体育祭の朝 寮のとある一室
何という青空!
雲一つ無い天気!
窓から空を見上げて、私は「ほぅ」とため息をつきました。
「てるてる坊主を作ったかいがありましたわね」
「作りすぎ感がはんぱないけどね」
後ろで同室の祐子がため息混じりに言っていますが、何としても晴れにしたかったのですから作りすぎなどということはありません。
「五十個では少なかったのではないかと内心冷や冷やしていたので、ほっとしましたわ」
「もともと天気予報で晴れだって言ってたじゃない」
「念には念をと申しますでしょう」
「念のいれるところが違うと思うけどね」
ふわわわわと欠伸をして、祐子は共有スペースの椅子に腰掛けます。
「ところで、カメラはどうしました?」
「あー、結局デジカメにした。一眼レフも良いなとは思うけどいきなりうまく撮れそうもないし。使い慣れてるのが一番かなって」
「そうですわねぇ」
「ところで今日のターゲットは?」
「今日は和泉晃様ですわ」
「あー、風紀委員長か」
「最近人気急上昇ですから」
「まぁね。和泉先輩一人っていうよりは、例の後輩とツーショットでしょう?」
「わざわざ外して撮る方もいらっしゃるようですけど。私は二人でいるからこそのあの表情に惚れましたの」
「ふうん、絵里乃は容認派か」
「自分にあの表情が引き出せるとは思いませんわよ。彼女だからなのでしょう。もっともご本人はわかっていらっしゃるのかどうか…」
「ああ、どうだろうね」
「祐子はどちらですの?」
「あー、中立派。どっちでもいいや」
「そうですか。ちなみに祐子の今日のターゲットは?」
「あー、実は外部生を狙ってるんだよね」
「まあ」
「応援団に参加してるらしくてさ」
「あぁ、応援団ですか。ライバルは多そうですわね」
「前評判がすごいもんね」
「団長が誰になるかは知らされていないようですけど」
箝口令がしかれているらしく、未だに名前があがっていません。
「ま、ともかくお互い良い写真を撮れるようにベストをつくそう」
「そうですわね」
笑い合うと、壁にかかっていた時計が七時を知らせる音を鳴らしました。
「そろそろ行きましょうか」
朝ご飯をしっかり食べて、今日一日を張り切ってすごさなくては!
「今日はレアな写真が撮れそうな予感がしますわよ」
「はいはい」
私はカメラを持って窓にぶら下げたてるてる坊主を練習台として撮ってみました。
祐子も同じくてるてる坊主の写真を撮って後ろの画面で確認しています。
「あー、もしかして。てるてる坊主の顔、一つ一つ違うの?」
「当たり前ですわ」
「はあ」
「名前もついてますのよ」
「あー、時々絵里乃が怖くなるよ」
ひきつった笑みで祐子が言いましたが、何が怖いのか私にはさっぱりわかりません。
「これが、てるてる幸太くんで」
「いや、名前知らなくていいから。っていうか教えてくれなくていいから。知りたくないから!」
「そうですか?」
「もう、行こう」
「はい」
カメラはいったん自分の部屋に置いて行きます。
部屋のドアを閉める前に振り返って力作のてるてる坊主を見上げました。
そういえば、一番可愛いてるてる坊主に祐子の名前をつけたのですけど、言わない方がよろしいかしら?