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五話 竜対ネコ

 正面から風を切り裂き、弾丸のように迫ってくる。翼の生えたドラゴンだ。そのドラゴンは前方にいる敵を捉えると、口を縦に開き、燃え盛る炎を吐き出した。放射状に炎は広がり、空気を、景色を、炎に触れた全てを燃やし尽くす。

 まもなく敵に到達するだろう。そしたら敵は成す術なく炎に囚われ、焼かれる。いつものことだ。後には何も残らない。例外はいままで一つもなかった。

 ドラゴンは口角を釣り上げ、笑う。また一つ命を奪った。また一つ天に還した。あぁ、なんと至福。この瞬間が生きてると感じさせる一番の時だ。一方的な蹂躙…素晴らしい。


「〜『発動』」


 悦に浸っていたドラゴンの鼓膜を震わせた声が一つ。それは、ありえないことだった。それは、もう聞こえるはずのない声、今焼きつくしたはずの存在の声。

 声が聞こえた。


『ソンナ!バカナッ!?』


 ドラゴンは目の前の光景に動揺を隠せなかった。前方には焼きつくしたはずの敵が|炎を喰らった感じなど微塵も感じさせない姿…………でゆっくりと燃える地面を踏みしめてくる。敵は燃える地面を歩いているのに、敵に襲いかかるはずの炎はその牙で噛み付く前に掻き消され、鎮火していく。


『ナゼイキテ…グフォッ!?』


 言葉の続きとして出たのは血、ドラゴンの口から溢れるように流れて出てきた。そして、遅れて鋭い何かが皮膚を破り肉を貫かれた激痛が腹部に訪れた。下に首ごと目を向けると、銀色の刀身が腹を突き破っていて、赤く光る液体がそれを伝わって流れ出ていた。

一本の剣がドラゴンを貫いていたのだった。


『コッ、コノケンッ…ハ…』


 ドラゴンは、自分から力が抜けだしていく感覚を感じた。体重が何倍にも増えたような、体全体の重さに耐え切れず飛んでいた空から地面に落下を始めた。地面に激突した時の痛みで意識が飛びそうになり、必死にこらえようと重すぎる体を無理矢理動かそうとして、止まった。

目の前に敵がいる。

ただいるだけ、自分を見下すように立っているだけなのにこの震えはなんだ?なぜ寒気がするんだ?

ドラゴンは恐怖していた。自分をここまでして敵に対して。恐る恐る敵の目を見る。その目にドラゴンは何を見たのか、戯言のように『バケモノ』と繰り返して、意識をなくした。


 ◆


「でさ〜、クロのやつの実力ってシエラあんた知ってる?」


 ネリアがお菓子を齧りつつ、聞いてきた。この場合の実力とはやはり魔法のことだろうな、と、そういや『想像』の方の力を言ってないなぁ、と、いうことを思い出した。


「あっ…そういえばクロの力は分からないんだったわ。たしか私が知ってるのは無限収納できる魔法を使えるってことぐらいかしら」


 ーシエラ、それ魔法やない。


「無限収納できる魔法?ということは好きに道具とか仕舞えたり出したりできるのか!すげぇ便利だなそれ!」


 予想以上に高評価をもらえた。クマリも「いいな…」と褒めてくれた。シエラは、私の使い魔ですもの!と、鼻が高くなっていた。


「でもそれだけなのか?」


「え、い、いや、まだあるわ!ね、クロ?あるわよね…?」


 ーいやシエラさんや、そんな子供がおねだりする時みたいな目で見ないでくれよ。しかし、そろそろ言ってもいいかな。んー、でもなんて説明しよう?うまく説明できる気がしねぇ。あーあ、せめてステータス画面見せれればなぁ。


「まぁあることにはあるけど…なんて言えばいいかわかんないんだ。かといってここで試すことなんてできないし」


 黒井には、こんな人がそこそこいる店の中で魔法をすると、嫌な未来しか見えなかった。シエラには迷惑をかけたくないと思っているからここではできない。


「…なら、練習場」


 自分の分のお菓子を食べ終えたクマリがぽつりと呟く。それが他の二人には聞こえていたそうで、二人揃って頷いた。


「そうね、たしかにあそこなら多少騒ぎを起こしても平気だわ」


「よし!そうと決まりゃ早速行こうぜ!」


 三人の中で決まったそれはすぐに実行された。素早く支払いを済ませると足早にお店を去り魔法学校の練習場と呼ばれる場所に向かった。赤い鱗のドラゴンは寝たまま、クマリの頭の上に乗せられていた。どんなに揺れても落ちもしないし、目覚めもしなかった。さすがドラゴン。


 数十分程度歩くと魔法学校が見えた。校内に入りそのまま練習場を目指す。まだ中には午後の授業を終えたばかりの生徒がたくさんいた。それを避けながら、練習場と書かれた扉の前にまでつくと、扉を開けた。

 練習場はだだっ広い空間だった。教室一つを“1”とすると、大体横に30×縦に30×高さ20くらいの大部屋だった。そこには誰一人いない…なんてことはなく、シエラ達より先に来ていた生徒が自分の魔法の練習をしている。目の前で当たり前のように飛び交うカラフルな魔法が部屋を埋め尽くしていた。その光景が黒井には新鮮に見えた。


「…すごい」


 思わず声が出てしまった。それほど感動したのだろうか、移動しながらもそれに見入っていた。


「…ロ、クロ!」


「ハッ!!」


 が、意識の外においやっていたシエラが呼ぶ声で、自分が気を取られていたことに気がついた。多分だらしなく口を開けていたのだろう。口の脇からよだれが垂れそうになっていたので、急いで拭き取りシエラに目線を戻す。


「よし、ここなら存分に力が出せるわ。さぁ、あなたの力、私達に見せて?」


 少女三人がワクワクと、そんな擬音が目に見えそうなほど黒井に期待しているのがわかった。黒井としては、その反応は歯痒いものがあったが置いておき、自分の力を使おうとしてー踏みとどまった。


「なぁシエラ、何か的になるようなものないか?」


「ま、的?なんでなのよ?」


 そう返されても、ただ自分は「力を見せて」って言われてどんなのを見せればいいのかわからないからだ。まぁ、見せるなら攻撃系がいいのだが、それでも的がないとやりにくいから、と、シエラに伝える。シエラも何とかわかってくれたようで、いいわよ、と返事をするも困った顔をした。


「的と言っても、何処かにあったかしら?」


「アタシは持ってないし、的なんて何処にあるかもしらないぞ?」


 二人共これは困ったといった顔をして白旗を上げる。


 ーおいネリア、お前ここの学生なのになんでそんな無関心なんだよ。

 と、心のツッコミをした時、ここで皆の間にクマリが割って入ってきた。手には目が覚めているドラゴンが抱えられている。しかも鼻息は荒く、ヤル気に満ちた目をしている。


 ーなぜスイッチが入っちゃってるんですかアナタ……まさか!?


「…この子…ディアロが戦いたい…って」


フンス!と鼻を鳴らす。それだけなら良いものの、戦いたいとドラゴンーディアロがクマリに言い、クマリは承諾したのだった。黒井はシエラが止めてくれると信じて彼女の方を向いた。


「いいわね、そっちの方がクロもやる気出ると思うし。ね、クロ?」


「なんだか面白くなってきたな!」


ーすまんシエラ…頷けないよ。そしてネリア、全然面白くねぇから!


かくして、黒井はこの世界初の戦いをドラゴンと行うことになったのだった。ネコVSドラゴン。結果は見えているようなものだ。黒井はシエラに向かって全力で抗議したが彼女は聞く耳を持ってくれない。


「…ディアロ」


『ナニ、ワカッテイル。ハンゴロシッテヤツダロウ?』


何やら小さな声で会話をしている主人(クマリ)使い魔(ディアロ)。黒井には聞こえなかったが謎の寒気を感じた。


「じゃあそろそろ始めるわ。クロはそこ!クマリのドラゴンはそっちね!いい?これはクロの実力を見るんだから手を抜いちゃダメよ?」


シエラの言葉もほどほどに両者位置につき向き合う。緊張の糸が張り詰める。触れただけでも爆発してしまいそうな何かが二匹の間にあった。


「よぉーい…始め!」


そして緊張の糸が切れ、お互いが自分の持つ力を行使するため動き始めた。先手をうったのはなんと黒井だった。

黒井は瞬時にアイテムBOXから先日シエラに買ってもらったロングソードを目の前に出した。そしてぶつぶつと何か呟いた。ディアロはいきなりの剣の出現に驚いたものの、今の黒井を見て“使えない”と判断、ただの騙すための手段と捉えた。

しかし、それは黒井が考えた油断させる為の罠だった。


『発動』


『ナニ…!』


突如として黒井の近くの地面からぐねぐねと動く木の根が二本生えた。その根っこは触手のように、ロングソードの柄の部分に巻き付くと勢いをつけしなるような動きでロングソードを投げた。まっすぐ飛んでいくロングソードはすごい速さでディアロに接近していた。ディアロは驚いた顔で、|長剣をしっかり見ていた《……………》。刺さるまでもう間近というところで、黒井は勝利を確信した。


『ナンダ、オソイナ(……)


「…え?」


一瞬だった。飛んできたロングソードをディアロは腕の一振りで弾き、剣が大きく弧を描いて地面に刺さった。かなりのスピードで投げたはずなのに、それを上回るスピードで振り下ろされた腕にいとも簡単に防がれたのだった。


だが、それだけで終わりではなかった。唖然としていた黒井にディアロは狙いをつけ跳びだした。ドラゴンの筋力は体が小さくても、人とは比べ物にならないほど高い。現に、跳びだした時に蹴られた地面は大きく抉れていた。


「ッ!守れッ!!」


我に返った黒井は直撃を避けようと、木の根の触手二本を黒井の前に交差させるような形で壁を作った。意外に太いのでしっかりとした壁ができ、安堵の息をつくが長くは保つまいと、第二陣の防衛手段をとるため『イメージ』と唱える。一枚の大きな金属壁を能力で二匹の間に出現させる。


「『発動』鉄壁の守りだ!どうだ!!」


触手の壁を破ったディアロの視界を遮る形で重苦しい質量感ある壁ができた。これなら破れないだろ、と。


『フン、テッペキ?ワラワセルナ!』


しかしディアロは金属壁を見て鼻で笑った。少し距離をとってから壁に向かって体当たりをした。金属同士がぶつかったようなうるさい音で思わず練習場にいる皆が耳を塞いだ。

時間をおいて金属にヒビが入っていった。ありえない、と黒井は思った。


ーこの世界のドラゴン脳筋過ぎやしまいませんかねぇ?


そして大きな音を立て一緒に崩壊していく金属壁。粉々に砕け散り、壁の原型をとどめていなかった。


『サア、ツギハドウスルンダ?ナイナラワレカライクゾ!』


そしてディアロの攻撃が始まった。



ディアロは基本四足移動ですが滑空することも多く、ドラゴンの脚力を活かした跳びこみで瞬時に距離を詰めることもできます。


武器 顎 牙 爪 尻尾 鱗 ブレス


黒井の能力もある程度融通が効きます

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