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第九話「遠い世界の物語」③

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第九話「遠い世界の物語」③

---Yuino Eye's---

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「まぁ、今回……俺らは結乃ちゃん達の通う北岡中の生徒の誰かが「結界崩し」なのは確定……そういう認識じゃった。紅葉ちゃんはその捜索、俺らは護衛兼結界崩しへの対処ってのが与えられていた指令ってとこなんじゃがな……」

 

「そうだな……僕が翠から引き継いだのも建前上はそうなっている。だが、紅葉……君はかなり早い段階で勘付いていたんだろ?」

 

「そうですね……私もクロ様を見た時点で、ほぼ確信しましたからね。クロ様が「結界崩し」であると……けれども、それを認めたら結乃ちゃんと敵対関係になってしまう。そんなの私は嫌でしたから……だから、二人にも黙ってました。もちろん、お姉ちゃんの事だってありますけど……。それとこれとは話は別だし、問答無用で喧嘩売ったお姉ちゃんも悪いです。だから……お二人とも出来るだけ穏便にしていただきたいのですが」


「そうだな……僕も、君達の話を……盗み聞きのような形で耳にしていてね。結乃くんが「結界崩し」と関わりある可能性は高いと踏んでいた。とにかく、くろがね嬢は現在、結乃くんの支配下にある……そういう認識でよいかな? そう言う事であれば、危険性は格段に下がる……制御下にない強力な怪異など自然災害と変わりない。だが、人の制御下にあるのであれば、それは僕らと何ら変わりない……むしろ、僕らの理念としては、保護対象ということになる」

 

「支配というのとはちょっと違うけど……持ちつ持たれつの共生関係って言うのかな? 言っとくけど、クロちゃんは……悪いことなんてしないよっ! 私も人に迷惑かけようとなんて思ってないし! けど……まさか、この場で拘束するとか……そんな事言わないよね?」


 考えてみたら、ここは政岡さんのお屋敷。

 無警戒にホイホイ来ちゃったけど。

 もし、向こうがその気になれば、私程度……捕らえたりするのはそう難しくないと思う……。


「まさかっ! むしろ、こっちはお前らのお陰で命拾いしたんじゃ。清十郎は小難しい言い方しとるが……要は、お前らと敵対する気はねぇってこった」


 なんとも良い笑顔で、そんな風に告げる宇良部さん。


「そっか! なら、いいや……じゃあ、宇良部さん達を信じるっ!」


「ちょっ! 結乃ちゃん、そんなあっさり!」


 クロちゃんが慌てるけど、私に信じたふりをするとか、裏切られたら……とか、そんな難しいこと考えられる程器用じゃないよ?

 

 信じることとは、信じぬくことって……どっかの歌手が言ってたし!


「おうともっ! 俺は人の信頼には全力で応える主義でな……。つーか、俺らは俺らでハラワタ煮えくり返ってんじゃ……手段を選ばねぇにも程があるってな! どうせあれだろ? 牛鬼を使って、俺らも目撃者って事でまとめて始末しようってそういう魂胆だったんだろ? あの牛野郎……殺る気マンマンだったぜ! 俺らがやられてたら、清十郎! おそらく、おめぇもやられてたぞ……ここの守りだって、あんなもんの襲撃……想定してねぇだろ!」

 

「そうだな……その辺りは想像に難くない……実際、譲の言うとおりだっただろうと思う。しかし……問題はどこの誰が仕組んだか……だったんだが……くろがね嬢の話で大分読めてきたな。事が起こるのは帝都東京……だとすれば、本社も絡んでるだろう。そうだな……何か大規模召喚術でも実施するつもりなのか……或いは、向こうの世界とこちらの世界を繋げる気なのか……いずれにせよ、ロクでもない企みには違いないだろう。くろがね君……向こうの世界に現れたと言うこちらの世界の者達の情報は何かないのかね?」


「良く解かんないけど……生け捕りにした殆どの人が東京や神奈川とか……関東の西の方の出自だったよ。それと、皆口を揃えて、昼なのに真っ暗になって……黒い太陽が降りて来るのを見たとかなんとか言ってたよ。 その後、気が付いたら向こうの世界にいたって……その辺は概ね共通してた。それに向こうの世界での最終決戦にも、そんな感じの禍々しいのが出て来たよ……。正直、あれはわたし達にも手に負えなかったんだけど……魔王様が本気出して、あっさり倒しちゃったんだよね。」

 

「黒い……太陽……か。くろがね君、それに結乃君は「空亡そらなき」と言う言葉を知ってるかな?」


 唐突に、政岡さんから謎な感じの単語が出てくる。


「空亡? ああ、知ってるっ! 10年以上前のゲームのラスボスの名前だっけかな? そこからネット上でなんか色々設定みたいなのが加わって、最強の妖怪みたいな感じになったんだよね。言われてみれば、なんか黒い球体に赤い幾何学模様とか見た目……あのラスボスそっくりだったような……」


 クロちゃんがあっさり答える。

 そういや、彼女ゲーマーだったって言ってたっけ……。

 私、そんなゲーム知らないし、ゲームの話なんかしてどうすんのよ……。


「ふむ、なんとも興味深い話だな……向こう側の世界に現れたこちらの世界由来の災厄。……本来の「空亡」とは、百鬼夜行の最後に現れ、それら全てを呑み尽くし、押し潰す存在とされている。妖のような闇の存在を夜明けと共に闇へと還す大いなる太陽……それが本来の意味だったのだが。現代になって、その意味が歪められてしまった……その発端はくろがね君の言うゲームが切っ掛けだったと聞いている」

 

「ほぇっ! ちょっとそれどういう意味?」

 

「そのままの意味なんだが……「空亡」とは、黒い太陽……全てを滅ぼす破滅の太陽。そんな風に存在が書き換えられてしまったのだよ……幸い現界するには至っていないが……。現界する条件自体はすでに整えられてしまっている。妖とは、人々のイメージによって、そのあり方を変える……そういう存在だからね」


「良く解かんないだけどさ……それって、私らがこう言う妖怪がいるって、思い込んじゃったら、本当にそんな存在が出来ちゃうって事?」


「……結乃ちゃん、実はそう言う事なんです……不特定多数の人の思いやイメージが集まることで妖は生まれるのです。信仰が神様に力を与えたり、イメージが超能力を引き出すのと同じ理屈です。私の浄眼も良い例ですわ……正直に言いますけど、これ……ムラクモ様の真似したら本当に出来ちゃったんですよ。もちろん、私も中菱一族の一人なので元々魔術的素養があったってのもありますけどね。クロ様の使う向こう側の世界の魔術も理屈自体はそんなに遠くないのではないでしょうか?」


「そうだね……錬成術なんて、まさにイメージがキモだからね。あっちの世界では、仲間に世界最強の魔術師ってのが居たんだけどね……。魔術とは魔力を媒体に幻想を現出させるとか何とか言ってた。わたしの使う錬精術も無形の錬成触媒に、術者のイメージを元に形を与える……そう言う魔術なんだ。実は、マテリア体も同じ理屈……結乃ちゃんの今の身体だって、結乃ちゃんのイメージで作られてるからね」


 ……そうなんだ。

 確かに、元の身体と寸分違わず……クロちゃんだって知らない太ももの内側のホクロとかだって、そのままだったから、不思議には思ってたんだけどね。


「んじゃ、そうなると……その空亡って妖怪? イメージが出来上がってるって事は、そんなのがいつ出てきてもおかしくないって事?」


「そうだ……世の中に、全てを滅ぼす最強の妖と言うことでイメージが蔓延してしまっている以上、それが実存するだけの土台は出来上がっているということだ。あとは、切っ掛けがあれば、空亡が本当に現界されてしまう。何より、くろがね君の話からすると、それが現実に起こって、大惨事が引き起こされたという事になる……」

 

「はぁ? 何考えてんだ! それっ! そんな事になんか意味あんのかよっ!」


「意味はある……それが向こうの世界でのくろがね君達の戦争の激化へと繋がったと言うことだ。それに……空亡のイメージ変革はゲーム発でネットで膨れ上がっていったのだが……。その過程にどうも作為的なものを感じる。そして、くろがね君の話だと……空亡の現界はこのままだと間違いなく起こりうる。今の世界情勢で、そんな事が起こったら、犠牲者もさる事ながら、間違いなくその混乱へ付け込むようにこの国と敵対している大陸勢が動く……。10年前の震災でも、奴らは行動を起こす直前だったらしいからな……つまり、間違いなく戦争になる……。これは、向こうの世界の問題だけでなく、僕らの世界の問題でもあるんだ。くろがね君……君達の世界で戦乱を引き起こした首謀者などは居なかったのか?」

 

「……向こうの世界で戦乱を引き起こしたヤツ……。わたしは直接相まみえる機会はなかったんだけど……。「吊られた男(ハングドマン)」って言う複数世界をまたにかけて存在する使徒って奴だったってのは確定情報。玻璃ちゃん……わたしの友達の話だと、その娘が向こうの世界でソイツを仕留めたらしいけど……。ソイツが残した仕掛けは、すでに動き出した後で止められなかったんだって……。それで玻璃ちゃんは……こっちと向こうの世界を繋ぐ門の役割を果たしていた魔王様と戦う道を選んだ……。世界を救うために……その事をわたし達が知ったのは……最後の最後になってから……わたし達は選択肢をそもそも間違ってたんだ……」

 

 それだけ言うと、クロちゃんは不意に口を閉ざし、俯く。

 

「ああ、クロ助……話は十分だ……もういい。清十郎……今日のところはコレくらいにしとこうぜ。」

 

 宇良部さんが優しげな声色でそう言うと、クロちゃんの頭にそっと手を置き、そのまま子供でもあやすように持ち上げると、ギュッと抱きしめる。


 クロちゃんは……辛いことでも思い出したのか……肩を震わせ泣いていた。

 クロちゃんって、割りと強がってるけど……なんだかんだで、か弱い女の子してるんだよね……。

 

 けど、宇良部さん……さりげなく、泣いてる女の子に胸を貸すとか……何と言うか超男前っ!

 私だって、あんな風にされたら、たぶん、もうどうにでもしてっ! みたいになっちゃうよっ!

お待たせしました。

続きです。


遅れた理由やら、突然出てきた「空亡」について……。

活動報告でちょっと解説しようかなーと思ってます。


なお、次回はお風呂回です。(笑)

サービスサービス!(笑)

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