第五話「仄かなともしび」③
--------------------------------------------------
第五話「仄かなともしび」③
---Yuino Eye's---
--------------------------------------------------
「譲先輩……結乃ちゃん……なんだか、盛り上がってる所申し訳ないんですけど。あの……私達……そろそろ時間!」
方言全開でバイクの話なんかで盛り上がる私らに、案の定、置いてけぼり状態でブーたれてた紅葉ちゃんが慌てたように急かす。
時計を見ると、時間的に遅刻危険領域だった!
「っと、スマンスマン! 足止めさせちまって悪かった! 結乃ちゃん、ほんじゃな! ゼファーの件、楽しみじゃ! 紅葉ちゃんもまた後でな!」
そう言って、メットを被ると颯爽と走り去る宇良部さん。
年上のカッコイイバイク乗り……いいね!
なんか意気投合しちゃったし、今度、メアドでも交換しちゃおうかな!
か、彼氏にしたいなぁ……とか、そう言うのとは違くて!
……私、元々お兄ちゃんいて、お兄ちゃんの事、大好きだったんだもん!
ああ言うお兄ちゃん系な人は……うん、まぁ……嫌いじゃないよ?
「実は家からここまで先輩が送ってくれたんですよ……。バイクの後ろってのもいいですよね……けど、初対面で先輩とあんな風に打ち解けるなんて、結乃ちゃん凄い。あの見かけだから、ビビっちゃう子がほとんどなんですけど……。本人、ああ見えて結構ナイーブなんで……さっきも怖がられたりしないかって、一人で勝手に心配してて、すっごくおかしかったんですよ……」
思わず苦笑する。
あの見かけと図体でナイーブとか……。
クロちゃんとかポッケから顔出して、目が点……みたいな感じで見送ってた。
インパクト凄いよね……あの人。
とりあえず、時計を見ると本格的にやばい感じ。
二人で顔を見合わせると、どちらからともなくダッシュ!
紅葉ちゃん、結構足が速い……ついつい、思い切り加速しそうになったけど、その辺は自重。
……と言うか、昨日のうちにクロちゃんに頼んで、普段は人並みくらいの身体能力になるように、マテリア体の方を調整してもらった。
クロちゃん、そんな事出来るなら最初からそうして欲しかったよ?
抜きつ抜かれつしながら、校門を潜ると顔を見合わせて、二人して笑顔。
なんか、楽しかった! こう言うのも悪くないよね!
授業は昨日と同様……問題なし……だったんだけど……。
机の上のクロちゃんのいる辺りを、たまに紅葉ちゃんがちら見してる……うーん、見えて……ないよね?
クロちゃんも、光学迷彩と魔力隠蔽とか色々施したって言ってたし。
直に触られない限り、大丈夫……とか言ってたけど……教科書勝手にめくるとか、シャーペン蹴っ飛ばして落っことすとかやってる時点で、バレるんじゃない? 私的にはヒヤヒヤドキドキの連続!
けど、何とかボロも出さずに午前中の授業は乗り切れた……ううっ、なんか心臓に悪い……。
お昼になっても、いつもなら紅葉ちゃんを取り囲んでた取り巻き連中は、本当に紅葉ちゃんに寄り付きもしない。
昨日の喧嘩の腹いせでシカトとか、そんなのかと思ったけど……。
そもそも、興味がないとか……関係ないような感じで何となくお互い寄り集まってる感じ。
なんか明らかに様子が変。
さりげなく、彼女たちに紅葉ちゃんとお弁当食べないの? って聞いたら、なんで? って素で返された。
昨日言ってた記憶操作って奴なのかな?
紅葉ちゃんが一緒にお弁当食べたそうにしてたんで、一緒に屋上へと向かう。
中庭は……なんか工事の業者が入るとかで立ち入り禁止って話。
校庭の隅っこもなんか落ち着かないし……。
「あはは……やっぱ、冬だと誰も寄り付かないか。」
そう言って、誰もいない屋上の隅っこの方に腰を下ろすと、紅葉ちゃんも隣に立つと遠くの景色を眺めてる。
クロちゃんは……ミニお弁当箱を渡して、近くに隠れてもらう。
いつ昨日の敵みたいなのに襲われるか解らない身の上……それに、スペックダウンしたせいで今の私は人並み。
クロちゃんと一体化すれば、無敵に近いとは言え、クロちゃんと離れるのは危険。
屋上なんて、隠れる場所なんて無いようにみえるけど、クロちゃんサイズなら雨どいの影にだって、隠れちゃう。
クロちゃん、何気に自分の小ささをフル活用してるよね。
「今日は天気がいいせいか意外と暖かいですね……結乃ちゃんはいつも一人なんですか? 昨日も何処か行ってらしたようですし……。」
コートを着た紅葉ちゃんが可愛らしいお弁当箱片手に、微笑みながら腰を下ろす。
座る時にお尻の下にハンカチ敷いて、なんかお上品。
「その日の気分次第だね……教室で皆で食べることもあるけど、外の方が気持ちいいし。今日みたいに天気が良いとそんなに寒くないからね! 紅葉ちゃんこそ、今日は皆と食べないの?」
そう言うと、紅葉ちゃんは少し気まずそうな顔をする。
「あはは……昨日、慣れない記憶操作なんてやっちゃったから、案の定色々失敗してたみたいで……。私関係の記憶がしっちゃかめっちゃかになっちゃったみたいなんですよね……あの人達。……なんかもう私の事は、ただのクラスメートって認識してるみたいです。」
なんか、酷いことをサラッと言ってる。
そう言えば……3人ほど休んでたみたいだけど……。
「えっと……それって、問題ないの?」
「元々、あんまり好きになれない人達だったし、ミーハー根性と下心丸出しで近づいてた人達ですからね。
それに昨日も言いましたけど、本人達は何を忘れたかも覚えてないから、問題ありませんよ。けど、なんか3人ほど……錯乱気味になって病院送りになったらしいですね……。まぁ、私達魔術師の息がかかった病院でアフターケアを施したって話なんで、心配ご無用です。うっかり一般人を巻き込んで、記憶操作して忘れてもらう……なんてのも良くある事ですからね!」
そんな魔法使いの常識を当たり前みたいに語られても、困るよ?
と言うか、案外大雑把だった……けど、魔法少女ものでもそんなのあったなぁ……。
友達に見られて、忘れちゃえーってノリで記憶消去……とかさ。
けど、忘れてることも忘れちゃうってどうなんだろね……じんけんじゅーりんって奴じゃなかろうか?
クロちゃんの様子を伺うと、なんか下の方を見て、難しい顔をしてる。
なんかあるのかなぁ……と思ってたら、紅葉ちゃんがクロちゃんが居るところをじっと見ていた……。
「ど、どしたのかな……紅葉ちゃん」
紅葉ちゃん、私の言葉に答えようとせず……クロちゃんのいる辺りをじっと見つめながら、左目に手を当てて、なんかブツブツ言ってる。
手を離したと思ったら、紅葉ちゃんの目の色が変わっている!
紅葉ちゃんの青みがかった眼がかたっぽだけ金色になってて、じっとクロちゃんを凝視する。
クロちゃんもさっさと隠れれば良いのに、こっち見ながら、金縛りにあったみたいにじっとしてる。
「やっと見えた……授業中、なんか居るなぁとは思ってたんですけど……やっぱり! 妖の類かと思ったけど……なるほど、魔力ラインで結乃ちゃんと繋がってるって事は……。そっか! 結乃ちゃんの使い魔だったんですね……良かったぁ! でも、凄いですね……魔力もほぼ完璧に隠蔽してるし、浄眼使ってやっと見えるなんて……。しかも、自律行動タイプ? ここまで高度な隠蔽使えるとなると……相当高位の使い魔なんじゃないですか?」
クロちゃん? 光学迷彩何とかは完璧とか言ってなかった? なんかそっこーバレてるよ?
正直、こっちの魔術師を舐めてかかってるような気がして、何となく嫌な予感はしてたんだよね……。
はてさて……一体どうしたもんか。
そんな訳で、前作未掲載分のアップです。
更新ペースは、ほぼ毎日で、やれる限り行きます!




