光と闇の交差点Ⅲ
第四章 神聖騎士の称号を持つ者
人ってものは儚い命だよなぁ。すぐに皆逝っちまう。
生きられる時間も短いし、すぐに病にもかかる。だが、その短い人生だからこそ必死に生きて、大切な人が出来て生きてるという実感を感じるんだ。
誰だって死ぬんだ。それは寿命が来たら人間であれば死ぬ。
中には自殺する者もいれば他人を殺害することもある。だが俺はそんなのは許さない。
人は皆平等に生を受け、喜びあったり悲しんだりする感情を神から与えられたのだ。
それを奪い去る奴らは誰であっても許さない。
だからデルテス。貴様はこの命に換えてでもここで殺す!
「出し惜しみもなにもしない。一瞬で貴様を消してやるぞ、デルテス!!」
リヴェイドが身の丈程ある盾を八つに分身させ、自分の回りに展開させた。
約30㎝程地面から浮上させ、盾が生きてるかのように移動して攻撃を防いでくれるのだ。
「氷結斬撃!溶熱弾丸!」
リヴェイドが右手の剣で氷の斬撃波を、左手の銃でマグマの弾丸を撃ち放った。
デルテスはそれをふぅっと吐息で消滅させた。
幻魔族でも当たれば重傷か即死かの技なのに、吐息だけで消されるとあっては次元の違いを痛感させられる。
「まだだ!猛き燃え上がる炎よ、我に仇なす者を灰塵と化せ!エレメント・ファイア!」
長い詠唱をしているリヴェイドはまだ詠唱を続ける。
魔法や召喚術は詠唱というものをするのだが、詠唱が短ければ威力は弱いが速く発動できる。
逆に強力なものであればあるほど詠唱は長い。
「世界を支える美しき水よ、時となり荒れ狂う波となれ!エレメント・アクア!」
戦場ならば、単独詠唱は格好の獲物。壁役等をつけて大きな詠唱をするのだが、リヴェイドは一人で、他の皆は目の前の敵で精一杯だったので援護に行けなかった。
「旋風のごとき鋭き風よ、刃を纏いて敵を切り裂け!エレメント・ウインド!」
これ程までに長い詠唱をしているにも関わらず、デルテスはなにもしてこない。寧ろ何が来るのか楽しみにしているみたいだ。
「全てを育みし母なる大地よ、悪の踏み締めし大地に激震を起こせ!エレメント・アース!」
リヴェイドが一通りの詠唱を終えると、赤、青、緑、茶色の4つの銃弾がリヴェイドのマグナムリボルバーに装填された。
「貴様のその笑いもこれまでだ!エレメンタル・バースト!!!」
左手をマグナムに添えて、トリガーを引く。
先程装填された四色の銃弾を一度に発砲した。
中央に白のリヴェイドのオーラを込めたレーザーのようなものに、赤、青、緑、茶色のレーザーが螺旋を描き取り巻く様に延びて行く。
デルテスは左手を前に突き出し、黒色の障壁展開させた。
障壁とエネルギーの奔流が衝突し、辺りにバチバチと稲妻が迸る。
「ぐっ、想像以上だよっっ!」
デルテスが顔を苦痛に歪め、リヴェイドの攻撃が障壁を貫通した。
「人間風情がぁぁぁぁ!!」
デルテスが叫びを上げながら消失した。
「や、やった・・・・・・のか?」
ライトがリヴェイドの元へ駆け寄ると「いや、まだだ」と言ってくる。
まだと言われても、敵軍の親玉はリヴェイドのエレメンタル・バーストによって倒された筈・・・・・・。
そこで、各自の敵を倒したルーラとミルロードも合流する。警戒を怠らずにオーラを出していた。
ルーラは金と白銀の鎧に大槌を装備し髪の毛は逆立っている。まるで超戦士みたいな格好だ。
そしてミルロードは桃色の髪を亜麻色に変わっており、白銀の鎧は赤薔薇の装飾を施されて凛々しくそして美しい。
双剣は二本の逆刃刀のようなものに変えていた。
「いくらなんでもリヴェイド一人じゃ荷が重すぎるわ。ライト、ルーラ力を貸してくれるかしら?」
ライトとルーラは頷くとミルロードの後に続いた。
「デルテス、貴様は本気じゃなかったと言うのか・・・・・・っ」
リヴェイドが片膝を着き肩で息をしている。
身の丈あろう大楯は至るところに罅が入っており、剣は折れ鎧は砕けていた。
一体どんな戦いをすればこうなるのか。
「ふははははは!やはり神聖騎士といえど守りながら戦うのは辛いなぁ!」
そう、リヴェイドは王都を、騎士達を守りながら戦っていたのだ。全ての攻撃を反らし、捌き、その身で受けていたのだ。
王都の人々や残っている騎士達が致命傷を免れているのは彼のおかげだったのだ。
「人間とは本当に愚かだなぁ!他人の事など放っておけばよいものを、庇って自分から傷付こうとする!」
デルテスは両手を大きく広げ、高らかに笑う。
「さあ、終わりにしよう。死の隕石!!」
デルテスが左手を掲げ、降り下ろした。
上空から無数の隕石が降り注ぎ騎士達を、王都を襲う。
「死ね」
冷淡な眼差しでリヴェイド達を見据える。
「俺が・・・・・・守らなければいけないんだ・・・・・・!」
リヴェイドはふらふらの脚にむち打ち、隕石を落としにかかる。
しかし、リヴェイドは満身創痍、疲労困憊と言う言葉がきれいに当てはまっている状態で、心身共に疲れ果てていた。
守れないのか・・・大切なものを。
リヴェイドは己の無力さに後悔した。聖騎士団の長でありながら、騎士達を生きて返すことはおろか、国も民も守れない神聖騎士では誰も着いてきてはくれない。
「おいおい、いい歳して泣くなよオッサン!俺達がついてるだろ?」
「そうよリヴェイド。帰ったら宴会じゃない。貴方は一人ではないのよ?」
「そうですよリヴェイド総師団長。俺達は貴方に憧れて聖騎士団に入ったんですよ?シャキッと胸を張って俺達を先導してくださいよ!」
ライト、ミルロード、ルーラが次々と隕石を撃墜してリヴェイドの前に立ち並ぶ。
「お前達・・・・・・すまない」
リヴェイドが立ち上がり、意を決したかのように告げる。
「こんな頼もしい部下がいて、命を懸けてでも守らないといけない人々が居るのだと」
武具の無い、輝力も尽き果てていたリヴェイドが左胸の、ちょうど心臓部分にあるエディルの騎士である(剣を交差させている)武具の紋章を輝かせ、その光を取り込んだ。
「人は皆死んで行く。だが、自然に死ぬのではなく他人によって命を奪われるのは絶対に許さない。俺一人の命で皆が助かるのならばよろこんで差し出そう・・・・・・っ!」
「諦めの悪い人間は嫌いだ!圧倒的力にひれ伏すがいい!!」
デルテスが両手を胸の前で合わせ、その中心に黒いオーラが集結する。そして、様々な黒い音符の形をした物体がデルテスの周囲に集まった。
それと同時にリヴェイドが左胸にあるエディルの騎士の紋章に手を当てた。
「我の命を力に代えよ!生命変換!!」
リヴェイドが短いスペルを唱えると、紋章が消え、存在が薄れていくような、だがうっすらと目視できる半透明人間になった。
「あ、あれは!やめて、リヴェイド!!」
ミルロードが血相を変えて訴えかけるが、リヴェイドは微笑みを返してデルテスに向き直った。
「終焉の鎮魂歌!!」
「極光の神聖波!!」
デルテスの放つ漆黒の音符の黒い波をリヴェイドから放たれる虹色の光が、音符を騎士達を、そして全世界を照らした。
幻魔族の軍勢は一瞬で浄化され、気化した。そして、デルテスはじわじわと、だが確実に蒸発している。
「これで、勝ったと思うなよ人間。闇が存在する限り、我は何度でも・・・・・・蘇・・・・・・・・・・・・る・・・・・・」
そういい残してデルテスは蒸発した。
「我々・・・・・・の・・・勝利・・・・・・だ・・・・・・」
今にも消えそうな存在の中で、リヴェイドが拳を天高くに突き上げた。
騎士達は涙を流し、勝利の雄叫びを上げ、共に生き残った仲間に熱き抱擁を交わした。
俺らを除いては。
「オッサン、なんで最後まで自分一人で背負い込んでんだよ!命の重さを一番よく理解してるのはあんただろ!?」
ライトが胸ぐらを掴もうとしたが、右手は空を切り捲し立てる事しかできなかった。
リヴェイドはすまなそうな顔をして沈黙した。
なにも答えないリヴェイドに対してライトが激怒した。
「確かにこの世界救うためにデルテスは倒さなきゃいけない存在だ!だがな、自分の命を犠牲にしてまでやらなきゃいけなかったのかよ!?俺達皆で力を合わせてデルテスを倒すって考えが、出てこなかったのかよ!!」
ライトは瞳に涙を貯め、行き場のない悲しみをぶつけることが出来ず、地面を殴り付ける。
「リヴェイド、私はね貴方と一緒に戦いたかったのよ。私と魂の融合すればまだ勝機はあったはずよ?ほんと・・・・・・バカなんだから・・・・・・」
ミルロードはハンカチで目元を拭い、静かに涙をこぼしていた。
「リヴェイド総師団長、俺達はそんなに頼りのない部下ですか?貴方はいつもそうです。何事も自分でやろうとする!少しは頼って下さいよ!!」
ルーラはリヴェイドに触れることが出来れば、彼の胸板に強く拳を叩きつけていただろう。うっすらと視認できるリヴェイドに腕を降り下ろす。
「俺はお前達を心の底から信用している。だから、これからの未来を築いて欲しいのだ。物理攻撃や魔法は恐らく通用しなかった筈だからな」
リヴェイドは暗黒の雲間から射し込んだ光を仰ぎ見、右手でそれを隠す。
「これは最初の希望の光だ。この光を絶えささないことこそが俺達人類の未来に繋がるのだからな」
リヴェイドは皆の肩に手を置き、激励する。皆からはもう一度大粒の涙が零れた。
「オッサン、このまま消えたりしねぇよな!?いつもみたいにふざけて、嘘でした!って・・・言うん・・・だろ?!」
ライトは掴めない胸ぐらを掴もうとし、その場に泣き崩れる。
リヴェイドは申し訳なさそうな表情を作り、腰に携えていたマグナムをライトに託そうとするがその手を強く振り払う。その態度に今の今まで我慢をしていたミルロードが怒りを露にする。
「ライト、いい加減にしなさい!リヴェイドを想っている気持ちはこの場に居る人皆一緒なのよ!?貴方も騎士で戦場に立ってる以上、子どもじゃ無いんだからリヴェイドの・・・・・・思いを無駄にせず、貰っておきなさい!」
ミルロードは涙を堪えながらもライトを叱りつける。
「このバカが!!」
ごすっ!とライトの頬を力一杯殴り付けた。
「ここまでバカだとは思わなかったぞ!リヴェイド総師団長はどれだけお前のことを気に掛けてくれてると思ってるんだ!入団からずっと生活も剣術も一緒だったんじゃないのか!?」
ルーラはライト胸ぐらを掴み、怒りに震えながらも睨み付け捲し立てる。
そう、ライトとリヴェイドはまさに親子同然の仲なのだ。
「だからこそ、そのマグナムをお前に託そうとしてるんだぞ!」
「なぁに、また魂は生まれ変わり巡り会う。来世でもその先でも、必ずな」
リヴェイドはマグナムをその場に置いた。
「ライト、お前ならこの世界を変えてくれると信じてる。だから俺はもうなにも言わない。短い間だったが、ありがとな」
そう言い残しリヴェイドは光として散った。この空の暗闇だけを消して・・・・・・。
第五章 受け継がれし者
「思い・・・・・・出した」
三年前の聖幻戦争の出来事を思いだし、頭を抱える。