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月曜日。天気はいいが少々風がある。
学校までは電車を使い、三駅ほど上る必要がある。美咲は二駅か。
彼女とは一緒に通学はしていない。
たまに運よく出会うこともあるが、混む時間帯だし、本当に運がよければだ。
私たちの通う学校は少々変わった形をしている。
横長の典型的なものではなく、ロの字型で五階建てだ。
各辺を東西南北棟と名づけ、一般教室があるのが東棟と南棟、家庭科室などの特殊教室が北棟と西棟といった具合に設定されている。
この構成は二階から五階までで一階には職員室や事務室、コンピュータ室、図書室など様々な用途の部屋が入っている。
また真ん中の空いた部分には一階は中庭、二階は学食を配置し階段で繋がっている。
階段を上れば中庭から食堂、更には五階にも上がることが可能だ。
各階にある四つの角には学科別教師室、数学科や歴史科などの教師別の部屋がある。
あと階段やお手洗いもおよそ角っこにある。
例外は科学や生物の教師室で、これは実験室に隣接している。
体育館や部室棟はまた別の建物になっており渡り廊下を通じて移動することが出来る。
私たち二年生の教室は三階で八クラスあり、一年生は四階、三年生は二階だ。五階は今年は空き教室ばかりである。
ちなみに、この学年ごとの階配置は毎年変更されるので、来年には私たち三年生が五階になっていることもあるかもしれないし、三年の一部は三階一部は四階なんてこともありうる。
一般教室の机は黒板を前にして縦に八個、横に六列ずつ並んでいる。
もちろん生徒の数によって変動するが、うちのクラスはこんな感じ。
私の席は三列目の一番後ろで、美咲は四列目の後ろから二番目に座ることになっている。
この位置は、とてもいい。
授業中でも美咲のことを見ることが出来る。
後姿がまた綺麗なのだ。
腰のくびれとか色っぽいし、なにあの細さは。
今朝、通学中に美咲に会わなかったから、先に着いているだろうと思ったらやっぱりだった。
クラスメイトの沢渡健吾と談笑していた。
いつもなら真っ先に私に気づいてくれるのに、話に夢中なのかこちらには見向きもしない。
そういえば、最近なんだか多い気がする。
彼女は人当たりもいいし、いろんな人と仲よさげにしているけど、彼とはどうも殊更に仲が良いような気がする。
気のせいかな。
嫌な想像が脳裏を掠めた。
それを奥の方へと仕舞い込んで、私は自分の席に座った。
それでようやく美咲は私に気づいて「楓ちゃん、おはよう」と笑いかけてくれた。
それだけで華やいだ気持ちになれる私は、安上がりな女かもしれない。
「おはよ、美咲。沢渡くんも」
「ああ、おはよう。秋村は小説読むか?」
なるほど、本の話をしていたのか。
「私はそんなにかな。たまに読むくらい」
沢渡は髪も短く、野球でもやっていそうな見た目をしているが、実際には部活には入っておらず、毎日のように図書室に行き夕方まで本を読んでいると聞いたことがある。
また、実はそこで逢引をしているとかなんとか。ま、噂だけど。
私も一度、帰りが遅くなった時に彼が図書室にいるところを見たが、
(図書室は校舎入口すぐのところでガラス張りなのだ)
一人で黙々と読みふけっているだけだったし、あまり信じてはいない。
「沢渡くんが貸してくれたのが、とても面白かったのよー」
ほくほく顔で、美咲は鞄から取り出した文庫本を沢渡へと返却した。
「やっぱりミステリー?」
「よくわかったな」
そりゃ美咲のことだからね、当然でしょ。
とは顔には出さないように気をつけて、軽く笑みだけを返した。
「でねでね、今度は恋愛小説を貸してくれるって!」
なんと!
美咲がミステリー以外を読むって?
それも恋愛小説?
無縁の長物でしょう。
こないだの話に影響されたのかしら。
偏りはよくないっていう。
「明日持ってくるよ」と言って沢渡は自分の席へと帰っていった。
「ええ、よろしくお願いするわ」
彼の席は前方の教室入口横である。
冬場には隙間風が入りそうだし、人の出入りが激しく居づらいところだ。
沢渡が恋愛小説を読んでいるというのも、正直驚きだ。
正直言って似合わないと思った。
冒険活劇とか好きそう、武術家が出てくるような。
ミステリーも読むのだから、雑食タイプなんだろうな。
「それで、どういう風の吹き回し?」
「うん? 別に、なんとなくだけど」
「ふぅん」
「まぁ、強いて言えば」
クラスを見回すようにしてから彼女は言った。
「最近、甘い香りがするからかしら」
ああ、なるほど。
と納得して私は頷いた。
二年生になったから、なのだろうか。クラスで急速に恋人の出来た人が増えてきた。
クラス内でカップルになった人もいる。
女の子の間では、惚れた腫れた、付き合った別れた、そんな話ばかりが流れている。
異常なまでの恋愛集中状態なのだ。
言われてみれば確かに、甘い香りがするような気がする。
しかし、それに感化されるとは。
美咲もそういうのに興味津々、ということなのだろうか。
そういえば、美咲とはいわゆるコイバナというものをしたことがない。
私からそんな話を振るわけにはいかないし、彼女の方から切り出すようなこともなかったし。
心のどこかで興味ないんだろうと思っていた。
というか、思いたかったのね。
けど、年頃の女の子が恋しないなんて、あるはずがない。
うーん、現実逃避が過ぎたかな。
でも美咲にはほんと、そういう影が見えないから。
ああああっ、気になる!
実際のとこどうなの?
好きな人いるの?
それともたんに、興味があるだけ?
憧れとかなんかそんなキラキラした感じ!?
どこか悶々とした思いのままで、授業なんかちっとも入ってこなかった。
お昼はいつも美咲と一緒だ。
この時間だけ屋上が開放されるので、天気のいい日はたいていそこで食べることにしている。雨の時なんかは教室だ。
弁当組なので食堂を使用することはほとんどない。
今日は天気がよかったので自然と屋上へと足を運んだ。
美咲が外へ通じる鉄扉を開けると、風が入り込んできて長めのスカートが大きく膨らんだ。
そういえば今日は風が強いんだった。
美咲の膝の裏がちらりと見えてどきりとした。
咄嗟に手を添えられてしまったので、残念ながら下着は見えなかった。
もっとも彼女の丈ならば際どい線までいっても、それを越えることはほとんどないだろうけど。
綺麗な足をしているのだからもっと見せればいいのにと思う一方で、やはり男子にそれを見られたくはないなと独占欲も湧き上がる。
別に私のものというわけではないんだから嫉妬心とでも言うのが正しいのかもしれない。
風が強いからか、屋上はいつもよりも閑散としていた。
点々と少数の男子グループがあるだけ。女子はほとんどいなかった。
屋上には何脚かベンチが設置されている。
いつもなら空いてることはほとんどないのだが、今日は座れそうだ。
私のお弁当はお母さんに作ってもらっている。
料理が出来ないこともないけど、朝はちょっとね。
いや本当やろうと思えば出来るよ。
一方美咲は、週二回は自分で作ることにしているらしい。
えらい。
そう言ったら「自分でやると簡単なものになってしまうけど」なんて照れ笑いを浮かべていた。
今日の美咲のお弁当は、のりとおかかのご飯、卵焼きとタコさんウィンナー、レタスとプチトマト、簡単とは言うけれどお弁当ってこんなものだと思うし、お弁当のツボを押さえていると思う。
私の方は日の丸とミートボール、春巻き、卵焼きといったところ。
無論、冷凍食品である。
まぁお母さんも大変だからね。流石に卵焼きは手作りだけど。
池内美咲の卵焼きは美味しい。
我が家の卵焼きはダシなのだが、美咲は甘いのだ。
私は甘い卵焼きが大好きである。
秋村家では私一人なので、その要望は未だ聞き遂げられたことがない。
なので、彼女の弁当箱に卵焼きがある時は必ず私のと交換してもらうのだ。
またそれがわかっているので、彼女も自分で作る時には卵焼きは必ず入れてきてくれる。
超うれしい。
「やっぱり美咲の卵焼きは最高ね」
「ふふ。貴女のとこのダシ巻きだって美味しいわよ」
美味しくないわけではないんだけどね。
でも甘いのには負ける。
美咲のはふわふわでもあることだし。
ふわふわ、あまあまで、蕩けてしまいそう。
「ごちそうさまでした!」
「いいえ、こちらこそ」
食後はそのままお茶を飲みながら雑談をする。
……あれ? なんか食べてお喋りしてばっかりな気がしてきたぞ……。
まぁ、いっか。
気づけば風は大分弱まっていて、ほとんど感じられなくなっていた。
「次の授業は」
「生物じゃなかったかしら」
なんだったっけ、と最後まで言う前に美咲に答えられた。
よく訊ねるから予想していたのだろう。
私は理系科目は苦手なのだが、生物だけは好きだ。
教師との相性がいいのかもしれない。
気だるげに授業をするが中身は実にわかりやすいのだ。
白木百といって、女子からはモモ先生、男子からはビャク先生なんて呼ばれている。
生物兼科学で、理系教師らしくいつも白衣を身に着けていて、髪がとても長い、腰あたりまであるそれを、いかにも適当ですといった具合に首の後ろで束ねている。
背は高いが身なりに気を使わないタイプなので、一般的な女性としてはダメな部類なのだが、それが逆に女子人気を高めているようだ。
生物準備室に大抵いて、コーヒーをがぶ飲みしているらしい。
そう言えば、準備室の骸骨が夜になると踊り出す、みたいなバカ話をクラスの子がしていたっけ。
授業中にその話を先生にしたら、鼻で笑われていた。
まぁ当然か。
「六時間目は英語だったっけ」
「次当てられるんじゃないかしら?」
「……ほんと?」
「多分、四番目くらいに当てられる、と思う」
だとしたら最悪だ。
私は英語が一番嫌いで苦手なのだ。
日本人なんだからいいじゃないの。
「あとで教えてー」
「いいわよー」
対して美咲は英語が得意だ。
もっとも彼女には、不得手な科目というものがほとんどないのだが。
体育と美術ぐらいだろうか。
体育に関しては、本当に苦手らしく授業のある日は不満そうな顔をしていることが多い。
例えばマラソンなんかは、まずビリは確定している。
短距離ならば並の速さなのだが、長距離となると体力が続かないみたい。
一度だけ一年の時にあった鉄棒の授業では、逆上がりも出来なかった。
「人間は大地から逃れることはできないのよ」なんて言葉を、心底悔しそうに漏らしていた。
二年生の夏には水泳の授業から何度かあると聞いているが、それについても「夏は山よ山」とカナヅチのようなことを言っていた。
一応得意なことでは、ソフトボール投げは結構な飛距離を出していたと記憶している。
あとは柔軟とか、跳び箱とか。
とは言え、それさえも私の目には魅力的に映るのだけど。
だって可愛いもん、グラウンド一周したくらいで息切れしちゃったりなんかして。
と雑談で盛り上がっていたら始業の予鈴が鳴ってしまった。
「あら大変。急ぎましょう」
予鈴から本鈴までは五分しかない。
歩いていたらとうてい間に合わないだろう。
特にうるさい教師ではないが、たからと言って平気で遅れるような性格では美咲はない。
私は少しくらい、いかかなって思うけど。
「走ろっ」
と手を差し出す。
やってしまってから「しまった」と思ったけれど、彼女はなんてことはなしに手を取ってくれた。
考えてみれば、女同士でそんなことに躊躇いはしないものだ。
本鈴が鳴るのと同時に、私たちは教室に飛び込んだ。
勢いよく扉を開けた音に、皆が驚きこっちを向いた。
予期せぬ視線に、繋いだままの手のこともあって、私は気恥ずかしくなった。
白木先生はまだ来ていなかった。
「せ、セーフね」と美咲が息も絶え絶えにはにかんだ。
ほんとに体力ないなぁ。
「う、うん。ツイてたね」
私も息があがっているけれど、彼女とは理由が違う。
どちらともなく手を離して、それぞれの席に着いてすぐにモモ先生が教室に入ってきた。
「悪い悪い。コーヒーが飲み終わらなくてな」
と冗談めかして言うけれど、多分本当のことだ。
と誰もが思ってしまうくらいには、コーヒー中毒者として有名だ。
また、彼女の特性ブレンドは絶品だともっぱらの噂だ。
「先生、そんな理由で遅れないでください」
と委員長が窘めた。
眼鏡っ子だがお下げはない。ショートヘアで前髪をピンで留めている。
「悪かったって。……前回はどこまでやったかな、委員長」
遅れてきた分余計な時間を使わないためか、開始の号令をすっ飛ばした。
そのくせ授業内容を把握していない姿に、委員長はこれ見よがしに溜息を吐いてから答えた。
「次からは第二章に入る、と」
「じゃ教科書開いて」
非難めいた溜息に悪びれもせず、淡々と授業が始まった。
委員長は私の隣の席で、ちらりと見るとムスッとした顔をしていた。
あまり馬の合わない二人なのだ。
もっとも、日ごろから眉間に皺を寄せていることの方が多いような子だけど。
モモ先生のことを「白木先生」と呼ぶのも、このクラスでは彼女だけだ。
いつものように隣から感じる不機嫌オーラを無視して、私はノートの書き取りを開始した。
終業の鐘が鳴るとモモ先生は挨拶もそこそこにして、そそくさと教室を出て行った。
「あ、また!」
そしてその後を、説教し足りないのか委員長が追いかけていった。
仲いいなぁとクラスの誰かが呟いたのが聞こえたけれど、やっぱり私は馬が合わないだけだと思う。
生真面目と不真面目、そりが合うはずがないし。
「英語のお勉強ー」と美咲が鼻歌交じりに現れた。
人に物を教えるのは楽しいと以前聞いたことがある。
私は美咲に教わるのが一番嬉しい。
「美咲先生、これとこれとこれが訳せません」
構文が特に苦手だ。
なかなか覚えられなくて、和訳もままならない。
「こっちは、ここが……だから……あと他に書き換えるなら……とか……とか。はい、訳して」
「んと……てな感じで?」
「うん、合ってる合ってる」
「流石に今のでわからなかったらまずいよ」
十分間の休み時間を美咲のミニ英語講座で費やして、とりあえず当てられるだろう範囲の文章は訳せた。
「出来るだけ予習してこようね」
「うっ」
ちょくちょくそう忠告されるのだが、つい苦手な科目はやりたくなくて……。
苦手なものこそやるべきなんだろうけど……。
「メールしてくれたら教えるのに」
じとーっと見つめてくる彼女から逃れるように、私は壁に掛けられた時計へと目をやった。
「あ、そろそろ先生来るんじゃないかな」
「そうね。じゃ、また後で」
後で、を強調して美咲は自分の席へと戻っていった。
放課後に、美咲先生の英語講座が再び開講するとは、この時の私は露ほども思っていなかったのであった。
頭の中でアルファベットが踊っている。
ぐらんぐらんと回転する脳内に辟易しながら、私はベッドへと倒れこんだ。
結構遅くまで講座をやっていたため、今日は寄り道することなく帰ってきた。
「あー」と情けない声を出しながら仰向けになる。
美咲は教え上手だ。そして結構なスパルタンだ。
丁寧に丁寧に詰め込んでくる。
私としてもあまり情けない風には見られたくないので、泣き言も吐けずに頑張ってしまった。
そう言えば、と帰り際の会話を思い出す。
図書室の前を通った時のことだった。
「図書室に、幽霊が出るらしいわよ」
美咲の突拍子もない発言に「は?」私はそんな風に返してしまった。
美咲は少し慌てたように「クラスの子たちが話してたのよ」と付け加えた。
「美咲もそういう話、好きなの?」
「わりとね」
ミステリー好きにはホラー好きも多いものね。親和性が高いと言うか。
かく言う私も結構好きで、そういう映画やゲームには馴染みがある。
「それで、何かするの? その幽霊は」
「うーん……女の子の霊らしいけど、出て何かするって話じゃなかったわね」
ただ出るだけみたい、と肩をすくめて話を締めた。
なんだか面白みに欠ける、とダメだしをすると美咲は苦笑いを浮かべて「作った人に言ってちょうだい」ともっともな返し。
怪談は好きだが、二人ともそういうものを信じているわけではない。
それにしても、生物室の骸骨のこととか、最近は結構その手の話題を小耳に挟むような気がする。
他にも、例えば、
「私はこんな話を聞いたわ」
「どんな?」
あまり期待されても困るけど、と前置きをしてから私は友達に聞いた話を語った。
うちの学校には所々に、校門や廊下とかね、監視カメラが設置されていて事務室で様子を見ることが出来るようになっているんだけど、まぁ侵入者対策とかの一つね、一時期小学校とかで酷いのがあったし、それで、どうやらそこにいるはずのない生徒の姿が映るそうなのよ。
どうしてわかるかって、それはその生徒がセーラー服を着ているからよ、昔はセーラー服だったんだって、うちって。
その子は今でも、毎日のように校内を徘徊している……。
「ね? 正直微妙な話でしょ」
怖くもなんともない。
ただ死んだ人間が傍にいるかもしれない、ってことだけで怖がれる人もいるから、こんな話でも生き残れるのかもしれない。
しかし美咲も、そういう人間ではなかったようで「セーラー服、着てみたかったわねぇ」と本筋とは関係のないところを拾い上げた。
「美咲はセーラー服の方が似合いそう。黒髪ストレートだし」
「そうかしら。白と青みたいな、清々しい色は合わないように思えるけれど」
一口にセーラー服と言っても、どうやら思い浮かべるイメージは、人によってかなりの差が生じてしまうものらしい。
私の中では黒色の服に赤いリボンだった。
海兵さんみたいな色合いを採用する学校は少ないとも思う。
「でも、なんて言うか、切ないようなほんわかするような、そんな話ね」
「そう?」
切ないはわからなくもない。
自分がかつて過ごした学校ではない学校を、一人でうろうろするだけ、そんな生、いや死んでるんだけど、それは寂しいものだと思う。
ほんわかには、ピンとこないけど。
美咲に聞くと「だって、それだけ学校が好きだったんじゃない?」って。
うーん……言われてみれば、だけど、そういう捉え方は、私には出来ないかもしれない。
「でもあれね、みんなの話を全部本当にしたら、私たちの学校は歩く場所もないくらいに幽霊だらけね」
そんな美咲の言葉で額に三角の布をつけた人々がひしめく校内が頭に浮かんで、つい噴き出してしまった。
うつ伏せに転がっていた私はその情景を思い出して、また噴き出して枕に顔を埋めた。
今時、三角巾もないだろうに。
典型的な幽霊としても使い古された表現だ。
そもそもあの布はなんなのだろう。
亡くなった人には、みなあれを着けるのだろうか。
祖父母も健在で人の死に触れたことのない私には、その辺の正しい知識はない。
美咲なら知っているかな。
まぁそれは置いといて。
最近の怪談ブームは、いったいどうしたことだろう。
いや、聞く分には色々あって、それこそ玉石混交で面白いんだけど、急にみんながみんなして口にし始めたことのほうが、私にはオカルト的に映るけど、本当のブームというものは、そんなものなのかもしれない。
どこから生まれたか分からないまま、気づいたら消えている。
これも幽霊、怪談みたいなものだな、と私は一人で納得した。
なんだか、久々にホラーゲームでもやりたくなってきた気分だ。
ホラーと銘打っておきながら、ただゾンビを撃ち殺すだけのゲームではなく、武器は精々バールのようなものであったり掃除機であったり、この際ノベルゲームでも構わない、部屋を真っ暗にして布団を被りながらプレイしたいものだ。
ゲームはリビングでしか出来ないから、無理なんだけどね、残念。
「……何か買おっかなぁ」
衝動的にベッドから降りた私は、夕飯のお呼びが掛かるまで、ネットで適当なホラーゲームを漁ってみることにしたのだった。