第六話「浄眼使い」②
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第六話「浄眼使い」②
---Yuino Eye's---
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「………現代の文化に興味を持っていただけるとか素敵です! 恥ずかしながら、私達……現代の魔術師って古来伝統の技の多くを失ってしまって……。かつては、クロ様みたいな強力な存在を従えるような術師もいたみたいなんですが……。今となっては、そのような術者は残っておりません。ねぇねぇ……結乃ちゃん! ……どういう経緯でクロ様と出会ったのです?」
紅葉ちゃんすっかり、クロちゃんを崇めてる感じ……まぁ、いっか!
けど、やっぱそう来たね……設定考えといてよかった!
「んっとね……どうも私のご先祖様がいつか子孫の役に立つようにって、封印してたみたいなんだけど。こないだ死にかけた時に、私の助けを求める声がクロちゃんに届いて、その封印が解けちゃったんだ! そして、契約を交わして、私はクロちゃんのご主人様になって、ついでに生と死の間を垣間見たことで魔法使いの力に覚醒したんだ!」
「そ、そうだったんですか……クロ様……結乃ちゃんを救っていただきありがとうございました……。結乃ちゃんは私を助けてくれてあのような事に……だから、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした!」
なんかもう、土下座モードの紅葉ちゃん。
正直……あんまり、恐縮とかして欲しくはないかな……。
「で、でもさ……私、現代の魔法使いの事とか全然知らないし、裏の組織みたいなのも良く解かんないんだよね……。はぐれ魔術師とかそんな感じに扱われて、捕まったりしないかな?」
ちょっと気にはなってたから、いい機会だから聞いてみる。
紅葉ちゃんなら、その辺の事も教えてくれるような気がする。
「結乃ちゃん……大丈夫ですよ……結乃ちゃんみたいに無所属の魔術師とかも当たり前のようにいますから。確かに、結乃ちゃんみたいに生と死の間を経験した事をきっかけに異能の力を覚醒させる方も少なくありません。もっとも、その力を悪用したり、人前で堂々と力を使ったりしない限り、いきなり捕まえたりとかはしませんけど……。私のように稀有な能力の持ち主だと、むしろ保護も兼ねて勧誘したりしますね。」
「そっか……案外、寛大なんだね……良かった……問答無用で捕まえるとかだったら、どうしようって思ってた! そう言う事なら、クロちゃんも一安心だねっ! あの時は助けてくれてホント、ありがとう!」
クロちゃんも私の即席の設定を理解したようで、親指を立てて、ニッコリと笑う。
なんか、この設定気に入ってくれたらしい。
「……我にとっては、結乃の傷を治す程度造作も無いことだったからな……礼には及ばぬよ。紅葉と言ったな……君が結乃の友だと言うのであれば、我が友同然である……。我も長いこと封印されていて、いい加減うんざりしておったからな。結乃は、あの男の子孫達の中でも極めて優れた魔術の才能があってな……。ここまでの逸材……無為に死なせるには忍びなかった……だからこそ、その魂の叫び……呼びかけに応えたのだ! 久方ぶりの現世……なかなか興味深いことばかりで、堪能させてもらっている。お前達、現代の魔術師達にも色々迷惑をかけることもあるかもしれんが……。穏便に済ませてもらえるならば、幸いである」
どうしよう……クロちゃんのアドリブが留まるところを知らない……。
あの男ってだれ? 変な設定増やさないで欲しいよ?
あと、いつの間にか一人称が我になってて、私の事呼び捨てにしてるのは、大物感の演出なんだろうけど、最初と違うのは不自然だよ?
「ありがとうございます! 大丈夫ですよ……クロ様ほどの存在を敵に回すほど私達も愚かではありません。私からも、クロ様と結乃ちゃんは問題ないと報告しときますよ。けれど、くれぐれもご用心下さい……今、この地には「結界崩し」と呼ばれる大妖が潜んでおり、つい先日もこの学校に出現し、私の姉によると生徒の誰かと成り代わった可能性があるそうです。今も中庭では、我が同胞がその痕跡を調査しているとのことです……。」
紅葉ちゃんの言葉で……私はひとつの可能性に思い当たり、思わず脂汗がブワッと流れる。
(先日……中庭でって……それ……私達の事じゃ……。)
ギギギって感じでクロちゃんを見ると、同じ可能性に思い当たったらしく、やっぱり引きつったような顔をして、目が泳いでる……。
紅葉ちゃんを見ると、どうしたの? って感じでにこやかに笑いかけてくれる。
うん、もうこうなったら、しらばっくれるしか無い。
今のところ、クロちゃんの存在を見破れるのは、浄眼持ちの紅葉ちゃんだけ。
浄眼なんて、特殊能力者が何人もいるとは思えないから、紅葉ちゃんを納得させれば問題ないはず。
そもそも、紅葉ちゃんと私はお友達なんだから、一緒に居ていきなり襲われる可能性はさすがにない……と思いたい。
「紅葉ちゃん……実は私もこれまで誰にも相談できなくて、悩んでたんじゃ! だから……これからも、友達でいてくれる?」
そう言って、紅葉ちゃんの手を両手でぎゅっと握ると紅葉ちゃん、真っ赤になる。
「も、もちろんです! 私……結乃ちゃんの事大好きですから!」
そう言って、思い切りボフッと抱き付いてくる。
勢い良すぎた上に紅葉ちゃん、めちゃくちゃ軽い! 思わず、一緒にくるくる回って……二人してひっくり返る。
思わず二人して、大笑いしてたら、また抱き付いてきて、私なんだか押し倒され状態。
なんか……今、背景に百合の花咲いたような気がしたよ?
なに……この展開。




