一文で一人が異世界を旅して救う話
目を覚ますと異世界だった、なんて話小説以外ではありえないだろうと思っていたけど、本当にそんな話になってしまっていて、僕は異世界にやってきてしまっていたのだが、そこで生活をしてみると案外不便もそんなになくて始めは仕事も見つからなくて毎日公園のような所で寝泊りするホームレス状態だったのだけれど、ある一人の少女、シャルロッテに助けられて彼女のお屋敷に使用人として泊まらせてもらえることになったのだけれど、使用人というのも案外大変で、あっちへいったりこっちへいったりするうちにお屋敷の構造もすぐにわかるようになり、ついでに剣術の修行を師匠につけてもらえることにもなったのだが、この師匠も使用人の一人なのだが、昔はその剣一本で冒険家として名を馳せていたらしく、そんな人に剣術を教われるなんて幸福だなあと思いながら、毎日修行に励んでいたのだけれど、ある日使用人全員が呼び出されて、シャルロッテ様からこんなことを言われるのであるが、それがとんでもないことで、なんと魔王退治をするために旅に出るからそのお供をする者は私についてこいということで、なんとも突拍子なことなのだが、僕も一人の男子としてそんな機会がやってくることを待っていたのであるが、なかなか手を上げることに迷いはあったのであって、なんでかというと魔物討伐ならわかるが、いきなり魔王討伐ということになるということが、とてつもない恐怖感でいっぱいになることなので、まだ剣術だってマスターしていない僕がついていっても足手まといになるだろうし、そもそもシャルロッテ様は戦えるのだろうか、と疑問に思うのだが、師匠にこそこそとシャルロッテ様の実力を伺うと、この街一番の魔道士だということなので、僕はそうなのかと驚くばかりで、やはり手を上げるのを戸惑ったのだが、師匠もついてきてくれると言ってくれて、なら大丈夫かもしれないと思い、僕は挑戦してみることにしたのだが、このように挑戦する人間の数が一人二人ではなく、尋常ではない数の人間がこれに参加することになったのだが、全員使用人であるからして、冒険家というわけでもないのだから、これ全部が役に立たない人間だとしたらすぐに全滅してしまうだろうわけで、シャルロッテ様は考え方を改めてもっと腕の立つ冒険家と一緒に旅をするべきだと思ったのだが、よくよく考えてみればこれはシャルロッテ様に近づけるチャンスでもあるからみんな参加するのか、と思ったのだが、そりゃあもうシャルロッテ様というのはたしかに、かわいくて、きれいなのだが、しかもその上お強いとあれば、もうそこらの平凡な男では相手にならないのであろうが、僕はやはりこれは強くなるチャンスなのだとは思ったわけで、平凡な男を卒業できる可能性だって秘めているのだと思った次第で、しかも師匠も手を挙げてくれている、となれば僕もやはり大きく手を挙げたのであるが、そうして集まった人間が十人とキリの良い数字で、シャルロッテ様も満足気だったのでその点は問題なかったのであるが、集まっている人間がどれも僕と同様の平凡な雰囲気を放つ男ばかりだったのであり、その点はちょっと問題かなとは思うが師匠がいるのだから大丈夫だろう、とたかをくくっていた、次の週、早速魔王討伐のための集団が庭に集まり、各員物々しい装備を整えている中僕と師匠は金がないので鎧もまともに買えず、普段着とあまり変わらない貧乏な様相となってしまったのであるが、それも仕方がないことなので、僕らは早速出発しようと思ったら、シャルロッテ様が僕と師匠の貧乏を見かねて、鎧や剣のお金を出してくれて、とても感激してしまって、泣きそうになったのだが、シャルロッテ様からすれば小銭も小銭なので、たいしたことをしたとも思っていないらしく、さあいくぞ、とだけ告げて僕らから背を向けた時はとても格好良かった、なんて言っているうちに出発したのであるが、出発してからいくつもの街を抜けて、魔王城のある別の大陸への旅は特にトラブルもなく、平穏のまま進んだが、時折魔物たちに襲撃されることもこれはあって、大変だったのだが、こちらも数が多いので、その数だけの戦法でぐいぐい押し込んで魔物を殺していったのであるし、僕も道すがら師匠に剣術も教わっていたし、実践もいくつか積めたので、結構強くなったんじゃないかなと思っていたのであるが、その思いも砕かれることになるのがある街での出来事で、そこである剣士に出会ったのであるが、その剣士というのが名はランスロットというらしく、とてもキザな雰囲気を放つ男で、ろくなものじゃないなと思っていたのだが、どうやらなんとシャルロッテ様の美貌にやられたらしく、いきなり告白してきやがったのだが、シャルロッテ様もそんな軽いお方ではないので、軽くそれを払って、どけ、と言ったのだが、ランスロットもなかなかしぶとい男で、二、三回ほど告白してて、で、それがダメになったら今度は自分も魔王討伐についていくと言い出して、シャルロッテ様はうざいと思ったらしくそれを断ったのだが、ここにいる男を全員倒してしまえばいいでしょう、とランスロットは挑戦してきて、それならまあやってみるといいだろう、とシャルロッテ様も乗り気になってきてしまって、急遽僕ら冴えない男十人と師匠はランスロットと対峙することになったのだが、全員でかかっていくのはあまりに卑怯だということで、一人一人がランスロットの相手をするということになり、僕は十人目となって、師匠は十一人目ということになったのだが、みるみる内にみんながやられていってしまい、僕も挑戦したが、呆気なく負けてしまい、しかも手加減をしていた風だったので、あまりに簡単にやられてしまったことが悔しくて仕方がなかったのだが、師匠なら何とかしてくれるだろうと思い、期待したのだが、なんと師匠が戦いはじめて数分の内に決着がつかないでいると、なぜか、途中で剣を下ろし、私はこの男が気に入った、と言ったのであり、ランスロットが師匠に認められてしまったのであったが、それをなんとシャルロッテ様も認めてしまい、ならば同行を許そうということになってしまったので、僕はもう師匠の一番弟子としてどこか悲しいものがあったのだが、まあランスロットがいれば心強いのも確かだったので、僕らは旅を再開したのであるが、また違う街で僕は師匠からここの森にいる魔物を一人で退治してこい、というむちゃくちゃなことを言われ、ついに見限られたのかとも思ったが、そういうわけではないらしく、一皮むけてこいということらしいのだが、それが本当に可能なのかどうか、僕には全く見当もつかないほど森の闇は深かったし、ここでは行方不明になっている人が何人もいるのだそうだったが、こんな森もクリアできないのでは魔王なんて倒せるはずがないというのが師匠の考えらしく、僕もそれには同意できたので、僕はたった一人で森の中に入っていくのであるが、そんな僕にシャルロッテ様がお守りを渡してくれて、僕はそれを宝物のように大切にしまうと、森の中にずんずんと踏み入り、そしてそこで一週間ほどの時を一人で過ごし、サバイバルしながら森を攻略していったのであるが、なんで自分でもこんなに動けるのかと不思議に思うほどサバイバルの才能に目覚めた僕は、ここでひとつの特技、急所打ちを覚えたのであり、それは敵の急所を一瞬で判断してそこに剣を打ち込むという秘技であるが、このサバイバル生活のうちに何かに目覚めた僕は、他にもいくつかの特技を習得したのであり、これならランスロットや魔王とも対等に戦えるのではないかと思えたので、お守りの力もあったのかな、とは思ったのだが、そこからさらに一週間の時を費やして、僕はついに森の中から魔物の気配を断絶することに成功したのであり、ミッションクリアというわけなのであり、森から出て行くと師匠が待っていてくれて、おめでとう、と拍手してくれたのであり、なんとあのギザなランスロットやシャルロッテ様さえも、僕の様子を見て驚いた様子であり、そして拍手をしてくれたのであったから、最高の一日だったと思うが、そうこうしているうちにさらに旅は進み、ついに魔王のいる大陸へと到達すると、そこは本当にひどい場所になってしまっていて、荒れ果てていた、という表現では足りないほどの荒涼ぶりだったのだが、僕らも旅に慣れたおかげもあり、なんとか旅を続けて、魔物とも何度も戦ったが、成長した僕は師匠やランスロットと同じ第一線で戦えるようになっていて、魔物を蹴散らしていったのであるが、そうこうしているうちに魔王の城へと到達して、そこでデュラハンという首がチョンパされた魔物と遭遇し、そいつが門番をしていたので、戦うしかなかったのであるが、そいつの使う死の魔法というのが厄介で、その魔法を受けた仲間はみんな倒れていってしまい、なんと、五人のこれまでの仲間がデュラハン一人に殺されてしまって、僕らは非常に落ち込んだ気分になったのだが、それでも負けてはいられないので、徹底抗戦し、シャルロッテ様の魔法で動けなくしたところで、師匠と僕とランスロットで三段構えのコンビネーションで斬り付けて、なんとか倒したのであるが、やはりその犠牲は大きなもので、僕らは彼らの亡骸を埋めて、魔王城へとついに進撃し、そしていくつもの魔物と戦い、罠を突破し、突き進み、扉を開き、力を合わせ、ついに魔王と対面したのであるが、その魔王というのが、シャルロッテ様のお父様だということが彼の自己紹介のおかげで判明したのであるが、シャルロッテ様もそのことは知っていたようで、だからあなたを私が倒さなければならない、と彼女は大きな声で宣言したのであるが、その宣言も一笑に付し、ならばやってみせよ、と彼は言ったので、僕らは剣を振り上げて、魔王へと突っ込んでいったのであるが、ここで恐ろしいことに、ランスロットが一撃でやられてしまったのである、あのランスロットがいとも簡単に身体を半分にひねられて殺されてしまったのであったのだが、僕らはそれを信じることができずに、一瞬呆然としてしまったのだが、その隙を魔王は見逃さず、シャルロッテ様を捕まえてしまい、魔法の力で動けなくしてしまったのであるが、僕らはそれを救わなければならないのだが、師匠と僕くらいしかもう立っている人間はいなくて、みんな戦意喪失していたのであるが、僕らはやられるわけにはいかなかったので、剣を振り上げて、そして振り下ろしたのであるが、それも見切られていて、呆気なく僕らは放り投げられたのだが、魔王はこう言っていて、世界を滅ぼす様をシャルロッテと共に眺めていよう、ということだったので、こいつを倒さなくては異世界は滅んでしまう、と思ったので、その必死な思いを持ったまま、僕は再び立ち上がり、そして走りながら叫んだ、この世界は僕が守る、と、そして僕には魔王の急所が見えたのであるが、その時ランスロットの声で上に飛べと聞こえたので、僕は空耳かと思ったが、そうではなかったかもしれないし、そうであったのかもしれないが、ランスロットの声だけが聞こえたのであり、僕はその声の通りに従って攻撃を避けていくと、魔王の背後にまで回ることができて、そのまま急所へと一撃を、決めることに成功したのであって、ばたり、と彼はついに倒れ、シャルロッテ様も解放されて、師匠とも抱き合い、僕らはついに魔王を倒したということで、感激のあまりに泣き崩れてしまったのであるが、それはみんな同じで、みんながみんな感動のあまりに号泣していたのであって、シャルロッテ様だって実の父を殺したわけでもあるわけだから、泣かない訳がなかったが、僕は彼女にあげられるものがお守りくらいしかなかったのだが、それを見せることにしたのは、せめてもの慰めになればと思ったからで、あなたのお守りのおかげで僕らは生き残れました、と彼女に告げると、シャルロッテ様はありがとう、と言って僕に抱きついてくれたので、僕らはみんなやることはやったのだという充足感を得られたのであって、こうして世界は救われて、僕らは元の街に戻ってまた使用人としての毎日を送るようになったのだが、魔王討伐に行く前と行く後では、たしかに違っていて、その違う景色を楽しみながら、僕らはまたいつか、きっと、旅に出て、また異世界を救うというのも、ありなんじゃないかなー、なんて、思ったりするのだ。
おしまい。