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雨男の確率

作者: sugar life

「こんな良い日には」に出てきた雨男の話です。そっちを読んでいなくても楽しめますが、折角なのでそっちも宜しくお願いします。

彼の思い出を語るとき、雨を語らずして彼の思い出を語ることは出来ない。

小学生の時から運動会はいつも雨だった。遠足ももちろん雨。修学旅行も、初日から最終日までずっと雨に祟られていた。学校行事に限らず、地域のイベントもやはり雨だった。雨と彼は引き離すことの出来ない要素であった。

また彼は、日常生活から雨だった。家の中にいる間は晴れていても、用事があって外に出ると途端に雨が降りだす。逆にどこかの建物に入ると雨が止む。彼の状態いかんに関わらず、まるで天気の義務かの如く降りだすのだ。必然、彼の周りも巻き込まれた。

彼はそれでも陽気な人物であった。雨男ではあったが、性格に陰気なところは欠片もない。お陰で彼の周りに人は絶えず、いつも笑いの中心にいた。小学生の時の通信簿には、明るくていつも場の中心にいると書かれている子であった。

「俺は雨に愛されているんだ」

大学生時代の彼のその言葉は、半分冗談で、半分本当だった。


雨男がまだ高校に入る前の、夏の日のこと。吹奏楽部の彼は、部活のある土曜日にもかかわらず一人目的もなくぷらぷらと歩いていた。

目的は無いがどうしても学校に近付くのは抵抗があり、学校とは反対方向の、公園に向かう一本道を進んでいた。

ここの道は人通りも少なく、車の通りも無い。一人になるには格好の道だ。左手の折り畳み傘の感触を確かめる。今はまだ曇り空だが、いつ空が崩れてもおかしくない。自分の雨男体質を、彼は充分に理解していた。

公園に着く。流石の土曜日で、曇りであっても人がそこそこいた。その中に学校の知り合いがいないことを確認すると、公園のベンチに座った。空を見上げると、今にも泣き出しそうな空色だった。

目線を落とすと、子供がいた。一体いつからいたのだろうか、雨男は全然気付かなかった。小学低学年くらいの女の子。初めて会ったはずなのに、その子の目に見覚えがあった。

「ねえ、お兄さん」

その子が口を開く。

「傘、さすの?」

女の子は雨男の左手にある折り畳み傘を指差した。

「雨が降ったらね」

ごく当たり前の答えを返す。すると、女の子は明らかに眉をしかめた。

「雨、嫌いなの?」

「……そうだな」

雨男はもう一度空を見上げる。雲がより一層厚みを増していた。

「雨のせいで、運動会も遠足も全部駄目になったしなあ」

見えはしないけど、きっと女の子は悲しそうな顔をしているんだと、そう雨男は思った。

「やっぱり、雨が嫌いなの」

女の子の声には悲しみの色合いが強かった。それがちょっと面白くて、雨男は少し笑ってしまった。

「最後まで聞いてよ」

雨男は続ける。

「雨で良いことなんて無かったのにさ、どうしてか分からないけど、不思議と雨が嫌いじゃないんだよね」

女の子を見てみると、嬉しそうに口許を緩めている。雨男も、なんだか嬉しくなった。

「多分、雨が好きなんだろうな」

遂に満面の笑みを浮かべて、

「私も、大好き」

と言った。雨男も自然と笑顔になった。

「そっか僕たち気が合うな」

すると、ポツリポツリと雨が降ってきた。最初は弱そうだったのに、見るまに雨脚が強くなってきた。公園にいた人達は蜘蛛の子を散らすように走っていった。何人かは傘をさしていた。雨が傘を打つ音が嫌に鮮明に聞こえた。

雨男も自分の折り畳み傘をさそうとして気付いた。目の前にいた女の子がいなくなっていた。でもなんだか今の方がいつも通りのような気がした。

折り畳み傘をベンチに置いて、雨に濡れながら帰路についた。

最後まで読んで頂きありがとうございます。最近の異常気象は好きになれませんね。


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