光と闇の交差点Ⅰ
初めて小説を書きます。誤字脱字や書き方がおかしいかもしれませんが、アドバイスや感想を頂けたら嬉しいです!頑張って書きますのでよろしくお願いいたします!!
序章
-な…何だよこれは!町が全て焼かれてる?!
辺りに人の気配はなく、所々に焼けた死骸、手足がバラバラの死骸を見かけた。
-何が起こってんだよ!こんな町見たことないし、そもそもここはどこなんだ?!と、辺りを見渡しながら歩いていると、言葉が出ない光景を目の当たりにした。
「……」
ただ呆然とすることしか出来なかった。何故なら、人の何十倍もの体躯をした怪物が眼前に居たからだ。その怪物は髪の毛がなく額に一角、真紅の双眸に深海色の肌をしている。これといって武器や防具は持っていないが、両手両足の爪は鋭く尖っている。その怪物は逃げ遅れた小さな女の子を手で鷲掴みし、ぐぱぁと大きな口を開けギラギラと鋭い牙を見せた。女の子は逃げようともがいているが圧倒的な力の前に首までしか動かない。そんな女の子を無慈悲に頭からかぶりついた。怪物の口からは血が垂れ、女の子の体は力なくダラリとぶら下がっていた。
最悪の光景だった。ニュース等で殺人事件があったと言うのはよく観るが、自分の目で、しかも得たいの知れない怪物に噛み殺されるのを見たのだ。非現実的かつ残酷な光景を見せられ、体が硬直して一歩も動く事が出来なかった。本能は逃げろと言うが、体が言うことを聞いてくれない。
怪物が女の子を咀嚼し終えこちらを見つめていた。
逃げろ、逃げろ、逃げないと喰い殺される!だが、体が動かない。
怪物は容赦なく近付いて来る。手を伸ばし捕まれそうになったその時ー
「神聖なる光よ、闇を浄化せし聖雨となれ!《ホーリーレインディア》!!」
姿も何も見えないが、声だけは聴こえた。その声は【ある女】の声に似ていた。そこで俺は光に包まれ意識を失った。
第1章 エディルの騎士
「君……は?」
俺は夢で聴こえた声の主が誰なのかを聞き直した。だが、それは夢の中で起きたことであって、目が覚めてしまえばそれは関係ない。
まだ重い瞼を手で擦り窓を見る。太陽の光が眩しく、天気が良いものだ。ベットから降りて軽く体を伸ばして時計を見る。時刻は7:20分で、今から支度すれば十分学校に間に合うだろう。
一階の洗面所で顔を洗い、リビングへ向かう。リビングの方向からいい臭いを漂わせている朝食の薫りに胃袋を刺激され、足早に向かう。リビングに入ると背の低い女の子がキッチンに立っていた。
俺の名前は倉影雷戸。平凡な高校生だ。髪は黒で瞳はブラウン。勉強も運動も中の中だ。だが、俺には自慢出来る姉がいる。
「姉ちゃんおはよ~」
「あら、雷戸おはよう♪ごはん出来てるよ~♪」
そう、見た目は中学生だが発育はグラビア顔負けのプロポーションの彼女が優衣姉ちゃん。俺の一つ上の血の繋がった姉弟なのだ。
朝食を取り、歯を磨き制服に着替える。そのまま家を出ようとすると……
「ちょっと、待ってよ雷戸~!」
後方から優衣姉の声が聞こえ振り返る。朝のトーストを口にくわえながら玄関に走ってくる。
「優衣姉、そんなに急がなくても大丈夫だよ…」
溜め息混じりにそう言うと
「だって、雷戸が置いていこうとするもん!」
「てっきり先に行ってるものかと……」
「洗い物とかしてたんだから仕方無いでしょ?あ、それとも毎日洗い物してくれるの?ありがと~♪」
「いや、俺は………」
「決まり~♪」
などと、半強制的に決められてしまった。俺は溜め息しか出なかった。
「はぁ………」
私立影光学園。ここは俺、倉影雷戸や倉影優衣が通う高等学校だ。広大な敷地に庭園中央に四階建ての本校舎、西に悪魔の様な石像が象られた黒紫の塔があり、東に女神の様な石像が象られた黄金の塔がある。
正門は天使と悪魔が門番のように左右に鎮座しており、どこかの豪邸みたいな造りの学園である。
いつも通りに靴箱で履き替え、そのまま教室へ。
「おーす」
軽い挨拶を吐きながら教室の扉を開けると、やけに騒がしかった。自席の隣で幼なじみの加藤に訊くと
「よう、倉影!知ってるか?今日転校生が来るらしいぜ!」
こいつの名前は加藤 栄。 黒髪のワイルドショートヘアーに所々にアッシュブラウンのメッシュを入れている。身長は俺と同じくらいの170㎝を少し上回るくらいだ。ややビジュアル系的な外見だが能天気な幼馴染みだ。
転校生。まぁ、4月だし転校はそんなに珍しくないはずだが?俺は首を傾げながら黙っていると
「知らないのか?お前。転校事態が珍しくは無いけどさ、今日来る娘が超絶美人らしいんだぜ♪」
「そうなのか?俺は興味ねぇや」
などと冷たく返すと、加藤ははぁ~と盛大にため息をついて語ってくる。
「倉影、お前が今まで女が出来ないのは、興味も示さないし誰にでも冷たすぎるんだよ!だから女友達はおろか、男友達もろくに出来ないんだ!」
ビシッと人差し指を突きつけられ、宣言された俺は少し怒りを覚えた。
「加藤お前な、自分の事もまともに出来てないくせに人に言うのは間違ってないか?」
睨みながら返すと
「いやいや、俺は超絶美人転校生を彼女として迎えるから!」
俺は溜め息しかつけなかった。はぁ、今日で2回目だな。
程なくしてHRが始まり、担任が教台の前に立った。 担任の名前は野々村 進。長身に細身な体躯、真ん丸の銀縁メガネにセンター分けの銀髪の優しい担任だ。
野々村先生がにこにこしながらHRを始めた。
「はい、それじゃHRを始めますよ~。早速ですけど、転校生を紹介します。どうぞ、入ってくださ~い」
野々村先生の声のあとに教室の扉が勢いよく開かれた。小柄で金髪の縦ツインロール、ディープサファイアの鋭い双眸、小柄で華奢な体に不釣り合いな巨乳。完全なロリ体質だ。
「はい、それじゃ自己紹介からお願いしますね」
野々村先生が促すと、転校生は嫌々といった様子で口を開いた。
「青龍院 桃華。よろしく」
会釈もしないで、素っ気ない態度で教壇の前に立っている。なんだよコイツ、態度でけぇな。青龍院 桃華、どこかお金持ちのお嬢様か?こんな奴と関わりたくねぇなぁ。
皆同じ気持ちなのか誰も声を上げなかった。そんな空気を察してか、野々村先生が転校生への質問を促した。
「そ、それじゃ、今から青龍院さんに質問をしてみたいと思います。何でも訊いてあげてくださいね~」
その質問に一番に手を挙げたのは加藤だった。
「はい、それじゃ加藤君どうぞ」
野々村先生が加藤を指名する。
「好きな食べ物は何ですか?!好きなタイプでもOKです!」
青龍院は鋭い双眸を更に鋭くし、蔑む様に答えた。
「好きな食べ物も、タイプも無いわ。ただ、貴方みたいに馴れ馴れしくて五月蝿い人は嫌いね」等と言う辛辣な言葉に加藤はその場でガックリ。頭を垂れていた。
加藤、ドンマイ。お前の転校生を彼女に迎え入れると言うのは儚く散ったな。心のなかで笑ってやった。
昼休みになると俺は弁当箱を机の上に広げ、食べようとするといきなり頭を叩かれた。
「ってぇ、なにしやがん…だ?」
振り向きざまに胸ぐらを掴んでやろうとしたら、何やら柔らかい感触が右手にある。小ぶりなスイカのような大きさでマシュマロのような弾力だった。恐る恐る顔を上げると、血管を浮かび上がらせながら頬をピクピクさせていた青龍院が立っていた!
「せ、青龍院!これは………!」
狼狽しながら弁護しようすると、強烈なビンタが飛んで来た。体勢を整える間もなくアッパーカットをお見舞いされた。
「げふっ」
そのまま後ろに倒れてしまった。あぁ~、弁当が………
「このっ、変態!!」
耳まで真っ赤にしながらげしげしと蹴りつけてくる。痛いって痛いって!やめてくれよ。それ以上は過剰防衛だ!
「青龍院、落ち着け!」
「貴方が破廉恥なことしなければ何も無かったのですよ!」と更に蹴ってくる。クラスメイト達が、もっとやれだの、いいぞいいぞ~!何てことを言ってくるし、野次馬の皆さん見てるなら止めてくださいと心で呟くのだった。
程なくして落ち着きを取り戻した青龍院は何やら話があるとのことだった。
「で、何だよ話って」
俺が素っ気ない感じて返事すると、青龍院は鋭い眼差しで睨んできた。さっきの事まだ根に持ってるのか?
「何でルシファーがこんなとこに居るのよ!」
青龍院の訳のわからない発言に首を傾げる。
「るしふぁー?なんだそれ?」
「熾天使ルシファーよ。知らないの?これだから無能は………」
やれやれといったポーズを大袈裟にしてくるところが腹立つ。コイツ、いずれギャフンと言わせてやる。
「で、そのルシファーとやらがどうしたんだ?」
改めて本題に戻ると、青龍院はこほんと軽く咳払いをしてから告げる。
「貴方は熾天使ルシファー。最後は堕天使ルシファーなんだけどね。これでもわからないの?」
うーむ、天使だの堕天使だの何を言ってるんだ?俺は訳がわからないといった感じで首を傾げた。
「はぁ………。ふんっ!」
「うっ、あぁぁぁぁぁ!!」
頭の上に手を置かれたら急に頭痛が…いや、とんでもない情報が俺の脳に流れ込んできている。その情報を処理しきれないから、脳がオーバーヒートしているのだろう。
薄れ行く意識のなか俺は何故か一つの言葉を口にした。
「神よ、何故私を見捨てたのですか………………」
そうして雷戸の意識は闇の奥底に眠った。
暗い。何も見えない。ここはどこなんだ?俺は学校に居た筈なのに、何故だ?と、暗い中に一筋の光が見えた。
光?出口か?海を泳ぐようにその光の方へと進んでいった。
その光までたどり着くと何やら話し声が聞こえた。
「どうしてですか!何故私より底辺な人間共をそんなに大切にするのですか!私の方がこの世界に貢献しています!時には汚い仕事だって、命令されればやって来ました!神よ、あなたの御命令は全て引き受けこなしました!なのに…何故………」
「ルシフェルよ、そなたはこの世界に様々な貢献をしてくれたのはわかる。じゃが、人間が居るからこそ世界もまた廻ってくのじゃよ。その人間を大切に出来ないと言うことは、世界を大切に出来ないということなのじゃぞ?」
何やら白髪で長老髭のオッサンと20代半ばと思わしき人物が口論している。こんなの見せるよりここがどこなのか教えてくれよ爺さん!
だがその声は二人に届いてないのか、口論が続いている。
「私は神になる。人間共を全て消してみせる!」
「ルシフェルよ、そのような愚かしき事は止すのじゃ!」
そこで眩い光に包まれ、光が収まったと思うと、また違う景色が広がっていた。
「ここは?さっきからいったいどうなっているってんだよ!変な爺との口論見せられたり、青龍院にボコられるし何だってんだよ全く」
「さあ、聖戦の時です!我が師ルシフェル、いえ、堕天使ルシファー!この世界の人々を守るため、私は屈しません!」
赤髪のややウェーブのかかったロングヘアーの女性に、向かい合っているのが
「ミカエルよ、今まで私に勝てたことがあったか?人間を滅ぼす前に、この出来損ないの弟子を教育しないといけないな!」
ルシファーだ。 何だ?この展開。天使同士が戦うのか?ルシファーの姿や雰囲気がさっきのものとは比べ物にならないほどに邪悪な気に包まれていた。
「お、おい!お前たち止めろよ!」
言うも虚しく雷戸の声は届かず、二人は剣を抜いた。
「貴様みたいな大天使が熾天使の私に勝てるとでも?」
ルシファーが何の装飾もない銀の剣を鞘から抜く。それ合わせてミカエルも剣を抜く。ルシファーの剣と違い、ミカエルの剣は豪華な装飾が施されており、剣身は黄金で眩い光を放ち、柄の先端にはエメラルドが埋め込まれていた。
なんという神々しい剣なんだ。ミカエルの方が強いんじゃないか?そう思っていた矢先、目にも止まらぬ速さでお互いが剣劇を繰り出していた。
「ふん、多少は腕を上げたなミカエル」
「貴方の弟子ですから…ね!」
ミカエルがルシファーとの鍔迫り合いから距離を取ると何やらわからない言語で何かを呟いている。
「青天の地に降り注ぎしは光、魔を殲滅せしは神の光、断罪の剣よ今ここに来たれり!」
「奈落の深淵に眠りし魔王、全ての光を呑み込み覆いしは闇、その理を示せ!」
ミカエルから神々しい聖なる光が、ルシファーから禍々しい暗黒の光が放たれる。
「審判の剣!!」
「魔王の剣!!」
二人の剣がぶつかり、二人の姿が見えなくなった。
ど、どうなったんだ?あんなの食らったら死ぬぞ!?
眩い光が無くなり、空を見ると一人の天使しか空に居なかった。
そこには神の剣を持ったミカエルが空に、片翼を失ったルシファーが地へ落ちていった。
そこで雷戸は激しい頭痛に苛まれ、意識を失った。
俺が目を覚ましたのは夕暮れ時の保健室のベットだった。部活動している生徒や居残っている生徒以外は皆帰ってしまったようだ。
「何で俺は保健室に居るんだ?」
ベット周りのカーテンは閉めきられ、人の気配は全く感じられなかったが、廊下からコツコツと足音が聞こえた。誰かがこっちに近づいてくる?
雷戸は布団に潜り直し、狸寝入りを決めた。
足音が大きくなり、保健室の扉が勢いよく開かれ、そしてそのままカーテンを乱暴に開け放たれた。このまま布団も剥ぎ取られてしまうのだろうか、やや冷や汗を垂らしながら狸寝入りをしていると
「いつまで寝てるのよ、この馬鹿!」
どすっと鈍い音が俺の鳩尾から聞こえた。布団の上からだと言うのにこの正拳突きの威力、女なのになんつう………力だ。しかも的確に人体の急所を突いてくるなんて………青龍院恐るべし。
雷戸が悶絶していると 、今度は青龍院が雷戸に跨がりマウントポジションをとった。
いやいや、これは不味いだろ。流石に起きないと今度は何され………
「おーきーろー!」
ばしばしばしばし。いきなり往復ビンタをお見舞いしてくる。流石に我慢の限界だったので
「いい加減にしろぉ!」
勢いよく起き上がり、青龍院は後ろに倒れ雷戸は青龍院の顔の横に手をついていた。
「………………!!」
何故か青龍院が頬を紅潮させ、口をパクパクさせていた。何で顔を赤くするんだ?まぁいい、さっきの仕返しを…
「あの………何をしてるのかなぁ…?」
声のする方向に顔を向けると、こめかみに血管を浮かび上がらせていた野々村先生が立っていた。
そう言えば、青龍院の奴扉もカーテンも開けっ放しだったんだ…!
普段は温厚な野々村先生が顔こそ笑っているが、何故か怒っているのはわかる。だが課題も終わらせてるし遅刻もしてない。怒る理由がわからない。そのままの体勢で数瞬の沈黙のあと先にこの沈黙を破ったのは野々村先生だ。
「倉影君、転校生を転校初日に押し倒すなんて、こんなことする子だとは思いませんでしたよ。さ、取り敢えず職員室まで来てもらいましょうか♪」
首根っこを捕まれズルズルと引きずられていく
何故だ、俺が一体何をしたって言うんだぁぁぁぁ!!
心の中で叫ぶも虚しく、そのまま職員室に連れていかれたのだった。
「先生、だから誤解だって!不可抗力だ!」
「言い訳なんて見苦しいですよ」
弁解をしていても意味がなく、こういった抗論を数十分に渡ってしているものの、一方的に俺が悪者扱いなんだ。真実は違うのにっ!
そうして解放されたのは午後18:40分で、もう夕暮れ時で商店街には帰宅するサラリーマンそこらをたむろする学生達等で通路を埋め尽くしていた。
「うわぁ、混んでる…商店街抜けたら早く帰れるのに。仕方ない、遠回りだけど他の道で帰るか」
狭い路地に入っていき、建物と建物のあいだを抜けていき、出来るだけ人通りの少ない道を歩いていく。
「アイツがルシファーかいな。こんな弱そうな奴がルシファーな訳無いやろ。まぁ、依頼人の命令やからやったるけど。どうも気が乗らんわぁ」
全身をマントで身を包み、フードを深く被って顔も分からない少年が高層ビルの屋上から見ていた。
「倉影雷戸。簡単に死なんといてなぁ?ワイがお前の首落としたるからなぁ」
唇をにぃと上げ、何やら不敵な笑みを浮かべているのはわかった。
今の雷戸には命を狙われていることも知らずに家へと帰っていたのだった。
「ただいま~」
家の扉を開けると、優衣がいきなり抱きついてきた。いきなりの事で対応が取れず、固まってしまった。
「帰ってくるの遅いよ!心配したんだから!」
優衣が涙を溜め瞳を潤ませて見上げてくる。なんつうか、優衣姉の上目遣いって妹にしかとれ無いんだよなぁ…。しかも、ダイレクトにスイカとメロンが当たってるし。
少し照れくさく周りをきょろきょろと見渡した。そこである異変に気付いた。
「親父帰ってきていたのか?」
そう、玄関にはいつもなら優衣姉と俺の靴しかないのに、見覚えのある手入れの行き届いた革靴が整えて置かれていたのだ。
高級感を漂わせる光沢、毎日履いているのに型崩れすらしないという。何でもハットンと言うブランドらしく、20万は下らないらしい。良いもの買うより俺らに仕送りを増やしてくれ。と毒づいてリビングに入ると、夕食を優雅に咀嚼していたのだ。
黒髪のウルフスタイル、細く吊り上げた眉に鋭い眼光、それに端整に整えられた輪郭、紺のスーツを着こなしたいわゆるイケメンだ。
俺の親父は某家電会社のオーナーで、年収は数十億もあり、いつも裕福な暮らしをしているのだ。仕事の関係上月に1回程しか帰ってこれないし、家族とのコミュニケーションを取らない。その親父が何故帰ってくるのかと言うと
「優衣の作る手料理は高級料理店のシェフの比じゃないな」と、優衣姉の手料理を食べるが為に帰ってきているのだ。
家庭内のセクシャルハラスメントは当たり前で、いつも優衣姉の胸を揉んでいる。このセクハラオヤジめ。
このセクハラオヤジこと倉影紫闇は家電会社以外にも何か復職をしてるらしいが、訊いても教えてくれない。なんつーか謎なオヤジだよ。
って言うか、優衣姉もやり返せよ。父親の思うつぼだぞ!と俺が父親を睨んでいると、親父が近付いてきて耳打ちをしてきた。
「後で俺の部屋に来い」
いきなりのことで面をくらったが、黙って首肯した。
夕食を取り、そのまま二階の親父の部屋に行くと、親父はパソコンをいじっていた。
「親父~。話いけるか?」
見るからに忙しそうだったが、俺が話しかけるとすぐにパソコンを閉じた。
そのまま椅子を回転させ俺に向き、何やら真剣な表情で俺を見つめる。
な、何だよ。男に興味はねぇよ!
そう変な方向に考えを巡らせていると
「お前、青龍院桃華を知っているか?」
俺は驚愕の表情を隠せなかった。
俺が思っているのと違う事を言うのはまぁ、解っていたことだが、それ以前に何で……?
俺が言葉を喉に詰まらせていると、その表情を察してか更に訳の解らない言葉を発した。
「青龍院桃華に近づくな。近付けば命がねぇぞ」
時は二時間ほど遡る。
暗い山道の中どらくらい走っただろうか、木々の枝で脚を擦り切り、豪華な装飾を施された衣装は獣の爪で引き裂かれたようにはだけさせていた。
少女は顔を後ろに向けると、静かに歯噛みした。
全ての毛が黄金色のゴールデンウルフ、それと対照的な銀の毛をしているシルバーウルフの2頭が迫ってくる。
「このまま逃げてもじり貧でこっちが殺られる。なら、一矢報ってやるわ!」
逃げるのを諦め、狼に対峙すると
「武具召喚!!」
1つの呪文を発すると、何処からともなく突剣と瑠璃色で天使の羽を象られた兜、胸当て、籠手、膝下までのブーツが出現し、体に全て装着されていく。
レイピアは刀身95㎝程で、尖端にはダイヤモンドを加工して強度を高めている一品だ。
「我に光の守護を!守護青龍陣!!」
レイピアで自分の回りに円を描くと、そのまま足元に深々と刺した。
すると、少女の周りに仄かに青みがかったオーラの様なものがレイピアの軌跡から吹き上がり、上空まで筒のように高く伸びている。
金と銀の狼が同時に飛び掛かって来て、ドンッと鈍い音を鳴らしてから、ジュッと水が蒸発するような音と共に狼達が飛び退いた。
その間にも少女は呪文を詠唱していた。
「世界の根源たる一種は水、母なる大地に降り注ぐは聖雨。時となり荒れ狂う豪雨となれ!青龍院桃華が命ず。契約の名の元に来たれよ!青龍、アズーラ!!」
夜空に雲ひとつ無かった筈だが、青龍院の掛け声により暗雲が生まれ、その暗雲を裂いて青き龍が天から姿を現した。
全長は何十、いや何百何千メーターもあるだろう巨大な龍が青龍院の周りを取り巻くように降臨した。そう、契約者である主を守るために。
青龍が大きく口を開け咆哮すると、雷雨と共に激しく木々を靡かせた。
金銀の狼達は様子を見てか動かず、青龍院は突如現れた殺気に振り向いた。
ぎぃんと耳をつんざく様な音と共に光の筒が撃ち抜かれると、レイピアと漆黒の槍がぶつかった。
フードを深く被った顔の見えない人物が槍を一瞬引くとそのまま目にも止まらぬ速さで連続突きを繰り出した。
青龍院が数撃いなすと、捌ききれなかった槍撃が頬や脇腹、太股を掠め、青龍院は大きく後ろへ飛びずさった。
「な、何なのよ!あんなのチートじゃな……っ!」
槍を持った謎の人物から距離を取ったが、背後には金銀の狼達が待ち構えていた。
「ヤバッ、アズーラ!」
四神の獣がひとつ、青龍アズーラを呼ぶと、自らの頭上に青龍院を乗せた。
【我が主よ、このままでは……】
「解ってるわよ。あれしか……無いみたいね」
アズーラがテレパシーの様なもので青龍院と会話をすると、意を決したのか青龍院がアズーラの頭上で手を水平に伸ばし、直立した。
この姿を見れば皆がタイタニックだと思うだろうポーズで空を滑空していた。そして
『魂の融合!!』
アズーラがペンダントに姿を変えると、桃華がペンダントを握った。
ペンダントを握った桃華が眩い光に包まれ、辺り一帯に閃光を放った。
そして光が収まると、先程とは違う姿で桃華が降臨した。
「青のエディル、アズリエル!今ここに降臨!!」
背中から六翼の翼を生やし、目元と頬に青の刺青が施され、両手には大きな青竜刀を携えている。太股やお腹、両脇が露出され、さっきより防御力が下がっていないか?と思うが、グラビアアイドル顔負けのプロポーションを持った姿を見せられれば男性からすれば過激で大サービスで嬉しいものだ。
そんな姿に見とれたのか、フードを深く被った人物は動かない。
その隙を逃すほど甘い性格をしていない桃華は青竜刀の柄と柄を合わせ、二刃薙刀を作り出した。
「やっと、エディルの騎士になれる条件が整ったみたいね。でも、喜ぶのは目の前の敵を倒してからね」
二刃薙刀を左右で回し、金銀の狼に向け急降下した。
桃華の周りにやや青みがかったオーラが発せられ、辺り一帯が物凄い濁流に呑み込まれた。
金銀の狼達は息が出来ずに溺死し、フードの人物の姿は見受けられなかった。
だが、桃華はまだ安心してはいなかった。
「甘いなぁ、もろたで!」
背後からの鋭い突きが桃華の首に突き刺さ……ろうとしたところでフードの人物の動きが止まった。否、突きさそうと力を入れているがそこから先へは槍が刺さらないのだ。
何やら見えない壁に阻まれているかのように。
「残念ね。鎧がそれほど無いからって甘く見たの?」
蔑む様な眼でフードを掴むとそのままマントを剥いだ。
そこで何を見たのか、桃華は驚愕した。
赤髪で腰まで掛かる程のロングストレート。ルビーのような紅く透き通った瞳、全体的に日に焼けた小麦色の肌をしている小さな少年だったのだ。
それだけなら桃華は驚かなかった。
問題は少年のその瞳に浮かぶ剣の紋章だった。
「アンタもエディルの騎士なの!?」
そう、エディルの騎士は体のどこかに武具の紋章が刻まれているのだ。
エディルの騎士は力を解放すると、紋章が刺青となり、全身に広がり力を与えるのだ。
「お前らノーマリーゼが力を解放して調子に乗っとるかもしれへんけど、俺が力を解放したら瞬殺やで!?」
桃華は容赦なくアイアンクローを決めたが、桃華は妙な違和感を覚え、その場で膝をついた。
「あんた、一体何をしたのよ……」
「ワイは何もしてへんで。ワイの存在でかくて耐えきられへんかったんとちゃうか?」
少年がイタズラした子供の様に笑い、桃華の鎧に手をかけそのまま剥いだ。
「姉ちゃんええ女やなぁ~。ええカラダやなぁ~♪楽しませて貰うで~♪」
桃華は抵抗を試みるが、体が動かず睨む事しか出来なかった。
「そんな目せんでもええやんか~。まぁええわ。次回のお楽しみってことで。それよりさ、倉影雷戸っちゅう奴知らんか?」
突然重要なワードが出てきたもので、桃華は目を丸くした。
「その顔は知っとるな。奴の情報を教えてもらおか」
「誰があんたに言うのよ!自分で調べなさいよ!」
「自分の置かれてる立場っちゅうもんがまだわかっとらんようやなぁ。」
少年が呆れたようなポーズを取り、右手で右目を覆った。
「読心の眼」
瞳の紋章が一層強く輝き、桃華の瞳を見つめた。
見つめられた桃華は、ピクリとも動かず膝立ちしていた。
「私立影光学園に在校。場所は……なんや、案外近いとこにおってんな」
少年はニイッと唇の端を上げ、ニヤニヤしている。その顔は子供がイタズラを企んでいる様な顔だった。
そして現在。
「危ない橋を渡るのはよせ。いいか、お前は俺の会社を継いで貰わないといけないんだ。ここまで俺が大きくしたし、これからも大きくするつもりだ。この俺が生きている間に世界一の企業になるのは恐らく無理だろう。だからお前に託すんだ。そのお前が死ぬと言うことは……わかるな?」
ごくりと生唾を飲み込み、首肯した。
「でも、俺は会社継げるような頭無いし営業出来ないしさ……」
「まあ、俺が全て教えてやるから安心しろ」
ぽんと肩に手を置き、そう言った。
やれるだけやってみるか。将来ニートは死んでも嫌だしな。
「親父、会社継げるように頑張るよ」
「ああ。俺も全力で叩き込んでやるからな」
親父は何か企んだような笑みを作り、パソコンに向き直った。
親父は何考えてるかよくわからないぜ。
俺は部屋に戻り、就寝の準備をしている途中カーテンの隙間から光が見えた。
「な、なんだよあれ」
カーテンを開けると、影光学園裏の森から光柱がたっていたのだ。
何かの特異現象なのか、それとも何かの火薬の塊が起爆したのか。今の雷戸にはわからない。
だが、何か嫌な胸騒ぎがして落ち着かなかった。
「嫌な予感がするが、このままじゃ気になって眠れないしな……。少し見てくるか」
四月といっても夜は少し冷えるから、上着を羽織って行こう。
白黒の上着を羽織り、俺の通う影光学園に足を運ぶ。
「寒いな。だが、夜景を眺めるのも悪くねぇか」
満月を観賞しながら歩くこと二〇分。
光の柱が立っていた場所らしき所に着いたが辺り一面には誘爆物や光を起こせそうな物など一つも無かった。
「何も無い?おかしいな、この辺りの筈なんだがな」
更に(校舎とは反対側)深く進むと、淡く光る何かがあった。
地面に落ちているわけでもなく、空中にサファイアが浮遊していたのだ。
そのサファイアを手に取ろうとすると、ゆっくりと雷戸の掌に落ちた。
まじまじとサファイアを見ていると、雷戸の鼓動に合わせて発光した。
「な、なんだ?何かと共鳴している?」
雷戸はそれをポケットにしまいこむ。
「さて、これだけっぽいし帰るか」
雷戸が踵を返し、帰宅路についた。
寒い夜道を足早に歩く。
「うー、寒っ。やっと着いたぜ」
家の鍵を開け、入ると灯りは全て消えており、皆寝ていたのだ。
雷戸は喉が渇いたので、キッチンへと足を運ぶ。
リビングの時計を見ると時刻は午前三時一〇分だ。
「うわ、こんな時間かよ。皆寝てるわけだな」
雷戸は冷蔵庫から牛乳を取りだし、コップに注ぐ。
電子レンジに牛乳を入れて温まるのを待つ。
その間に今日のことを思い出す。
一体あの光は何だったんだ。
それにこのサファイアは・・・
と、そこでチーンと電子レンジの加熱終了の合図とともに雷戸の思考は中断させられる。
電子レンジの蓋を開け、牛乳を取り出した。
「熱っっ!!」
どうやら加熱し過ぎてしまったらしい。
牛乳からはブクブクと気泡を弾けさせていた。
しかし、困ったものだ。雷戸は猫舌で、熱いものが飲めないのだ。無論食べ物もだ。
少し暖かくするつもりが、無意識のうちにネジをかなり回していたらしい。
「くそっ、俺としたことが・・・・・・」
仕方がないので、冷凍庫からブロックの氷を4つコップに入れ、混ぜながら飲んだ。
「眠い。もう俺は寝る」
雷戸は自室に戻り、ベットにダイブした。
そのまま意識は微睡みの中へと消えていった。
【久しいな、我が半身よ】
な、なんだ?
【君は影の私だ。そして私は光の君だ】
言っている意味がわからないぞ?お前は誰なんだよ。
【私はずっと君の中から色々な人との会話を聞いていた】
色々なって、学校の友達とか先生の授業とか?
【そうだ、何よりエディルの騎士が身近に居ることは何よりの収穫だったよ】
エディルの騎士とかなんだよ!俺は何も知らないのに、勝手に話が進んでるしさ!
『ふむ、君はまだ思い出せていないのか』
何を思い出せてないんだよ!いい加減教えてくれてもいいだろ!?
『君はルシファーを知っているか?』
知らないけど、青龍院がルシファーがどうとか言っていたな。
確か熾天使ルシファーだったか?
『そう。ルシファーは神に最も近い存在であった。しかし、自分より人間が大切だと勘違いしてな、己が神になろうとしたのだ』
天使が神になれるのか?
『神の次に権力を持っていたのはルシファーだ。その神を殺せばどうなるかわかるな?』
くり上がりで自分が神になれる・・・・・・!?
『その通りだ。ルシファーは聖戦に負けた後、闇に堕ち、堕天使ルシファーとなった』
神に最も近い天使が闇に堕ちるなんて・・・・・・
『ルシファーは闇に堕ちても光と闇の力の両方をもっているのだ』
闇に堕ちたら闇のままじゃないのか?それっておかしくないか?
『ふむ、いい質問だ。ルシファーは闇に堕ちる前に自分の力を宝玉に閉じ込めていたのだ。そして、闇の力と光の力を両方使えるようになった。そして、同時に人格がひとつ増えたのだよ』
元々の人格と闇の人格か?
『そうだ。それが君と私なのだ』
なら俺はあんたの中に居る人格ってことか?
『そういうことになる。しかしながら、影の人格が常に表に出ているのがいささか不便でな』
何が言いたいんだ?
『この肉体は私がもらい受ける。君は時が来るまで眠るといい』