、構え方はそれでおっけ! 誤差修正諸元はメガネに反映済み! 風もないから相手が止まってれば楽勝だよ。いい? 相手の動きが止まった瞬間、落ち着いて狙う! 外したって、クラインならいくらでも出すから、気にしないっ! 女は度胸! ファイアーッ!』
ちょろちょろ動き回って、なかなか照準が合わない上にここぞとばかりに羽を大量に飛ばしてきたもんで、目の前で爆発しまくる!
けど、そんな至近距離で爆発してるのにこっちは髪の毛が揺れる程度。
クロちゃんが張ってくれてる防御シールドみたいなので、全部防いでる!
なんか……攻撃は最大の防御! とか、当たらなければどうと言うこともない!
……なんて、言うけどさ、あれどっちも間違ってるよね。
どんな攻撃も凌ぐ無敵の防御があれば、チョコマカ避けなくてもいいし、攻撃も今の私のように、のんびり落ち着いてやってれば、そのうち勝てる……。
防御最強イコール最強! って、思わなくもなかった。
そして、羽の爆風がむしろ他の羽を吹き飛ばしたみたいで、煙が晴れると、真正面にハリガネ鳳凰がいたっ!
口を開けて、なんか溜めを入れてる感じ! 衝撃波撃ってくる気だなっ!
ーーって事は、今がチャーンス!
「ファ、ファイアーッ!」
鳳凰のだいぶ上を狙って、引き金を引くとパンツァーファウストの前後から爆風が吹き出す!
割りとゆっくりな感じで黒い塊が鳳凰の口の中に飛び込んでいくと、一瞬の間を置いて爆発音と共に派手な火の塊に包まれる。
そして、辺り一帯にバラバラとハリガネの残骸が飛び散る!
煙が晴れると、もう鳳凰の姿はない……。
周囲を見渡しても、動いてる奴はもう居ない……これってもしかして……。
「よっしゃ! やっつけた! これって、私の勝ち?」
『うん、あの様子だとさすがにもう再生とか無理でしょ。他ももう皆やっつけちゃったし……やったね! 結乃ちゃん! わたし達の勝ち! びくとりーっ!』
クロちゃんの勝どきにつられて、私も思わずブイサイン!
そんな事をやってると、一瞬の浮遊感のあと……あちこち穴だらけでボロッボロになってた中庭が元通りになってた。
大穴が空いた校舎の壁も元通り。
どうやら、現実世界に戻ってきたようだった。
「クロちゃん……もしかして、元の世界に戻ってきたのかな?」
「そだね……あの鳳凰を倒したせいで、操り手の方にも反動が行ったのか……。あの鳳凰が鏡像空間を維持してたか……どちらにせよ、これ以上は仕掛けてこないと思うよ。いやはや……ぶっつけ本番だったけど、お疲れ様! デビュー戦であれだけやれたなら、きっと次も大丈夫! って言うか、今の……こっち来てからの最大規模の攻撃だったんだけど……。 結乃ちゃん……結構、やるじゃんっ!」
クロちゃんの声が耳元で聞こえる。
クロちゃんも元のミニサイズに戻って、肩の上に乗ってて、私のカッコも元の制服姿。
戦いの名残としては……なんかすっかり火薬臭くなった髪の毛と手の匂いだけ。
今日は……適当に誤魔化すとして、今度からファブリーズでも持ち歩こう。
硝煙漂う乙女とか……なんか違うし。
それにしても、敵ってのもわざわざ鏡像空間なんてとこに引き込んだ上で仕掛けてくるとか、なんか色々配慮とかしてる感じがしないでもない。
その割には、問答無用ってのが訳解かんないだけど……。
そもそも、なんで私が襲われないといけないんだろ?
私、悪いことなんてしてないし、クロちゃんだって悪い子じゃない。
そもそも、クロちゃんも敵ってのが何なのか全然解ってないみたいだし……。
私……これから、どうなるのかなぁ……?
そんな風に思いながら、私は冬の空を見上げる。
澄んだ濃い青……クロちゃんに言わせると、東京なんかだともっと白っぽいんだって。
冷たい風が吹き、思わず両腕を抱える。
「……寒っ! なんか我ながら人間離れしたとか思ってたけど、寒かったり、痛かったり……そんなとこは一緒なんじゃなぁ。ねぇ、クロちゃん……私、人間……だよね?」
そんな事を言いながら、食べ残してたオニギリを頬張りながら、髪の毛をバサバサする。
……んっと。
身体動かすとお腹減るし、ご飯残すのって勿体無いよね? よね?
だって……私、成長期の女の子だもん。
食いしん坊とか言わないで欲しいな。
「あはは……そんな風にオニギリ美味しそうに頬張ってるようなモンスターとかいないよ? 悲しくなると涙だって出るし、髪の毛火薬臭くなるのは、女子的には困るよね……。わたしは……向こうでも自分は人間だって思ってたし、そう言ってくれる人だっていたよ。この世界の敵も……周りに迷惑かけないように配慮してるくらいだから、話せば解ってくれるよ。実は、わたし……向こうでもなるべく、そうやってなるべく話し合って、争い事を解決してきたんだ。もちろん、上手くやれなかったこともたくさんあるけどね……」
そう言って、少し寂しそうに微笑むクロちゃん。
クロちゃんも向こうの世界で、こんなとんでもなく強い身体になって、色々あったんだろうな。
初めて、私の目の前にクロちゃんが現れた時、どことなく悲しそうな暗い目をしていたのを思い出す。
それと同じ色が今のクロちゃんの瞳に過るのを見て、思わずギュッと抱っこした。
大丈夫……私は何があってもクロちゃんの味方だよ?
こう言うのって、一蓮托生……って言うんだよ。