第八話「襲い来る怪異」②
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第八話「襲い来る怪異」②
---Yuino Eye's---
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目の前に立つ、虎の顔を模した兜の赤い西洋風の鎧を着た異形の戦士。
けれど、その声には聞き覚えがあった。
「う、宇良部さん? そのカッコ……なんか変身ヒーローみたいじゃ!」
「譲先輩! もうっ! なんなんですか! このタイミングはっ! 狙ってたとしか思えません!」
「だよねーっ! もう、この色男っ! まじカッコイイッ!」
思わず、二人して宇良部さんに飛びついて、抱き付いてしまう。
だって、こんな絶妙なタイミングで助けに来てくれるなんて! どこのヒーローだよっ! って感じ!
もうカッコ良すぎでしょ! やっば、これは惚れるっ!
「おいおい、二人共……いっぺんにキャーキャー騒ぐな……けど、もう安心しな。……地潜り程度、この俺の敵じゃねぇ……それんしても、なんだありゃ? 全校生徒を傀儡化したってのか? どこのどいつか知らんが、なんとも無茶苦茶やるねぇ……」
宇良部さんが、私の頭に手を乗せると、乱暴に撫で回す。
髪の毛がボサボサになるけど……なんか、嬉しい! って、犬猫みたいだよ……私?
『譲……楽しそうな所、邪魔してすまんが……。朗報だ……生徒たちはほぼ無傷だ……傀儡化してるようだが……その精霊があの障壁で保護してくれてたようだな。血界の中で、あんな大規模かつ強固な障壁を張り続けるなんて、相当無理をしてくれたのだろう……。まったく、もっと酷いことになっていると思っていたのだがな……とにかく、ここは礼を言わせてもらう』
なんか違う声が響き渡る。
聞いたことのない声なんだけど、宇良部さんが話してるようにも聞こえる。
「ややこしいから、オメェは黙ってろよ……結乃ちゃんの肩に居るちっこい奴だろ? 一応、説明しとくが、今のは俺のマブダチ清十郎って野郎だ……この鎧……白虎を後方で動かす担当ってとこだ。最前線で身体を張る俺と違って、頭脳労働専門のキザな野郎だが、イイやつだってことはこの俺が保証する! 精霊さんも……よく皆に怪我一つさせねぇで守ってくれた! 結乃ちゃんもなんか物騒なシロモン持ってるみたいだが……詮索はしねぇよ……よく頑張った! 紅葉ちゃんもな! もう穴は開いてるから、外に出て休んでても構わんぜ……後始末は俺達に任せろ!」
そう言って、宇良部さんが私達の前に回ると、地潜りってのが一斉に飛びかかってくる!
けれども、それを素手で薙ぎ払って叩きのめしていく。
さっきは、銃で撃たれても効いてるんだか、効いてないんだか解かんない感じだったんだけど。
宇良部さんは平然とグーパンで殴り飛ばして、ケリの一発で壁もろとも叩き潰したりとやりたい放題!
「凄い……あの鎧……魔力の塊みたいな感じ……。そっか……実体の無い敵でもああやれば、対抗できるってことなんだね……」
クロちゃんが感心したようにつぶやく。
あっちの世界では、こう言う手合っていなかったのかな?
「結乃ちゃん、今のうちに下がります……ここは危険ですから……。」
そう言って、紅葉ちゃんが私の手を引く。
宇良部さんが入ってきたところは、何だかガラスでも割ったような感じになっていて、向こう側も赤く光ってるだけで何も見えないるのだけど……思い切って、一歩踏み出すとそこはもう中庭だった。
黒子みたいなカッコの人達がたくさんいて、一斉に寄ってくると、校舎と私達の間に割って入る。
なんか、守ってくれるような様子。
「紅葉様、ご無事で何よりです……そちらは雪宮様ですね。私は錦……ご安心を我々は味方です!」
リーダー格っぽい感じの人が覆面を取りながら、笑いかけてくれる。
二十代後半くらいの純朴そうな感じの人。
「あ、ありがとうございます……」
そう言って、こちらも笑いかけると、向こうも安心したように笑顔を見せる。
けど、次の瞬間……またさっきの目眩と耳鳴りがして、思わず膝をつく。
周りの黒子の人達も同じような感じで一斉にバタバタ倒れ伏す。
さっきよりも、強力なようで紅葉ちゃんも苦しそうに耳を抑えている。
同時にガキンと言う音がして、宇良部さんが吹っ飛んでくる!
「んなろぉっ! やってくれんな! おい、外法衆! 揃ってんな! やべぇ大物が出てきやがったぞ! オメェらの敵う相手じゃねぇ! ひとまず、散開っ! とにかく、結界の維持を最優先! ……こんなもん、外に出すなんて、ありえねぇからな!」
宇良部さんが叫ぶのと同時に、校舎の中から巨大なシルエットがぬっと顔を出す。
「な、なにあれ……」
身の丈、3m近くもある牛の頭の巨人!
大きな斧みたいなのを担いでる……。
「ミノタウルスとか、牛鬼ってやつ? けど、こっちも魔力戻ってきたから、好き勝手やらせないよ!」
相変わらず、クロちゃん詳しい……。
倒れてる宇良部さんに追い討ちとばかりに、斧が振り下ろされるんだけど、その斧が空中で止まる!
怒り狂ったように、ドカドカ続けざまに斧を振り下ろすんだけど、見えない壁があるように全く届かない!
「やらせないって、言ったじゃん! そこのお兄さん、大丈夫? 寝てる場合じゃないでしょっ! 早く立ちなよ! カッコよく出てきて、あっさり負けるとかありえないよ?」
クロちゃんが宇良部さんと牛男の間にシールドを張ってくれたようだった。
あんな強烈そうなのも止めるんだ……クロちゃん、強いっ!
「こいつは、そこのチビ助の仕業か? 助かった! ちっとカッコワリィとこ見せちまったが、まだまだっ! 清十郎! こっちのサポートはいい! いっちょ、かましてやれっ!」
『了解……任せろ! 青龍よ……放てっ! 天雷ッ! 急々如律令! 滅ッ!』
上空に居た青い龍みたいなのが雷を放つと、牛男にもろに直撃する!
ブォオオだか、ブフゥウウウ! みたいな叫びを上げると、身体中から煙がブスブスと立ち上る!
けど、これでも仕留めきれてないっ! むしろ、割と平然としてる感じ……。
『なんだとっ! 最大出力だぞっ! これを耐えしのぐのかっ! 譲……こいつは相当な相手だぞ!」
「やべぇな……清十郎の青龍の雷撃で応えた様子がねぇとはな……牛鬼……モノホンの鬼……か。コイツは俺達の手に余るかもしれんなぁ……紅葉ちゃん! 奴のほころびは見えねぇか! まともにやりあって、勝てる相手じゃねぇぞ……こりゃ」
「は、はいっ! ほころびは……あります……人で言う丹田の少し右の辺りです。けど、物凄く小さい……2-3cm程度……ほとんど針穴です……」
「解った! ……そこをぶち抜けってか? なかなか厳しい注文だ! だが、こちとら退く訳にはいかねぇ……いっちょ、やってやらぁっ!」
宇良部さんが拳を握りしめて、牛男へ突撃する!
けれど、デタラメに振り回す斧に阻まれて、なかなか近付けない様子。
リーチもだけど、パワーも向こうの方が上、辛うじてスピードは勝ってて、斧の斬撃は尽く避けきっているようなんだけど、明らかに苦戦しているようだった。
「クロちゃん! なんとかならないの? こないだみたいに私が変身するってのは?」
けど、私の声が聞こえたのか紅葉ちゃんが厳しい顔で顔を横に振る。
……本気出しちゃ駄目って言われたっけ……でも、このままじゃ……。
譲先輩、カッコよく登場ッ!
まんま変身ヒーローのノリですねー。
そして、ボスキャラ登場!
Thunder Force V の Duel of Top辺りが推奨BGM?(笑)
ちなみに、「急々如律令」って、和風ファンタジーで良く見かける陰陽系の呪文ですけど。
要するに「式神命令、とっととやれ」位の意味です。(笑)




